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俺はSSSレア転生特典をひた隠す。  作者: 戸津 秋太
第一章 領都セントリッツ編

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第45話 告白

 こんな真夜中に二人きりで話せる場所としてハイドが指定したのは、彼が借りている宿の部屋だった。


「お、お邪魔します……」


 ハイドに続いてヘレネーが緊張した様子で部屋に入ってくる。

 心なしか顔も赤い気がした。


(……流石に緊張する。というか、俺の緊張がヘレネーさんにも伝わってしまっているんだろうな)


 差し出した椅子にかちんこちんになって座るヘレネー。

 そんな彼女の正面に位置するベッドの端に腰を下ろしたハイドは、これではダメだと気を引き締め直す。


 ハイドは今からヘレネーに自分の正体を明かすつもりだ。

 すなわち、ハイド・リューゲンとしての姿。


 全幅の信頼を向けてくれるヘレネーに、偽りの姿であるショウのままパーティを組むわけにはいかないと思ったのだ。


 とはいえ、躊躇いがないと言えば嘘になる。

 この場に彼女を招いてもなお、すぐには切り出せずにいた。


(そういえば、ヘレネーさんも話があるって言ってたよな)


 先に話をしてもらおうかと逃げの思考に至り、ヘレネーの顔を見る。

 すると彼女もこちらを向いていて、パッと顔を逸らされてしまった。


 気まずい沈黙が流れ、やがてハイドは意を決する。


「あの」「ええと」

「「――ッ」」


 お互いの声が被る。

 二人は顔を見合って固まった。


「えと、ショウから先に話して」

「す、すみません……」


 あたふたと譲り合いながら、ハイドは改めて口を開く。


「その、ヘレネーさんには色々と話しておきたいことがあって」

「う、うん」

「その一つ目が、実は俺にはぜん――――」


 ――前世の記憶がある。


 そう話そうとした瞬間、まるで金縛りにでもあったかのように全身が硬直した。

 紡ごうとした言葉が喉元で突っかかって出てこない。


「ショウ……?」

「っ、い、いえ、その……」


 心配そうに覗き込んでくるヘレネーに曖昧な笑みを返しながら、今し方の現象を分析する。


(なんだ今の。まるで前世のことを話そうとした瞬間、それを咎めるような。いや違う、正確には話せない(・・・・)


 そこまで思い至って、ハイドは神様との会話を思い返す。

 もう随分と以前のように感じられる記憶。それでもその会話は鮮明に思い出せる。


(そうだ。あのとき神様は別世界の魂である俺には本来宿すべき【スキル】が芽生えないと言っていった。つまり、魂はその世界の影響を強く受けている)


 これはただのハイドの仮説だが、もしかしたらこの世界の人間に異世界の話をしようとしても、何らかの制約がかかってしまうのでは……?


「ショウ、大丈夫だから。私はどんな話でも受け入れる準備ができてる。だから安心して」

「ヘレネーさん……」


 いつの間にか椅子から立ち上がったヘレネーがそっと手を重ねてくる。

 思考の海に没頭しかけていたハイドは、一気に現実に意識を戻した。


(考えても仕方ない。とりあえず、話せることだけ話そう)


 さしあたって最も重要なこと。

 それは、


「ヘレネーさん」

「うん」

「実は俺――」

「うんっ」



 赤らんだ顔で見上げてくるヘレネーへ、ようやく決心のついたハイドは【神界の泥人形】による変装を解く。


 そして、ハイドとしての七歳の体に戻っていく中、ヘレネーに告げた。


「実は俺、本当は七歳なんです!」

「喜んでっ」

「え?」

「……ふぇ、あれ?」


 黒髪黒目の青年の姿から、白銀の髪に青い瞳の子どもへ変貌する。

 ハイドの告白に勢いよく頷いたヘレネーだったが、変貌したその姿を前にして目を丸くした。


 そして、数秒とも数分とも思える時間固まると、口をパクパクと鯉のように動かし始めた。


「ええと、ヘレネーさん。大丈夫ですか……?」


 あまりの姿に心配になったハイドは、彼女の前で手をひらひらと動かす。

 やがて。意識を取り戻したヘレネーの絶叫が轟いた。





 ◆ ◆ ◆





「ええと、つまりショウは本当はリューゲン伯爵の長子で、ううんそんなのはこの際どうでもいいっ。えと、私よりも年上だと思ってたのは仮の姿で、実際は七歳で、十歳差で……つまり私がダメってことになって、ていうか私七歳の子どもに泣きついたり抱きついたりあんな恥ずかしい姿見せたり守ってもらったり助けてもらったり支えてもらったりしてたってことだよね、でもそんなの、ぅぅん…………」


 床に座り込んだヘレネーは頭を抱え、呪文のように言葉を紡ぎ始める。

 その姿にハイドは今更ながらに罪悪感が湧き上がってきた。


(そりゃそうだよな。ヘレネーさんからしたらずっと騙されていたってことになるんだし)


 謝ってもどうしようもないことだが、謝るしか他にない。


「あの、ヘレネーさん」

「っ、黙ってて!」

「は、はい」


 謝ろうとしたハイドだったが、ヘレネーらしからぬ鋭い言葉に押し黙り、ベッドの上で正座する。


「十歳差……ぎりぎり……でもでも、いや、でも……くぅん……」


 先ほどから何かを悩んでいるようだ。

 大方、自分のことを許すかどうかで葛藤しているのだろう――と、ハイドは緊張しながら成り行きを見守る。


 程なくして、パンという甲高い音が場を打ち切った。


 ヘレネーが自分の顔を両手で挟み込んだのだ。

 彼女は痛みに身悶えた後、がばっと立ち上がってベッドの上のハイドを見下ろした。


「色々と驚いたけど、ショウ、じゃなくて、ハイドの事情もわかった。本当は隠したままでもバレなかったのに、私のことを考えて話してくれたことも。……だから、ありがとう」


 いつもよりも低い視野から見上げているからだろうか。

 微笑を浮かべるヘレネーが、とても大人っぽく見えた。


「許してくれるんですか?」

「? どうして?」

「いやだって、さっきからもの凄く苦しんでいたというか、悩んでいるように見えたので……」

「っ、そ、それは! ……ショウが悪いッ!」

「ご、ごめんなさい」


 顔を真っ赤にして怒鳴られて、ハイドは頭を下げる。

 全面的に自分が悪いとわかっているので、そうする以外にできることがなかった。


「と、とにかく、私にとってショウはショウだから。実はハイドだったとしても、私と接してくれたショウは本当のショウでしょ?」

「ヘレネーさん……」

「ショウが私に大切なものをくれたことには変わりない。だから、これからもよろしく」


 差し出された手をハイドはしばらく見つめ、小さい手で握り返す。

 本当の意味で仲間になれた実感を胸に抱きつつ、話が一段落ついたところで今度はハイドから訊ねた。


「あの、それでヘレネーさんの話というのは?」

「ぴゃ――っ」

「ぴゃ……?」


 奇妙な鳴き声を上げて飛び上がったヘレネーを訝しみながら続ける。


「あと、改めてパーティ名を考えるに当たって、《比翼の止まり木》の意味を教えていただきたいなって」


 後で教える、という約束だった。


 悪気なく訊ねたハイドだったが、ヘレネーは頬をぷくぅと膨らませて顔を真っ赤にする。

 そうして涙目になりながら、ヘレネーは叫んだ。


「も、もううるさい! 子どものくせに! あと十……ううん、七年は教えてあげない!」

「え、えぇ……」


 話が違うと言いたくなるハイドだったが、今の彼に発言権は存在せず。

 膨れっ面のヘレネーを宥めている間に、夜が更け始めた。

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