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その後

「ごめんなさい。本当にごめんなさい」


 俺は生涯最強の土下座をシャーラにしていた。

 珍しく顔を真っ赤にして怒るシャーラに、俺は内心かなりビビっていた。



 リーセルハルバイナのバルジャン。魔法学校のある大きな街だ。


 5年前、ここに家を買って住もうとシャーラに言ったことがある。

 それは実現していた。


 まだまだ冒険し足りない俺だったけど、やっと落ち着いてここに家を構えたのだ。

 落ち着くまでは随分とシャーラを引っ張り回してしまった。

 落ち着いたと言っても、帰る場所を作っただけで、今でもほとんど家は放置されているようなものなのだが。


 なんていうか、ラブラブ新婚旅行?

 いや、もう新婚とは言えないか。

 俺は22歳で、シャーラは21だ。


 よくシャーラに言われる言葉がある。

 「レイヤって全然大人になりませんね」 だ。

 俺からしてみればそれは褒め言葉である。

 大人になることってかなしいことなの。



 そして俺はバルジャンにいるというのに、学園に持っていた興味はすでに失せていた。

 なんか冷めちゃったんだよね。

 学園ラブコメ? いいよシャーラいるし、って感じだ。

 故に失われた学園編を取り戻そうとはしない。


 だが、だがだ。

 シャーラがいればいいとは確かに言った。

 だけど、それとこれとは訳が違う。


 言い訳させてほしい。

 制服を着た女の子に誘われて、断ることができるだろうか?

 否、断じて否!


 俺は悪くない。俺は悪くないんだ。



「これ何回目ですか? 本当に我慢の限界なんですけど」


「ごめんなさいもうしません」


「それも何回も聞きました。

 分かりました私もう出ていきます。今までありがとうございました。さようなら」


 そう言って立ち上がったシャーラに俺は半泣きでしがみついた。


「ごめん! マジでごめんって!」





 確かに。

 確かに、浮気した俺は悪いよ?


 でもね、魔神や魔王を倒した俺は英雄な訳でして、それはもうモテるモテる。

 金も結構あるせいで女が色んな方向からやってくるんですわ。

 シャーラはよく一人で図書館に行ったりする。場合によれば一日中帰ってこなかったりする。

 でも邪魔するのは悪いからそんな時俺は家でじっとしてるんだ。

 もちろん寂しいよ。


 そこで家のドアがノックされてみ?

 フフ、もうね。


 勘違いしないで欲しい。流石の俺も手は出さない。

 ちょっとその娘とデートしたりするだけだ。

 シャーラ一筋だからな俺は。ちょっと他の女の子と遊んだだけで、シャーラが浮気って言って怒ってくるだけだ。

 さすがに束縛激しいね。嬉しいけど。



 そして、俺の浮気がことごとくバレるのは、二年ちょっと前の全世界に発信した告白に起因していた。

 アレのせいでシャーラと俺は本にもなったりして、俺が浮気なんかしたりしたら目撃者がすぐにチクりやがる。

 気の迷いで娼館に足を踏み入れた時なんかは、娼婦がシャーラを呼び出しやがったのだ。


 娼館で嫁にこっぴどく叱られて、深夜の住民に晒し物にされた俺の気持ちが分かるだろうか。


 俺はシャーラの腰にしがみついて離れない。

 本当に3日くらいいなくなった時は地獄レベルの絶望を味わったのだ。世界中探し回っても見つからない。

 そしたら友達の家にいたというオチ。


 今度は3日じゃ機嫌が直らないかもしれない!

 そう思った俺はシャーラを離さない。

 すごいダサい光景になっていることだろう。



「……っ! 離してください……!

 私も他の人の所に行ってやるんです……!」


「それだけはやめてくれ! マジで!」


「私と同じ気持ちを味わってください……!」



 シャーラは身体強化まで使って家の外に出ようとした。

 一瞬引きずられた俺は、踏ん張ってなんとか引き戻す。


 こうなったら……!


 らちが明かないので、俺はシャーラをお姫様抱っこして、そのままベッドに押し倒した。

 そして、そのままくすぐりの刑に処す。

 シャーラの笑い声が部屋に響く。


「くふっ……フフッフ……、キャハハハハハハ!」


「許す? 許す?」


 俺は少しくすぐりを弱めて問うた。 


「ゆ、許しまふ……!」


 らしいそうなので、俺はくすぐりを止めてシャーラを抱き起こす。

 息切れしてぐったりとしていたシャーラだったが、いきなり俺にビンタを食らわせた。

 そしてベッドから降りて、俺を睨む。

 ああ、これは許してくれてないななんて考えていると、いきなりシャーラの顔が歪んで、目に涙が溜まった。


 やばい……! 泣く……!


 そう思った時にはもう遅い。

 シャーラは泣き出してしまった。


「……レイヤが悪いのに……、なんでこんなことするんですかぁ……」


 泣き出したシャーラは涙を袖で拭きながら家の玄関へ向かっていく。

 なぜかトトロが見たくなったのはさておいて、俺は今度もシャーラを引き止めた。

 ベッドに連れ戻すと、振り向きざまにキスをする。


「ん……」


 涙の味がした。


 最初はそれに抵抗したシャーラだったが、いつのまにか俺の首に手を回して、舌を絡ませてきている。

 シャーラの目はだんだんととろーんとしてきた。

 どうでもいいことだが、シャーラはキスをするとき目を閉じない派なのだ。


 そしてどうやら俺はシャーラのスイッチをいれてしまったらしい。

 いやらしい音が部屋に響き、シャーラは俺の服を脱がしていった。




 その日、俺達は仲直りのセックスをした。



ーーー



 さて、あれからの話をしよう。

 ブルーダインは海に戻り、遺跡から連れ出されたリンガーデムも海で暮らすことになった。

 エクスカリバーはブルーダインが回収した。


 ブリッジゲート達も、負傷した竜は多くとも、死者は出なかったらしいので俺はその時すごく安堵した覚えがある。

 海底神殿にも竜の里にもよく遊びに行く。

 セラは着々と成長していって、もう幼女とは言えなくなっていた。


 後は……ラインか。

 あいつとはあれ以降会っていない。会えば勿論俺はあいつを殺しかねないし、今でも許せるとは思えないからだ。

 ラインもそれが分かっているのか、連絡をよこしてこない。

 ただ、風の噂によるとラインは奴隷開放運動を行っているらしかった。


 金髪は学校の教師に戻って、街でたまに会う。

 その時は教師にならないかとよく誘われるのだが、全て断っている。

 シャーラがうるさいからな。

 俺自体あんまりやる気がないというのも正しい。


 他にも色々波乱はあったのだが、この際それはもういい。

 ただ、一国を滅ぼした事実は消えていないので、俺はその責任を問われたこともあった。

 なんとかしたけどね。


 でもまあ、俺は今幸せだ。

 普通に友達もいるし、嫁までできた。

 毎日退屈していない。


 そういえば創造は使えなくなった。

 完全にこんにゃくしか出なくなったのだ。身体能力はそのままだ。

 多分、神様の仕業だろう。

 俺が勝手に転生したことは目を瞑ってやるということだろうか。



 心残りといえば、ティルフィングを地獄に残したことだ。

 あいつなら鬼なんて蹴散らしてそうだが(現に蹴散らしていたが)それでも地獄は地獄。

 そしてこんなことを考える俺を知ったらティルフィングは怒るだろう。

 俺が死んだらまた地獄で会おうなんて思ってる。



「そろそろ行きますよ」


 シャーラの声が玄関から聞こえた。

 今日もまたピクニックだ。どこに行くかは決めてない。

 なんていうか、俺達は旅に恋をしてしまっているのかもしれない。


 俺はシャーラに返事すると、急いで着替えた。

 そして玄関へ向かう。


「あ、テーブルの上のお弁当とってきてください」


「了解!」


 一度バックしてシャーラのお手製弁当を掴む。


「じゃあ行きましょう」


 靴を履くと俺は差し伸べられた手をとった。


「今日はどこいくよ?」


「レイヤに任せます」


「またそれかよ」




 俺たちの旅はまだまだ続く。



転生!異世界より愛をこめて


完結


ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

この後に続く物語は、本編から八年経過したお話となります。


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― 新着の感想 ―
久しぶりに読みたくなって一気見してきました。何度読んでもほんとにおもしろいです。初めて読んだのが高校生であれから八年ぐらい経ったのかと思うと早いもんです。また読みに来ます。
久しぶりに帰ってきました。幸せなレイヤが見れるこの後も結構好きだったので、続きが消えていたのは少し残念でした。それでも読んでいる時の爽快感と悲しさ、面白さに変わりはなく、やっぱり好きな話だなと再認識し…
[良い点] すごく好きな作品でした。八章で泣かない人いないんじゃないかな。 [気になる点] 続きをぉぉぉ、、、読ませてくださぁぁい、!!!
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