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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第十章 『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』
87/126

読者は大半固定観念で読んでいる

 西の古書店『おべりすく』の最後の良心とも言える長身のイケメン、バストは支給されているタブレットを取り出して話をしようとすると……

 

「あっ! もうこんな時間。いいところなのに帰らないと……私、家で同じお話よんでおくので、今度お話ししてくださいね!」

 

 時間は夕方は18時を回ったところ、ナツキは家の躾が厳しいのか、お茶のお礼を言って足速に古書店『おべりすく』から去っていった。二人っきりになってしまった。

 セシャトさんとバスト。普段中々二人になる事はない。お互い見つめ合い。バストは笑う。

 

「さっきの学生のお嬢さんいねーので、ビール飲んでいいすか?」

「どうぞどうぞ! 私も、甘いココアでもいただきましょうか!」

 

 古書店『おべりすく』にココアを好んで飲む従業員はいない。神様の為に森永のミルクココアが常備されているのである。最もポピュラーなそれを濃いめに淹れると冷蔵庫からビールを持って戻ってくるバストを待った。

 

「バストさんが自らお酒を飲まれるのって珍しいですね?」

「そうでもねーんすよ。休みの日とかは用事がなければ昼間から海外ドラマを見てビール飲んでる事もあるんすよ。こうしてまったりWeb小説読む事も多いすかね?『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』読まれてるんすよね?」

 

 バストは片手でプルトップを開けると一口飲んでスマホを取り出した。


「じゃあ、セシャトさん。第四話の『花瓶』のお話をする前に、この作品。固有名が全く出てこねーんですよね。これは昔からよく使われている手法ではあるんすよね。情報を減らす事で必要なインプットを絞る事ができるんすよね」

「ふむふむ。特に短編である事のシナジーが強いという事でしょうか」


 役職を振り分けるといえばいいだろう。“私“は“私“という役職を持っており、読者の視点と追随する。そして“男性“は“男性“という“私“に縁があった人物という認識付けができればそれでいい。事、日本人はほぼ全ての人が学生時代を過ごしたであろうから、各種情景は勝手に想像してくれる。屋上一つとっても描写が一切ない。踊り場のような場所なのか、ロータリーのようなところから続く屋上なのか、それとも一般的に立ち入り禁止区域となる階段から続くそれなのか、経験した情景を思い浮かべているだろう。

 そして他のキャラクター全員がモブどころから舞台装置程度の役割でしかない。読ませたい部分を微妙に隠そうとするが故に説明がすぎる文章とも言えるのかもしれない。


「花瓶というタイトルからして、不穏な空気しか感じねーんですよ」

「はて、そうなんですか?」

「えぇ、そうなんすよ。学校、机、花瓶ときたらイジメか、死去の二択っす」


 セシャトは学校に通ったことがないが、描写としてバストの言うそれをなんとなく理解する。


「“私“の説明からするに、どうやら、“男性“が“私“とコミュニケーションを取れるのは、屋上に限るという事なんですよね? これってどういう常態なんでしょう?」

「所謂、地縛霊という物じゃねーですか?」

「むむっ、しかし“私“は校内をうろうろされていますか?」


 さて、当方が勝手に地縛霊ではないか? と仮定しているだけだが、これが地縛霊的な存在であれば実に面白い表現であると言える。そもそも、地縛霊という物は生きている人間が勝手に創造した物に過ぎず、その場に止まるという設定があるが、その場にいる時だけ見えるのであれば案外合点がいくのだ。


「想いや思念的な物が残ってその場にいるとよく言われますが、余程思い入れがない場所に止まるとは自分は思えねーんですよね。例えば自殺。全然知らない場所にその人の思い入れがあると思うっすか?」

 

 哲学的な話になるが、一つの場所を思い出して欲しい。自分の家だったり、学校だったり、会社だったり、普段過ごしている場所だろう。それが想いの強さであり、地縛霊の出現場所が想いの強さであればそういう場所だろう。故に、“私“は“屋上“においては現実世界に干渉しうる想いの強さがあるのだろう。そして現実世界サイドからしたら、“私“は地縛霊的な存在として認識される。が、現実世界に干渉できなかったとしても“私“仮定地縛霊が、移動できないのかどうか? 移動できない! と断言できる人はいないだろう。何故なら見た事がないから。ちなみに当方の師匠ちゃんという男性曰く、霊感はなんらかの精神疾患か虚言癖で存在せず。それを生業にしている人は歴史上もほぼ詐欺師であると述べる。

 

「師匠ちゃんさん、辛辣ですねぇ……私はそういうファンタジックやオカルティックな世界があってもいいと思いますが……」

「これがオカルト否定派の師匠ちゃんでも、超心理学の方面ではオカルトを認めているんすよ。実際に日本でも無罪になった霊感裁判が存在するっすからね」


 結果としては一名は詐欺師の別件余罪で逮捕され、一名は無罪になるも自殺してしまうのだが、完全にオカルトは存在しないとは言い難い。

 それ故、本作の“私“の解釈は実に面白いのである。1.5人称的な扱いを受ける事になる。

 

「私は当初、“男性“と“ヘッドフォン“という二つの条件が、“私“に干渉する為のアイテムなのかと思っていましたが、“男性“が無視しているようには思えませんので、ここは単純に見えていないと認識した方がしっくりきますね」

 

 お化けなんてないさ! 

 お化けなんてうそさ!

 と言ってしまえばそれで議論は終わってしまう幼稚な宣言となるので、当方は少し“私“の造形からお化けという物を考察していきたいと思う。先ほど、師匠ちゃんというオカルト否定派のお話をしたが、次はアヌさんというどうもオカルト体質の人物の話をしよう。

 伏見稲荷で警備員の姿をした何者かに騙され、稲荷山ではなく、別の山間部に迷い込ませられたり、セシャトさん達とお茶をしていた人物の内の一人と、電車の中で一緒になって数駅世間話をして別れたなど、不可解な発言が多い。

 

 それらを全て嘘やなんらかの偶然で片付けるよりも事実だったとしたらの証明を立ててみる場合。

 

「セシャトさんのいう通り、なんらかの条件が揃った時、“私“は“男性“あるいは、現実に生きている人に干渉ができるのかもしれねーんすよ。これは……もし、もしもの話をしたらなんすけどね。死とは終わりではないという証明になり得るんすよ」

 

 そしてリアリスト、師匠ちゃんもこれに関しては肯定した。というか死は終わりではなく還元であり円環であるという考えの元であるが……

 

「おやおや、とても荘厳なお話になってきましたねぇ……“私“かはまだ明言されていませんが、ほぼ確実に“私“の机に新しい水を入れた花瓶を置かれてしまいましたねぇ……丁寧な対応からして、イジメではないんでしょうね」

 

 100%ないとは言い切れないが、ご丁寧に毎回水を変えてイジメとして花瓶を置いていれば相当なサイコパスであろう。やはりここは素直に、死去した方の為に行われている崇高な形式である。

 

「自分はこの女子生徒二人の描写が結構好きなんすよ」

「物語の接続部程度の役割の描写ですが、言わんとしている事はわかりますよぉ!」

 

 これは、そこまで考えて行なっているかは分からないが、とても優しい描写と言える。そしてこれが何にも考えていないのであれば作者さんもとても優しい心も持ち主だろう。

 

「はっきり言って、こういうの面倒臭いんすよね。特に学生ベースで考えると、ほとんど学生は行わないので先生がやむなし行なってたりするんすよ」

 

 無償の愛はなかなか受け入れがない。余程の関係性でない限り、意外とこういうのは放置されやすい。なんなら身内ベースでも行わない人だっている。それ故に、この女子生徒達の行動が非常に尊く優しく感じる。そして、死去したであろう“私“について思いを馳せる。

 なんなら、本作の言いたい事や伝えたい事を読み取る上で、一つの隠れ名シーンとも言える。

 

「そ、そこまでですかぁ? バストさんはなんだか不思議な読まれ方をしますねぇ」

「心情を読み取るというのはとても難しいっすよ。だから、自分の知っている世界観と常識を照らし合わせて読み取ると、このシーンは中々っすよ」

 

 栓抜きを取り出して、二本目のハイネケンの王冠をシュポっと外す。そしてグラスを用意してビールを注ぐバストさん。綺麗に泡を3cmに止めると付近で瓶の口を拭く。セシャトは神様とダンタリアンがビールを飲む姿を何度か見たが、こんなに上品にそれらを飲んでいる様子を見たことがないので、口にした。

 

「ビールという飲み物ですが、私の中では非常にジャンクで粗暴な飲み物というイメージがあったのですが、飲む方でイメージも変わるのですねぇ。私にとってはこのシーンはとても普通の当たり前のように感じて読んでいましたよぅ!」

 

 大体の人はそうかもしれない。水なんて変えて当たり前だろうと、よく考えみると本作の固有名詞や時間、時代、あらゆる物が排除された物語の中では、読者一人一人がどこか固定観念で描写を完結させて読んでいる事が多いだろう。

 本作は素直なので、そんな事はないのだろうが、花瓶というタイトル一つとっても、学校・机・花瓶ときたらバストが語ったように、イジメか死去しか考えられない。少し話はズレるが、この固定観念に紐づけてどんでん返しのテクニックをすると、大体の人が驚き歓喜する。

 

「さて! じゃあセシャトさん。そろそろ行きましょうか?」

「むむっ! お夕飯のお時間ですか?」

「えぇ、ウチ『おべりすく』の歓迎会はシア姉さんの奢りで焼肉って相場が決まってるっすからね! 今から行くところはセシャトさんの好きなスイーツも絶品っすよ」

「それは楽しみですねぇ! では続きは『おべりすく』の皆さんとご一緒に!」

 

 セシャトは鞄を持ってカーディガンを羽織ると、バストと共に古書店『おべりすく』を後にした。その時、帰った筈の少女・ナツキの姿。

 

「こんばんわ! 聞きたい事があるんです」

『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』何度読んでも余韻を残す物語ですね。当初、泣ける物語りとして本作を選ばしていただきましたが、泣けるというよりは決意する物語なんでしょうか? うん、“私“は子供ではないですが、大人でもありません。そんな私の事を考えると、共感してしまう部分と、どうして? という部分と少し考えてしまいますねぇ。ではまた次回、お会いしましょうね!

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