表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペットな王子様  作者: 水無月
第八章:王子様のいない日々とハプニング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/67

第45話

 注文したアイスカフェラテとメイプルラテ、ガトーショコラを桜子が営業スマイルと共にテーブルに置いて立ち去ると、蓮はストローを咥えながら桜子の後姿を視線で追い、それから店内を真剣な面持ちで見回した。そして、小さく息をつく。

「蓮?」

「ん? あぁ……」

 名を呼ぶと、真剣な眼差しから我に返ったように呟き、苦笑を浮かべる蓮。

 私はカップを手にしながら、じっと蓮を見つめた。

「桜子の可愛い制服を見に来ただけじゃないよね?」

「んー、それも面白いとは思ったけども……」

 言葉を探す時間を稼ぐように、ストローでカラカラとグラスの中の氷を回す蓮。何をしに来たのか、話してくれるのだろう。

「えっとだな……この前俺、不可抗力で姐さんに抱きついたじゃん?」

 少しして口を開いた蓮に、私はカップを置いてこくりと頷いた。

「屋上ででしょ?」

「そ。で、その時、微妙に魔法の気配を感じたんだよ」

「魔法の……気配?」

 小首を傾げた私に、蓮はゆっくりと頷く。

「要するに、誰かが桜子に魔法をかけてるって事」

「ふぇ!?」

 驚いて小さく声を上げた私に、蓮は困った表情で小さく息をついた。

「抱きついた時にあれって思ったんだけどさ、調べようと思って触れたわけじゃないし、一瞬だったし、詳しくはわかんなかったんだよ。ま、この一週間観察してたけど、どうやら桜子に害のある魔法じゃないみたいだから、まだいいんだけどさ」

「えっと……それ、やっぱりジニアさんとか?」

 他に思い当たる人がいなかったのでそう尋ねると、蓮は静かに首をふる。

「あの変態とか変人王子とか、知ってる奴がかけたなら誰の仕業かわかる。だけど、それがわからないから今調べてるわけ」

 そう言って、てきぱきと働いている桜子に視線を向ける蓮。気遣うようなその眼差しに、蓮の優しさを感じる。

「おそらく、魔法をかけられたのはそんなに前じゃない。それに、触れるまでわからないほど上手く魔力を隠してるあたり、それなりの使い手だ。だけど、そんな奴がこの辺りにいるって情報はない。不法にこっちに来ている奴なら、今のところ害はなくても、もしかしたら何らかの悪意はあるかもしれない。だから、魔法をかけた相手を特定したかったんだけどさ……」

「見つからないの?」

「あぁ」

 眉根を寄せて店内に視線を走らせた後、蓮は私に向き直ると苦笑を浮かべた。

「この一週間、桜子の周りを調べてみたけどそれらしい人物見当たらなくてさ。で、唯一調べてなくて、しかも最近新たに始めたばっかのここが怪しいと思ったからひまわりに付き合ってもらったんだけど……どうも違うみたいだな」

 そう言って深々とため息をつくと、カフェラテで喉を潤す蓮。

 真面目な蓮の表情に、少し不安になる。

「桜子……危ない目にあったりするの?」

「それはさせない」

 問いかけた私に、きっぱりと断言する蓮。

 安心させるように、真っ直ぐな眼差しで私を見つめる。

「万が一、悪意を持って魔法を使っていたとしても、俺が絶対に守る。この世界に住む人間を、魔法で傷付けさせたりはしない」

 力強い言葉。

 その蓮の気持ちに、思わず笑みがこぼれる。

「蓮が守ってくれるなら、安心だね」

「え? あ……おう。頑張る」

 先ほどまでの凛々しい表情から一転して、急に照れたような表情で頭をかく蓮。

 最後まできりっとしていられない所が蓮らしい。

「ま、ひまわりはそんなに心配するなよ。魔法をかけた相手が今周りにいないなら、そろそろ魔法の効力も切れる。こっちの世界じゃあの変人王子程の使い手じゃない限り、そう長くは魔法は続かないからさ」

 私の不安を取り除こうとしてか、蓮らしい元気な笑顔。暗い顔を見せたのを挽回させるかのようだ。

「わかった。でも蓮、私に手伝える事があったら言ってね。桜子も蓮も私の大切な友達なんだから、私に出来る事はしたいから」

「サンキュ、ひまわり」

「それと、もし本当に心配な状況だったら、桜子を抱きしめさせてもらおうね」

「ぐほっ!?」

 嬉しそうに目を細めていた蓮は、私の言葉に飲もうとしていたカフェオレを吐き出しそうになる。

「だって、私の時みたいに抱きしめればどんな魔法かわかるでしょ? 事情を話せば桜子だって……」

「いや無理。それなら、意地でも犯人を自力で探し出す!」

 咽そうになった息を整え、真顔で言う蓮。桜子に自分が異界の人間だとばれるのは相当嫌らしい。

 それでも蓮なら、本当に危なかったらそんな事は顧みずに最善の手段を選ぶはず。

 私に事情を話したり、最終手段をとらないのは、そこまで深刻ではないからだろう。心配するなと言う蓮の言葉を信じていいはずだ。

 私は甘い香りが漂うカップを手にしながら、仕事をしている桜子を見つめた。

 いつもと変わった様子もなく、一生懸命バイトをしている桜子。当然だが、まったく魔法をかけられているかなんてわからない。

「ねぇ、蓮。ラウルは近くで魔法でも使わない限り、あっちの世界の住人かどうかわからないって言ってたけど、蓮は見ただけでわかるの?」

 ふと思いついた疑問を投げかけると、蓮はストローから口を離した。

「見た目じゃなくて、人のもつ魔力を感じ取る感覚が鋭いんだ。あと、探知できる範囲が広い。それが出来なきゃ、俺の仕事は務まらないし」

「魔法が悪用されてないか調べるんだよね」

「そ。正規にこっちに住んでる人間が悪用する事は少ないし、不法にこっちに来た人間を取り締まるのに、魔法使わなきゃわからないんじゃしょうがないだろ? 探す気で感覚を研ぎ澄ませれば、魔力を持ってる人間がどこらへんにいるのかわかる。知っている人間かどうかもな。変人や変態ほど魔力を隠すのがうまい奴はそういないし、普通に魔力を抑えてるくらいなら見つける自信はある」

「へー」

 私は感心して蓮を見つめた。

 以前にジニアさんも褒めていたが、蓮はどうやら魔力を見分ける才能があるらしい。

「悪用する人、多いの?」

「多いって程でもないけど、全くないわけじゃないな」

 私の問いに、残念そうな顔の蓮。

「物理的な魔法で何か破壊する奴もいるし、精神干渉的な魔法で人を惑わす奴もいる。ま、どの世界にも嫌な奴はいるって事だな」

「精神干渉って、記憶を操作できる催眠術みたいなって言ってたやつ?」

 先日聞いた話を思い出しながら小首を傾げる私。蓮は説明を付け足すべく、口を開いた。

「そう。姐さんに俺が魔法を使えることを忘れてもらったのとか、あと、ひまわりがジニアにかけられた幻影が見えたのも、その一種」

「へー、色々できてすごいんだねー」

「いまいちわかってないだろ、ひまわり。まぁ、いいけど」

 微妙な反応の私に、苦笑いを浮かべる蓮。催眠術のようなものというのはわかるが、魔法で何がどこまで出来るのか、それはさっぱりだった。

「ちなみに、今桜子にかけられてるのは……?」

「んー、そこまでは読み取れなかったけど、たぶん何か暗示的なものだろ。見たところ、変わった様子はないからな」

「そっか……」

 今回の桜子の事だけじゃなく、今までも蓮はあちらの世界の仕事もこなしてきたのだろう。

 仕事の話をする時、蓮はいつもより凛々しくて男らしい。誇りを持って働いているのだろう。

「ま、どんな物でも大丈夫。俺がなんとかするよ」

 安心させるように微笑んだ蓮は、優しさと包容力があった。

「なんか今の蓮、かっこいいかも」

「ふへ?」

 真顔で褒めると、妙な声をあげる蓮。

「いつもの蓮も好きだけど、働く男って感じでなんか男らしい」

「え……あ……どうも……」

 みるみるうちに首まで赤く染まった蓮は、しどろもどろにお礼を言う。照れを誤魔化すようにごくごくとカフェオレを飲み干す蓮。と、私から視線をそらせて外を見た蓮は、急に動きを止める。

 つられて同じ場所に目を向けた私の瞳に映ったのは、一匹の黒猫。ガラス張りのカフェの窓越しに、小さな子猫がトコトコとこちらに向かって歩いているのが見えた。

「ラウル……元気にしてるかな」

 子猫を見てラウルの事を思い出し、思わず呟く。

 自分の国に帰っているのだから元気じゃないわけもないと思うが、精神的に疲れてはいないだろうか……。

 傍まで来てガラスの存在に気付いたのか、邪魔だと言いたげに小さな手でペシペシとガラスを叩いている子猫を見ながら、少しだけ心配になった。

「元気だろ、絶対」

 ストローから口を放し、ミーミーと鳴いている黒猫を半眼で見つめる蓮。

「そうだといいけど……」

「どう見ても、元気いっぱいガラスを叩いてるけど?」

「え?」

 蓮の言葉に、私は驚いてまじまじと外にいる黒猫を見つめる。

 毛並みのいい、綺麗な緑色の瞳の黒猫。そして赤い首輪……。

 だんだんと不機嫌そうな鳴き声になり、片手で叩くのでは飽き足らないのか、器用に両足で立つと、早く出て来いと言わんばかりに両手でガラスをぺしぺしと叩き始める。

「あれ、ラウル!?」

 人間の姿で帰ってくるとばかり思っていた私は、驚きの眼差しで蓮に確認する。少々不機嫌そうに頷く蓮。

「ラウルの魔力は抑えられてるみたいだけど、首輪から変人王子の魔力がじんわりと……」

「えぇ!? じゃ、えっと……」

「いいよ、ひまわり。付き合ってくれたお礼にここは俺が支払っとくから、早く行ってやれよ」

 おろおろしはじめた私に、困ったような、でも優しい微笑を浮かべる蓮。

 私はお言葉に甘えて、鞄を肩にかける。

「ありがと、蓮。桜子の事も……」

「任せとけ」

 にっこりと笑みを浮かべて答えてくれた蓮に手を振り、不機嫌そうにお迎えに来てくれた王子様の下に、私は小走りに向かったのだった。

2013.4.22 23:17 改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ