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第32話 紹介されて頬を染めるサキさんはとてもかわいい!

平日は仕事から帰ってくるとぶっ倒れるので、週末は頑張ります……

 

 予定時間をオーバーしたものの、どうにかこうにか家を出た(まこと)とサキ。

 あれだけ悩んでいたくせに『えいやっ』とあっさりと服を決めた時には軽い感動を覚えたほど。

 同時に『サキさんは今まで何を悩んでいたのだろう?』と首をかしげたものだが。

 もちろん余計なことを口にするほど無謀ではなかった。『沈黙は金、雄弁は銀』昔の人はいいことを言う。

 結局サキが選んだのは、同居を始めてすぐに購入したお高い服だった。

 あの時のサキは散々渋っていたけれど、やはり買っておいてよかった。


「誠、大丈夫かな?」


「大丈夫だって。サキさんは凄く可愛いから」


「む~、誠はいっつも同じこと言う」


『可愛いって言ってればいいと思ってない?』などと不満げな眼差しを向けられる。

 まったくもって心外だった。決して適当に答えているわけではない。本心なのに。


「だって事実だし。唯人(ゆいと)はそんなに堅苦しい性格じゃないから、その服はむしろ気合い入れ過ぎかも」


「そうかなぁ? でも、これが一番いい服だし……う~ん」


「てゆーか、今日はずいぶん気にしてるね。いつもはこんなに悩まなくない?」


「だって、誠のお友達に変なところ見せられないし。私のせいで誠がバカにされたら悲しいよ」


「サキさん……」


 手を引いて街を歩いていたら、すぐ隣で可愛すぎることを言うから困る。

 待ち合わせの場所に向かうまでの軽い雑談のつもりだったのに。

 時と場所を考えてほしいものだ。胸中に込み上げる思いのままに抱きしめてしまいそうになる。


――我慢だぞ、我慢。ここは往来だからな。


 誠は頭を振った。横から『何してるの?』と問いかけてくる眼差しが、ちょっと恨めしい。 

 ……それはともかく、晴れているとはいえ冬の風が厳しい季節にもかかわらず、街の人出は多い。

 さすがに年末に繰り出した時ほどではないにせよ、手を繋いでいないとはぐれてしまいかねない。

 今日のサキは何かと挙動不審なので、見ていて不安になってしまう。彼女は基本的にしっかりしてる分、落差が激しい。


「心配ないって。唯人とは高校入って以来の付き合いだけど、そんなことで人を見る目を変えたりする奴じゃないから」


 誠の直感だが……唯人はどちらかというと着飾っていない普段のサキを見たがっているような気がする。

 ただ、それを素直に伝えたところで、サキがラフな格好で人前に姿を現すとも思えないが。

 てゆーか、着飾ってないサキって『良くて半裸、酷けりゃ全裸』といった有様なので、唯人であっても見せたくない。


「でも……」


――えらく今日はネガ入ってるなぁ……


 表情が冴えないサキを横目に心の中で独り言ちる。

 いつもの彼女はもっとポジティブでイケイケな印象があるので、ここまで気に病むとは思わなかった。

 人の流れを遮らないように、ふたりが離れ離れにならないようにと繋いだサキの小さな手に籠る力が強い。

 緊張しているのだと思われた。こんなサキを見るのは初めてで、どう対応したものか判断に迷う。

 ついでに言うと、迷っている時間もなかった。待ち合わせの場所に指定した駅前広場に見知った姿があったから。

 ひょろりと高い背丈に洒脱な格好。ごく自然に人の目(特に女性の目)を惹きつけてやまないその男の顔には、飄々とした笑みが浮かんでいる。


「ほら、あそこ」


「う~~~~~~、き、緊張してきた!」


「覚悟決めようね、サキさん」


 繋いだ手を少しだけ強く握り返して、開いている方の手を振った。

 サキは手櫛で必死に桃色の髪を整えている。今日の彼女は往生際が悪い。

 誠に気付いた唯人も軽く手を振り返してきて……視線が誠の隣で縮こまっているサキの姿を捉えて、その眼を大きく見開いた。

 小走りに近づいてきた唯人は開口一番、


「誠さん、ちっす。この子が例の? うわ、マジめっちゃ可愛いじゃん」


 可愛い可愛い、とにかく可愛い。べた褒めである。誠と似たり寄ったりの感想だ。異論はない。

 声といい口振りといい作った様子はまるでなくて、心の底から驚きと称賛を表現している模様。

 髪や瞳の色に対するツッコミはなかった。唯人は人の見た目や趣味をどうこう言う男ではない。

 対するサキはというと……こっちは頬を真っ赤に染め、誠の袖を掴んでモゴモゴと口ごもっている。


「そ。僕の新しい――」


「あの……サキです。誠がいつもお世話になってます。それと……待たせちゃって、ごめんなさい」


――何この反応、こんなサキさん知らないんだけど!?


 いつもは快活な少女の唇から零れる声。その語尾はすぐ傍にいる誠の耳にすら届かないほど。

 今までに見たことがない初々しいサキの様子に、誠は目を白黒させてしまった。

 唯人はきょとんとした表情を浮かべたが、それもほんの一瞬のこと。

 すぐさまいつものペースに戻り、滑らかに舌を回し始めた。


「いやいやそんな。俺の方こそ誠にゃ助けられてばっかりで」


「……そうなの?」


 唯人の言葉を真に受けたサキが問いかけてくる。

 そのアメジストの眼差しに宿っている感情は複雑だ。

 疑問、期待、不安などなど……パッと見ただけでも様々な色合いが見て取れる。


「う~ん、どっちかというと僕の方が……」


 答えに迷ったまま口を開いた。

 考えれば考えるほど、誠の方が世話になってばかりな気がする。

 唯人の発言はおべんちゃらの類とは違っていて真摯な語り口だが、思い当たるところがない。


「いや、ほら誠さんがいないと宿題とかテストとかヤベーしさ、俺」


「あ、それ? 別にどうでもいいって言うか……お前、勉強はちゃんとやれよ」


「ほらこれ、聞きました? コイツくっそ真面目なの」


「知ってます。誠って、そういうところがいいんです」


「か~~~~っ、わかってるなぁ、もう!」


「わかります? 本人だけがわかってないの、もう!」


『我が意を得たり』とばかりにドヤ顔で誠の肩に圧し掛かってくる唯人。

 そんな唯人を見て、柔らかい微笑みを浮かべるサキ。

 目の前で何だかいい感じに理解しあっているふたりの話題が自分であることに、言葉にし難い気恥ずかしさを覚える。

 あっという間に打ち解けた唯人は、誠の耳元に口を寄せてひと言。


「いい子じゃん」


「当たり前だろ」


 などと不機嫌ぽく返してみても、誇らしげな思いは隠しきれない。

 サキが素晴らしい女性であることを疑いはしないが、誰かに褒められると嬉しいものだ。

 胸の奥がぽかぽかと、目の奥がかーっと熱を持った。


――なんなんだろうな、この気持ち?


 ふいに、ひゅうと風が吹いた。3人揃って体を震わせる。

 見上げた空は灰色とは言え、それほど重苦しいものではない。

 天気予報もおかしな数字を示してはいなかった。でも寒いことに変わりはない。


「ふぅ……こんなところで立ち話も何だし、落ち着けるところに行こうぜ」


「そうだね。どこにするかな?」


 誠たちがいるのは駅前広場。

 近くには様々な店があって選択肢には事欠かない。

 スマートフォンを立ち上げようとした誠の頭に衝撃。

 大して痛くはないものの……見ると唯人が軽く小突いてきている。


「ちげーだろ、そこは。ねぇサキさん……サキさんって呼んでいい?」


「うん。私も唯人って呼ぶね」


「……いいすか、誠さん?」


「別に僕に断らなくても良くない?」


「ほら、一応筋は通しとかないとさ」


「唯人さぁ、過去に何かあったの?」


「いや、別に何にもねーけど……ほんとだからな?」


 表情がガチすぎてどうにも信頼できない。セリフとの乖離が激しすぎる。

 誠は唯人のことを友人だとは思っているが、彼がどのような人生を歩んできたのかは知らない。

 人のプライバシーに踏み込むことに、どうにも躊躇があるのだ。


「呼び方はサキさんが気に入った風でいいよ。それで?」


「お、おう。こういう時は彼女の意見を聞くのが基本だろ」


「……言われてみれば。サキさん、どこか行きたいところある?」


 指摘されてようやく気付いた。なんだかんだ言って誠も充分にテンパっている。

 初対面のサキにちゃんと気を回している唯人に、同じ男として尊敬の念を抱かざるを得ない。

 男ふたりに希望を聞かれた桃色髪の少女は、顎に白くて細い指を添えて暫し迷った末に……


「じゃあ……カラオケ! 私、カラオケ行きたい!」


「へぇ、サキさんはカラオケ好きなんだ?」


 唯人の問いに満面の笑顔でサキは首を横に振った。


「ううん。好きとか嫌いってゆーか、行ったことない」


「……誠さん?」


 胡乱げな唯人の視線が心に痛い。

 言いたいことはわかる。どうせ『甲斐性なし』とかその辺だろう。

 反論材料はあるけれど、それを口にするのは違う気がした。


「いや、ほら……僕らまだ出会って一か月ぐらいしか経ってないし」


――この言い訳は苦しいな。


 何か物申したげな友の視線を躱しつつ、首筋の裏を軽く掻いた。


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こちらは気になるあの子がグラビアアイドルな現実ラブコメ作品となります。
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