年初最初のお客様はやっぱり
あけおめ、ことよろ、けい、おーす!
セシャト姉様と交代店主の王子マフデトなのですよ。
牛乳片手についてくるのですよ。
古書店『ふしぎのくに』店主のセシャトは去年色々あってしばらく療養中という事になる。そんな古書店『ふしぎのくに』を守るのは、同じ1月1日に生まれた存在。セシャトにもしもの事があった時まで静かに初代店主の銀色の鍵の中で眠っていた少年。
「まふっ!」
そう、我らが古書店の王子。オルタナティブセシャトさん事。マフデトさんである。1月1日から気合の開店をしているのには理由があった。
「あけましておめでとうござま……あれ? セシャトさんは?」
「セシャト姉様なら体調不良で療養中なのですよ。分かったらとっとと帰るのです。あとあけましておめでとうなのです」
セシャトに好意を持ってやってくる少年。倉田秋文。要するにマフデトからすれば妹であり姉であるセシャトにつく悪い虫なのである。
「おめでとうございます。そうですか……面白いWeb小説について何か教えてもらおうと思ったんですけど」
そして悲しいかな、マフデトもセシャトと同じ存在である為、Web小説に関して造詣が深く、大好きなのである。
「待つのです。ちなみに最近読んできた作品ってどんなジャンルなのです?」
「そうですね……えっと君は?」
「私はマフデトなのです! 全く、十代前半で色気づいて日本のティーンは性にだらしないとは聞いてましたが、恥をしりなさい!」
中学生くらいに見えるマフデト。彼はカウンターに王様が座りそうな豪華な椅子を用意するとそこに足を組んで座る。王冠に制服? 軍服のようなその姿はもはやコスプレにしか見えない。
「宜しくね! 僕は倉田秋文」
「知っているのですよ! セシャト姉様だけでなく、おべりすくの兄様や姉様たちにもちやほや、ちやっほやっ! されて調子に乗っている倉田秋文君ですよね?」
妙に嫉妬されているなと秋文は苦笑する。しかし、セシャトさんに瓜二つで、雪みたいに綺麗な白い肌。どことなく親近感が持てた。
「そうだ! 僕、最近少しハイファンタジーに近いライト文芸にハマってるんです」
「ほぉ、まぁその年齢だとありがちなのですね」
「何かおススメないかなって思って……」
「『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』とかが、ハイファンタジーすぎず、ライト文芸すぎない塩梅なのですよ……奥、上がっていきますか?」
古書店『ふしぎのくに』名物、母屋にて作品を楽しむの会2021年が始まった。秋文はじゃあ少しだけと母屋に上がる。
「牛乳でいいです?」
「えっと、うん」
普段はセシャトが目利きしたコーヒーや紅茶がでてくるのだが、蒜山と書かれた大きな瓶入りの牛乳を持ってくるマフデト。
「日本の学生は給食とか言うランチで毎回牛乳を飲むらしいですね」
「うん! 苦手な子も結構いるよね?」
「アレルギーでやむなし飲めないのではなく?」
それに秋文はジョッキみたいなグラスに並々といれてくれた牛乳と、高価なクリームパンを持ってきた。八天堂と書かれたそれを秋文の目の前にある皿にのせる。
「牛乳の匂いがダメとかで……」
「人生を損している連中なのですね。牛乳に合わない食べ物なんてありませんけど、とりあえずクリームパンなら初心者でもいけるでしょう? セシャト姉様がどんな読み方をしていたか知らないのです。秋文君はこれらを食べながら一章を少し読んで感想を教えてほしいのですよ」
少し読んで秋文はいただきますと、牛乳を飲み。それが美味しい事に驚く。してやったりな顔をしたマフデト。
「あぁ、これって、押し掛け系じゃないですけど、世捨て人みたいな魔女・カンザキさんの元に、理由あってやってきた奴隷か人身売買の途中で逃げ延びた男の子の物語なんですね……なるほど」
そう、秋文の説明は実にベタだが始まりはそんな感じである。それにマフデトはクリームパンにかぶりつきながら語る。
「そうなのですよ! このタイプの作品というものはわりかしよくある流れなのですね! 直近だとソマリとかがそうなのですね。近い物はもしかしたら魔法使いの嫁とか、古い物だと週末クエストもこのタイプの流れなのです。魔法使い、あるいは魔女。あるいは魔族に拾われる奴隷などだった人間の構図。これは一つのパターンとしてとられて欲しいのであります! ファンタジーの中の小分野、所謂テンプレートなのですね!」
豪華な椅子に母屋でも座り、わざわざ足を組み直すマフデト。秋文は同い年の男の子だけど、女の子みたいな色気があるマフデトを見てくすくすと笑う。
「マフデト君は、セシャトさんに似てますね。なんだか作品の楽しみ方も、美味しいオヤツを食べている時も」
「そりゃー同じ人物をベースにしているオルタナティブなのですから」
「えっ?」
「今のは忘れるのです! 秋文君はこの作品を読んでまずどう思ったです?」
この問いかけは、古書店「ふしぎのくに」においてよく聞かれる。そしてどんな返答をしても間違いではない。読者の感想というものは自由でなければならない。だからこそ、セシャト達はそれを否定する事はない。
「この魔女のカンザキさん。なんか魔女というより、優しい魔法使いのイメージが強いなって思いました」
「なるほど、秋文君のイメージの魔女は西洋の悪魔の魔女のイメージが強い事がよく分かりました。そもそも魔女というのは自然信仰を持つ森の民の事です。それに魔法という付加価値をつけたのが昨今のファンタジーの魔女なのですよ。街に住む人たちからすれば薬草を調合する連中は神に反いた何かをしているだなんて思ったんでしょうね。秋文君がよんだところまででは殆どカンザキの情報は入ってこないけど、彼女が心優しい人物であるという事は間違い無いのですよ! まぁ及第点ですね」
ただの感想を滅茶苦茶、ダメ出しされた。それに秋文はクスりと笑う。なんだかセシャトとは違ってマフデトは可愛くて面白い。ワイングラスに牛乳を入れて振っているのだ。
「カンザキさん、拳銃を使うんですね」
「誰がやり出したのか、魔女や魔法使いとその道具に拳銃というのは割とよく使われる組み合わせなのですよ。初出は随分昔のフリーゲームの魔術師がルガーを使う奴がいたんですが、そいつも某作品のオマージュである事がわかり、本当に昔からあるんですよ」
諸説あるが、魔法よりも拳銃の方が殺傷能力が高いと解いた作品が昔あった。引き金を引くだけで命を奪えるお手軽凶器である。それを魔法を使えるやつが使えば言わずもがなという事なんだろう。
「カンザキの銃はわりといいところをチョイスしているのですよ。魔法弾を飛ばすだけならコルト25とか、ルガー、P9。同じシグでも224とかなのですね? でもP229。要するにP228カスタムを使っている理由。わかるのですか?」
残念ながら秋文は拳銃に明るくない。そしてこれは店主のセシャトでも詳しくはない。マフデトは暴力的な大悪魔・ダンタリアンによって構成されたセシャトと言っても過言ではない。だから、こういう無駄な知識を要している。
「いやぁ、はは。わからないなぁ」
「単純にそこそこ強力なオートマチックハンドガンなんですよ。反動もわりと少ない。大きめの弾丸が撃てる。護身用として魔法を使わなくてもそれなりに自分の身を守れるのです。言っているでしょ? カンザキは自分の為にあまり魔法を使わないと」
これは、作者の考えなどではない。単純にマフデトが作品の内容より、予測した感想でしかないのである。だが、意外にも理にかなっている。
「へぇ、そう言えそうだよね。もし自分の為に魔法で護身をしなかったら、少し強い武器は必要だよね。すごいやマフデト君」
ご静聴ありがとうございます。とでも言わんようにマフデトはドヤ顔で目を瞑って牛乳を一飲み。
セシャトとは全然違うその感じに秋文は少し楽しくなってきた。そして本来はセシャトに最初に教えようと思っていた。親に買って貰ったスマホの連絡先をマフデトと交換しようとiPhoneを見せる。
「マフデト君、よかったら連絡先交換しない?」
「まぁ、構いませんが……私がいなくてセシャト姉様がいたらセシャト姉様のスマホの連絡先を聞くつもりだったんです?」
「あはは、まぁ……うん」
「とんだマセガキなのですよ。年中盛ってるお猿さんですか? 秋文君は」
そう悪態つかれながらも秋文に連絡先を教えてくれたマフデト。ラインも教えてくれたのだが、その写真が強烈だった。眼帯をつけて、暗くした部屋でワイングラスに入れた牛乳を持っている写真。
秋文は知った。このマフデトはどうやら、少し……特殊な男の子であるという事。元旦だというのに、さらなる来訪者。
「まーふー、ちゃーぴらぁっさい!」
母屋にまで聞こえる女性の声。それにマフデトは「失礼、秋文君」と言うと店にでる。
秋文もつられて店に出ると、そこには褐色ギャルの姿があった。片方の耳に派手なピアスをして、コートにハーフパンツ。そして物凄い鈍っている。
マフデトを見ると抱きつく。
「まーふー、がんじう?」
「えぇ元気ですよ。あけましておめでとうございます。年初から頭悪そうなのですねシーサーさん」
誰? とこの店の常連である秋文は思ったが、シサさんは突然笑い顔から鋭い表情になって何かを見せた。
「やりにきたよ。いい?」
「シーサーさん、ごめんなさい。今日はトレカ勝負はできませんね。先客に秋文さんとWeb小説を読んでますので」
マフデトがそう断ると、秋文を見て、そしてマフデトを見て、もう一度秋文を見て睨みつけてから叫んだ。
「あきじゃびょー! うぅ……まーふー、とられた」
そう言って三百円を払い、トレーディングカードのパックを一枚購入して帰っていく。
「マフデト君、あれいいの?」
「シーサーさんですか? いいですよ。あの人。人間じゃない上に超うぜーのです。まぁまたその内きた時に遊んであげます。さぁ、続きのお話をしましょ? シーサーさんがいると、異世界の言葉、沖縄語が強すぎて何言ってるかわからないので、私は日本語しか分かりませんからね」
「うちなー口も一応、日本語だよ」
優しく秋文が諭すが、マフデトは牛乳パックに口をつけて飲んでいるので聞いていない。
『隻眼隻腕の魔女と少年 著・麻酔』人類の皆さんは知っているのですか? 実に分かりやすく、そして実に面白い作品になるのですよ。異世界転生や転移などと同じく一ジャンルを気づいている主従系、師弟系の作品となるのです。しっかりとキャラクターが魅力的であり共感が持てるということで今年の第一作は本作を選ばせてもらったのですよ。話数もまだまだ少ないので最新話まで追いつきやすいと思うので興味があったら読むのですよ!




