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回顧 ――高校二年生 夏―― 5

緊張、していた。

まさしく、緊張しすぎて顔が強張っていた。

だから、だから!!

つい、声がでかくなったんだっ。





その日、俺は図書館の入り口脇で佇んでいた。

一度来てしまえばもう不安は薄れていくらしく、図書館に来るのも怖くなくなった。

そうすると、次に気になるのはとーこさんで。

どうすれば、三年のとーこさんと話せるか、懸命に考えた。

出た答えは。

図書委員の仕事が終わる閉館時間に、待ち伏せするしかない。

カウンターにとーこさんを見つけた今日、外の生垣下のコンクリに腰をかけてじっと本を読みながらとーこさんが出てくるのを待っていた。

途中で帰られたら困るから、それこそずっと。


ストーカーみてぇ……

自分で思うんだから、やられた方はもっとそう感じるんだろうな


そんなことを自嘲気味に考えていた時だった。

閉館の鐘が聞こえて、中にいた人達が外へと出てきた。

ちょっと視線が痛いけど、それはこの際気付かない方向で。


しばらくするとそんな人達もいなくなり、見回りを終えたのであろう図書委員が外に出てきた。


とーこさんと、同学年の女子の先輩。


きっ、来たっ。来た来た来た――


俺の心臓は、ばくばくと音を上げて鼓動を刻んでいて。

高校受験でもここまで緊張しなかったぞとか、余計な事を考えていたら。

小さく挨拶を交わして、とーこさんは校舎の方へ。知らない先輩は校門の方へと別れた。

家に帰るだろうとーこさんに声を掛けるつもりだったのに、目の前を通り過ぎていくのは知らない先輩。

向こうはこっちに気付いているのか、ちらちらと視線を送ってくる。


うっわ、俺不審者?

不審者でもいいけど、そこまでしてとーこさんとしゃべれないとかって俺どんだけ不幸……


そんなことを考えているうちに、とーこさんは校舎へと続く階段へと足を踏み出していて。

慌てた俺はとにかくとーこさんを引き止めなきゃと、全速力で駆け寄って……つい……つい、ね。

大声で呼んでしまった――


「とーこさん、一緒に帰りませんか!」


振り返ったとーこさんの目が、今まで見たことがないくらい見開かれていたのは言うまでもない。

ていうか、忘れたい事実。






「ごめんなさいね、要くん。つき合わせちゃって」

とーこさんと一緒に、三階の教室へと階段を上がっていく。

「いえ、俺のほうこそすみません……」

穴を掘って隠れたい……



俺が大声で呼び止めた後。

とーこさんは驚いていたけれど、頷いて少し笑ってくれた。

まったく人がいないわけじゃなかった場所で、恥ずかしくて逃げ出したくなっていた俺にはまさに天の救いだった。

これで断られてたら、恥ずかしさで軽く死ねる。

この高校から逃げ出すっ。


とーこさんは教室に入ると、自分の机からクリアファイルを取り出して鞄にしまった。


「お待たせ。帰りましょうか」

いつもどおりの無表情、微かに見せる感情。

ずっと会っていなかったのに、かわらないとーこさんがそこにいる。



――触れたい……



この前、久しぶりに会ったとーこさんを見て膨れ上がった、初めての想い。

会いたくて会いたくて仕方がなかった。

自分の都合のいい夢じゃないように、幻じゃないように、現実である証拠が欲しい。

そして、それ以上に……



「要くん?」



何も言わない俺をおかしく思ったのか、とーこさんが目の前で見上げてくる。

「あ、すみませんっ。いっ、行きましょうか」

音でもしそうなほどぎこちない動きで、歩き出す。

とーこさんは首を傾げていたようだったけれど、諦めたのかなんなのか俺の横で一緒に歩き出した。


「さすがにこの時間になると暗いですね」

頭の中が邪に成り果てているのに気が付かれたくなくて、当たり障りのない話をふる。

彼女は、そうね……と呟きながら窓の外に視線を移す。

「もうあまり人も残っていないでしょう。でも……」

そのまま腕時計に目を落とした。

階段をゆっくりと降りながら、とーこさんを見る。

「もしかしたら圭介はいるかもしれないわ」


――瀬田……っ


とーこさんの言葉に踊り場に片足を下ろした俺は、思わず身体の動きを止めた。

とーこさんには会えたけど、瀬田にはまだ会っていない。


――君に纏わり付かれるのは、迷惑なので……


瀬田の冷たい声が、脳裏に甦る。

細めた目は、俺を見るだけで。そこに映していない。



「……要くん?」


俺の後ろで立ち止まったとーこさんが、怪訝そうに名前を呼ぶ。

それにびくりと身体が反応して、思わず後ろを振り返った。


「あっ」

「わっ!」


肩に担いでいたスポーツバッグがとーこさんに当たって、彼女の足が階段を踏み外してしまった。

「とーこさ……っ」

慌てて伸ばした腕でとーこさんを抱き込むと、片手を手すりに伸ばして体重を支える。


「……」


あ……焦った……。



上手い具合に身体を支えられたから、転ばずにすんだようだ。

つーか俺の反射神経、最高じゃね?

内心自分に賛辞を送りながら、腕の力を弱めてとーこさんの顔を覗きこんだ。


「ごめんなさい、とーこさん。怪我、ないで……」


す、か……


最後の言葉は、ほぼ口の中に消えた。

一瞬にして状況を悟る。



自分の腕の中の、とーこさん。

支えるためとはいえ、とーこさんを囲うように手すりにおかれた自分の手。


何、この少女マンガも裸足で逃げ出しそうなシチュエーション!!



ばくばくとさっきとは違った意味の鼓動が、胸から響いてくる。


初めて触れたとーこさんの身体は、柔らかくて。

驚いたのだろう、同じ様に早い鼓動がくっついてる部分から響いてくる。



触れたいと、そう願った。

会って、触れたい。

これが現実だと、俺が納得できるように……


まさかこんなに早く願いがかなうとはっ!



「とーこ、さん?」


俺の声に、ぴくり、と肩が震えるたのに気付く。

う、うわっ。

どうしよ、やばいよ、この状況。

でも、離したくないっ。もう少し……もう少しだけ……


思わず抱きしめる腕に力をこめようとしたその時。



「何をやってる、二人とも」



俺の願いは、低い声に打ち切られた。


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