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フィーバーモード

 エクスカリバーの活躍によって、俺達は魔界から離脱し、フィニアスという町に来ていた。

 フィニアスはかつて勇者が旅した町の一つで、それなりにデカイ。

 通称“戦士の町”と言うらしくて、戦争中の今、ここが拠点になっているらしい。


 そして俺達は町のある酒場で勇者と一杯やっていた。

 ミルクでな。


「許せねぇ……。あいつマジで許せねぇよ」


 聞くところによると、あの少女がシャーラだったようだ。

 シャーラを巡って勇者と殺し合いをした話も聞いた。


 俺とシャーラは一緒に旅をしていたらしい。

 なんてことだ。

 記憶喪失前の俺はそんな羨ましいことしていたのか。


 いや、そんなことより。


「魔王ってのは本当に悪の権化らしいな!」


「その通りだ」


「とにかくあれはいけねぇ。俺を怒らせちまったよ」


 屋上。

 マジで屋上。

 ダメだ。なんでこんなにイライラしてるんだ俺は。


【しかし現状私達だけでは勝てないのが事実だ。

 魔王が本気で仕掛けてきたら人間は終わるぞ】


「なんで仕掛てこないんだろうな」


【おそらく、面倒なんだろうな。

 行くより来させたほうがいい。それと魔王は何故か弱っていた】


「弱っていた?」


【ああ、想像はつくがな。攻めるなら今がチャンスということだ】


「よし、なら仲間を集めよう!」 


 俺はミルクを飲み干すと、ガタンと立ち上がった。


「それがいいね。

 この町の中心に世界中のギルド支部が集まったギルド、通称“大ギルド”がある。そこに行けば仲間が集まるんじゃないかな」


 その場合、俺達が仲間として迎え入れられそうだけどな。

 まあ魔王を倒せるならそれでもいい。


「よし行こう!

 っとその前にエクスカリバー」


【なんだ?】


「お前のその危機感を削る能力さ。効果範囲とかあんの?」


【ああ、ある。

 バルトの間合いが効果範囲だ。バルトが強くなればなるほど私の能力の範囲は広くなっていく】


 おえ。

 それほんと邪悪だわ。



ーーー



「さて、大ギルドに着いたはいいが」


「うん」


【酷いなこれは】



 そう、俺達は大ギルドに着いたんだ。

 ギルドの扉の前に来た瞬間から中の様子が可笑しいのは気づいていた。


 ほとんどの戦士達が、酔いつぶれている。

 ギルドなんだから酒を飲むくらいいいだろう。

 しかし、これは酷い。

 戦争中だというのに引き締まった空気などなく、仮にも世界中のギルドが集まった大ギルドだと言うのに、士気が見えない。


「何があったんだ……」


【前はこんなことなかったはずだ】



 ギャーギャー騒いでいる訳でもないのだ。

 なんていうか、全員戦意喪失してる感じ?


 そんなことを考えていた時だった。


「おお、レイヤじゃないか」


 俺に声がかかった。

 振り返ると、そこには一人の青年が、机に伏してこちらに手を振っている。


「誰?」


【私達に聞くな】


 ああ、そういえば俺は記憶喪失だったんだ。


「こっちに来てレイヤも飲みなよ」


 なんだあのカス野朗。

 まあいい。誰かはあいつに聞いたほうが良さそうだ。ろくな奴じゃなさそうだけどな。


「ちょっと行ってくる」


「じゃあ僕もちょっとお世話になった人のところに行ってくるよ」


「わかった」


 勇者と別れた俺は、そいつの向かい側に座ると、尋ねた。


「誰ですかね?」


「何言ってるんだ、俺だよ、ラインさ。

 そんなことよりレイヤ、生きてたんだね」


 酒臭いなこいつ。


「知り合いか。

 実はさ、俺記憶喪失なんだよね」



 俺はラインとかいう男に記憶喪失の話をした。ラインは案外あっさり信じてくれ、そして俺との関係を教えてくれた。

 魔界に乗りこんだ話も聞いた。



「ああ、なんとなくわかってきたぞ」


 記憶喪失になったのは魔界で一悶着あったからなのか。

 それで、ここの奴らがこんなにやる気ないのも魔王軍にフルボッコにされたから、と。



「そんなんでいいのかよ!! 魔王退治に燃えてたお前はどこに行ったんだよ!!!」


 燃えてたこいつを俺は知らないけど。

 俺が魔王を倒したいのは私怨だけど。


「……仕方ないんだ。

 人は一人じゃ何もできない……」


「こいつらを奮起させるのがお前の仕事なんじゃねーのかよ!!」


 俺は机を叩いて立ち上がる。

 なんとしてでもこいつらには立ち上がって貰わねば。

 魔王は駆逐せねばならない。

 本能的に。


 すると、ラインもテーブルをドンと叩いて立ち上がった。


「レイヤに何が分かる!

 俺はずっと魔王を倒すために生きてきたんだぞ! 無理だと分かった時の俺の気持ちが分かるか!!」


 ちょ……。そんな怒らないでよ。

 しかし勇者といいラインといい、根性のねぇガキが多いこと多いこと。

 これだからゆとりは。


「記憶喪失なんて嘘、こっちはそんな気分じゃないんだよ!! ふざけるな!」


 あ、嘘だと思われてる感じ?

 まあ記憶喪失とか普通信じられないよね。


「帰ってくれ……

 俺はこのまま金が尽きるまで酒を飲んで、尽きたら死のうと思ってるんだ……」


「それなら魔王に殺された方がマシじゃね?

 戦おうや」


「うるさいな!! 帰ってくれ!!」


 可哀想なやつだぜ。

 全然人生に希望を持ってねぇ。もう今死んだらいいのにってレベルだぜ。


「もう一回だけやってみようぜライン。

 それも無理だったらその次はもっと本気でやってみよう」


「しつこいな……!

 俺はパパが殺されてからずっと一人でやってきたんだ……! 孤独だったよ! もう疲れた……」


「……」


 こいつを奮起させる言葉が思いつかねぇ。

 なんなんだよ。そこまで熱くなれるなら魔王退治しようや。

 俺なんて魔王退治を、イライラするからという理由で始めようとしてるのに。

 もちろんべバリーの町のギルドでの一件も忘れてないけどさ。


「チッ、根性無しめ」


 俺は気づけば無駄な悪態をついていた。

 本当に思わずだった。


 だが、意外にもそれがラインを怒らせてしまったようだ。

 マジで意外だったよ。


「……根性無しだと?」


 ラインは鋭い目つきで俺を睨んだ。

 俺もノリで睨み返す。


「ああ、根性無しだろ。

 魔王見てきたけどぶっちゃけ大したことなかったぜ?

 正直拍子抜けだったよ。

 あんなのにビビってるのか、ハァ……」


「分かったレイヤ、腕相撲をしよう」


「あ?」


 肘をテーブルを上に乗っけるライン。

 その腕は細い。


「腕相撲だ。

 懐かしいだろ?」


 懐かしいとか言われましてもね。

 そんなやり方が俺達の間にあったのだろうか。

 とりあえず答えてやろう。


「オーケー、しょっぴいてやる。

 負けたら魔王退治な?」


「いいよ、レイヤが負けたらおとなしく帰ってくれ」


「オーライ」


 俺も肘をテーブルの上に置き、ラインの手をとった。

 気づけば、俺達の周りには人だかりができていた。

 訳の分からない怒鳴り合いをしていたからだろう。


「よーいドンでスタートだ」


「おけ」


 周囲は静まり返る。こんなのに野次馬る気力はあるんだな糞が。


「よーい……」


 ドン、で衝撃が走った。

 


 拮抗する二人の腕が、テーブルに悲鳴を上げさせる。

 俺は本気だった。


 が、ラインはそうじゃないみたいだ。


「……レイヤ、どうして本気を出さないんだ?」


「ちょ……、こ、本気……なんですけど……!」


 こいつ、この細い腕からどこにそんな力が……!


「とことん俺をコケにしたいらしいな!」


 ラインのそんな叫びと同時に、俺の手はテーブルを突き抜けて地面に打ち付けられていた。


 ああ、勝てる相手じゃなかったんだな。


 それが俺の素直な感想だ。


「……レイヤ、最初から俺なんて宛にしてなかったのか。

 俺は負けるつもりで腕相撲を挑んだんだ」


 ツンデレかよ。


「……」


「それがなんだこれは。馬鹿にするのも……」


 俺は立ち上がって、背を向ける。

 敗者は去るという約束だったな。

 ちょっと負けて恥ずかしいから早くここを去ろう。


 野次馬の中に勇者を見つけると、目配せをして外に出るよう合図した。


「レイヤ!!」


 背後からまたもラインの声がかかる。俺は足を止めて少しだけ振り向いた。


「水帝……、ルルを攫ったのは……、……俺だ……!」


 誰だよそれ。


 俺はラインを無視して、出口に向かった。

 敗者だというのに勝者の雰囲気で退場していく俺。

 

 最後に「本当に記憶喪失だったのか……」という今更な声が聞こえた。




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― 新着の感想 ―
[一言] し○、ライン
[一言] 忘れた頃に…。邪悪すぎるライン。
[一言] ぶっ○そう。ラインを
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