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マスターズ・ストーク

「う〜む……」

「どうしたんじゃ、メイヘム。(わらし)どもの尻を眺めて珍妙な顔をしよってからに」

「うん。エルデラ、その言い方な?」


 我々エルマール・ダンジョン作戦司令部は、流民ボーイズんガールズを五階層に設定した新天地に導くという妙なミッションの真っ最中である。最初は単なる、過保護な引率のつもりであったが。

 彼らが無事に山を降りられるか、分散したグループの最後尾に不可視の<インヴィジブル・スライム>を配置してサポートしていたところなのだが。


「……どうも変だ」

“ますたー、へん?”

「俺じゃなくてさ。こんなの普通じゃないだろ」


 四階層側の接続部は、湖の中島中央にある祠状の場所に開いた。そこから岩場を降りると五階層にある高山の最上部、テーブル状の山頂につながっている。冷静に考えれば奇妙な構造ではあるが、あまりに現実離れしているためか逆に通過する子供たちは疑問に思ったりはしていなかった。

 ダンジョン内だしな。彼らは彼らで生き延びるために必死で、それどころではないというのもある。


「「「わぁ……♪」」」


 数の多い<ピュア・スライム>が、絶景を前に感嘆の声を漏らす子供たちの姿を視界共有(モニター)してくれた。俺のなかで違和感が芽生えたのは、その少し後だ。


“メイさん、あの子たち……ずいぶんと達者ですね?”

「そうな」


 マールからの感想に、俺も同意を示す。年齢の割に(さと)い、どころじゃない。特に各グループの引率(リーダー)をしてる子らは、なんか只者じゃない感じがする。

 <インヴィジブル・スライム>経由で【鑑定】掛けたら、リーダーの七名は平均レベルが6くらいあった。冒険者で言うと中堅下位のDランクになったあたりだ。成人男性でも最多数層になるランク。彼らの年齢は十二から十四歳、こっちの世界でも成人前なんだけどな。


「あの子たち、もう冒険者として活動してたとか?」

“ギルドに登録できるのは成人した十五歳からです。成人の登録者と組んで非公式にダンジョン入りをしていたのかもしれませんが……”

「可能性は低い?」

“登録外の未成年者を使役すると処罰の対象になり、露呈すればギルドの登録が抹消されます。ダンジョンでの獲物や拾得物、それまでに入手した個人資産も没収されてしまいます”


 ずいぶん大きなリスクを負うわけだ。登録者側も未成年者側も、そうまでして稼がなければいけない層は限られる。例えば……孤児とか?


「エルデラ、彼らは何者?」

「何者もなにも、生きるために渡ってきた流民の子らじゃ。それ以上のことはウチも知らん」


 彼らは、能力が高いだけではない。誰も急がず突出せず、連携を乱さず、油断なく役割を全うしている。明らかに自分たちの能力と、その限界を理解してる。

 何をすべきか、するべきでないか。どこまでできて、できないか。頭でわかっていても、それを守れるのは大人でも多くない。元いた世界で言えば小六から中一くらいなのに、大したものだ。


「あやつら、ずいぶんと手馴れておるのう?」

「そうな」


 俺はエルデラからの感想に、また同じ答えを返す。自分たちだけで意思疎通するだけではなく、小さい子たちへの気配りもすごいのだ。危険がないように手を繋がせ、崖の傍では自分たちが危険な側に立つ。不安にならないように話しかけ、ときに笑わせて元気を保ちつつ、敵の接近に備えて周囲の警戒を怠らない。

 七つに分けたグループのリーダーが七名。それぞれの体格に合った武器は手製のようだ。素材は大人用武器の端材や日用品で、日頃から使い込んできた様子が窺える。

 それとは別に年長の女の子がひとり、先頭で案内役を務めていた。彼女だけ体格が少し大きく、武器も大人が持っているような両手剣だ。痩せた背中に吊るされたそれは、まるで大剣のように見える。

 その子はクソ暑いのにフードを被り、不自然なほど肌の露出を避けているのが気になった。【鑑定】を掛けると、表示されたのは意外に高いランクと妙に歪なステイタスだった。


名前:ルーイン

職業:冒険者(斥候(スカウト)

レベル:13(Cランク)

HP:824

MP:1332

攻撃力:81

守備力:46

素早さ:111

経験値:72

スキル:【治癒術中級】【隠行術初級】【誘引術初級】

パーティ:“ 家族(ファミリー)


「……おいエルデラ。なに、この子?」

「ほう。面白い女子(おなご)じゃのう? まるで食虫植物(ムシヨセグサ)じゃ」


 とか何とか言いつつ、<水蛇(ハイドラス)>の姐さんは乾いた笑いを漏らす。おかしな数値に思い当たるところがあるのか、ブツブツと口の中で何事か呟き始めた。


「阿呆が」


 吐き捨てるような声に振り返ると、エルデラはムスッとした顔で画面を睨み付けていた。怒っているのは、たぶん俺にでもルーインて子にでもない。説明を求める俺の視線に、彼女は小さく息を吐いた。


「魔物を誘って、隠れて仕留める。弱らせて、仲間の幼子に狩らせておったのかもしれんの。危ないとなれば、自分が引き付けて逃がす。仲間が怪我をしたら、治癒を行う。それを繰り返した、あれが結果じゃ」


 孤児たちの司令塔か。職業はスカウトと言いつつ、ステイタスは全然、斥候職じゃない。

 このランクとしては体力と攻撃力と守備力が低すぎ、魔力と素早さと経験値が高すぎる。


「最初から逃げる気も、戦う気もないんじゃ。その分をみーんな、仲間のために振り分けたんじゃからの」

「……だって、それじゃいつか」

「死ぬ覚悟は、(はな)からできとるんじゃろ。それまでに、後継(した)が育てば良い。あやつ、我が身を捨てておる。……ウチはな!」


 いきなりエルデラの声を震わせた。込み上げた怒りが、目の奥に龍の激情を宿していた。


「……ああいうのが、大嫌いじゃ」

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