第17話 外出しよう! その3
第15話からのタイトルを変更しました。
内容の変更は特にございません。
ふたり並んで街を歩いていると、否応なく気づかされる。
道行く人の目がやたらと自分たちに向けられていることに。
正確には誠ではなくサキが注目を集めていることに。
隣を歩くピンクブロンドの少女は老若男女を問わず、人目を引くことこの上ない。
『あの子、ちょー可愛いんですけど』
『髪の毛キレ―』
『どこのカラコンかな? すっごいリアル』
『服は……えっと、あれ、なんだろ? 微妙』
『コスプレかな? 髪もあれウィッグでしょ』
『彼氏の服じゃないの? お泊りとか』
『彼氏って隣の男の子? なんか頼りなさそう』
『弟じゃないの? 似てないけど』
などなど。
特に意識していなくとも、声の方が勝手に耳に飛び込んでくる。
……サキを褒めるついでに、隣の誠にまで言及されている。
頼りなさそうに見えるらしい。自覚はあったが凹む。
――サキさん、目立つもんなぁ……
心の中で独り言ちる。
身に纏っているのは誠が貸した男物の衣服とはいえ、素のルックスが半端ない。
冬の陽光を受けてきらめく桃色のツインテール。
透き通るような大粒なアメジストの瞳。
剥き身の卵を思わせるつやつやの白い肌。
背はそれほど高くないものの、顔は小さめで全体的なバランスは完璧。
胸のボリュームは……まぁ、好みは人それぞれであろう。
チラリと横に目をやると、サキの紫の瞳が誠の方を向いていた。
「ん、どうかした?」
「サキさんは可愛いなぁって」
「なぁに、いきなり」
素直に感想を述べたら、怪訝な眼差しが返ってきた。解せない。
『なんでもないです』と答えたら『あっそ』って感じの何とも軽い反応。
とりあえず尋ねてみただけで、あまり気にしていないと素振りでわかる。
連れ立って歩く人間が視線を集めるというシチュエーションには慣れていた。
前の彼女だった香澄もその手のタイプだったから。
でも、両方を知る誠としては『サキさんと香澄はずいぶん違うな』と思わざるを得ない。
香澄は何と言えばいいのか……周囲の人間に称賛される自分を誇らしく感じているようだった。
一挙一動が自信に溢れていて、そこがまた絵になるのだ。視線を独り占めにする香澄は、とても美しかった。
並んで歩いていると『これが僕の彼女だ』と自慢したくなる半面、『自分には似つかわしくないのでは?』と劣等感を刺激されることもあった。
対するサキは、実に自然だ。
周囲の人々から注がれる視線なんて、あまり意識していないように見受けられた。
容姿に関しても誠とはかなり落差があるのだが、それを問題視しないというかさせないというか。
一緒に並んで歩く分にはサキの方が気楽だ。契約によって結ばれている関係と割り切れているせいかもしれない。
「気になる?」
「え?」
「まわりの人たちの視線とか、色々言われてるのとか」
気にしていないように見えたのは誠の勘違いだったようだ。
サキは周囲に気を配りながら自然な風を装っていた。
『そういうことができるのは凄いなぁ』と感心させられる。
「べ、別に、そんなことは」
咄嗟に否定の答えが口を突いた。
中途半端な言葉は上手く形になってくれない。
「だったらキョロキョロしない」
「……ごめん、ウソ。僕、こういうのが気になって仕方がなくて」
答えながら大きくため息を吐き出した。
誠は昔からこうだった。
周りの人間の顔色を窺わずにはいられない。
そんな自分が、どうしても好きになれない。
「う~ん、視線を意識することは悪いことじゃないと思う」
「そうかな?」
「ええ。周りに目が向かないって、それトラブルの素よ。余計な揉め事を起こすメリットなんてないから、間違いではないはず。でも……誠は意識しすぎてるのかな?」
「かもね」
『意識しすぎている』という言い回しはピタリとあてはまると感じた。
人前に出ると、どうしても挙動が怪しくなってしまう。
『どう見られるか』『どう思われているか』といった部分に雁字搦めにされるのだ。
――これは矯正できる問題のはずなのに。
なぜそう考えるかと言えば……永らく共に暮らしてきた幼馴染も、かつては誠と似たり寄ったりだったから。
そんな彼女は、高校に入ってから堂々と振る舞うようになった。
あの態度は後天的に身につけたものだ。間近で見てきたから、それはわかる。
誠も真似ようとした。でも、できなかった。
……香澄のことを思い出したら気分が悪くなった。
胸を押さえながら軽く頭を振って、余計なことを意識から締め出す。
サキはアメジストの眼差しを人混みに向ける。
誠を揶揄する言葉を投げかけてきたあたりだ。
視線を向けられた連中は慌てて目を逸らして知らんぷりをする。
「あの人たち見て」
「……ガン飛ばしてくるサキさんと揉めたくないんだろうね」
「そういうこと今言ってないから」
「あ、はい。それで、何?」
「誠はああいう風になりたいって思う?」
「『ああいう風』ってどんな感じ?」
「言いたいことがあるならハッキリ言えばいいのに、直接言わない」
「揉め事を避けるって意味では悪いことじゃないんじゃないの?」
「だったら黙っていればいいんだわ。わざわざ口にするくせに、堂々としてない。できない。だって自分の言葉に正当性がないって自覚してるから」
だからああやって陰でコソコソしているのよ。
今の自分の姿を鏡で見せられたら、あの人たちはどう思うのかしら。
サキは口角を釣り上げて皮肉げな笑みを浮かべた。
「私だったら恥ずかしくて死ねるわ」
「……かもね」
「後ろめたいことをしている連中の意見に一喜一憂するってバカバカしいと思わない?」
「後ろめたいことをしてる、か……」
特に親しいわけでもない人間を勝手に品評したり、陰口を叩いたり。
『後ろめたい』とはまた違うのではないかという気もするが、あまり胸を張れることでないのは確かだ。
好き勝手言うのは気持ちいいかもしれない。誠も心当たりがないとは言えない。
でも……その姿をこうして客観的に見せられたら『みっともない』のひと言に尽きる。
いつもと変わらない街並みのはずなのに、意識ひとつで景色がガラリと変わった気がした。
『人の振り見て我が振り直せ』とは正にこのこと。誠は眼前の光景を深く胸に刻み込んだ。
「大体、自分と関係ない人についてあーだこーだ言うとか意味ないし」
「それはまぁ、そうだね」
道行く人の大半は、言い方はアレだが誠の人生とは何ら関わりのない者ばかり。
彼らは誠に興味なんてないだろうし、誠も彼らに興味なんてない。お互いさまだ。
ただ、どうにも素直に頷けない。そこまで割り切れない。凄くモヤモヤする。
「サキさんの言うことはもっともだと思う。正直、僕も耳が痛いな」
「ま、私もあまり偉そうなことは言えないけど。自分の意見が絶対に正しいって断言できるわけでもないし」
ただ、そういう考え方があるということは気にかけておいてほしい。
何も悪いことはしていないのだから俯く必要はない。堂々と前を見ればいい。
でも、いきなり変われと言っても変われるものでもない。
機械じゃあるまいし、スイッチひとつでオンオフが効くものでもない。
気付きを得て自分なりに納得出来たら、少しずつ変えていけばいい。
「胸を張ろう、誠」
「……がんばってみるよ」
「焦らないでいいわ。ゆっくり、ゆっくりね。ちゃんと見ててあげるから」
激励の言葉が身に染みた。ついでに窘められた。まるで子ども扱いだ。
誠は何となく気恥しくなって視線を落とし、開いた手でポリポリと頭を掻いた。
桃色髪の少女はそんな誠の様子にクスリと微笑み、ポツリと呟く。
「羨むことは誰にだってあると思う。でも、妬んだところで幸せになんかなれないのにね」
やめられないんだろうな。
そう続けつつポケットの中で繋いだ手をキュッと握りしめてきた。
驚いて隣に目をやった誠は、可愛らしい横顔に言葉にし難い寂寥を垣間見た。
なんか、このあたり上手く書けてない気がします。
後で修正するかもしれません。
突貫工事はこれだから……




