表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第九章 絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ
76/126

ふしぎのくにの棚卸しと、初心の気持ちと

 我らがマフデトさんは猫のイラストが入ったシャーペンをくるくると回しながらこう呟いた。


「数学の宿題もこれで終わりなのです。さてと棚卸しの時間なのですよ」


 古書店『ふしぎのくに』開店時間は大体午前十時。マフデトさんは着ぐるみパジャマを脱ぎ捨てて、普段の仕事用の制服に袖を伸ばす。鏡を見て頭の王冠の位置をしっかりと確認。


「よし、これで今日も完璧なのですよ。コロナの影響で北海道と沖縄の二人が全然こねーので仕事も宿題も捗るのですよ」


 服を着替えてお店に出ると、そこにはマフデトと同じ銀色の髪に、肌はマフデトと違って褐色の美女がキチンとしたスーツタイプの制服を着て古本にはたきをかけていた。


「あらあら、おはようございます! マフデト兄様」

「おはようございますなのですよ! セシャト姉様」


 店主が二人揃っての店にいるという事。実は珍しいのである。

 積まれた段ボールの束、そう半年の一回の棚卸しなのだ。


「かなりせどりの連中に価値のある本は持っていかれたのですね」

「あらあら、まぁそれも売上げですからね! 絵本の補充と海外作家さんの本の入れ替えからお願いできますか? 私はWeb小説からの書籍化シリーズの方を並べていきます」


 セシャト、マフデトは作業を開始する。書物に関わる事が心より大好きな二人にとって、それが小説だろうと詩吟の本だろうと楽しい時間以外の何者でもない。


「マフデト兄様、何か最近読まれているWeb小説はございますかぁ?」


 ほとんど価値のない古本を扱う古書店『ふしぎのくに』。だがこの棚卸後は日の目を見なかったお宝本が出現する事もあり、古本せどりを行う人たちで賑わう事になる。

 入場料代わりに入店すると数冊価値のない本を買っていくのが暗黙の了解となっている。マフデトはスマホで価値のある本を見つけると、次回の棚卸用のダンボール箱にそっとしまった。


「そうなのですね。最近私が読んでいる作品は『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』などですね」

「おや、それはどんなお話でしょうか?」


 マフデトは少し閉口する。

 セシャトが知らないハズないのである。ほぼありとあらゆるWeb小説を網羅している彼女がそう言うという事は、これはテラーとしての予行練習なのだ。


「食えねぇやつなのですよ! セシャト姉様。本作は要するに、魔法と科学のそれぞれ発達した二つの世界とその狭間と呼ばれた場所に展開する“箱庭“という場所、蜃気楼みたいなものなのですね! そこを目指すもたどり着けるのか? そもそも辿り着けたとしてそこが理想郷なのか? 掴みとしては、どこにでもありそうな物語で、基本的に読み手をあまり選ばない分かり易い物なのですよ!」

 

 マフデトが嬉しそうにそう語るので、セシャトはふふふのふと笑いながら、倉庫にしまっていた本を蒸し干しする。

 そしてマフデトにこういった。


「それだけじゃないんですよね? マフデト兄様が興味を持たれるという事は何か他にも要素があるんじゃないですか?」


 アルファベット順に海外作家の本を綺麗に四隅を拭いて並べながら、マフデトは思い出したかのようにセシャトに答えた。


「産声を上げた作品というのも私が紹介してー要素なのです! もうセシャト姉様にはなんでもお見通しなのですよ! 本作は更新頻度は決して高くねーのですよ。Web小説としては致命的な更新頻度と言えるかもしれねーですよ」


 そう、Web小説が他媒体の小説と決定的に違う部分はフレッシュさ、要するにライブ感である。どうしても更新頻度を上げないと、何なら毎日更新するくらいじゃないとすぐにあぶれてしまう事も少なくはない。


「あらあら! マフデト兄様はそんな作品を応援したいと思われたという事ですね!」

「まぁ、大体そうなのですよ。執筆速度が早い作品が良作か? というと何とも言えねーですけど、星の数ほど作品数がある中ではそれも要素の一つになっちまってる事は仕方ねーのですよ! なら、私はそんな中で色々試行錯誤して頑張って面白れー物を作って届けようとしている作品を応援したくなるのですよ!」


 Web小説において最大の敵は何か? 

 批判する読者か? 

 いや違う。エタる事である。何で自分はそれを書いているのか? そもそもこれは面白いのか? など考え出すと作品から心が離れていく、連載を繰り返し、反応がなければ辛い事もあるだろう。


「せっかく面白そうな物語が産声を上げたのですよ! なら、それを見守りたくなるのが私やセシャト姉様じゃねーですか?」

 

 ほぼ同じ感性を持ったマフデトとセシャトは、お互い見つめ合って笑い合う。

 Web小説が大好きである。だからこそ、本作を読んでいて感じる魅力があるのだ。


「慣れのない、作品づくりの魅力がこの作品からは感じられますねぇ!」

「そうなのですよ。どうしても作品作りが上手くなってくると、この読ませたい! という感性って失われるのですよね」


 本作を月刊紹介に選ばせてもらった理由の大きな一つがこれであった。数年作品紹介をしていると、皆々様の創作テクニックや着目点など様々面白い作品も、何なら技術的には読ませてくれるなぁという物もあったのだが、本作ほど強く楽しく書いているんだな、この作品は面白いから読んで! 

 という魅力を文面から、作風から感じられる物が少なくなった。本作は正直荒削りな部分も多いかもしれないが、読んでいて、非常に気持ちがいい。

 この物語はきっと、何か大きな起点から悲しいことや、居た堪れない事が起きるのかな? と分かりやすくも次行ってみようかと読んでみようとかと思えるのだ。


「まだまだ読ませる文章ではねーのですよね。これからの期待をさせてくれる文章なのですよ」


 なるほどとセシャトは、マフデトの言う物語を創作するフレッシュさを感じながら第一話を読んで「ふむ」と頷く。


「1話の分量がかなり少ないですねぇ。ショートショートの分量くらいかもしれません」


 Web小説の1話の分量に規定があるわけではない。

 とある有名な作品は短編と言いながら一話で文庫本一冊くらいの分量を掲載した作品もあった。

 逆に本作は随分少ない。

 Web小説の一般的な文字数は2000文字から10000文字ほどで、中間値は4000文字ほどだと思われる。


「平均して1000文字くらいなのですよ! 読み始めると物語の内容に入ったところで1話が終わるのです。ここも私がおもしれぇと思ったポイントなのですよ! 正直、分量は私やセシャト姉様みたいな本の虫からすれば物足りねーのです。でも……」

「ふふふのふ、続きが読みたくなりますねぇ! これは次のお話を読みたくなるアプローチ……というテクニックではなく、作者さんがここまでをしっかり読んで欲しいという意味合いがあるんでしょうね。確かに、読み応えでいえば、もう少し1話の分量が多い方が! と思われがちですが、文字数が多くなると、その分不要な会話や描写も増えがちになりますから、マフデト兄様が仰る意味はよく分かりますよ!」


 最近のWeb小説のベースに一石を投じる作品であるとマフデトは言いたいのだ。そして当然物語についてもマフデトは話す。


「本作の表紙で自死をしようとしている女の子、それを夢なのか主人公の冬夜は見るわけなのですよ。そして、創造主を名乗る男との出会い。ざっくりと、冬夜は非日常へと足を踏み入れたわけなのです」


 さぁ、続きを読もうか! そう思った二人、そこにからがらんと客が入る。本日は棚卸しの為、閉店プレートを立てていたハズなのだが……


「邪魔するよ」

「あらあら、申し訳ございません。本日は当店はお休みなんですが、あら? ダンタリアンさん……ではないですね」


 マフデトは本をアルコールで拭きながら横目にこう言った。


「そいつ、バッカスってやつなのですよ」


 桃色の髪にマッシュショート、上品な立ち振る舞い。バーテンダーのユニフォームを着た彼女はマフデトにウィンクする。それに舌打ちするとマフデトはこういった。


「テメェ! 何しにきやがってですか? ご丁寧にマスクまでしやがって! とりあえず入口のアルコールで消毒しやがれなのですよ!」

「なるほど、それは悪かったね。とても楽しそうな物語を読む風味がしたからふらっと立ち寄ってしまったよ。古い本をメンテナンスして店頭に出すのかい? なんなら手伝おう。そして、君達の話していた物語を教えてもらおうか?」


 セシャトは自分の持ち場を終わらせると、胸に手を当てて微笑んだ。


「大丈夫ですよぅ! そろそろ、私たちもお茶の時間にしようと思っていたところですねぇ! さぁ! マフデト兄様、きりの良いところで手を止めて、母屋でお茶をしながら『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』のお話をしましょうか!」


 作品名を聞いた時にバッカスは小さく頷く。スマホを取り出し本作を少し眺める。そしてセシャトにバッカスは尋ねる。


「この作品は……そうだね! ライトボディの赤が合いそうだ。確か、ダンタリアンのワインセラーに何かあっただろう?」


 セシャトは慌てる。ダンタリアンが迷惑にも勝手に母家の奥に設置した小型のワインセラーに入っているワインを勝手にバッカスは漁り出した。


「モンテリあるじゃないか、うん。これを飲もうか? 君たちもどう?」


 未成年にお酒を誘ってはいけない。飲んだ方も飲ました方も問題である。そして当然、セシャトにマフデトは断る。


「ふふふのふ! 私、まだ今年で四歳ですからねぇ」

「私もなのですよ! 四歳に酒飲ましたら犯罪なのです」


 母家のバーカウンターでバッカスはダンタリアン秘蔵の赤ワインに勝手に花を咲かせた。流れるようにグラスに注ぎ、その香りを楽しむ。

 マフデトは牛乳、セシャトはコーヒー。三人の付け合わせはデーツのドライフルーツ。


「さて! じゃあ、この物語のどこかに救いがあるのか? 私たちの知らない道の世界の中にあるさらに未知の探訪の為、読み進めようか!」


 バッカスがグラスを掲げるので、マフデトは牛乳のコップを、セシャトはコーヒーカップをチンと鳴らす。

 摩訶不思議な作品の、今年最初になる読み語りが始まった。

今年最初の作品は、当方もフレッシュな気持ちで2022年のご紹介を始める上で断然追いかけやすい本作をご紹介させていただきます。『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』学園異能物とざっくりお答えしますが、ここに少しばかりのミステリー要素も含まれているようです。本編にも記載させていただきましたが、初作のフレッシュさ! これはどこかご紹介をしている私たちも忘れていた部分があります。Web小説を書かれている方々も、懐かしい気持ちを思い出してくれるんじゃないでしょうか? 物語自信も大変、興味深い少しダークなテイストで、それでいて鬱々する程ではない、ライトノベルの体をしっかりと持っています。今月は『絶望の箱庭~鳥籠の姫君~ 著・神崎ライ』を楽しんでみませんか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ