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セシャトのWeb小説文庫-Act Vorlesen-  作者: 古書店ふしぎのくに
第二章 短編集特別編第二弾
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『女子高生が年下の恋人にヌードを描いてもらう話 著・root-M』狂犬娘と語らいながら

ジョゼを観ようかどうか、凄い悩ましいのです。私は第3世代なので、同じ世代同士で遊ぶことが多いのですが、おべりすくの兄様達にもよく遊んでもらっているのです。そんな中で映画を観に行こうという事で、チケットとってくれるらしいのですが、面倒なのですね。私、映画は自宅で見るのが好きなのです。

 課外学習、牧場での最後の時間、マフデトは秋文を探すが見つからない。仕方がないので、プリンでも購入しながら時間を潰すかと思っていたら、鼻につく匂い、テレビン油の香りがするところへと向かうと、そこには牧場風景を描いている女子高生の姿。


「テメェ! プリンを食おうとしているのに、クセーのですよ!」

「あぁ? あれじゃん! セシャトさんとこのクソガキその2」


 それは一覧台学園高等部の狂犬、茜ヶ崎理穂子。黙っていれば美人、喋れば猛獣その人である。

 文芸部の部員である。マフデトの事をクソガキその2と言うあたり、マフデトはイラついた顔を見せる。


「理穂子、テメェ、こんなところで何してるです?」

「美術の選択授業だっつーの」


 マフデトは理穂子が描く風景画を見て、そこそこ上手い事に感心した。


「結構描けるのですね?」

「こんなもん普通だろ? おい! どうせだからなんか暇つぶしに話しろよ。Web小説ネタ持ってんだろ?」


 絵を書いている理穂子を見てマフデトは少し考えてから話だした。


「『女子高生が年下の恋人にヌードを描いてもらう話 著・root-M』とかどうです?」

「裸婦画かよ。面白いのか?」

「おもしれーのですよ! つーか、裸婦画は芸術の一ジャンルなのです! これは読者の興味をそそるようにタイタニックの映画ネタから入るのですよ!」

「タイタニック? あー、あのクソ嘘だらけの映画か、同じタイタニック号ネタなら私はポセイドンアドベンチャーの方が好きだけどな」

「また古い映画なのですよ。平成のタイタニックは社会現象を起こしたんですよ! テメェーも生まれる前の話なので知らねーでしょうけど」

「お前だって生まれてねーだろ!」


 古書店『ふしぎのくに』は映写機を持つ程の映画マニア。アヌさんがいるので、割と幅広くアーカイブを持っている。


「この小説の主人公はその作中でタイタニックの主人公ジャックが婚約者ローズの裸婦画デッサンをする有名なシーンに興味を持つのですよ。本作はアメリカ映画らしくラブシーンも割と強烈なのですけど、この別の形での性の形、愛の形とも言える。このシーンは実に特徴的で記憶に残るのです。まぁ、若気の至と言うべきなのか、主人公は自分も同じように描かれたいと思うのですよ」


 理穂子は乙女である。割とこういう物には非常に弱い。少しばかり顔を赤くしながら……


「一つのリビドーの形なんじゃね?」


 などと言ってマフデトの次の言葉をまつ。綺麗な声を出してマフデトが読んでいる事に一つ理穂子は興味を持った。ローズ役のケイトウィンスレットが妊娠していると聞いたがそのソースが見つからないという注記である。


「当時はボンキュボンの今ではヤベェレベルのモデル体型の女優が多かったのですよ。どちらかといえばケントウィンスレットは痩せにくい身体をしていたのか、マシュマロ系女子だったのを酷く国内外で叩かれていたのです。日本の某週刊誌やメディアが妊娠してるからじゃね。みたいな邪推した報道とかを作者が覚えていたとかじゃねーですかね? 逆に私はケントウィンスレットの体型はリアリティに震えたのです」


 マフデトがそう言った事に理穂子は「あー」と頷く。彼女も作品を作る側の人間である。


「時代背景を鑑みた令嬢なら、その方が確かにリアルだよな」


 という事である。タイタニックは恋愛要素を強くしすぎた結果、本来見せたい壮観情景を超えてしまったのだろう。当時の令嬢は基本動かないので、少し肥えている女性が多かったのだ。

 以上、古書店『ふしぎのくに』映画好き達による補足。


「まぁ、話はそこじゃねーんですよ! 主人公は自分の裸婦画を年下の美術部員。ウブなマシュマロ系男子にお願いするのです」


 そこで理穂子は自分の納得の行くグリーンが作れない事に喉飴を舐めながら、一言。


「ジャックとローズとは真逆の立ち位置だな」


 理穂子は美しい。が、人間として欠落した部分が多すぎる。だからこそ理穂子は本作の主人公に少し共感を持ったのかもしれない。


「自分の欲望に忠実だな。好きになって手に入れたくなるのも、そして自分の全てを描かせたいと言う点もさ、すげぇ女だな」

「理穂子、てめぇは自分の裸を誰かにかかせることはできますか?」


 ゴンとマフデトの頭にゲンコツを入れる理穂子。「痛い!」と涙目で言うマフデトを睨みつけて言った。


「色ガキが、ふざけんなよ? 殴るぞ?」

「殴ってから言うな! です! 主人公が優太に惚れる理由も見えてくるのですよ! 読み進めますよ?」


 優太は凄まじい集中力と絵画芸術に愛された少年だったのだろう。

 得てして芸術とは才能である。


「テメェもそこそこうめぇのですけど、我流なのです?」

「あぁ? 絵なんて教わってかくもんじゃねーだろ? 見た通り描きゃいんだよ」


 空間認識能力。見た物を見たまま描く事はトレーニングで実はなんとかなる。それを最初からできてしまう人間。そして、好きな事に時間を忘れることができる才能。継続、こんなところだろう。そして、優太はさらに制限もかけている。

 彼の絵師としての寿命。


「作品にかける環境が出来上がってんのか、そう考えるとその生き方がすでにかっこいいな優太」


 女子である理穂子もそう言う。何かに真剣に取り組む姿に主人公は惚れたのだろう。そしてそのリビドーを優太の距離である芸術にて昇華させる事にした。

 一人称で淡々と語られる本作に、読者はただただピリオドがどうなるのかを考えるのか?


 それとも……


「この主人公の思考はどこに向かっているんだろうな? 自分の欲望に忠実そうに見えて、少しばかり特殊な性癖ではあるが、優太に愛を語っているようにも感じる。けど……これは昇華でしかないようにも思える」


 これに関してはどう受け取るかなのかもしれないが、芸術というものはそういうもので、そしてリビドーの捌け口なのだ。主人公は描く側ではなく、描かれる側で芸術というものを表現したのかもしれない。

 が……物語というものは面白い。


「おうおう、優太くん転校しちまうのか。よくあるけどさ、こういうのって源流があるっていうよな?」


 創作の卵理論である。あらゆる物語の展開には必ず元になった実話があるというものである。


「優太は、絵を描いてもいい母親の元に行くのですが、絵を描いたらダメだという父親もまぁまぁヤベェのですよね?」


 趣味は絵画です。という社会人は実に評価的であり、それは大きなアドバンテージになり得るとも思うのだが、実際本作に出てくる父親のように自分の考えを押し付ける親は存在するらしい。


「そういう奴は、何かに追われてるんだろうな? 自分の考えという狭い世界でしか生きていけねーんだよ。だから、息子が絵を描く事が気に入らないんじゃなくて、怖いんだって。自分の世界にはそんなものはないからってな……そんな子供みたいな大人が離婚するってのは当然の未来だったんだろうよ」


 理穂子はようやく気になる緑色ができたが、ウエスを使って筆をすり、ペンティングナイフで仕上げていく。


「理穂子はそんな道具の使い方も我流なのですか?」

「あ? こんなの、スマホでググれば使い方でてくんだろ?」


 そう、天才である。

 彼女は絵に興味もなければ絵を描くことが好きなわけでもない。選択授業で取得したからただ描いているだけなのだ。だが、遊び心がないわけでもない。白と黒、そしてそれを使って今書いている何気ない牧場風景に追加していく。


「この主人公の女の子さ。本当に独占欲強ぇな。裸婦画を描いてもらうという昇華が終わると、次は優太がいなくなる事に、まぁまぁ絶望するわけじゃん? ヤベェ奴かと思ったけど、結構普通の女の子なんだな」


 優太は中々にいい男である。垢抜けたというべきなのか、プラトニックな、あるいは少しばかり特殊な主人公との関係性の中で年下の男の子から、男性へと成長する。


「主人公の一人称で始まり締め括られるのですけど、主人公の背景は実はあまり見えてこないのですよね。故に主人公である私の視点で語られる優太の成長の物語とも取れなくもないのですよ。難しいところですけど、主人公の私からすれば優太には何か運命じみた光を感じたのですよ。そして優太からすれば主人公の私は光そのものだったんですよね。結果として、主人公である私は原石を磨き切ったのですよ。磨き切ったところで、優太は主人公である私の手の中では収まらないような大きな存在になったのです。それは溢れんばかりに」


 マフデトは面白い表現をした。実際物語が始まった時は確実に私が優太をリードしていたハズなのだ。優太は私の裸婦画を描くという間接的な、精神的な交じわりを得て、男になったのかもしれない。


「短編として、本作はこれ以上は読んではいけないし、見てはいけないし、そして書いてもいけない作品なのですよ」


 それ以上に進むのは作者も読者も野暮というものなのだ。それを理穂子もなんとなく気づいたところで、最後の一筆。


「でーきたっ」

「おっ? 完成なのですか? どれどれ? ……牛さんと私なのですね」


 牧場風景に理穂子はマフデトと、マフデトと同じカラーであるホルンスタインを一頭風景に溶け込ませた。明るくも暗くもない、何かテーマがあるわけでもない。しかし、それは命という物は感じない一枚絵。

 普通の牧場としての日常を想像しうる物だった。


「私が言うのもなんなのですけど、テメェは絵の芸術という物には無縁の女なのですよ」


 その絵はそこにある物を寸分狂いなく描かれていた。写実的に近い油絵だった。よく描けているし、上手い。そう誰しもが思うだろう。がしかし、何も感じないのだ。伝わってもこない。いやいや描かされてかいた絵、それを絵心と才能を持つ人間がとりあえず描いたそんな作品だった。


「まぁ、私には小説があるからな、まぁその内。文芸部の連中連れて遊びにいくわ」

「チッ、まぁ茶くらいは出してやるのですよ。じゃあ理穂子、そろそろ帰る時間の点呼なのですよ。テメェも道草食わずにさっさと帰るのですよ!」


 うるせーよと言う声を背中に聞きながら、マフデトは理穂子と別れる。マフデトは、理穂子には私と優太のような関係は一生不可能だろうなと思いながら少しにやける顔が戻らなかった。

『女子高生が年下の恋人にヌードを描いてもらう話 著・root-M』短編において、とても頭から尻尾まで綺麗にまとまっている作品なのです。そしてなんとも言いがたい読了感。清々しいというべきなのでしょうか? なのでしょうね? ぜひ、素晴らしい本作を読んでくださいなのです!

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