来客と読者共感型主人公と
「こんにちわ! 少しお聞きしていいですか?」
元気よくやってきたのは女子中学生? 冬休みにしてはまだ早いか? セシャトは、普段の神保町の古書店『ふしぎのくに』のお出迎えの挨拶。左手を軽く胸に、右手を軽く前にして「いらっしゃいま……」
「セシャトさんここはちゃうで! 前で軽く両手を握ってお辞儀や」
西の古書店『おべりすく』の作法を指摘され、セシャトはたははと笑ってやり直す。
「いらっしゃいませ! 古書店『おべりすく』へようこそ! 何かお伺いしたい事とは?」
「この顔と同じ顔の女の子がお店にやってきたりしませんでしたか?」
「…………ふふふのふ。双子のお姉さんか妹さんですか?」
「じゃなくて! 質問は、この顔と同じ女の子がやってきたかって事なんです」
セシャトは、何か東京では行われない、西日本特有のジョークなのかとシアの方を見ると、
「お嬢ちゃん、頭大丈夫か?」
「シアさん! お客様ですよぅ!」
「いや、意味分からへんやん」
シアの辛辣な対応だったが、少女は二人の反応から同じ顔の少女はやってこなかったと理解して頷いた。
「来なかったら大丈夫です。お忙しい時に失礼しました!」
少女は去っていく、なんだったんだろう? そう思った時、店内の鈴が鳴るチリンリンと……そして、入店してきたのは……。
「こんにちわ! うわぁ、こんなところに古本屋さんあったんだ!」
先ほど、二人を困惑させた少女が再び入店し、そう言った。セシャトとシアは顔を見合わせ、そして両手を前に、
「「いらっしゃいませ! 古書店『おべりすく』へようこそ!」」
このお客様は普通のお客さんじゃないのだろう。二人はそんな来客をごまんと対応してきた。頭を切り替えて、驚く事もなく接客開始。
「お客さん、なんか探している本とかあるん? 良かったら伺うよ? 本日はウチだけじゃなくて、この本と甘味の妖怪、セシャトさんもおるからなぁ」
「あらあら、ナチュラルにディスられてますが……でもなんでも仰ってくださいねぇ!」
二人に少女は笑顔で質問する。
「少し前に実写映画化して、その後にアニメ化した、原作が古い作品なんですけど」
「さて、キミスイ、カラフル、河童のクゥ辺りでしょうか?」
「ちゃうやろ! この辺りの子やったら。ジョゼと虎と魚たちちゃうか? で? お客さん。答えはなんや? 本好きの顔しとる子がタイトル分からへん事ないやろ?」
「正解は眉村卓先生の、“狙われた学園“でーす! 店員さん達、すごい可愛いのに、物知りですね! 図書室の本もぜーんぶ読んじゃって、何か面白い物語とか教えてくれませんか?」
さて、この少女に紹介する物語。この小さな古書店『おべりすく』にある蔵書はほぼ全て彼女クラスになると読んだ事があるのだろう。
そうなれば、シアは母屋に親指を向ける。
「ほな、中でお話しよか? セシャトさん、店番頼むわ」
「はい! かしこまりましたよぅ! 私もカウンターでタブレットで楽しませてもらいますね」
少女を母屋に案内すると、シアはオレンジジュースとチェリオのメロンソーダを少女に見せてオレンジジュースを所望するのでそれをグラスに入れてトンと置いた。
「ウチはこの店の店主、シアや! 店内におるのは東京の本店の店主セシャトさんな。で、お客さんは?」
「私はー、今はえっと……ヒイ ナツキ、ナツキでよろしくお願いします!」
「ナツキちゃんやな? うん、じゃあナツキちゃんにお話するのは『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』」
「知らない作品と作家ですね」
「Webの海に漂っとる作品の一つやな。まぁ、聞いていきーや」
「ふーん、“私“は何かを喪失しているんですね。男性の行動と言動から、“私“を色んな意味で認識しているのに、確実に“私“は死んでしまったか、あるいは進行形の存在ではないという事みたいですね」
ほぼ間違いなく第二話をして、“私“は死んでいると認識できるだろう。無理に多方面に深読みすれば、全てのワードをそういう風に仕向けているととれなくもないが、物語進行上おそらくそれは意味がない。
「うん、せやね。留まるなという言葉で死んでいるか死んでないかは別として、“私“は現在からは否定を受けているのは間違いないわな? で、ナツキちゃんはどない読むんや?」
頬杖をつきながら、シアは青い髪であそびながらそう言ってナツキを見つめる。どんな返答をするのか、ナツキが選ばなかったチェリオのメロンソーダを一口飲んで待つ。
「まぁそうですね。この物語は過程を楽しむタイプの作品ですね。グレーな表現を使って“私“の消失をできる限り先延ばしにしながら、“私“が今に至るまでを物語るの展開し、どうこの過程を楽しむ物語を締めくくるのかを予想するのが楽しみ方ですかね?」
これはナツキ氏、及び当方の一般的な本作の楽しみ方のルートの一つであろうと思われる。セシャトさんやその他、本の虫になってくると、それらの源流を考察したり、キャラクターの心情を考え語る。
シナツキが物語を正直に受け止め、読める読者である事にシアは優しく微笑みながら話ね続きを聞いた。
「“私“は認識してくれた男性に対して、怒り、喜び、やっぱり怒ってますね。感情表現が豊かな主人公ですよね。これは読者共感型の主人公ということでいいですか?」
「せやね。読者が自己投影するタイプの主人公にはなりえへんわな。ナツキちゃんの考察やと死んでもうてるわけやから。人間は面白い事に幸より不幸の方が共感しやすいねん。まぁあれやな。汚い話やけど、安心を感じる為に自分より不幸を探すんやな。“私“はようやく自分を認識してくれる人に出会ったけど、どうもあまり歓迎はされてへん、生きてれば理不尽な事の一つや二つはあるから、この主人公“私“は多くの読者に、頑張れ! さぁどうなると嫌われにくい造形のパターンになるんかな?」
「なんか急に少女漫画みたいな展開になりましたね」
「陰鬱としたまま物語進み続けたら、一部には人気が出るやろうけど、比較的に嫌悪されるからな。こんくらいフランクな方がええんちゃう?」
第一話のなんとも言えない空気感はこれから始まる謎とその答え合わせに身構えるような感覚を覚えた読者も少なくはないだろうが、第二話“本心“は別作品かという空気感に変わる。正確にプロットを見たわけではないので予想の範疇でしかないのだが……。
「この作品、全体を読んだ後に自分でプロットを作って展開していくと、一話ずつ完結させてる感じやねんな。ちょっと強引な部分も見て取れるねん。本来は全ての話で一話やったんかもしれへんね」
「それは不思議ですね。シアさんの考え方にメリットはありますか?」
「せやね。完成系の小説としてはないわな。でもWeb小説はまたちょっとちゃうねん」
「是非、教えてください! 興味深いです」
シアと同じく悪戯っぽい顔で笑うナツキ。小説もWeb小説も完成させる事が一番大事である事は変わりないのだが、Web小説は作品完成度以外にアクセスを稼ぐ必要がある。それ即ち読者母数を増やす為なので、細かく話数を公開した方が閲覧確率が飛躍的に上がる。
「そういう文学もあるんですね。私はインターネット上に公開されている作品は読まないので、知りませんでした」
「本作全体で読めば一話で『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』でも全然面白いんやろうけど、この作品の中の“本心“として“私“の目的が一つ見つかったわけやん? これが公開されていた次期やと、次の話はないから次への期待へと繋がるわけやな? 一概には言われへんけど、Web小説が水もん、生きてるって言われる所以やな、普通の小説とちゃうところがここやねん、連載時がその作品の一番の花であり、黄昏やねん。だから、全話が公開されている状態で読むウチ等と当時の連載時の読者の気持ちは多分ちゃうねん。だから、ウチはこの話は一話をしっかりと読んでもらって擬似的に連載時の気持ちになってもらおかなって思うねんな、どない? まだ次のページ読んだらあかんで!」
「あぅ……」
本の虫であるナツキはおあずけを喰らう。読みたいのに読めないこのストレス。連載時とはどうしてもライブ感が劣るが……
「シ、シアさん、読みたいです……」
「素直で結構や! 読書以外もそうやねんけどな? ある程度ストレスがあってより楽しめるんや! 不思議な事に、ナツキちゃんと同じでこの作品の次の話が読みたくて読みたくてうずうずしている子が、外で仕事してるから、次は東の古書店『ふしぎのくに』のセシャトさんと第三話を楽しんでみたらええよ! でもセシャトさんの事やからウッカリ一緒に最後まで読んでまうかも知れへんから、そこはきつく言っとかなあかんな! ほな、セシャトさん読んでくるから! ジュースとお菓子でも食べていい子にしとき!」
ナツキはこのシアは何歳くらいなのか? 自分と変わらないようで、落ち着き方は年配のようで……もっとこのシアと一緒に物語を読んでいたいなというのが正直な気持ちだったが、
「は、はーい!」
ジュースやお菓子よりも……物語の続きを……と思った時、ひょこっと顔を出したシア。
「先に読んだらあかんで?」
「はひっ……!」
和服美人シアは妙な凄みを持って念を押した。とんでもないところに来てしまったなぁと思っていると、次に顔を出したのは、店番をしていた褐色に綺麗な銀髪のおっとりとした女性。
「ふふふのふ! 初めまして! ナツキさん。私、セシャトと申しますよぅ! カウンターをシアさんに変わっていただきましたので! 私が次はテラーとして本作をおつきあいさせていただければと存じます!」
出るわ出るわ! 棚から和菓子を中心に果物など甘いものが、パンドラボックスから飛び出したかのようにテーブルに並べられ、このおっとり美女セシャトさんは、コーヒーなんかを鼻歌混じりに淹れている。
「やっぱり、とんでもないところに来ちゃった」
『星空な瞳 〜願いの込められたヘッドホン〜 著・桜桃』一万文字に満たない短編の為、全て読まれた方も多いんじゃないでしょうか? 本作ミーティング時、私達はこちらのお話をベースにプロットを作り上流から下流に読んで行き物語の理解を深めてみました。実は他作品紹介時にも行われているのですが長編などですと中々全体像は朧げですが、短編やSSなどは非常に分かりみが深くなりますよぅ!
それを踏まえて今一度、"私"の心情を追いかけてみては如何でしょうか?




