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星野満の異世界転生・転移シリーズ

こんなはずではなかった!

作者: 星野 満

※「春のチャレンジ2025・学校」参加作品です。異世界転生ラブコメディです。

高齢者の梅子が突然、異世界の悪役令嬢バーブラに転生する。

転生した異世界は梅子が好んで鑑賞していた「マリリンは聖女の微笑み」の人気アニメの住人世界だった。

悪役令嬢に転生した梅子の行動は──。


※ 2025/12/9 タイトル 梅子婆さん異世界転生するに追加しました。

 ◇ ◇ ◇ 


 

 ここはライトファンタジー王国の貴族学院。

 二階の豪奢だがこじんまりとした生徒会室内。


「アハハハハッ、アハハハッ──!」


 何やらけたたましい男人の笑い声が廊下まで響き渡る。


「失敬、バーブラ、君がこんなに面白い娘だなんてねえ!」


「殿下、先ほどから貴方様は笑ってばかりですけど、私のどこがそんなに面白いのでしょう?」


「全てだよ。もう驚くほど全てだ、ゲホゲホ⋯⋯ああ失敬!」


 レッドフォード王子は笑い過ぎて咳き込んだのか、ナプキンで口元を吹いた(あと)乳紅茶(ミルクティー)の入ったティーカップをゆっくりと飲み干した。


「笑い話ではございません、殿下どうか私の話を信じて下さいませ!」


 バーブラの顔は必死の形相(ぎょうそう)となった。


「何度も申し上げているように、私は悪の令嬢なのです! なのでどうしても殿下が私を毛嫌いしてくれませんと、物語はスムーズに運びません()()()()()()!」


「クク……ほら面白い!」

 と、レッドフォード王子は更に満面の笑みとなった。


「一体どこの令嬢が、私は悪の令嬢などと呆けた事をいうのだ? それにバーブラ、また()()()()()がちぐはぐだよ」


「あら、ま、いけない私ったら!申し訳ありませんでございましたですわ、殿下!」


「ほらまた……アッハハハ!」

 

 レッドフォード王子は爆笑した。


 

 バーブラは、自分の言葉づかいに赤面する。そのまま椅子から跳び上がり、両手で口を押さえて(うつむ)いてしまった。


 レッドフォード王子は苦笑しながらも、バーブラを愛おしげに眼を細めて、彼女の全身を観察する。



 

 ──ふ〜ん、確かにアンリの言った通りだ。


 バーブラは以前とはまるで違う、何故こんなに変わったのか?

 あの女王の如くそびえ立つ“氷の公女(アイスレディー)”と影で呼ばれた人物なんて見る影もない。



 レッドフォード王子は腕組みをしながら、バーブラの変化に驚きを隠せなかった。


 

 だが王子には今の挙動不審のバーブラの方が、以前の時よりも好ましい女人に映っていた。

 

 彼の眼差しは赤面するバーブラを優しげに見つめる。


 彼女の変化には訳があった──。





 レッドフォード王子の婚約者バーブラ・ストライド公爵令嬢は、先月、自宅の公爵邸で転倒して頭打してしまう。


 頭部のケガは拳骨(げんこつ)ほどの(こぶ)だけで七日前後で完治したのだが、一部過去の記憶を忘れてしまった。

 

 バーブラを診察した医師は、頭部打撲による一種の記憶喪失傷害と診断する。


 バーブラの兄アンリが言うには──。


『妹は転倒してからおかしくなったんだよ。過去の記憶は覚えているが、貴族の所作や言葉遣いをすっかり忘れてしまったようだ』という。


 特にアンリが何より嘆いたのはバーブラの“姿勢の悪さ”であった。

 

 記憶喪失後のバーブラは、何故か背中を丸めて歩く。


『バーブラ、そんなオランウータンみたいな姿勢はよせ!もっと以前のように背筋をシャンと伸ばすんだ!』


 そう何度、兄のアンリが歩き方を注意しても、バーブラの姿勢はどうしても治らなかった。


 バーブラは邸内をそのままの姿勢でヨタヨタと歩き続ける。

 

 それはまるで『老婆が腰を悪くして背中を丸めて歩く姿そっくり』だと、アンリは嘆いた。



 

 ──ふふ、確かに。

 腰の悪い老婆とは言い得て妙だ、アンリは中々上手い事をいう。


 レッドフォード王子はアンリの言葉を思い出して笑った。


 確かにバーブラの後姿は老婆と見間違ってもおかしくない。



 だが目の前でしょんぼりしているバーブラを見ると可哀想になった。


「バーブラ、元気をだせ。僕は言葉遣いはプライベートでは気にはしない。だが、君の最後の言葉がどうも引っ掛かる」


「最後の言葉?」 


 バーブラは顔を上げて僕を見つめた。


「そうだ、物語がスムーズに運ばないと君は言ったね。それはどういう意味だい?」


 僕が質問をした途端に、バーブラの顔は急に晴れやかになった。


「はい殿下、お答えしますわ!この世界は現実ではなくて()()()()なのです!」


「は?」

 

 またしてもレッドフォード王子は、己が爆笑したくなるのを必死に耐えた。


 ──駄目だ、腹がよじれそう⋯⋯


 だが待て、ここで笑ったら彼女が腹を立てるぞ!我慢だ。


 レッドフォード王子はなんとか堪えた。


「バーブラ、君は何を言っている、白昼夢でも見たのかい?」


「いいえ殿下! 白昼夢などではございません。私の意識は恐ろしいくらい、ハッキリ()()()()()()()()!」


「クッ……バーブラ、確かに君は頭を打ってから人が変わったね。その、アンリが云うには妹がとんでもない()()()をしたとか……」


「はて? とんでもないお願いなどと、いつ私が兄に申しましたかしら?」


 きょとんとしたバーブラの顔を尻目に、レッドフォード王子は両手を組んで、バーブラ風にモノマネをし始めた。



「『おお、アンリお兄様! 私は悪の令嬢として多くの罪を院生たちに犯してしまいました。学院卒業後、すぐさま山奥の修道院へ追いやってくださいまし。さすれば私は、日々懺悔しながら余生を過ごしとうございます』って、アンリに君はいったそうじゃないか」


「ああ、その事でございますか……」

 

 バーブラは口を窄めて何を分かり切った事を、という冷めた顔になる。


「アンリはカンカンに怒っていたが本当なのか?」

「はい、仰る通りですわ」

「修道院に行くと言ったのも本気なのか?」

「はい、仰る通りですわ」


 レッドフォード王子はバーブラの返事を聞いて()()になった。


「はあ?やはり君は頭を強打してからおかしくなったんだな。そもそも父上のストライド公爵はその事をご存じか?」


「いえ、父にはまだ話しておりません。これから折をみて嘆願いたしますわ」


「ふうむ……」


 レッドフォード王子はバーブラの堅固な表情を凝視した。


 ──これは不味いな、どうやら彼女は本気だ。

 これはどうにかしないと。


 流石の彼も、先ほどとは打って変わって真剣な面持ちになった。


「いいかね、バーブラ。そもそも僕たちの婚約は子供の頃、親同士が決めた事だ。勝手に婚約解消できないのは君も重々承知だろう?」


「はい殿下、もちろん重々承知しております。ですから殿下から国王様に直接、マリリン嬢を見初(みそ)めて気が変わったと申し出てください。そして私たちの婚約解消をとっとと進言してくださいませ!」


「はあ、とっととだって?」

 

 レッドフォード王子は呆気にとられた。


「バーブラ、君は正気か?」


「はい。至って正気ですわ!」


 彼女はまっすぐな瞳で答える。

 

 ──はあ?そもそもマリリンて誰よ?


 王子は見知らぬ令嬢の名前に戸惑う。


「おいおい、冗談ではないぞ。第一マリリン嬢なんて僕は知らない。この学園にいるのかい?」


「はい、この春、高等部の新入生で入学したマリリン・モンモン嬢ですわ」


「あ⋯⋯()()()()は聞いた事はある。新入生のモンモン男爵家の令嬢か」


 確かに思い当たる節が王子にはあった。


「はい、左様でございます」

「そういえば……僕の護衛騎士たちが令嬢の事を()()()()で話してたな」

「ダジャレ?」


「ああ確かあいつらが『あの娘さあ、見るからにモンモン腰をプリンプリンしている。名前通りのモンモン体型がいいねぇ!歩く度に(そそ)るよなあ!』と噂してたグラマーな令嬢だろう」


 王子は柄にもなく騎士の真似をして(おど)けて言った。



 ──おっと、なんだか不味いな、今日の僕はおかしいぞ。


 どうも最近、バーブラといるとこんなダジャレや馬鹿げた会話が、自分の口からポンポン飛び出る。


 可笑しいだろう。

 一応、僕はこの国の第一王子だ、これでは威厳も尊厳もあったものではない!


「オッホン!」


 と、王子は己の精神を切り替えるかのように、大きな咳払いを一つした。

 

 こんな会話してる場合ではない。

 下世話なお付の騎士と同類では余りにも情けないではないか。王子たるもの、自ら戒めねばと襟を正した。


 しかし、バーブラは王子の内心とはお構いなしに瞳を煌々と輝かせて言った。


「そうですわ、殿下!そのグラマーなモンモン令嬢様ですよ。マリリン・モンモン、彼女こそ貴方様の運命の女神なのです。この国を救う救世主の御方です!」


「は、モンモン令嬢は救世主だと?」


 流石の王子も眉間をピキピキさせた。


「バーブラ、戯言(ざれごと)はいい加減にしろ。これでも僕はこの国の王位継承第一位だ。一介の男爵令嬢と結婚なんて無理に決まっているだろう!」 


「う……まぁ、そうですが⋯⋯」


 王子がにべもなく婚約解消を否定したので、バーブラの瞳は曇った。


 暫し二人の間に重たい空気が流れた──。



◇ ◇



 レッドフォード王子は不可思議でならなかった。


 怪我する前のバーブラは、影で氷の公女と揶揄(やゆ)されるくらい常にクールだった。


 プラチナブロンドの滝のように腰迄流れる髪。

 陶器のように滑らかな白肌。

 少し吊り上がったシルバーグレーの瞳。

 黙ってればまさに絶世の美女。


 背も高くスッと天井から糸で吊ったような姿勢の良さ。

 

 バーブラは、いついかなる時でも、常に雪の女王のように威風堂々としていた。

 

 何より今までのバーブラなら、王子の目の前で赤面して『殿下、お願いです!』なんて依頼事など決してすまい。


 それにグラマーなどと市井しせいの下品な言葉を吐いたが、本来のバーブラならその言葉事態、いや意味すら知らぬはずだ。


 

 ──そうだ。そもそもバーブラと、こんな忌憚(きたん)のない会話など、これまで一度としてなかった。


 レッドフォード王子はバーブラとの過去の歳月を想起(そうき)した。





※※レッドフォード王子の目線※※


 

 バーブラ・ストライド公爵令嬢は幼き頃から常に冷静沈着で物静か。たまに笑う時も口角を少し上げる微笑(びしょう)のみ。

 

 笑い声すらも、はしたなき事と幼い頃から教育されてるのか小さくおほほ……と上品に微笑むだけ。

 

 まさに氷の公女(アイスレディー)だ。


 なおかつ周りの人間が思わずゾッとする、残酷な仕打ちを平然とする女でもあった。それも己の手を使わず、自分の取り巻く令嬢に陰で指示をする。

 

 そんな黒い噂は僕の耳にも少なからず届いてはいた。

 

 正直、親同士が決めた政略結婚でなければ、バーブラを(きさき)にしたいとは微量も感じなかった。


 ただ初めてバーブラを見た時は、その少女らしからぬ余りの美貌に見惚れた。


 プラチナブロンドの髪、シルバーグレーの瞳の少公女は飾り人形のように綺麗だったからだ。


 多分、思えばあれが僕の初恋だったのだろう。

 

 だが、それは呆気なく、脆い硝子のように簡単に砕け散った。


 その後、僕とバーブラは数回、王宮で茶会をして分かったが、彼女は美しいだけの氷の人形(アイスドール)そのものだった。


 対話をしてみれば彼女は本物の人形だった。

 人間らしい温かさやユーモアなど欠片もなかった。


 貴族らしい表面上のおべっかはあったが、同じ言葉の反復のみ。己の感情など微塵もなかった。


 一応、表面的にバーブラは僕に対して一見思いやりのある優しい言葉をかけてはくれたが、それは臣下が王子の地位に平伏した形式的な言葉でしかなかった。


 ──この令嬢には心がない。


 いや、邪悪な心はあったな。

 そう高慢と偏見が非常に強い女だった。

 

 下々の王民を見下し、特に爵位には(いた)く敏感で、後ろ盾のない子爵以下の貴族たちを軽んじているのが言葉の端々(はしばし)に垣間見えた。

 

 二人の会話はいつも儀礼的なもので、僕はバーブラといると、どうにも窮屈で退屈で仕方なかった。



 それでも僕はバーブラとの婚約を了承した。

 

 何故なら筆頭公爵家との縁を繋いでいくのは、王族の強いては王国の安泰のためだと、幼き頃より王族たちからも、教師からも帝王教育をされてきたからだ。


 たとえ決して愛情を持てない()()()でも、王妃の役目を果たしてくれればそれでいい。

 

 僕自身の願望などそこには入れない。

 

 僕は王子だから、自由な平民ではない──。

 

 巷で聴くロマンチックな愛情結婚や、温かな夫婦の睦まじさなど、それらは下々の者たちの自由な特権であり、国を守る未来の王たる者、私情は禁物と戒めなければならない。


 世迷言(よまいごと)など贅沢に過ぎぬ、と僕は己の憧れを敢えて抑制した。



※ ※



 そう、何年もずっとそう思っていたのに……。

 

 だが──それがいまはどうだ?


 これまでずっとバーブラは氷の女だと思っていたのに、あろうことか頭部の怪我が回復して、学園に戻ってからの彼女はまるっきり別人になっていた。



 ──おい、この女は本当にあの氷の公女なのか?


 最近のバーブラは学園内に至るところで僕の前に神出鬼没に現れる!


 それもほぼ毎日だ──。

 

 中庭を散歩してる時も鉢合わせするし、昼食で食堂に出向けばバーブラは僕の席をわざわざ取って待っていた。


 あろうことか高等部の王子の教室まで来るや否や、彼女は屈託ない笑顔でそう、過去に一度たりとも王子が見た事のない愛らしい微笑みで、楽しげに話しかけてくるのだ。


『おい、見ろよ。バーブラ様がとても可愛らしく殿下に話しかけてるぞ⋯⋯』

『へえ、ずい分と珍しいこともあるものだな……』

『おいおい、今夜は季節外れの雪が降るやもしれんぞ!』

 

 見ていた僕のクラスメートたちも、バーブラの僕に対する行動にひそひそと噂話をするほどだった。



◇ ◇



 いつしか生徒会室の窓から美しい紅色(くれないいろ)の夕日が輝き、部屋中に陽光が差し込み始めていた。

 

 ようやく面倒な資料整理が済んで、僕とバーブラは休憩と称して遅めのティータイムをした。


 バーブラは杏子(アンズ)ジャムのついたビスケットを食べながら、時折じっと僕を見つめる。

 

 ──またかよ。


「バーブラ、さっきから何だ?」

「あ、いえ⋯⋯何でもないですわ」

 

 バーブラは慌ててビスケットをもぐもぐと()()()のように咀嚼した後、お茶をクビっと飲む。

 

 彼女の充血した瞳は宙を浮き、酷くおどおどしている。



 ──はあ、さっきからこの会話、何度目だよ?


 僕は面食らった。


 バーブラは僕と目が合うと、慌ててササッと目を逸らす。

 

 この挙動不審は僕にはしごく見慣れて、常に経験済みだった。



──そうだよ、これではまるで他の令嬢たちと同じようにバーブラは『僕の乙女』ではないか!


 『僕の乙女』と称したのは、自分を憧れの対象の(まなこ)で見つめる学園の令嬢たちを意味していた。


 明らかに彼女は僕を異性として意識している!

 

 とても信じられん話だが、()()()()()()()が目前にいた。



 ──おいおい、常に冷酷無情の『氷の女』は何処へ消えた?


 この数日間、彼女の突然の変化に僕は、何やら胸の鼓動がドキンドキンと高鳴るのが、どうにもむず痒くて堪らなかった。


 と同時に彼女の不可解な行動と対話は、この上なく楽しいものへと変化しているのも分かった。


 転倒時、頭打してからというもののバーブラの行動が余りにも奇抜でユニークすぎる。


 

 老婆のような猫背の姿で、突然『我は悪の令嬢ぞ!』と自ら揶揄(やゆ)したり、意味不明な絵空事はするわ、公女らしくない敬語を連発したりするわ、

果ては今のように頬を染めて挙動不審でおろおろする。


 ──面白すぎるだろう!

 

 最近の彼女を見ていると僕は飽きない、それどころかずっと彼女を見つめていたいくらいだ。

 

 僕はバーブラの全てのリアクションがおかしくて、毎回笑いを堪えるのに必死だ。



 ──しかし、王子たる者、舐められては如何(いかん)如何(いかん)


 王子として厳然たる尊厳を失くしてはならない。


 僕は気を引き締めるように「コホン」と小さく咳きばらいした。



「バーブラ、さっきの話だが、何故マリリン嬢を僕の(きさき)にしなければならないんだい?」


「え? 殿下、その事をまた話してもよろしいのでしょうか?」


「ああ、君がそこまでマリリン嬢に(こだわ)るのがどうも気になってね」


「ありがとうございます、殿下!」


 バーブラはマリリンの事を聞かれて、再び明るい表情になった。


「殿下、マリリン様はこの王国のヒロインとして生まれついた令嬢なのです。彼女には聖女のパワーがありますわ!」


「聖女のパワー?」


「そうですわ」

 バーブラはスッと席を立った。


 珍しくバーブラのシルバーグレーの瞳が、以前の氷の女の冷酷さに切り替わった。


「!?」


 僕は一瞬ゾッとした。


「殿下、驚かないで聞いてくださいまし。近い将来、王都は大天災に見舞われます!」


「!──何だと?」


「駄目です殿下、私の話を最後までお聞き下さい!」


 バーブラはシルバーグレーの瞳をカッと見開き、眉間にしわを寄せて王子を睨んだ。


「あ⋯⋯すまん」


 バーブラは王子を窘めた後、静かに目を瞑る。


「それは千年に一度という、滅多にない大災害なのでございます。多くの市井の者たちが、川の氾濫で水害に遭ってしまいましょう」


 バーブラはソネット(定型詩)を詠むように抑揚(よくよう)をつけて語リ始める。


「──その時、突如、女神の如くマリリン嬢が白い衣装を纏って市井の広場の登壇に現れます。彼女が不思議な呪文を唱えると、みるみる内に王都の水が河に戻されていくのです。──そして民たちはその光景を目の当たりにして大歓喜します。その後マリリン様に向かって『王国の大聖女様!』と口々に崇めたてまつるのですわ!」


「⋯⋯⋯⋯」

 

 王子は口をポカーンと開けて呆けた。


 だが、お構い無しにバーブラの口上は続いていく。



「──その後、市井の女神となったマリリン嬢と貴方様は、運命の如く出会い惹かれ合うのです。──そしてめでたくご結婚されます。殿下は王妃となったマリリン妃の介助で、より一層王国中から“偉大なる堅王”として未来永劫、讃えられるのです!」


 バーブラは細い手を高々と振りかざして、何故だか体をくるりと一回転した。


「!?」


 突然、バーブラはそのままの状態で、僕が一度も見たことのない踊りをした。


 まるで舞台照明を浴びた女優さながら、彼女は不思議なへんてこな舞いをする。


 しかもその姿は余りにも不恰好すぎて滑稽だった。


 まず何よりもバーブラは猫背すぎた。

 

 それもヨタヨタとバランスを崩し、時にはふらついて両手を左右に掲げて踊っていた。


 もう、その踊りは踊りと呼べるしろものではない。

 どこかの東洋の民のような踊りであった。


 ──あ、もう駄目だ!


「ぶっ、ぶぶ──!」


 僕は溜まらずに吹きだしてしまった!


「ぶぶぶ?」

 

 悦に浸っていたバーブラも、僕の苦笑で我に返る。


「ぶっははははは!──あはははは──!」



「もうやめてくれバーブラ、そのおかしな踊り、腹がよじれる!ひーっ、あははは!」


 僕はこれ以上我慢するのは無理だ、と言わんばかりにひーひー大爆笑した。



◇ ◇


※※バーブラの目線※※



──嫌やわ、()()()()、日頃の金髪碧眼、端正なお顔はどこへいったんや? 


 この人、ホンマによう笑うお御人(おひと)やわ。とっても笑い上戸なんやねえ~。


 何故かバーブラの体内から、老婆のしわがれ声が聞こえてくる。


 バーブラはずっと笑い転げる王子の姿を見てゲンナリした。

 

 レッドフォード王子の爆笑は中々収まらない。


「ぶっははは!──あははは!」


 私は少々、不貞腐(ふてくさ)れて言った。


「あの〜殿下。楽しそうな時になんですが⋯⋯そのご様子ですと、私の話を信じてませんわね?」


 「クククッ……悪い、すまん」


 レッドフォード王子は涙を流して返答した。


「ククッ、だがバーブラ、君は一体何だね、新手の預言者か? 本当は君こそ“聖女”なんじゃないのか、イヒヒヒッツ! 駄目だおかしくてたまらん!」


 王子は再び私のキョトンとした顔を見て笑い転げる。


「いいえ、いいえ殿下、これは笑いごとではございませんのよ! 私は大真面目にマリリン嬢の話をしたのです」


「わかった、わかったすまん。君が余りにも悦に浸ってる姿がおかしくて、それにとても可愛くてな!」


「は、可愛い、私が?」


 私は意外な王子の言葉に頬が火照った。


「あ、いやその⋯⋯大笑いしてすまなかった」

 

 王子はようやく我に返った。


「──そうだな、実際の話、王都の河川側は街沿いになっている。大嵐がくれば水害のリスクは高い。以前から問題視していたのだ。マリリン嬢が聖女としての力が本物ならば、大いに役立つだろう。だが一つ質問したい。どうして僕が彼女と結婚しなくてはならない?その根拠を教えて欲しい」


 レッドフォード王子は真面目な顔に戻って、私の話を真摯に聞こうという姿勢を感じた。


 この人は王子とは思えないくらい優しい方だ。

 ホントに優しい御方だわ。


 なせか、私は心がズキズキと痛みだした。



 ──あ⋯⋯もう、この方に嘘つくのは無理。


 私は良心の呵責に苛まれても観念した。


「殿下、分かりました! ()()()()()()()()


「え、ならばよござんす?」


「わたしは降参致しました!もう隠さずに、こうなったらすべて私の世にも不思議な秘密をお話しますわ!」


「バーブラ……何だよそれ──」


 王子は私の素っ頓狂な言い回しに面くらったが、彼の顔は楽しげに私を見つめた。


 まるでこの先、私からどんな楽しい話が飛び出すのか、王子は面白くて仕方がないのだろう。

 

 そんな王子の気持ちを私は痛いほど感じた。



 ──この方なら、もしかしたら私の荒唐無稽な話を信じてくれるかもしれない。


 私は自分の過去を一つ一つ、他人の人生のようにかいつまんでレッドフォード王子に説明話した。




 ◇ ◇



 バーブラ・ストライド公爵令嬢。

 今年で十六才となる。


 貴族中等学園の三年生で、三学年上にはレッドフォード王子と兄のアンリが在籍していた。


 一般教科も社交ダンスも優れており、生徒会の役員でもある。

 

 バーブラは他の学年の令嬢からも一目おかれていた。


 元々彼女は感情が乏しい──。

 王子との中はあくまでも形式だけの関係だった。


 生まれた時からバーブラは、王妃になるのは当たり前と公爵家から教育されていた。


 なので同年代の令嬢たちがいくらレッドフォード王子の麗しき姿を崇拝しても、バーブラはとんと無関心だった。氷の女王のハートは、王子自身に対して愛情も執着も何もなかった。


 それならば、彼女の今の劇的な変化はどうしてか?


 頭部強打してから王子が接したバーブラは、別人としか言いようがない。


 そう、バーブラはバーブラではなかった!


 転倒した時、()()()がバーブラに憑依したのだ。




 女の正体は蔦屋(つたや)梅子(うめこ)

 異世界からきた二十一世紀の人間。 

 国籍:日本。 年は七十歳。 ついでに繰り下げ年金生活者一年目。

 

 二十歳で結婚、一男一女を(もう)ける。

 地方の建売住宅で一軒家をローンで購入。梅子は専業主婦をしていたが四十代で夫が急死。


  その後シングルマザーとして六十九歳まで地元のデパート地下街で販売員を続けて、苦労して子供たちをなんとか大学まで行かせた。


 現在は子供らもそれぞれ結婚し、所帯を持ち独立していった。


 梅子は住んでいた家を売却し、子供達のいる街に引っ越しをして近くの都心のマンションを借りて一人暮らしを始めた。

 

 時々、長男の子供が梅子に良くなつき、息子夫妻が多忙の時は孫娘の面倒をよく見ていた。


 しかし梅子は最近骨粗鬆症(こつそしょうしょう)で背骨がひどく曲がってしまう。


 ある日の事、梅子は杖をつきながら街を歩いていたが、転倒して頭を強打した。

 

 そのまま意識不明となり直ぐに救急車で運ばれた。



 梅子が目覚めると、そこは日本の病院ではなく絢爛豪華(けんらんごうか)な部屋だった。

 

 天井には西洋の神々が描く荘厳なる宗教画が見えた。


 梅子は体を起こして恐る恐る豪奢な部屋の中を歩く──。


 銀の鏡台に映る姿を見た梅子は、自分がバーブラに転生したのだと悟った。



 ──ああ、ここは私の良く知っている世界なんだと。


 梅子は直ぐにわかった。

 なぜ梅子が異世界と分かったのか?


 プラチナブロンドのシルバーグレーの美少女。


 そう、バーブラは梅子にとってよく馴染のある顔だった。

 

 梅子はこの世にも稀なる美貌の令嬢は漫画の「マリリンは聖女の微笑み」のバーブラ悪役令嬢のキャラクターだと、脳内に刻まれていたからだ。


 この漫画は若い女性を中心にヒットして、見事にアニメ化や実写映画化された作品だった。


 愛読者の間では「マリ笑み」の愛称で親しまれており、年配の梅子も孫娘とアニメや映画を見ている内にドハマリしてしまった。


 なにせ梅子のハマり具合はオタクばりに凄く、原作本やグッズまで購入して、何度となく読み返して主要キャラクターの名前も殆ど覚えてしまったのだ。




 「マリ笑み」のあらすじはこうだ──。


 聖女の魔力を持つヒロインの男爵家の娘マリリンが、貴族学園に入学してレッドフォード王子に見初(みそ)められる。それ以降、王子の婚約者バーブラ令嬢から執拗にマリリンは(いじ)めにあいながらも、自らの聖女の魔力で危機を脱しバーブラを失墜させる。

 

 最後はレッドフォード王子とマリリンが、めでたく挙式となるハッピーエンドのお伽話だ。



 初め、梅子は異世界転生した当初は悪役令嬢のバーブラが、氷の公女と言われるほど美麗だったので、元々好きなキャラクターだった。


 当初は何とか彼女の悲惨な未来をどうにかして変えれないかと、その為のあらゆる行動をして努力した。


 だが転生したとはいえ、梅子の脳は七十代の高齢者である。

 

 デパ地下で六十九歳までひたすら遮二無二(しゃにむに)、働いてきた梅子だ。何より彼女は貴族ではなく、使用人の立ち位置で数十年生きてきた。


 

 一応、長年働いた職業柄、敬語は一応できるものの公爵令嬢の所作やダンスはとても無理だった。よる年波には勝てないとは良くいったもので、梅子はダンスに(さじ)を投げた。


 また精神的側面で梅子を疲弊させたのは、貴族の社交界だった。

 

 上流階級の人々が互いの権威を誇示し合う、支配階級の魑魅魍魎の世界が梅子には、とんと馴染めなかった。


 実際、梅子が異世界を実体験して分かった事は、アニメや実写で外側から見ていた異世界と、現実に生きてる異世界とでは全く勝手が違ったのだ。



──とてもではないが私は高貴なバーブラ公爵令嬢などとうてい生きれない。


 今は記憶喪失症とみなされていても、このままでは老婆の梅子の本性が如実に表れて、外見の美女のバーブラと酷くアンバランスすぎて、周りの人々から薄気味悪がられるだろう。



──はて、どうしたものか?


 梅子は思案した。

 

 その結果、梅子が(ひらめ)いたのは最初から観念して、バーブラは頭がおかしくなったと修道院に逃げ込めば、マリリン嬢や殿下も命だけは取られないかもしれない。

 

 追放されれば、過去のバーブラを知る者は誰もいない。もっと気楽に生きられる。


 そもそも長年庶民で生きてきた梅子には、豪奢な王族生活はとうてい性にあわなかった。


 更に梅子は考えた。



 ──そうだ、それならばいっその事、二人のキューピッドに私がなればいいのではないか?


 マリリンとレッドフォード王子の仲を取り持てば、彼らから同情されてバーブラの悲惨な最期は免れるやもしれない。



 こうしてバーブラ(梅子)は正直に王子にこれまでの説明を終えた。



 ◇ ◇



「以上が私の世にも不思議な話でございます。殿下、信じていただけましたでしょうか?」


「⋯⋯⋯⋯」


 レッドフォード王子は長椅子に腰かけて、バーブラ(梅子)の話を無言で聴いていた。


 その表情は先ほどの茶化されていた時とは違って、口をへの字に曲げて怒っているように見えた。


「…………」


 レッドフォード王子が無言のままなので、バーブラは不安になったが再び哀願した。


「殿下、お分かりになりましたでしょう? 中身が七十の老婆では殿下との結婚は無理でございます。たとえ外見が若くても、中身の精神が追いつきません!」


 最初、王子は七十という言葉に体がピクっと反応したが、突然立ち上がるといつもの爆笑を開始した。



「あはは!バーブラ、長々と摩訶不思議な創作話、君が高齢者とは!なかなか面白かったぞ!実に愉快だったあははは!」


 レッドフォード王子は腹を抱えて笑いが止まらない。


「だが、悪いがとうてい信じられんな!」


 

 

 バーブラの顔は情けなさそうに歪んでいく。


 ──やはり殿下は私の話を絵空事だと思っているのだ。


 バーブラ(梅子)は王子の反応に落胆したと同時に、心の声の梅子がぼやいた。



(そうさな、けれども殿下さんよ。こんなケラケラと笑い上戸で、あんたはんは大丈夫なんかね?──将来国王となる御方が、こんな呆けた人では、国の政務を果たせるのじゃろか?)とも。


 

 ようやく笑い終えた王子は言った。


「バーブラ、正直に言おう。君の話を直ぐに信じろといってもとても無理だ、余りにも荒唐無稽すぎる。君が別の異世界からきた老婆だなんて無理⋯⋯それはその外見からは⋯⋯やはり信じられん……悪いがバーブラ、僕にはとても無理だよ」



──あらら王子さんは三度も無理と言ったね。


 まあ無理もない。


 信じろというのが土台無理な話なのだ。


 バーブラははぁと、大きな溜息をついた後で、


「ええ、信じてくれるとは半分も期待してませんでした。ですが貴方様が信じようが信じまいが、私が話した内容は真実でございます──このマリリン嬢が主役の物語の結末は悲惨なのです。バーブラ嬢が、殿下から婚約破棄を言い渡されて、プライドをズタズタにされて嘆き悲しみます。最期に彼女が自ら()()()()()だけは、私は避けたいのです。──どうか殿下、バーブラ嬢に御慈悲を与えてやってくださいまし。せめて修道院だけでも行かせてあげて下さい。」


「バーブラ……」


 梅子は自分を凝視する王子から、敢えて俯いて目線を逸らした。


「それでは私はこれで失礼致します」


 深々と王子に一礼してバーブラは生徒会室を出ようとした。


「待て!」


 王子はバーブラの手首をぐいっと強く掴んだ。


「殿下!」

「だめだ、バーブラ、君は僕から逃れられないよ!」


 手を掴まれたバーブラは一瞬驚いたが、危険を察知したのか、燃えるような氷の冷たい眼でレッドフォード王子の顔を睨みつけた。


「そんな氷の眼をしても無駄だ!」


そういってレッドフォード王子は爛々(らんらん)と輝くバーブラの瞳を、愛おしそうに見つめた。


 彼の碧い瞳が初めて男らしく、妖しげに煌めいてるとバーブラは思った。


「殿下……」

 

「君が率直に話したから僕も率直に言おう。僕は昔からバーブラには、ほとんど関心はなかったんだ」



「はぁ……でしたら話は早いです。私との婚約解消するのは願ったり叶ったりなのでは?」


 バーブラは王子の手を無理やり振り払って、(のが)れるようにドアへと歩きだした。


 ()()は『バーブラに関心がない』と殿下の答えを聞いて、なぜか『自分に関心がない』と言われたようで、切なくなった。


 目には涙が溢れそうになったので、目頭を押さえて、ドアに手をかけた。


「待てよ!話はまだ終わっていない」

 と、レッドフォード王子は、バーブラの肩を強く掴み、そのまま無理やりドン!と彼女を部屋の壁に押し付けた。


「きゃっ!」


 バーブラ(梅子)は突然王子の荒っぽい行動に悲鳴を上げる。


「バーブラ、どうか僕の話を聞いてくれ!」


「壁ドン!?」

 

 思わず梅子の声が口から零れ(こぼ)出た。


「壁ドン?」


「あ、いえ……何でもありません。どうか離してください!」

「駄目だ、逃がさないといっただろう?」

「ひ、殿下……」

「いいから最後まで僕の話を聞いてくれ、どうか頼むよ⋯⋯」


 殿下がバーブラ(梅子)の顔に自分の顔を寄せて、彼女の耳元に囁く。


「は、はい……」


 バーブラ(梅子)は耳たぶに王子の熱い吐息を感じて心臓がドキドキした。


「確かにバーブラは昔からとても美人で麗しかった。だが“氷の公女”の表情は冷たすぎて、僕は彼女と接するといつも心が凍りついた」


 王子の顔は、これまで梅子が見た事もないほど苦しそうに顔を歪めた。


「──僕と会話しても、バーブラは『左様ですか』『殿下のご自由に』『私はかまいません』とおざなり程度の返事ばかりだ。あの女は何ひとつ僕自身に関心を示さなかった。正直僕はそんなバーブラが大嫌いだったんだ!」


 バーブラ(梅子)は『バーブラが大嫌い』と言われて、心がチクチクと痛んだ。


「だが──君は違う。君は僕の言葉に真っ赤になったり、急に青褪(あおざ)めたり表情をくるくる変えるじゃないか!まさか、氷のようなバーブラが僕の言葉ひとつで顔色が変化するとは!」


 レッドフォード王子はふるふると首を振った。


「聞いてくれバーブラ、君は意外かも知れんが、僕が笑い上戸など以前のバーブラはこれまで、そう僕の事など何一つ、知らなかったんだ!」


「⋯⋯殿下」


「分かるかい?──君の前だから僕は思い切り馬鹿笑いができるんだ! 君の表情は目まぐるしいほど生き生きとして面白くて凄く愛らしいんだよ!──僕は君といると楽しいから自然にこうして笑えるんだ! バーブラ、いや()()!」


「はい?」


「どうやら僕は君を愛してしまったらしい!」


「!?」


 バーブラ(梅子)は胸が詰まって何も言葉が発せなかった。


「だから君との婚約は絶対に解消しない!ずっとこれから先も君は僕のものだ!」


「で、でも殿下……それではこの王国は滅びて……」


「迷信だ、戯言(ざれごと)だ。僕は信じない!」


「けれど……マリリン嬢は聖女様です」


「そんなの、別に結婚しなくたっていいではないか──聖女なら王都の聖教会で大いに職務を果たせばいい。本物の聖女ならば、見返りなく民の奉仕に役立ってくれるだろう」


「それは……そうですけど……」


 バーブラ(梅子)は王子が自分の耳元で、甘く囁くので顔が茹蛸(ゆでだこ)みたいに真っ赤になっていく。


「それに……君の話が正真正銘の話ならばもう運命は変わっただろう?」


「え?」


「考えても見ろ、君の心は、“老女の梅子”から今は“バーブラ”に転生したんだろう!」


「あ、そう言われると確かに……そうですね……」


「ならば、バーブラは既に悪役令嬢ではない。優しく思いやり溢れた令嬢に変身したではないか!」


 バーブラのシルバーグレーの瞳がキラキラと揺れ動いた。

 同時にバーブラを見つめるレッドフォードの王子の碧い瞳も煌めく。


「あ……あの殿下……」


「ああ、もう互い黙ろう。僕も喋りすぎた!」


 

 王子は壁ドンから、バーブラ(梅子)の体を自分の体にぐっと引き寄せて抱きしめた。

 

 そのまま有無をいわさずに、王子の唇がバーブラ(梅子)の唇に(ふた)をした。


「!」


 バーブラ(梅子)は思わず息が止まった。


 

 そのままバーブラ(梅子)は抵抗もせず、レッドフォード王子にされるがままに(まぶた)を閉じ始めていく。


 バーブラ(梅子)はドキドキと胸の鼓動を感じながら観念した。




──()()()()()()()()()()()



 何故だ、どうしていつの間にこんな事になってしまったのか?


 多分、もう梅子(わたし)は殿下からは、二度と逃れることはできないだろう。


 そう梅子は確信した。



 脳内から梅子のしわがれ声が聴こえてくる。


( なんとまあこの異世界という所は、年寄には余りにも“甘美な世界”じゃないの! )


 梅子の異世界物語はここからがスタートだった。



 


──完──






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読みにきましたー♪(*^^*) ちょっと〜!めちゃくちゃ面白いじゃないですかw バーブラ(梅子)の素朴なところ、素直なところ、腰の曲がってるところ、全部含めてレッドフォード王子は恋してしまったんですね…
素敵!素敵です! 梅子さんがバーブラになってしまっても、中身がちゃんとお婆ちゃんなところがポイントです。可愛いし、笑えます。 きっとこれからバーブラに心がなじみ、王子の愛で若返っていくのだと思います!…
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