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帰り道、綾姉はいつもニコニコだ、こんな辺鄙な所何がいいんだか分からないが、親しい人が笑顔でいると、なんだかこっちまで笑顔になる。
昔、どうしていつも帰り道ニコニコしてるの?と尋ねたことがあるが。
『んー?そうねぇ…こーんなのどかで平和な場所があるなんて知らなかったから…今この空間にいることができて、とーっても幸せだから、いつもニコニコしてるんだと思うなぁ』
彼女にとって、この畑と田んぼと森と山しかない、この場所が幸せを得る場所であると聞いて、ここに住んでいる人間にとってはとてもありがたい言葉だった。そっからだろう綾姉の事を多々良さんではなく、綾さんと呼ぶようになったのは。
綾姉は俺の勉強を教えるのと、農作業をしている。というか本当は農作業が本業なのだが、7歳になった頃、学校はどうしたのかと言われ、『学校って何?』と答えてしまい、そこから今の今まで勉強を教えてもらっている。
最初はこんなの役に立つの?とも思ったが、案外やってみると面白く、農作業や狩、伐採なんかと違って、単純作業ではないので、実は楽しみの一つである。
といっても、楽しみがそれしかないのである。他にこの近辺での楽しみといったら、昆虫採集や収穫の時ぐらいだ。
あ、それと飯!うちの婆ちゃんの作る飯はめっちゃ美味いんだ。
ばーちゃんとは、俺と一緒に暮らしている人で、俺の育ての親だ。俺の父親は精子提供者で分からないが、母親は俺を産んだ時に死んでしまったらしい。寂しくはあるが、いないものは仕方ない。俺には婆ちゃんと綾姉がいれば良いのだ。
もうすぐ家に着く、だが、家の前に何人か見慣れない人がいる。
だが綾姉にとってはそうではないらしい。苦虫を噛み潰したような顔をして、その黒服のスーツを着た女を見ていた。
なんだかそれが無性に嫌で、とりあえずこの黒服を退かそうと思い前に出た。
それがいけなかったのだろう。俺のこの退屈で平和な日常が消え去ってしまうには。
「……!!剛君!待って!」
「おい!そこのお前ら!何人の家の前で威圧感出しやがって!邪魔じゃ!どけえい!」
突然の大声に驚いたようで、黒服がこちらを見てくる。ん?あれ?サングラスがずれてますよー。
「………なんてこと…」
綾姉が深刻そうな顔でこちらを見てくる……あれ?俺なんかヤバいことしちゃった?
「おい!男だ!なんでこんな所にいる!?」
「早く政府に報告しなくては!」
「ん?ん!?」
突然黒服が騒ぎ、何処かに連絡しようとする、フハハ!馬鹿め!こんな所に電波なんてあるわけねえだろ!
携帯が繋がらなくてイライラしているのかどうか分からないが、黒服達は何やらソワソワしている。まぁいい、とりあえず家に帰ろう!
「じゃあ帰ろうぜ!綾姉」
「帰ろうぜって剛君……今の状況わかってる?」
「状況?あれ?もしかしてあの人たち親しい人なの?なんかめっちゃ深刻そうな顔していたから仲良くない人かと思ったんだけど」
「うーん……別に仲良くないけど…」
「じゃあいいだろ?早く婆ちゃんの飯食おうぜ!俺もう腹減っちまったよ」
がらがらーっと戸を開ける、ただいまぁ!
「あら、おかえり、ご飯もうあるからね、今日は剛君が好きなロールキャベツだよ」
「まじ!だってよ!綾姉!ロールキャベツなんて久々だなぁ!」
「そうだね……」
綾姉がもう、諦めの表情でこちらを見てくる…なんか今日は変な綾姉だなぁ。




