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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
2021セシャトのWeb小説文庫小説文庫
69/126

第一話 『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』

実は当方、喪中という事で一月の紹介作品は行わず二月からになっています。一月は一月で何かしたいなとは思っておりますのでまた続報をお待ち下さい!

 プライムは足を組み、学校の椅子に座りながら、安物の駄菓子などを口に運び、三人の生徒をみつめる。

 

「じゃ、じゃあ。『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』の話をしようと思う。プライムはスマホとかタブレットはあるのか?」


 部長、満月さじがそう聞くとプライムは指を噛むと何やらブツブツと呟き、古めかしい本を取り出した。


 

「ほぉ、魔女の物語か……興味深い……許す。話すといい。それと女、牛乳はないのか?」

「あぁ? 冷蔵庫に入ってんだろ。自分で注いで飲めよ!」

「祖は自ら動く事はない、牛乳を入れる事を許す」

 一触即発になりそうなので起点を聞かせてミーシャが牛乳を牛のマークが入ったマグカップに注いで渡す。

「ミーシャーと言ったか、褒めて遣わす」

「それはどうも、物語の話ですが本作はよくある、人外や強力な力を持った人にひょんなことから拾われたりして物語が展開する巻き込まれ型のレールが引かれているタイプですね」


 本作は魔女、魔法という概念が存在するが、一点。異世界ではなく、文明が一度崩壊した後の地球の話であるという事。

 

「貴様ら、このカンザキという魔女、隻眼で隻腕であるという事。ここに関してはいかに考える? 人間風情がどう答えるのか少し興味がわいた」

 

 偉そうに牛乳を飲む姿は一周回って可愛くも思えてきた。流石の理穂子とさじも毒気が抜かれたので、各々に考えを語る。

 

「一応、主人公の一人であり、そしてヒロインにもなり得るカンザキ。体の欠損をしているというディスアドバンテージ以上に、タイトルに惹かれる物があるんじゃないか? まず、タイトルだけだと殆ど内容が入ってこないからな……昨今はタイトルで殆ど内容をカバーするような作品が多い所以かもだけど」


 さじがそう語るので、牛乳を一口飲んでプライムは頷く、そして理穂子を見るので、壊れた天才、茜ヶ崎理穂子は少し違う視点で語り出した。

 

「この物語を読んでいると、カンザキという存在へ意識が集中するようにできているだろ? 人間ってのは不思議な生き物なんだ。まぁ、一種のアクロトモフィリアってやつじゃないか?」

 

「欠損性愛思考の事か? 続けよ理穂子」

 

「テメェ、私を下の名前で……まぁいいや。ミロのヴィーナスあれが不変の美として評価されるのは、あの腕がないからだろ? まぁ、あれは瓶かなんか持ってるんだろうけど、カンザキは優しさの中にどこか儚さを感じるんだよ。それに、体の一部を失った事やリンフを異様に大事にするという事。何か彼女にはあるなと当然思わせる巧みな主人公像だって事だな」

 

 そこまで言って理穂子はチュッパチャップスを取り出すとそれを口の中に放り込んだ。

 満月さじは、独り言のように「ガンダムのラストシューティングも同じようなもんだな」と、興味を持ったらググってもらえればすぐに画像が出てくるだろう。アニメ史に残る表現の一つである。


「リンフという人間の子供、こやつが主人公の筈なのだが、いまいち影が薄く感じるのは、今まさに其方が語ったように、魔女カンザキへの印象操作がよくできているからという事だな」


 実際よくできているだろう。物語が進んだ後にリンフに焦点が当てられる時、彼の造形もまたどんどんクリアに見えてくる。それは単に仕掛け方が上手いからとも言える。


「背景の分かっている人間と、背景のいまいち分からない魔女の関係。魔女の方は段々と情報が増えてきて、人間の方は付加価値がついてくる。それは簡単なバブルチャートのように離れたところからゆくゆくは交差した時の感動を楽しめるよな」


 満月さじは黒板に簡単な表を書いて、評価点の高いカンザキと次点では大体の情報が最初に提示されたリンフの点を妥当な位置に決めて、話数が進むにつれて、リンフの魅力がどこに上昇するのか、逆にカンザキの魅力値が、どの程度下降するのかを示してみせる。


「貴様、人間の分際で月を名前に持つだけあるな。満月を掬うさじか、良い名だ。そして物語という形のない物を数値化、視覚化させるとは面白い。続けてよし!」


 当方、古書店『ふしぎのくに』において、物語の楽しみ方に関して当然情報量からブレインストーミングや資料を持ってしての話し合いの中、このようにグラフを使って魅力を数値化して割り出したりもする。

 逆に物語の展開を矢印を多用したロードマップのように分解する時などもある。一度、自身の作品を分解して分析しても面白いかもしれない。

 本作においては、リンフの成長と共に彼は魅力がどんどん大きくなる。

 

「リンフ君って、年齢の割にかなり大きいですよね。これもそのグラフの要素になりますか?」

 

 ミーシャがそう質問をすると、

 

「下郎黙れ」

「ミーシャ、黙れ」

「当たり前だろミーシャ、黙れよ」

 

 三人に同じようなことを言われ閉口するミーシャ。基本的に子供の成長速度は世界的にも同じくらいである。やはり10代前半で身長180cmはかなり大きい。成長期は長いと十九歳くらいまで続くとか考えてはいけない。

 これは何を意味しているのか……

 

「要するにあれだろ。カンザキにとってリンフが弟子や弟から、男として意識できるようになるんだろ? 知らないけどさ」


 自分で言って理穂子が少し照れる。


「五年、五年あればリンフは男児から男にもなるだろう。知らぬか? 男女七歳にして席を同じゅうせずとな。この物語、リンフが男になり、カンザキと別れ、そこからを本文と読む。実に長い序章であった。貴様らも書くのだろう? そうは思わぬか?」


 それに関して、メモ帳をパラパラとめくりミーシャがその質問に答える。ミーシャも勉強をしたのだ。プライムはもとより、頭の良すぎる先輩達と話をする為に彼なりに勉強をしてきたのだ。


「本作の会話率は30%を超えています。平均的ななろう系小説の会話率だと思われます。あらすじを読んでいただくとわかるように、ある種のヒューマンドラマ、そして終末後の世界に少年を魔女が拾った話となります。タイトルも必要以上に説明が入るわけじゃありません。主要キャラクターも実はそこまで多くないんです。プライムさん、代わりに少しだけ広く風呂敷を広げてあります。動かす演者が少ないからストレスなくできるのではないでしょうか?」


 ミーシャのその考察に対して、プライムは


「黙れ小僧!」


 そして先輩達。


「ミーシャ、黙ってろ」

「ミーシャ、概ね正解だな。菓子でも食って黙ってろよ。良い子にしてたら冷蔵庫に入ってる私のミルキーウェイを食わせてやんよ」

 

 黙った後にミーシャは少し考えて、そして考えるのをやめた。自分にはデータを分析して話すとか慣れないことはすべきではないなと、勝手に購入して設置した冷蔵庫からミルキーウェイを取り出して全員分の紅茶を淹れる事にした。


「この作品、ローファンタジーでありながら、SFの色も持つ、昔から存在しうる物だな」


 これらが得意だった作家を一人あげるとすれば、手塚治虫などがそうだろう。彼は病んでいたのか分からないが、とにかくペシミスト志向の作品が多い。

 芥川龍之介と違った部分があるとすれば、手塚治虫は我々現代の作家に似ている部分があったことだろう。


「人間は自分の性癖に従順だからな。作品とは自分を楽しませ、教訓する事に創作される事が多い。いや、あるいはそれが子供や、同じ集落の者どもの為、そしていつしか遠く離れた不特定多数の読者達、いつか一方通行だった物が両方向になるカオスな状態が現代だな。余としたことが、話がそれた。この作品が書き示したい物は希望、あるいは救いだ。現実を超える絶望は存在し得ないが、創作を超える希望もまた存在し得ない。いわば希望に関していえば、現実を超える事ができる」


 それは夢物語だからだと言ってしまえばそれで終わりかといえば、違う。そう夢物語を紡ぐ者が作家なのである。夢を見て、夢を見せてくれる物語。

 プライムが言う事は、カンザキへの……あるいは大きな意味ではこの作品の登場人物達への救い。その救いがどういうベクトルの矛先を向けているのかは分からない。隻眼隻腕の魔女を救う希望はたった一人の少年なのである。

 最初はカンザキという魔女に守られる存在だったリンフだが、カンザキは自分の後悔や贖罪としてリンフを見受けたのかもしれない。


「作中最強の魔女であるカンザキの求めた希望がリンフだったとしたら……リンフに万が一があった時はそれはそれでそそるな」


 理穂子がプライムの考えに順じて、ミルキーウェイを口に放り込み、紅茶をガサツに飲む。椅子に足を上げ、行儀が悪いことこの上ないが、プライムの一言。


「はははは、人間風情が吹きよるわ。この作品の流れからしてありえなくはないが、リンフというストッパーを失った後のカンザキがどうなるのかは見てみたいものだ。しかし理穂子。貴様、下着が見えているぞ隠すがいい」

「はっ!」


 今まで誰も指摘しなかった事。指摘したらしたで何をされるか分かったものではない。顔を真っ赤にして座り直す理穂子。


 作品の更新は緩やかで、リンフが、確実にカンザキを意識し出している今後の展開も気になるところで、彼らの読書会が終わった。


「ふふっ、フハハハハ! なかなか興が乗った時間であった。この下民が飲む茶も悪くない香りだ……あちゅ!」

 

 プライムは超がつくほどの猫舌。慌ててミーシャは氷を持ってくるので、プライムはそれを入れて何度も冷ましてからそれを飲む。


「うむ、余の舌を火傷させたことは今回に限り免じてやろう。読み終えたぞ? 貴様ら、次はどうする? 何を読むというのだ? 古書店『ふしぎのくに』へと参るか?」


 まだお昼を少し回った程度である。今から行っても誰もいないし開いてすらいないだろう。それにこの目の前で無垢な瞳を向けてワクワク楽しんでいるプライムともう少し作品考察しても悪くないかと、部長満月さじはこう提案した。


「プライム、腹減ってないか? 飯くにい行こうぜ? そこで、別の物語の話をしようじゃねーか! なんなら俺たちの部活に入るか? 最初はかなりヤベェ奴かと思ったけど、よく考えたらこの学校ヤベェ奴だらけだし、そんなかだとお前は可愛い部類だわ」


 それを聞いてバラのコサージュに触りながらプライムは目を瞑る。


「構わん。良きにはからえ!」

『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』

2021年最初の紹介作品でした。

異世界系かと思いきや、終末後の魔法が存在するファンタジー作品に盛り上がりましたね!

今からでも追いつけますので、是非この年の瀬は本作をお楽しみください!

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