女騎士と国王
展開飛んでる?
気にすんじゃねぇ!!
「そこまで……勝者、アルト!」
審判である副団長の声が響く。
片膝をつくソルテの首筋に当てていたカレトヴルッフを外し、鞘に納める。
そして荒く呼吸している彼女に手を差し伸べた。
「はぁ…はぁ……お疲れさん、良い戦いだったぜ。」
俺自身も乱れた呼吸を整えながらニヤリと笑うと、ソルテは苦笑しつつ俺の手を取って立ち上がった。
「…ふっ…はっ……ふぅ……よく言うな。これでもそれなりに腕はあると自負していたのだが……完敗だ。」
悔しげに、しかしどこか晴れやかな表情で彼女はそう言った。
「そっちこそよく言うぜ。危うく脇腹を持っていかれるところだった。」
そう言いながら俺は左の脇腹に手をやる。
ほんの少し掠っただけなのに、ズキズキと強い痛みが走っている。
恐らく服の下は傷か痣ができていることだろう。
「必中の突きだったのだが……あれを捌かれたのは、貴方が初めてだ。」
「だろうな。俺ももう一度やれと言われても断りたいレベルだ。」
ソルテはルフマーや陰陽師のような必殺技があるわけでも、聖騎士のような万力があるわけでもないし、エレンやランスのような強力なスキルもなかった。
しかし、人並み外れた槍の才能と想像を絶する努力の末に手に入れた技術と戦闘センス、神速の突きは恐ろしく強力なものだった。
最後にソルテが放った渾身の一撃は、彼女の全てが詰まった突きだった。
魔力を纏ったカレトヴルッフと超強化した身体能力でギリギリ受け流す事ができたが、まともに当たっていれば俺の脇腹は深く抉り取られていたのは間違いない。
結果的には数分の攻防で、終始俺が優勢であったが、全神経を集中させていた為か戦いが終わった途端にどっと疲労が押し寄せてきた。
「貴方ほどの戦士にそう言ってもらえると、私としても鼻が高いな。」
互いを讃える握手をしながら、ソルテが嬉しそうに笑う。
その笑顔は、光を放つ金色の髪に負けないほど美しく輝いていた。
空が茜色に染まる頃。
闘技場を後にした俺は、皇宮への帰路を辿っていた。
馬車を手配する事も可能だが、俺はいつも歩いて通っている。
「それにしても、国王陛下ってあんなに腰の低い方だったんだな。」
柔らかく光る夕日を眺めて一人呟く。
ソルテとの試合後、俺は彼女に誘われ国王の元へ招かれていた。
そこで改めてランスの件の謝罪と、ソルテの専行を止めた事へのお礼を言われたのだ。
国王は、皇帝陛下が持つ他者を圧倒するような威厳はなかったが、その優しげな微笑みを見ているだけでどんな人間も敵対する気持ちなど消えてしまいそうな、そんな雰囲気の方だった。
ソルテは独断専行を国王に嗜められ、しょんぼりしていたな。
かつて俺が所属していたパーティーをS級冒険者として推薦したのは国王だった。
基本的には貴族等との会談や交渉は、ランスが面倒臭がっていた為に俺が主導となって行っていたのだが、一部の上級貴族や王族との面会の際にはランスが嬉々として表に立っていた。
だから俺は国王と真正面から話した事はなく、少し顔を見た事がある程度だったのだが、こんな人格者だったんだなと驚くと共に感心した。
冒険者として、いつか王国に赴く事があるかもしれない。
その際には王宮へ顔を出すよう国王に言われ、俺はそれを約束した。
闘技場を出て二十分ほどで、貴族や裕福な商人等が多く住まう貴民街と呼ばれる区画まで来ていた。
先の方には巨大な皇宮が見えている。
ここまで来ると一般市民はおらず、通りを歩く人足もかなり少ない。
寄り道をするように角裏に入り、背後を振り返って声を上げた。
「この辺で良いだろ。出てこいよ。」
闘技場を出てすぐに、尾行されている事には気付いていた。
これは俺が索敵に優れているとかではなく、相手は俺を追っている事を隠すつもりがないようだった。
案の定、俺が声をかけるとすぐにそいつは姿を現した。
「……久し振りね、アルト。また会えて嬉しいわ。」
そこにいたのは、見慣れた顔で、見慣れぬ表情で怪しく微笑むエレンだった。




