作品の主役が好かれる作品の作り方
さて、3月作品の会議を始めたところなんですが、SFというものは実に面白いのですよね。人間の想像力とはどこまで貪欲で、面白いものなのかと思うのですよ。私は執筆もしなければならないので、かなりやべー業務量なんですよね。今年、古書店『ふしぎのくに』から作業しやすいように部屋を見繕ってくれるらしいので、それで手を打ったのは私ですが……ほんとセシャト姉様、すげぇ人なのです。
マフデトは秋文を待っている。そしてようやくマフデトの想い人。秋文はやってきた。
「マフデトくん、ケーキ買ってきたので一緒に食べよ!」
秋文が見せたケーキの箱。それにマフデトは猫みたいな目を見せる。
彼はセシャト同様甘いものが大好きなのだ。
「赤坂のリベルターブルなのですね! そんないいケーキを悪いのです」
「いいよいいよ。そんな事より、続きよも!」
「仕方ねーのですね。母屋へどうぞ」
ウィンクをしながらマフデトは母屋に秋文を招き入れ、そしてiPhoneしか持っていない秋文の為にマフデトはiPadを用意していた。
「タブの方が読みやすいのですよ。貸してやるのです」
「ありがとマフデト君」
「……むふぅ」
なんとも言えない心地の良い気分になりながらWeb小説を読んでいる秋文を見つめてマフデトはぼーっと見惚れる。そんな中、秋文が面白い事に気づいた。
「マフデト君。この作品って固有名称の矛盾がないんだよね?」
「あぁ、いいところに気づいたのですね。異世界物だと本作の固有名称は不自然なのですが、これは地球の延長線なので固有名称はそのまま使える強みがあるのですよ」
なるほどねと秋文はマフデトに淹れてもらったコーヒーに口をつけながら東京赤坂の高級チョコケーキを上品に食べる。マフデトは牛乳で同じケーキを大きく切り分けてパクリと食べる。
「おぉ、流石にうめーのですよ。前の章で出てきた魔女狩りの男がうだつのあがらない落伍者としてリンフの前に登場なのです。せっかくリボルバー持ってるのに、不燃ごみにされちまったのですよ」
回転式拳銃。リボルバー。これに関して秋文は銃に関する知識は乏しい為、またマフデトの蘊蓄を聞こうかなとマフデトに尋ねてみた。
「リボルバーってなんとなくだけど、古くて扱いに難がありそうなイメージなんだけど? カンザキさんが使っている今主流の銃の方がよくないかな?」
マフデトは指を銃のような形にして秋文に向かって「ばん!」と言ってくる。それが可愛くて秋文は吹き出しそうになった。
「リボルバーってのはそうなのですね百年近く前、カウボーイの時代なのです。まぁただし高級品だったのでカウボーイでリボルバーを持ってる奴は実はすくなかったのですよ。実際は単発式の海賊が持ってたようなフリントロックピストルを使ってたのですよ。もちろん、カンザキが使うマシンピストルに比べればリボルバーは連射性能は劣るのです。スピードローダーや横にシリンダーが出てくるスリングアウト式でも残念ながら追いつけねーのですよ。ただし……」
ジャムらない、威力を上げやすい。不発弾があってもそのまま次弾連射できる。数々のメリットを語る。そして最後に不穏なことを言う。
「実物が見たかったり、撃ちたければ言うですよ。クリスに頼めば持ってきてくれると思うし、沢城や蘭、木人さんを呼べば撃ち方も教えてくれるのです」
これには笑うしかなかった。秋文的にはこのマフデトのこの人脈よりも妙に感じる凶暴さや、狂気の片鱗。それがなんとも面白かった。セシャトと違って弟のように感じることを言うとマフデトは機嫌を損ねそうなので黙っていた。
「マフデト君は、この作品のキャラクターで誰が好きですか?」
「うーん。どのキャラクターも嫌いじゃねーですけど、強いていえばカンザキですかね?」
「あっ! 僕もだよ。やっぱりいいよねカンザキさん」
「全く秋文くんの年上の女好きには困った物ですよ」
「ち、違うよ!」
慌てる秋文にマフデトはチョコレートケーキの最後の一欠片をフォークに突き刺してそれを秋文の口元に持っていく。それを秋文はパクりと食べるとマフデトは少しばかり狂気的な顔をして言った。
「この作品は多分、多くの読者がカンザキを好きになるように書かれているのです。恐らくは作者もそうなのでしょうね。カンザキという謎多き、されど悪人ではない感情表現が下手だけど優しい負傷の魔女。まぁ少しばかり個性強めなのですけどね。主役としては悪くねーのですよ」
主役と言った。それに秋文はタイトルを思い出してからマフデトに尋ねてみた。
「マフデト君。『隻眼隻腕の魔女と少年・麻酔』だよね? これって主人公はカンザキさんとリンフ君のダブル主人公方式じゃないのかな?」
秋文もなまらこの古書店『ふしぎのくに』に入り浸っているわけじゃない。タイトルだけじゃなく内容からも秋文は総合分析してそうであろうことを語った。
それにマフデトは瓶に入った牛乳を持ってきた。それを自分のグラスになみなみと注いでそれに口をつける。
「秋文君の言っていることは概ね正しいのですよ。まぁでもそれは一般論なのですよ。これはほぼ百パーセント。カンザキが全面的に頭に入ってくるでしょ? ならこの作品のメイン主人公はカンザキと言って過言ではねーです。ただ……」
少しだけマフデトは言葉に詰まった。それは一体なんなのかと……秋文はマフデトの考えてる事が分からないので聞いてみた。
「ただ何?」
「……この書き方をして、リンフをメイン主人公に見せる方法が一つあるのですよ。少し前にこの手法をとられているある作品があってですね……アニメ化もされた作品なんですけど、当時は斬新な手法だったのです」
「マフデト君。それってどんな方法だったの?」
マフデトは少しばかり苦虫を噛み潰したような顔をして牛乳を飲み干してから話し出す。
「このカンザキとリンフの関係で語るのですよ。その某作品は、カンザキのようなキャラクターメインの話で2巻、いや3巻くらいまで続くのですよ。そして、なんの前触れもなくそのカンザキキャラが死ぬのです。そしてカンザキキャラの相棒と、リンフ的な役割のキャラクターの物語が始まり、メインの主役はリンフとして終える感じなのです」
本作においては恐らく、この流れはないと思われるし、信じたいとも思うが、カンザキの負傷具合を考えるとこの可能性もなきにしはあらずだろう。これはマフデトの例だが、実際本作はカンザキをメインに物語が展開している。それ故、どうしても人気の振れ幅もカンザキに寄るだろう。
「へぇ……でも僕はカンザキさんが死んじゃうなんてやだな……」
秋文の読者を代弁した心の声。面白い作品展開と、読者の望む作品展開というものは違う。それに関してはマフデトは語った。
「まぁ、私も魔女の作品を書いているですよ。その作品は史実をベースにした架空戦記なので、読者が望むような展開は最初の一、二章でどんどん物語は読者が望むような展開からかけ離れていくのです」
そう、当方のマフデトであるが、完全な読み専のセシャトさんとは違い、彼自身も作品を執筆している。何作か古書店『ふしぎのくに』に卸しているが、いずれも現在のWeb小説とは流れも作りも違う。
「そういうものなのかな?」
「そういうものなのですよ。でも多分大丈夫でしょう。本作のカンザキに対する作者の自キャラ愛を文章表現から感じるのですよ」
同じ物書きだから言えるこのマフデトのセリフ。セシャトはこの類の発言をすることはないが、同じライターのヘカやアヌ等は近い事を語る時がある。
「魔女であるカンザキに魔除けの翡翠というのも実に面白い組み合わせなのですよ。そんなカンザキとリンフの元に何やら不穏な輩が近づいてきているのです」
空になった牛乳の瓶を見つめてマフデトはそう言う。同じところを一緒に読んでいる秋文はこの状況に少しばかり興奮して話す。
「これなんだろう。人のようで、人じゃない、人じゃないようで人らしい。そしてカンザキさんみたいな女の子」
「魔導の奥義という物は言葉通り、魔を導く事。要するに魔法という真理に至る事なのですよ。学問でいえばこれは哲学に近いのです。そしてそこに至るのに実験は大事なのですね? 錬金術の奥義。キメラやホムンクルスなどを作って自分の代わりに実験をするなんて物語を書く作品は本当に昭和初期からあったのですよ」
マフデトは、狂った母親。書物の大悪魔であるダンタリアンにしこたま作品を読ませさせられてきた。それらの知識も、技術も全て頭に入っている。
「マフデト君も本当に勉強家で研究家だよね? すごい作品の分析を独自で進めているじゃない」
「まぁ、でも全部的外れかもしれねーですよ? 作者が何を考えているかまでは読者にはわからねーですから」
そういう事なのだ。あくまでこれらの読み込みはマフデトならばどう考えるかというマフデトと秋文の二人の作品読み合いでしかないのだ。次をと思ったが、マフデトは時間的にそろそろ秋文が帰りそうなのでこう言った。
「こ、今度よければ……泊まりにくるですよ。そうすれば、もっと長く……ですねぇ」
「うん! 今度の週末にでも」
そう言って手を振ってマフデトは秋文を送り出す。そして独り言でも言うように言葉を発した。
「いつまでそこにいるんです? シーサーさん」
「まーふ、なほかっさい、ぬっくわとぅわかながなー、とぅすんくとうぃーんがはいららーん!」
「は? 私に理解できる言語で話してもらっていいですか?」
グスグス泣きそうになりながら、シーサーは話す。要するに、マフデトが他の子と一緒にいるから入るに入れなかったのだと伝えたいのだが、マフデトには残念ながら伝わらない。
対戦型トレーディングカードゲームを握りしめているシーサーに対してマフデトはため息をつく。
「一回だけデュエルしていきますですか?」
泣きそうな顔からすぐに笑顔になるとはちきれんばかりの胸にマフデトを抱き寄せる。
「する!」
「飲み物は牛乳でいいですか?」
「シークワーサージュース」
ハァともう一度ため息をついてからマフデトは看板をクローズに変えた。
『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』さて、私宛に感想なども少しずつ来ているのですよ。確かに、ちょっと古るめに感じるかもしれねーですけど、それも込みでおもしれーお話なのですよ。今月はまだまだ時間があるので今からでも遅くねーのですよ!




