第24話 愛剣の初陣
ヘレネーと共に受けた依頼はE等級ダンジョン《粘体の塒》。
初めてのE等級になるが、EとFの等級の差に大きな違いはないらしい。
ただ、ここに現れるスライムはF等級のモンスターと比べて倒すことが厄介らしく、その分だけ等級が上げられていた。
「……来た」
ダンジョンに潜って数分。
洞窟のような場所を進んでいるとヘレネーが不意に声を発する。
ハイドもまたその存在を【全知神の目】で知覚していた。
ペタリペタリという独特の音と共に這うようにして現れたのは、ゼリー状の体をぐねぐねと動かすモンスター、スライムだ。
動きは鈍重で、攻撃力もさほど高くないため、子どもでもない限りやられることはない。
だがその体躯はあらゆる斬撃や打撃の衝撃を吸収してしまう。
そのため冒険者の間では厄介者扱いされ、不人気のモンスターでもある。
「ショウの剣とは相性が悪い。やっぱり別のにするべきだった……?」
「いえ、ちょうど剣の切れ味を試してみたかったですし。ここは俺に任せてもらってもいいですか?」
「わかった。……サポートが必要だったらいつでも言って欲しい。矢はつがえておく」
「はい」
すらりと剣を抜く。
ハイドの殺気を感じてかスライムはもごもごとその粘体をうごめかせた。
そして、球形だったその体躯を地面へ這うように薄く伸ばしていく。
「表面積を増やして斬撃を受け流すつもりか」
スライムには心臓に当たる核が存在する。
その核を潰すことで倒せるらしいが、問題はその核が透明であること。
正攻法はゼリー状の体躯を燃やすか、細切れになるまで攻撃を加え続けるか。
「でもまあ、たぶんやれる」
【全知神の目】で剣身に埋め込まれた無数のマナストーンの破片を視る。
そして【武神の導き】を使って体内に宿るマナの動き――その動きの正解を導き出す。
「……わぁ」
背後でヘレネーが声を漏らす。
ハイドの握る剣身が煌々と輝き始めた。
それはマナの輝き。【武神の導き】で最適化されたルートで、マナが効率よく注ぎ込まれていく。
注いでも注いでも、【神泉の源】のお陰でマナが尽きる気配はない。
遂にマナの輝きは剣身そのものを覆い隠す光の柱となる。
狭い洞窟内にハイドのマナが吹き荒び。猛烈な威圧感を放つその剣をゆっくりと掲げる。
そして、地面に薄く伸びていくスライムの体躯へ向けて、思い切り剣を振り下ろし――、
「――あれ」
振り下ろそうとした瞬間、手に握っていた剣の重みが無くなっていく。
不思議に思って剣身へ視線を向けると、ボロボロボロとまるで腐敗したかのように剣身が崩れ落ちた。
「…………ショウ?」
「……………………」
柄の部分だけになった剣をハイドは呆然と見つめる。
あれだけあったマナは霧散し――ヘレネーへと吸収されていく。
ハイドは静かに剣の柄をポケットへ仕舞うと、球状に戻り始めていたスライムを睨み付けた。
「お前の、せいだぁぁあ!!」
ドカドカドカと、やり場のない怒りをぶつけるように、息をつく間もない拳による連打が繰り出される。
スライムはその度に体躯がちぎれ、もげ、蒸発し――マナストーンを遺して消え去った。
「ショウ、その……ごめんなさい」
「はぁ、はぁ……いや、ヘレネーさんの、せいじゃない、ですよ」
「でも私が紹介したお店だから」
「あれは俺がマナを注ぎ込みすぎたんです。武器のせいでもそれを売った店のせいでも、ましてヘレネーさんのせいなんかじゃないですよ」
そう言いつつも、ようやく買えた武器が使うことなく壊れるというのは、中々に悲しいものがある。
(次はもう少し貯めて、グレードの高いものを買おう)
そう心に誓いながら、ハイドはヘレネーと共にスライム討伐に勤しんだ。
◆ ◆ ◆
「お疲れ様でした。今日も流石ですね」
依頼の達成報告をしていると、受付嬢がそんな言葉をかけてくれた。
連日の報告で信頼を得ることができたのか、素直に評価してくれているのだろう。
(なんというか、素直に嬉しいな。……いや待て、何を喜んでるんだ)
自然と胸に宿った思いに気付き、ハイドは勘違いするなと自戒する。
その賞賛を受けるべき者がいるとするなら、それは自分ではなく、この力を与えてくれた神様なのだと。
そうしているときだった。
受付嬢が聞き逃せないことを口にした。
「ところでお二人は固定パーティは組まれないんですか?」
「え?」
「っ!」
興味ありげに反応するハイドの隣で、ヘレネーが肩をびくりと震わせる。
「臨時パーティと違って固定パーティは、パーティそのものに等級が与えられ、その等級に応じた依頼も割り振られるようになります。より長期的な活動を視野にいれるのでしたら、是非とも固定登録をされた方がよろしいかと」
そう言いながら受付嬢はいくつかの紙の資料を取り出して説明してくれる。
パーティ専用依頼が受けられるようになる他、たとえば物件を買う時などにパーティメンバーが事実上の連帯保証人になるため、審査が通りやすいなどギルド外での恩恵もある。
(というかこの世界にも審査なんてあるんだな。……いや、この世界だからこそあるのか)
身分証明が難しい異世界だからこそ、その身元を保証してくれる存在は必要なのだろう。
「そういうことならヘレネーさん、固定パーティ登録しませんか?」
「……いいの?」
「もちろんです。あ、ヘレネーさんがよければですけど」
ヘレネーは一瞬笑顔を咲かせたが、すぐに顔を伏せる。
「でも、固定パーティは掛け持ちできない。……私と組むとパーティには誰も来てくれなくなる。二人きりのパーティよりも大人数のパーティの方がいいに決まってる」
「そう言われても今のところ俺と組んでくれる人はヘレネーさんしかいませんし。それに、前にも言ったじゃないですか」
「……?」
「俺たち、相性がいいって」
「~~っ、……ショウの、ばか」
「えぇ?」
「買ったばかりの剣も、すぐに壊すし」
「うぐっ」
否定できない言葉のナイフにハイドは思わず悶絶する。
「ふふっ」
胸を押さえて悶えていると、微かに笑う声がした。
顔を上げると、ヘレネーが楽しそうに笑っている。
そうして彼女はおずおずと手を差し出して、その整った顔を破顔させた。
「よろしく、ショウ」
「よろしくお願いします」
かくして、二人きりのパーティが設立されることとなった。




