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ペットな王子様  作者: 水無月
第六章:大人な王子様

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第34話

 深々とため息をつくと、頭を抱えていた蓮はようやく顔を上げた。

「とりあえず、ひまわりにかけた魔法さっさと解除しろよ。もう気が済んだだろ?」

 苦々しい蓮の表情に相反し、ジニアさんはにこやかな笑顔を蓮に向ける。

「今晩はこのままでもよいのでは? 別に害は無いですし、明日になれば魔法は解けてますよ。魔法を解くもめんどくさいですし」

「あーのーなー」

 最後の言葉が本音としか思えない返事に、半眼で睨みつける蓮。だがジニアさんは気にした様子もなく、今度はラウルに笑顔を向けている。

「それにラウル様。大人の姿に見えているほうが、男としてみていただけますよ。その方がいいですよねぇ。早く魔法が解けるかもしれませんし」

「よけいなお世話だ」

 賛同するかと思ったラウルだが、そう言って隣に座るジニアさんに冷たい流し目を向けた。優雅な仕種でティーカップを置くと、ゆったりを腕を組む。

「誰かの力を借りては意味があるまい。それに、今のオレ自身に惚れなければ意味がなかろう。真実の愛とは、見た目に左右されるものではないはずだ。大人のオレはさぞかしいい男だろうが、それは今のオレではないからな。まぁ、面白い魔法ではあるが、オレのためだとぬかすのはやめろ」

 ハッキリと言い切ったラウルに、ジニアさんはにこやかに笑んだ。

「ふふ。ラウル様は子供なんだか大人なんだかわかりませんねぇ」

 はじめて、ジニアさんの言葉に心の中で賛同する。

 確かにそうなのだ。ものすごく子供っぽいかと思えば、突然大人びた意見を言ったり、ラウルにはよく驚かされる。そこがラウルの魅力となっている気がしなくもない。

「それに、別にお前の力など借りずともこの魔法を解くことはできる。よけいな真似をするな」

「さすがラウル様。意味もなく自信たっぷりなところはお父上によく似ていらっしゃる」

 ジニアさんはそう言って、それは微妙に褒め言葉じゃない気がすると心の中で突っ込んでいる私に、笑顔を向ける。ちょっぴり嫌な予感がする私。

「でも、葵さんは見た目にめちゃくちゃ弱そうですけど?」

「悪かったですねっ!!」

 赤くなって言い返す私に、蓮は苦笑を浮かべ、青年ラウルは小さく嘆息した。

「まぁ、確かにそうだがな、オレはもとより見た目がいいから問題あるまい? それに、ヒナタアオイは芯はしっかりしておる。見た目に惑わされようとも、一番大切なことは間違えまい」

「ラウル……」

 否定してくれなかった事が少々悲しかったものの、そう思ってくれているラウルの気持ちは嬉しかった。

「とにかく、監視するのは自由だが余計な手出しをするな。ヒナタアオイにも干渉するでない。いいな、ジニア」

「かしこまりました、ラウル様」

 突然王子様らしい雰囲気をかもしだしたラウルに、ジニアさんは再び床に跪くと深々と頭を垂れた。ふざけていても、やはり王族には逆らえないということかもしれない。

 ラウルはそんな彼をじっと見つめると、次に私に視線を移した。

「これでよいか、ヒナタアオイ?」

「え? あ、うん」

 気遣ってくれたらしいラウルに、慌てて笑顔で返事をする。

 ジニアさんがどこかでいつも見ているかと思うと落ち着かないが、確かに一国の王子様となれば護衛がいても仕方がないだろう。お風呂とか着替えはラウルと離れてればいいわけだし、干渉してこなければ我慢できなくはない。

「では、今日は先に寝かせてもらうぞ、ヒナタアオイ。オレは疲れた」

 そう言って眠そうにあくびをするラウル。いつもの就寝時間よりだいぶ早いので、思わず首を傾げてしまう。

「いいけど、早いね、ラウル」

「今日は葵さんに褒めていただこうと、張り切ってお掃除してましたもんね。ラウル様」

「え?」

 慌てて辺りを見回せば、確かに朝よりもあちこち綺麗になっている気がする。帰ってきてから色々ありすぎて全く気づかなかった。

「ま、ずるして少し魔法を使っておりましたけど」

「余計なことを言うな、ジニア」

 ラウルはジニアさんを軽く睨むと、今度はすねた顔を私に向ける。

「仕方ないであろう。自分の力でやろうとすると、何故か余計散らかるのだ。仕方なくだな……」

「ありがと、ラウル。あと、気づかなくてごめんね」

 方法はともかく、その気持ちが嬉しかった。

 色々と迷惑をかけたと思ったから、何か手伝おうと頑張ってくれたのだろう。それなのに、気づきもせずにラウルの見た目に惑わされておろおろしていた自分を反省する。

 きっと、言う前に気づいて欲しかったに違いないのに……。

「別によい。では、先に寝るからな」

 照れを隠すようにぶっきらぼうにそう言うと、私に歩み寄ってくるラウル。

 ただのおやすみの挨拶かと思っていた私の顔に、綺麗な顔が突然近づく。

「のわっ!?」

 驚いて思わず横によけると、背中が隣に座っていた蓮に当たった。

「大丈夫か? ひまわり」

「だから、寝るといってるであろう?」

 気遣う蓮と、よけた私を不可思議そうに見つめる青年ラウル。

 私はようやく重大な事に気付く。

 そう、寝る=猫になるのが暗黙のルールなのだ。つまりは、今はどう見ても青年なラウルとキスをしなければならない。

「いや、無理」

 ラウルはラウルだとしても、今の姿ではさすがに唇へのキスは抵抗があった。

「別に、オレはこのままでもかまわないが?」

「それも無理」

 それじゃ、私が朝まで眠れそうにもない。

「今日は一人で寝て!」

「それは嫌だ」

 即座に断るラウル。

 ジニアさんは楽しそうに私達を見つめている。

「そうだ、蓮!」

「え? 何?」

 突然話をふられ、ちょっと驚いたような蓮。その手をぎゅっと掴む。

「今日、うちに泊まらない?」

「え?」

「で、一緒に寝て」

「えぇぇぇぇ!?」

 驚いたように顔を赤くする蓮。

「だって、ラウル一人で寝られないんだもん。一緒に寝てあげて! 今日だけでいいからさ」

 私の必死の願い事を聞いて、何故か爆笑しているジニアさん。蓮はなんだか情けない顔をしてため息をついた。

 結局、蓮と寝るくらいなら一人でいいとラウルが妥協し、一足先に弟のベッドで寝ることになり、ジニアさんはラウルが部屋を出ると同時にいつのまにか姿を消していた。

 その後、食べ損ねていた夕食を蓮と一緒にとり、蓮を玄関まで送って礼を述べると、ようやくこのおかしな一日が幕を閉じたのだった。

2013.4.17 20:13 改稿

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