6 村人からの評価
部屋中に広がる血生臭さや怪我人のうめき声。すすり泣く声や罵倒する人もいる。
私の癒しの力では多くの怪我人を治しきれない。
「聖女様が来るかと思ってたのに」
「どうせお前のようなお貴族様は俺たちのような平民なんか馬鹿にしているんだろ」
「国はどうせ俺たちのことを見捨てているに違いない」
村人たちは聖女様が来なかったことに落胆し、私を馬鹿にするような言葉を向けている。
「そんなことはありません。私は、聖女様ほどの力はありませんが治療させてください」
「はっ。お貴族様がすぐに音を上げるのが見えてるな。まあいい、今は人手が足りなくて忙しいんだ」
簡単に説明を受けた後、治療に入った。
最初は村の人たちから睨まれたり、汚い言葉で罵られたりして敵対的な態度で当たられていた。
それをアーシャは怒っていたけれど、彼らがそういう態度になってしまったのは貴族や国の対応のせいだと痛感した。
私は朝から夕方まで治療に当たり、夜は血で汚れた服や包帯を洗い、村の人たちの手伝いを申し出た。
毎日送られてくる怪我人に必死で治療していく。
最初は怖がっていたアーシャも、私の姿を見て手伝ってくれるようになっていた。
癒しの力を奪うために時には攫われそうになったりもしたが、護衛のおかげで私は助かったこともある。
いつになったら蛮族との争いは終わるのだろうか。
時折、私を呼ぶ声が聞こえてくるが、振り向いても誰もいない。
ひと月が経ち、三か月が経ち、一年が過ぎようとしていた頃、ようやく蛮族の王と協定が結ばれ、争いは終わりを迎えることになった。
一年も村にいると、近隣の村の人たちとも仲良くなり、兵士からも絶大な信頼を寄せてもらえるようになった。
「エレフィア様、本当に王都へ戻られるのですか? 我々はいつまでもここに残って欲しいと思っております」
「そう言ってくれるだけで嬉しいです。ですが、王都に戻るよう指示が来ております。この地が落ち着いたら私よりももっと力の強い聖女様が来てくれると思います」
「王都でのんびり暮らしている聖女様より、エレフィア様の方が本当の聖女様だ」
「ありがとうございます」
“エレフィア”
私は振り向き、声の主を探したけれど誰もいない。
「エレフィア様、どうかされましたか?」
「いえ、なんでももないわ。行きましょうか」
私たちはいくつもの村の人たちから惜しまれつつ、王都へと戻った。
……一年。
たった一年だったけれど、私にはとても長く感じた。
ようやくカインディル様の下へ戻ることが叶う。
カインディル様に会ったら「頑張った」と抱きしめてくれるかしら。「会いたかった」と言って欲しい。
会えない時間がこんなに苦しいだなんて思ってもみなかった。
私たちはやりとげたという達成感に包まれ、愛する人たちが待つ王都に戻った。
私とアーシャは第十六軍団の兵士たちと共に謁見の間で陛下への報告を済ませた。だが、そこにはカインディル様の姿はなかった。
きっと彼は政務をしているのだろう。
私はアーシャと一緒に久しぶりに自室へと戻ってきた。
「ようやく戻ってこれた」
「エレフィア様、お疲れ様でした」
私たちは共に生き延びたことを称えあい、安堵の涙が浮かんでいた。王都で暮らしていれば気づかなかったことも多くある。
いつも死に向き合わなければならなかった。
アーシャには一週間の休みを取るように告げ、私は久々にのんびりと部屋で過ごしている。
カインディル様はどこへ行ったのだろう?
彼の執務室にはカインディル様の姿はなかった。
蛮族との協定後から復興に動き出しているため、彼も忙しいのかもしれない。
私はそう思うようにしながら数日間自室で休んだ後、執務に戻った。




