第21話 部屋型ダンジョン
ハイドがソロで挑むことにしたのはF等級ダンジョン、《骨兵の墓場》。
本当は前日と同じ《小鬼の巣窟》にしようと考えていたが、昨日かなりの数討伐したからか決壊までの猶予はあるらしく、依頼書は貼り出されていなかった。
支部が管理するダンジョンすべてのモンスターの飽和度に基づいて依頼の優先度を定め、その順に依頼書を発行するのはギルドの大事な仕事の一つだ。
(それでも決壊を完全に防げるわけではないらしいけど)
先日の闇ダンジョンはもちろんのこと、ギルドの管理下にあるダンジョンであっても、決壊は防げない。
単純に高難度のダンジョンへ挑む冒険者の数が足りないことや、ダンジョンによっては階層によってモンスターの飽和度が設定されているものもあり、決壊までの猶予を計測しきれないという問題もある。
そして何より、ヒューマンエラーというのはどこでも起こりうるものだ。
(早く等級を上げて上のダンジョンに挑めるようになりたいな)
そんなことを考えながら、ハイドは目的の場所に辿り着く。
《骨兵の墓場》は領都セントリッツの外れに位置する。
街道から逸れた場所、何もないはずの平野にぽつんと建造物が建っている。
領都セントリッツを囲う城壁と似た造りをした壁に囲われ、一面にだけ扉があった。
その扉を開くと、中にはあの空間の亀裂がある。
今度は躊躇うことなく光の中へ飛び込むと、景色が変わった。
昨日とは打って変わって今度は開けた空間に出た。
海外ドラマなんかでよく目にする西洋墓地のような場所で、芝生の敷かれた地面にはいくつもの墓石が並んでいる。
まるで屋外のように思えるが、頭上の夜空に浮かぶ雲は微塵も動いていない。
これだけ開けた場所であればどこかから吹き付けてくるはずの風も、一切感じられなかった。
(ここが、部屋型のダンジョン)
ソロで挑むということもあり、受付嬢から事前に聞いたダンジョンの特徴と照らし合わせる。
ヘレネーと共に潜った《小鬼の巣窟》は探索型のダンジョンに分類される。細く入り組んだ通路が特徴的で、モンスターを討伐するには歩き回る必要がある。
そして今回の部屋型のダンジョンは、一つの巨大な空間で完結しているダンジョンのことだ。
探索の必要が無い代わりに、絶え間なくモンスターが襲いかかってくる。
(この空も遠くに見える景色も全部偽物って、不思議な感覚だな)
【全知神の目】も、この広い空間が屋外ではなく巨大な部屋であると認識している。
そして、ソレの出現もいち早く察知した。
「来た」
ボコボコボコと地面が隆起し始め、地中から骨の音と共に人型の骸骨が現れた。
スケルトン。このダンジョンにポップするモンスターであり、今回の依頼の討伐対象だ。
一体が現れたのを皮切りにしてハイドを囲うように次々とスケルトンが現れる。
すでに視界に見えるだけでも六体いるが、【全知神の目】は地中にさらに数十の気配があることを察知する。
とても《小鬼の巣窟》と同じ難易度のダンジョンとは思えないが、彼の背後には帰還のための空間の亀裂――ポータルというらしい――がある。
一度の交戦で相対するモンスターの数が多い代わりに、出口との距離を保って戦うことができる。それが部屋型ダンジョンの大きな特徴だ。
「でも、それじゃあ意味がないよな」
強大な力を持ちながらもハイドとして人を助けられない分、ショウとしてモンスターを倒す。
そう決めた以上、ここでやるべきことは時間の許す限りモンスターを殲滅することだ。
「――はぁ!」
地面を蹴り、最初に現れたスケルトンへの距離をゼロにする。
スケルトンは剣を手にした腕を動かす間もなく、ハイドが振り抜いた拳でその胴体を砕かれた。
カラカラカラと骨が崩れる音と共に亡骸が消えていく。
それを見届けることもなく、即座に背後を振り返り、迫り来ていたスケルトンへ足蹴りをお見舞いした。
「……? なんだろう、この感覚」
なおも迫り来るスケルトンを【武神の導き】の示した動き通りになぎ倒しながら、ハイドは些細な違和感を覚えた。
【武神の導き】が示す次の動きが、示されるよりも先にわかる。
なんとなく、この最強スキルなら次はこうしろと告げてくるような、そんな感覚。
「馴染んで、来てるのか?」
最初はスキルに振り回されるだけだったが、連日のスキル行使で体がついてきている。
ハイドはそんな仮説を立てた。
「――なら、好都合だ!」
ハイドはさらに全身に力を籠めると、遠くから弓を構えていたスケルトンへ一気に飛びかかった。
◆ ◆ ◆
「あれ、ヘレネーさん」
革袋いっぱいにスケルトンのマナストーンを詰め込んでギルド会館へ戻ると、人気の無いロビーにヘレネーの姿を見つけた。
声をかけると、ヘレネーはぱっと笑顔を浮かべながら立ち上がった。
「ショウ、今来たところ?」
「いえ、ちょうどダンジョンから戻ってきたところで。あ、そうだ。俺、E等級に昇格したんですよ。昨日ヘレネーさんとゴブリンをたくさん討伐したおかげです」
言いながら、ハイドは懐からマナストーンを仕舞っている革袋を取り出してヘレネーに見せる。
「そ、そっか、良かったね。うん、ショウなら当然だと思う」
「ヘレネーさんは今来たところですか?」
「うん。そろそろダンジョンに潜ろうかなと思ってた」
「頑張ってください。……っと、じゃあ俺、依頼の報告をしてきますね」
会話もそこそこに、ハイドは受付嬢へマナストーンを渡す。
すると受付嬢は訝るような眼差しを向けてきた。
「失礼ですが、ショウ様。このマナストーンは今日一日で獲得なさったのですか?」
「ええ、そうですけど」
「……念のためにお伝えしておきますが、確かにD等級へ昇格すると、通行税の免除などの特権が付与されます。しかし同時に同等級の依頼を定期的に行う義務も発生しますが」
「わかっています」
「……それでしたら、私どもからはこれ以上お伝えすることはございません。依頼、お疲れ様でした。直ちに処理いたします」
そう言って受付嬢はマナストーンを抱えて奥へ下がり、報酬を手にして戻ってくる。
(これだけあれば、装備でも買えそうだな)
昨日の報酬と合わせてそれなりの額になった。
正直、装備なんてなくても戦えるが、あるに越したことはない。
より強力な武器があればより強い敵を、何より短時間で倒すことができる。
ショウとして活動できる時間が限られている以上、効率化は必要なことだ。
「でも武器屋とか、知らないし……」
そもそも夜中でも開いている店があるのかどうか。
報酬を懐にしまいながら思い悩むハイドの傍にヘレネーが近付いてくる。
「どうかした?」
「その、装備を揃えようかと思ったんですけど、セントリッツの店に明るくなくて。あ、何かおすすめの店とかありませんか?」
「ショウはセントリッツに住んでるんじゃないの?」
「あはは、いや、まあ……」
曖昧な笑みで誤魔化すハイドをよそに、ヘレネーは考え込む素振りを見せる。
そうしてから、躊躇いがちに切り出した。
「なら、私が行ってるお店、紹介しようか?」




