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家畜のフリでもやってろ!

 俺、べバリー、カルラ。

 俺達三人は、町の隅にある家畜小屋で息を潜めていた。


「はぁ。臭いなここ……」


 でかいうんこの塊とか普通に落ちてるし。


「溜息を吐きたいのはこっちだ……」


 三人の溜息がミックスした。

 カルラに関しては本当に絶望しきった顔をしている。


「てかさ、あのいぶし銀って奴は強いの?」


「強いも何も、ギルドのトップよ……」


 ああ、それは……ご愁傷様です。

 しかしここまでしてしまったんだから本格的に俺がなんとかしないといけないっぽいな。

 ふーむ、どうしたことか。


「そうだ、ギルドに入ろう」


「はい?」


「中から改革すればいいんだよ」


「できるわけないじゃん」


 まあそんなのできるわけ無いよな。

 つかカルラちゃんすぐに当たり強くなったな。

 ラフな格好してるから胸チラしてるけど。



 状況打破を考えて唸っていると、家畜小屋の扉が勢い良く開いた。


「ここかァ!?」


 やばい、そう思った俺は家畜の餌である乾草の中に、べバリーとカルラを押し込んだ。

 そしてあとから俺も潜り込む。


(絶対声出すなよ)


(わ、わかってる……)


(うん……)


 ヒソヒソ声でそんなやり取りをして、俺は家畜小屋に入ってきたハゲを乾草の中からこっそりと覗いた。

 ハゲは辺りを見渡しながら少しずつこちらに近づいてくる。


「ここじゃないのか?」


 そう、ここじゃない。

 だから帰ってくれ。

 そう願いながら息を殺していると、ハゲがでかいうんこを踏んだ。


「む?」


「ブホッ……!」


 こらえ切れず、俺は思わず吹き出してしまった。


(ちょ、レイヤ君!?)


(な、なにやってんだよお前……!)



「今、そこから声が聞こえたなァ……!」


 ニタァと汚い笑みを貼り付けてこちらへと歩んでくるいぶし銀。

 片足にはべっとりとうんこだ。


 こんなギャグ的シチュエーションだけど、見つかればやばい。

 いや、もう見つかってるのか。

 捕まるとやばい。


 どうする……?

 戦う、は論外だな……。

 逃げる……ここから逃げ切れる気がしない。


「あー! もういい!」


 良案が思い浮かばず、俺は乾草から飛び出した。

 もうヤケクソだ。

 俺には剣もあるし、なんとか戦ってみようじゃないか。

 いや、その前に謝ろう。


 ふっつーに考えて、つばを吐いた俺が悪いんだから。

 謝ればもしかすると許してくれるかもしれない。


「やっと出てきたかァ……。他の二人もそこにいるんだろう、出てこい」


 べバリーとカルラもそう言われて出てきた。

 馬鹿め、隠れてたら俺がなんとかカバーしてやろうと思ってたのに。


 まあ出てきてしまったのなら仕方ない。

 俺は体についた乾草を払ってから、綺麗に直立した。


 そして勢い良く頭を下げ、腰も折り曲げる。


「唾を吐いたのは僕です! 本当にすいませんでした!」


 これでダメなら逃げよう。これでダメなら逃げよう。

 ……逃げられんのかな。


 しばらくしてもハゲの返事が返ってこなかったので、俺は恐る恐る顔を上げてみた。


 すると、そこには俺を見て口をパクパクさせているハゲがいた。


「お、お前……、ま、まさか、その黒髪……!」


 うん?

 俺の黒髪……? それがどうかしたのか。

 もしかしてこっちじゃ黒髪は珍しいとかか?


 そんなことを思ってると、ハゲはぺたんと尻餅をついた。


「ど、ドド、ドラゴンライダー……ッ!!」


 はい?


「な、何言ってるんですかね……」


 俺が困惑していると、べバリーが納得したかのように声を上げた。


「あー」


「どういうこと? 兄貴」


「お前、ちょっと前に世界を騒がせた黒髪の指名手配犯知ってるか?」


「ああ、あったわねそんなのも。興味なかったけど。

 確か物凄いお金がその首にかかってたんでしょ?」


「ああ、それがな、レイヤなんだよ」


「ええ!?」


「ええ!?」


 カルラとまとめて驚く俺。

 俺そんなにヤバイ奴だったのかよ。


 ハゲをチラ見してみると、今にも逃げ出しそうなくらいビビっていた。

 この厳つ面がビビるくらいなんだから、それはもう世界を恐怖に陥れたくらいの犯罪者だったんだろうか俺は。

 いやでもそんな悪いことする度胸もねーよ。


 てかこの雰囲気どうするんだよ。

 なんかハゲ可愛そうだよ。


 そんな時、カルラがハゲを指差し、叫んだ。


「あ、アンタ!」


 一体何を言うのかとドギマギしてカルラを見ていると、カルラは言い放った。


「町で悪さしたらこれからはレイヤ君に言いつけるんだから!! それでボコボコにしてもらうわ! 他の奴らにも言っておきなさい!」


「ひ、ひぃ!! わ、分かりました!」


 なんか色々と奇妙な形で、町の悩み事は解決?した。



ーーー



 ギルドに乗り込もう、レイヤ君がいれば大丈夫だわ。

 そんなカルラちゃんのゴリ押しで、俺達はハゲを連れてギルドに来ていた。


 が、俺は申し訳無さでいっぱいである。

 わざとじゃなくてもつばなんか吐きつけられたら激怒するのは当たり前だと思う。

 正直今の俺は、怒らせて謝らずに逃げて、追い詰められたかと思えば返り討ちにした嫌な奴らじゃないか。

 まあギルドの奴らは町を荒らす嫌な奴らなんだろうけど……冷静になるとちょっと罪悪感がね……。

 テンションあがって調子乗ってましたわ。

 俺が非難されてもいいレベルだよこれ。


 しかしそう言っても仕方ない。

 俺はギルド、白亜の蛇に来てしまっているのだ。


「たのもう!」


 カルラはそう言ってギルドの扉を開けると、俺の後ろに回り込んで背を押してきた。

 当然、俺が最初に中に入ることになる。


 視線が俺に注がれた。


「ああ? なんだてめぇ?」


 さっそく一人のチンピラっぽい奴が俺の前に出てくる。

 すると、カルラのさらに後ろにいたハゲが飛び出てきた。


「待てラーディ! ちょっと待て!」


「あれ? ガルバさんじゃないっすか。どうしたんすか?」


「この人には手をだしちゃいけねぇ! 殺されるぞ!」


 いや、殺されねーよ……。

 そんな物騒な……。


 ギルドの酒場は、ハゲのビビリっぷりに驚いたのか、一瞬静まり返った。

 そしてしばらくするとざわつく。


「ガルバさんがあんなにビビってるぞ……」

「いぶし銀とも呼ばれたあの人が……」

「何者なんだあの黒髪……」

「おい、黒髪?」

「まさか……」


 そんな時、ギルドの壁に貼ってあった紙がヒラリと落ちた。

 俺はそれをチラと見ると、そこにはとんでもないことが書かれてあった。


『ドラゴンライダー、レイヤ。

 大罪人。賞金、フィオリーノ金貨1400(1400)枚。生死問わず』


 目の前のチンピラっぽい奴もそれを見て顔面を真っ白にしていた。

 そこでカルラのトドメが入る。


「レイヤ君の代わりに言わせてもらうわ! アンタら最近調子乗りすぎなのよ! 町のみんなも迷惑してるわ!

 レイヤ君もお怒りよ! あんまり調子に乗ってたらひどいわよ!」


 沈黙。

 俺はすごい複雑な気分でそこに立っていた。

 誰もが俺の顔色を伺っている状態で、弱い者いじめをしているようだ。

 しかも今の俺はそこまで大したことないっぽいし、もしヤケクソで攻撃されたら死ぬかもしれない。


 そんな時、目の前のチンピラが半泣きで叫んだ。


「お、俺らだってよぉ! 頑張ってるんだよォ!」


 震える足を前に出して、俺の前に立つチンピラ。

 カルラはそれを見て数歩後ずさった。

 が、はったり効かせるためにも俺は余裕の態度で腕を組む。俺の後ずさりは状況的に許されない。


 怖いけど、ここまで来たらね。

 なんか色々おかしいけど町の為に、って思っておこう。


「こ、こんなご時世なんだぁ! 戦争なんだぁ! 俺たちゃいつ死ぬかわかんねぇんだよぉ!

 ちょっとくらいオイタしたっていいじゃんかよぉ!」


 終いに泣きだしたチンピラに、俺は言葉を失った。

 ……あれぇ? なんだこの空気……。

 俺が悪いみたいじゃん……。


 しかし、俺はチンピラのその言葉に何か返すことはできなかった。

 皮肉も、何も出てこない。


 死ぬ覚悟もないのにギルド入ったのかよ、とか、甘えんな、とか、それでも悪いことは悪いこと、とか。

 そんな糞みたいな言葉を吐くのはなんか嫌だった。

 このチンピラをひねくれた言葉で言い負かすことは出来そうだけど、なんていうか、こいつらが可哀想だ。

 全然人生楽しんでないじゃん。


 そう思うと、俺は居た堪れなくなってきた。

 死ぬのはそりゃ怖いだろうし、ちょっとくらいのオイタを許してやってもいいんじゃないだろうか。


 俺は振り向いてべバリーとカルラを見た。

 二人は複雑そうな顔をしている。



「そうだよな……。故郷に帰りたい……」

「俺も娘に会いたい……」

「……みんな、怖いんだよ。戦争なんてしたくねぇ……」


 広がっていった波紋は、ギルド内を完全に重い空気にした。


 そして、その時の俺は何を思ったのか分からないが、言ってしまったんだ。

 その場から逃げ出したかったからだろうか。

 それとも本気でいったのか。

 使命感?

 エンターテイメント精神?

 俺には分からない。


 とにかく、言ってしまった。


「俺が魔王倒して戦争終わらせてやんよ」


 って。

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