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勇者誕生

 ルーシェ、アイリン、ミーニャ、フルーシア。

 みんな死んだ。

 僕を庇って、死んだんだ。


 僕はどこなのかも分からない荒野でうずくまって泣いていた。

 体中ボロボロだったけど、なによりも心がボロボロだった。


「うぅ……ううう……」


【バルト……、すまない……】


 違う。

 僕のせいだ。

 僕が自惚れてたから。


 だけど殺してやる。絶対にだ。

 許せない。

 どんな犠牲を払ってでも殺してやる。

 絶対に、絶対に。


 もう世界なんてどうでもいい。

 魔王だけは、魔王だけは許さない。



 口から嘔吐物を吐き出す。

 そのまま地にひれ伏して僕は泣き続けた。

 だけど僕は、唇を噛み締めて、魔王を殺すためだけに生きることを誓った。


 僕が勇者になった瞬間だった。




ーーー時は数時間前に遡る。




「や、やめとこうよバルト……」


「そうだよ、一旦戻って報告しよ?」


「……みんなの言う通り。……戻るべき」


 僕達は今、魔王城付近の森にいた。


 元々シャーラの捜索に力を入れていた僕達だったが、レイヤにボコボコにされて王都に戻った時に、シャーラ捜索を断念させられて魔界の探索を命じられたのだ。


 そして魔界を探索している内に、運よく魔王城まで辿り着いた訳である。


 魔界の魔物は強かった。

 しかし倒せないことはない。むしろ思っていたより弱かった。

 魔族とも幾度となく遭遇したが、力を合わせて倒して来た。


 深い緑の髪が魅力的なミーニャは、転移魔法が得意だ。

 しかしさすがのミーニャも魔界の地形は把握していない。

 だからこの大陸までも船で来たのだ。


 そして魔王城まで来ることが出来た今、どうして引き返す必要があるのだろうか。


「いや、このまま乗り込もう」


 僕はみんなの意見を押し切ってそう言った。


「……バルト」


「大丈夫、僕達が力を合わせれば魔王だって倒せるさ!

 それに、エクスカリバーだっているんだ」


 僕の言葉にみんなは黙り込んだ。


【私をあまり頼りにしてくれるなよ、バルト】


「分かってるさ」


 僕は立ち上がる。


「バルトがそう言うなら……。いやでも……」


「……引き返すべき」


 未だにみんなは食い下がる。

 僕のことを心配してくれてるのは分かるけど、ここに来るまでに魔物も魔族も結構難なく倒せたし、きっと魔王だって倒せるはずだ。

 実際一本角の魔族なんかは束になっても僕に勝てない。

 こう言っちゃあなんだが、僕は強い。

 自信があるんだ。


「いいよ。なら僕一人で行くよ」


 そう言って僕は森の茂みを抜けた。

 するとみんなは少し顔をしかめながらも無言で着いてきた。それを見て僕も無言で進む。



 魔王城の門は、開放されていた。

 真正面から入っていくのは得策ではないと思うが、かと言って他に入り口は無さそうだ。

 だから僕達は気配を消して中に侵入した。


 城内は何か不気味な雰囲気を放っていて、物音一つしない。

 しかし、魔族の気配はあちこちに感じた。

 僕達の侵入はおそらくバレていない。ミーニャが防音魔法等の気配を抑える魔法を張ってくれてるからだ。


 僕達はそのまま階段を上がったり廊下を進んだりして奥へ進んでいく。

 たまに魔族を見掛けたが、隠れることによって回避した。



 そして唐突に魔王と遭遇した。


 魔王の風貌は話に聞いていて、見た瞬間に分かった。

 というよりそう悟らせる雰囲気を放っていた。



「なっ!?」


 誰もが驚きの声を上げる。

 本当にいきなり現れたのだ。


 魔王は僕達の顔を見て少し驚いたような顔をした。

 というよりミーニャの本気の気配消しをいとも簡単に見破っていることに驚きである。

 僕は静かにエクスカリバーに手を掛けた。


「何か来てると思えば人間か」


 まるで虫でも入って来たかのような物言いである。

 魔王は小さく息を吐くと、踵を返して歩きだした。

 そして手を二回パンパンと叩く。


 すると魔王の周りに魔族達が一斉に現れた。

 二本角が五体。


 魔王は二言三言と呟いてから、ゆっくりと螺旋階段を上がっていった。

 二本角の魔族達は一斉にこちらに向く。

 殺気だ。


「バ、バルト……逃げよう……。二本角がこんなにいたら勝てっこないよ……」


 ルーシェは怯えていた。

 無理もない。ルーシェは一度魔族に瀕死の傷を与えられたことがあるのだ。


「……無理。……逃げられない。エクスカリバーに何とかしてもらうしかない」


 ミーニャは言った。

 ならば、戦うしかない。

 もとよりそのつもりだ。僕がみんなを守るんだ。

 世界も。

 全部変えてみせる。


「エクスカリバー。チェンジしてくれ」


【それは代わりにバルト達を逃がしてくれということか?】


「いや、戦ってほしい。出来れば魔王も倒してほしい」


【3分じゃ無理だ】


「……魔王はエクスカリバーより強いのか?」


【分からない。だがたった3分で蹴りをつけるのは無理なのは分かる。あいつは格が違っていた。

 っと、来るぞ、代わる】


 視界が変わった。

 僕は剣になる。

 そしてエクスカリバーはものの数十秒で周りの二本角を細切れにした。


 階段を登っていた魔王がこちらに振り向いた。

 そしてうんざりした顔で階段をまたゆっくりと下りてきた。


「バルト、5秒で決めてくれ。魔王を倒すか、逃げるか」


「……逃げるべき」


「バルト、逃げよ? ね?」



 僕は決断する。


【魔王と……、戦おう】


「逃げるべき……!」


 そんなミーニャの言葉を最後に、3分はすぐに流れていった。


 結果から言うと、僕達は敗北した。

 エクスカリバーは魔王がほとんど手も足も出せないほど押していたが、それでも3分では倒せなかったのだ。

 残すところ一分というところで、エクスカリバーは逃げようとしたのだが、魔王がそれをさせなかった。

 そしてとうとうチェンジが切れてしまったのだ。


 僕は絶望していた。ただ目の前の強大な存在を見据えて。



「楽しかった。一方的にやられるのは久しぶりだったぞ。さすが伝説の聖剣だ。

 どうせならお互い全力で戦いたかったが……」


【くっ……】


 まさかエクスカリバーが倒せないとは思っていなかった。


 逃げないと、殺される。


 いやダメだ。逃げられない。

 僕が時間を稼いでる間にみんなに逃げてもらうしかない。


「みんな、聞いてくれ……。僕が時間を稼ぐ。その間に逃げてくれ……。僕のせいだ。ごめん……」


「そ、そんなのダメよ!」


「……不可能」


「いいから逃げてくれ!」


 ――オーバードライブ


 僕は魔王に向けて走り出す。


「うおおおおお!!」


【よせ!】


 エクスカリバーを連撃で振り回すが、魔王は躱すことすらしなかった。

 ただ、肉を切らせてその箇所を再生させていく。


 そして唐突に僕の顔面を掴んだ。


「ぐ……ぁ……」


 そのまま持ち上げられる。


「貴様が勇者か。剣に自酔が入っているな。話にならん」


 魔王はそのまま僕を顔を壁に押し付けた。

 しかし、その瞬間魔王の腕が切り落とされる。

 僕は解放されて床に落ちた。

 頭が揺れて力が入らない。だけどなんとか顔を上げると、僕の前にはアイリン達が立っていた。


「みんな! 全力でバルトを助けるよ!」


「うん!」


「……了解」


「当然よ!」


「や、やめ……。逃げてくれ……みんな……」


 僕は懇願するように言ったが、声がかすれてみんなには届かなかったのかも知れない。

 とにかく、僕の仲間は命をなげうって僕を助けようとしていた。


 しかし、決着はすぐに着いてしまう。


 まず最初にアイリンが死んだ。

 心臓を一突きだった。


 次にフルーシアが死んだ。

 顔を潰された。


 その次はルーシェ。

 魔王の魔法で消滅した。


 僕は見てることしかできなかった。


「う……ああ!! やめてくれ! やめてくれ! お願いだ! 僕はどうなってもいい!」



 僕の転がる地面には魔法陣が展開されている。

 ミーニャの転移魔法だ。

 ミーニャは魔王を牽制しながら必死に戦っていた。

 ミーニャは僕を転移魔法でどこかに飛ばそうとしている。


 僕の体が光の膜に包まれていった。


「うわぁぁ! ミーニャ、やめてくれ!」


 僕は泣き叫ぶ。



「バルト、あなたは生きて。

 あと、愛してる」




 ミーニャが言い終わった瞬間、彼女の首が魔王の手刀で飛んだ。

 ゴトリと地に落ちて、僕の前に転がってきた。


「あ……ああ……! ああああ!!」


 僕はミーニャに手を伸ばす。

 が、それは魔王によって横に蹴り飛ばされた。


「お前も殺そうかと思ったが、女に免じて許してやろう。

 せいぜい我を恨んで醜く生きろ」


 転移魔法の光が強くなっていき、そんな魔王の言葉を最後に僕は転移したのだった。


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