第23話 掘り出し物
冒険者は、その大半が強力なスキルを備えていない。
スキルは基本的に遺伝によって受け継がれるため、強力なスキルを有する一族はすでに名を上げて貴族やお抱えの騎士なんかになっているからだ。
稀に突発的に強力なスキルを持って生まれる者もいるが、そうした者たちは特別な冒険者として名を上げていく。
では、その他大勢の冒険者たちはどのようにしてモンスターと戦っているのか。
その答えはマナにある。
マナはスキルを行使するために必要だが、それ以外にも身体能力を強化することができる。
身体強化系のスキルに比べると効率が悪く、マナの消費も激しいため、強力なスキルを有する者が積極的に利用することはない。
だが、戦闘で役立つスキルを持たない者からすれば重要な力だ。
そして、モンスターを討伐した際にドロップするマナストーン。
それを加工して作られた武具や防具もまた、冒険者を支える力の一つでもある。
「この奥。暗いから気を付けて」
先導するヘレネーが細い路地裏を指差して告げる。
とても店があるようには思えないが、大人しくついていくと、路地を抜けた先に開けた空間があった。
そしてそこに一軒の建物が建っている。
今にも崩れ落ちそうなほどボロボロの木造の家屋だ。
よく見ると軒先に『武器・防具』と書かれた暖簾がかかっている。
「ここがヘレネーさんが行っているお店ですか?」
「そう。少し古いけど、品揃えは確かだから」
そう言いながらヘレネーは扉をガタガタと滑らせて中に入る。
鍵がかかっていない辺り、どうやら本当に営業しているらしい。
ヘレネーに続いて建物に入ると、中は思ったよりも広々としていて、不思議なことにほのかに明るい。
そして壁や天井、所狭しと並べられた台の上などには様々な刀剣や防具が置かれていた。
「大抵のものは揃っているから、とりあえず見て回るのがいいと思う。代金は値札が貼ってあるから」
「わかりました。……ところで、店主さんはどちらに?」
店の奥にいるのかとも思ったが、客が来たというのに出てくる様子がない。
それどころか、そもそもこの店に自分たち以外の気配が感じられなかった。
「わからない。いつもいないから」
「いつもいない?」
反芻すると、ヘレネーはこくりと頷く。
「このお店はいつも無人。だからいつでも開いてるし、人と話さなくていいから利用しやすい」
「それって盗難され放題じゃないですか?」
まるで前世でいうところの無人販売所だ。
だが、この世界には防犯カメラもなければ優秀な警察組織もない。
だからそうした商売は成り立たないと思っていたが……。
「大丈夫。お金を払わないとお店から持ち出せないようになってる。――そういうスキルが使われてる」
ハイドは失念していた。
この世界には科学技術の代わりにスキルという異能があることを。
「試してみてもいいけど、持ち出そうとした時点でお店の人に伝わるみたい」
「それは……やめておきましょう。盗人と思われたくないですからね」
苦笑いをしつつ、ハイドは店内を物色する。
「剣……?」
刀剣エリアを眺めていると、ヘレネーが不思議そうに呟く。
「ショウは拳闘士じゃなかったの?」
「特にこだわりはないんですけど、剣の方が馴染みがある感じです」
「あれだけ戦えて剣士だったなんて……ショウ、本当に何者?」
「ただの新米冒険者ですよ」
ジト目で見つめてくるヘレネーにとぼけながら、ハイドは一振りの剣を掴む。
今までは子ども用の木剣しか扱ったことがなかったので、大人用の剣は随分と長く感じた。
(……うん、やっぱり剣がいいかもな)
【武神の導き】はあらゆる武芸や体術に適応されるスキルだ。
獲物はそれこそ槍や大斧でも達人レベルに扱えるだろうが、普段から使っているものの方がいいだろう。
「これだけ種類があるとどれにすればいいか悩みますね」
「自分が使いやすいと思うものにすればいい。あの扉の向こうに試す場所はあるから」
「ヘレネーさんの弓もここで買ったんですか?」
「そう。我ながら良い買い物をした」
むふふんとどこか誇らしげに胸を張る。
(やっぱりヘレネーさんって素は子どもっぽいよな)
《小鬼の巣窟》でぴょんぴょんと飛び跳ねていた時のことを思い出しながらハイドはそんなことを考える。
「なに?」
「な、なんでもないですよ。じゃあ少し、試してみます」
逃げるように店内の扉に向かう。
扉の向こうには小さな修練場があり、わら人形のようなものも置かれている。
「――ふっ」
仮想の敵をイメージしながら剣を振るう。
【武神の導き】がイメージ通りの動きができるように体を支えてくれるのがわかる。
一振りするたびにとてつもない剣圧が修練場の中に吹き荒れ、様子を見に来たヘレネーは目を見張っていた。
「ふぅ……」
ひとしきり確認を終えたハイドは、深く息を吐き出した。
するとパチパチパチと、拍手が飛んでくる。
「圧巻だった。私は剣のことはあまりわからないけど、これまで見てきた剣士の誰よりも綺麗だったと思う」
「ありがとうございます。ヘレネーさんに褒めてもらえて嬉しいです」
「っ! ぁ、き、綺麗っていうのは、剣の振り方とか、立ち居振る舞いのことで……」
「? わかってますよ?」
フードの端を押さえて俯きながら早口で唱え始めたヘレネーを不思議に思いつつ、ハイドは店の中へ戻る。
(よくよく考えたら、俺にはこれがあったな)
そうして。店内に置かれている剣のうち、今の所持金で手の届くものだけを集め、【全知神の目】で視る。
すると、ハイドの視界を鑑定情報が埋め尽くしていく。
その剣を打った職人の名、剣の重量、剣身の長さ、特徴に至るまで。
初めて目にする剣でも一瞬でその性能が理解できる。
「ん、これは……」
その中に、一際目を引く剣があった。
鑑定情報
名前:無銘の剣
特徴:剣身にはマナストーンの破片が埋め込まれている。マナを注ぎ込むことで斬れ味と耐久力が増していく。
(マナストーンが埋め込まれているなんて記載、他の剣にはなかったけど……もしかして高価な剣には標準で搭載されているのか?)
武器を買う金が集まったとはいえ、この二日で稼いだ額はたかが知れている。
予算を超えているために鑑定の対象から外した剣の方が多い。
ハイドは試しに予算外の剣を鑑定で視る。
(やっぱり、この剣にもマナストーンが埋め込まれている。……どうやらこの価格の中だとこの剣が一番良さそうだな)
思わぬ掘り出し物に口角を上げながら、ハイドは剣を手に取る。
「俺、これにします」
「え、もう? 色々と試さなくていいの?」
「はい。えっと、お金はここに置けばいいんですよね?」
所定の場所に剣と剣帯ベルトの代金を置いて店を出る。
どこかから「どろぼー!」と叫びながら店主が現れることもない。
無事に購入が認められたらしい。
「ヘレネーさん、案内してくださってありがとうございました。お陰で良い物が買えました」
「それならよかった。……ショウはこれからどうするの?」
「あーそうですね、思ったよりも早く買い物が終わりましたし、近場のダンジョン依頼があれば受けようかなと」
「そう。……私も、何か依頼を受けようかなって思ってるんだけど」
何かを期待するような目に、ハイドはふと気が付く。
「折角ですし、一緒に依頼を受けませんか?」
「! うん、いいよっ」
そうして二人はギルド会館へ向かった。




