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飯も食い終わり、ぷんすか怒っている綾姉と五十嵐さんと共に帰路に立つ。
不貞腐れた綾姉を落ち着かせるのに少し骨が折れたが、飯の美味さで少し持ち直してくれた…やはりあの店を紹介してくれた五十嵐さんは神なのでは?
ふととある疑問が頭に浮かぶ。
「………そういえば俺っていつ学校に行くの?明日?」
そう、場所は知っているが、いつ行くかは知らない…流石に色々準備があるからもうちょっと先だと思うのだがどうか…。
「そうねぇ…多分だけど一週間後くらいかな?制服とか勉強道具とか色々必要でしょ?」
「ふーん…」
やはり予想通りもうちょっと先らしい…ん?またまた疑問が浮かんできた。
「そういや五十嵐さんは俺が学校行ってる間何してるんだ?護衛っていっても学校まで来ないだろ?」
学校まで来られてしまったら五十嵐さんの時間が無くなってしまう…それは流石に申し訳ないなと思っていた所だ。
「あぁ…それなら問題ないですよ、私も穂浪様と同じ学校に転入させていただきますので」
「え?転入……え!もしかして年近いの!?」
「はい!一応同じ学年ですのでその時はよろしくお願いします」
護衛って聞いていたもんだから俺より年上だと勝手に勘違いしていた…しかも同じ学年とは…これいかに。
「じゃあ俺と同い年なの?ちなみに俺は15な!」
そのまたちなみに俺の誕生日は十二月二十五日、誕生日まで少し遠いな。
「えっと…そうですね穂浪様と同じ15歳ですけど……来月の十五日に16になりますね」
まだ同い年だがすぐに変わってしまうのか…なんだか負けた感覚になるな…。
「それと…穂浪様にお願いしたい事があるのですが…よろしいでしょうか…」
「ん?、おう!俺にできる事だったらなんでもいいぞ!」
五十嵐さんにはこれから世話になるらしいし、さっきも店を教えてもらったしな。
「あの…私の事はどうか呼び捨てで読んでいただけないでしょうか?」
意を決したように言ったにしては結構簡単なお願いが来たな…。
「?別にいいけどなんで?」
「穂浪様は私の護衛対象…つまりは雇い主なのです。その主人にさん付けをされるというのはその…慣れないといいますか…違和感があるといいますか…」
「ふーん…なるほどねー」
俺にはわからない感覚だがどうやら五十嵐さんには気になるらしい。
「分かった!けど一つ条件があるな…」
「条件ですか?なんでしょう!なんでもやってみせます!」
いかにもやってやる!みたいなポーズをして五十嵐さんがこっちを見てくるって近い近い!
「お、おう…実を言うとな?五十嵐さんがさん付けされて違和感があるように、俺も様付けされて実は違和感ありまくりなんだよな…」
そう、実は初対面の時から様付けされて少し嫌だなと感じていた。
確かに俺は希少な男らしいが、俺自身はそこまで偉い人間ではない。田舎で畑と村を守っていただけのただの村人だ。
それが都会に来ていきなり仰々しく見られて実は参っていた所だったのだ。
「俺にさん付けされたくないって気持ちは分からんけど理解はした…けど俺だって様付けは嫌なんだ、多分五十嵐さんと同じように」
だからと付け足す。
「俺の事は穂浪でも斧剛でも呼び捨てでも君付けでもなんでもいいから、様付けだけはやめてくれないか?」
「そ、それは……」
うーんと唸って迷っている姿が見える。やはり真面目な人だな…多分俺っていうか護衛官が護衛の対象に様付けするの当たり前なんだろうなぁ。
けど決まりですからと言わずに、しっかりと考えてくれている、多分さっき綾姉が言っていた俺個人として考えてくれているのだろう。
それはとてもありがたい事だなと思えた。
「………そうですね、私だけの要望を通してもらうのは筋が通ってないと思います。……はい!それではこれからは斧剛さん、と呼ばせていただきますね!」
バッと顔を上げる!
「!!ありがとう!…俺は五十嵐さんの事なんて呼んだらいいかな?五十嵐って呼び捨てにするのはなんだか合わねぇしなぁ…」
なんだか五十嵐!と呼び捨てにするのは嫌なんだよなぁ…なんか口に出しづらいというか…[五十嵐さん]の語感が良すぎるのが良くない。
そう言うと俺たち二人はうーんと唸る……五十嵐、五十嵐ちゃん、玲………おぉ!
「玲って呼びやすいな!これから玲って呼んでも良いか?」
そう言うと玲はビクッと変な反応をした…ん?なんだなんだ?
「え!?……あ、はい…それでお願いしますぅ……」
名前で呼んだ途端に顔が合わなくなってしまった…呼び捨てはまだ早いか?
顔を背けられているのでなるべく近くに寄って言う、丁度耳元らへんだな。
「それとも玲ちゃんの方がいいか?」
またもやビクッ!と体を震わせる…????なんで?
「ん!?…あの…もしかしてですけどわざとですか?」
「わざとって何が?」
「…………頼んどいてあれだけど、名前呼びは心臓に悪すぎるよぉ…でもでも自分から言った事だし…というかなに?あれ天然?」
ぶつぶつ言って何も聞こえない……何言ってるんだ?
数秒経つと玲さんはよし!と気合を入れるようにこっちに向いた。そんなに緊張する事か?
コホン咳払いを一つ、あ、でもまだちょっと耳赤いな。
「名前呼びの件ですがその…斧剛にはその…玲と呼び捨てで呼んでいただけるとありがたいです…」
「ん、よろしくな!玲……いやぁ、なんか急に距離が縮まる感覚があって嬉しいなぁ」
「距離が縮まる…ですか?」
そう言うと玲さんは不思議そうな声で尋ねる。
「あぁ、その…俺の住んでた所は田舎って言っただろ?長く住んでいたら当然全員が身内になってくるんだよな…だから様ってなんか他人って感じの響きだからさ、ちょっと寂しかったんだよな」
「寂しい…」
「それにうちの村にいるのは婆さんだけでさ、友達って言える人間がいなかったんだ…だから護衛って間柄が挟むけど、玲と仲良くなれたのは嬉しいよ」
都会ではこういう関係の事を友達って言うんだろ?とも付け足す。
「……友達…ですか…」
「あ、もしかして護衛の対象にしか見れない感じ?」
そう言うと玲は慌てるように違います!と言う。
「その…私も今まで護衛官になるための訓練をずっとしてきたので友達という存在には縁がなくてですね、その…感慨深いです…」
「え!一緒じゃん!!俺たち気が合うかもな!」
綾姉やばあちゃんは都会は怖いって言っていたけどやっぱり俺にはそう思えないな…。
これからもこんな風に色んな奴に出会えると思うとワクワクする…学校楽しみだな!
「………ねえ?私の存在忘れてない?」
「あ、やっべ」
綾姉の存在を家に着くまで忘れていて、また機嫌を直すのに一日掛かってしまった…ごめーんね⭐︎




