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26 新たな魔法開発と俺

 リオとルカは遅くまで二人で話し合ってた。途中で俺も巻き込まれたけど。

 そうして、リオが回復魔法を覚えることで話がまとまった。ルカはこれ以上起きてたら腹が減るからと、一番最初にベッドで寝ちゃった。

 残った俺とリオは、まだ眠くないのでもう少し話をすることにした。

「呪文使いなので、回復魔法も覚えれば使えます」

 さすが呪文使い。攻撃も回復もできるとか、マジでチート。

「今まで覚えなかったのはどうして?」

「はじまりの迷宮で力尽きているので、必要なかったんです。あと、講習費用が初級魔法でも桁違いでして」

 お値段は15万メル。あ、桁が違う。火球とかは5000メルだったもんね。お高い。

「この前、手に入れたお金が消えてきますけど……」

「別にいいよ。ルカの怪我は心配だもんねぇ」

「……はい」

 お互いがお互いを大事に思ってるからの喧嘩かぁ。兄弟の絆を感じちゃう。

 俺には多分、お姉ちゃん達とそういうのなかったもの。

「でも魔導書装備してたら使えなくない?」

「はい、使えません。なので戦闘が終わってから、回復魔法を掛ける感じですかね」

 それはそれでありだとは思うけど。咄嗟の時に使えないのは、問題かな。

 俺がリオの代わりに杖を持っていて、使う時に手渡したとしても、タイムラグがあるしなぁ。戦ってる最中だったら尚更、俺が杖持って渡しに行くだけでも、めちゃくちゃ邪魔になりそうだし。

 何か良い方法はないかなと考えて、転移魔法陣は使えないのかなって思った。

「物と場所を指定して送るのは、確かに出来ますが……」

 それを利用して、杖を倉庫から出し入れするのはどうだろ。魔導書を使わないときは倉庫にしまって、杖を倉庫から出す。

「二カ所に転移魔法を……。でも転移魔法陣を、いや、うん、もしかしたら」

 あ、なんか考え始めた。

「でも私の魔力で、そんなに終始出し入れしてると、血反吐を吐くまでの時間が短くなりますね」

 血反吐を吐く時間で、魔力消費の有無を表現しないでほしい。

「えー、でも転移魔法陣って魔力使わないよねぇ。手袋とかにその魔法陣書いておけば、魔力使わないんじゃないの」

「……なるほど!」

 リオの目が輝いてる。これ寝なくなるパターンだ。明日は講習受けるんでしょ。今日は寝ようよ。

「でも気になってしまって。少し、ほんの少し、朝日が昇るくらいまで、魔法陣の解析をさせてもらって……」

 朝日が昇ったらもう徹夜確定だよ。もう寝ようよ。机に向かおうとするリオの服を引っ張って、ベッドに転がした。身長はリオの方があるけれど、まだまだ健康体には程遠いので、力は俺の方がある。

「また明日ね、おやすみリオ」

「…………おやすみなさい」

 起き上がったりしないように、ぎゅっと抱きついて寝ると、リオは大人しくなった。これからは夜更かししようとする時は、これでやめさせることにしよう。


 翌朝、鶏小屋から卵を取ってきて焼いてたら、めずらしくリオが起きてきた。ルカの方がお腹が空いて早く起きるのに。

「おはよー、どうしたの?」

「毎日ごはんを、しっかりと食べなければ、と思いました」

 それは良い心掛けだと思うけど。

「まずは食べないと。胃から鍛えないと……」

「無理しないでね?」

 目標があることは良いことだと思うけど、血反吐を吐く回数増えちゃうよ。

 スープとパン以外にも食べると意気込んでたから、野菜を追加で出してみたら、めちゃくちゃしょんぼりされた。でもリオにはまだ、朝から肉は早すぎると思う。

 ルカは出せば好きじゃないとか言いながらも食べるから。リオは野菜そのものを避けるじゃん。

 肉肉しいサンドを食べてるルカの横で、人参を睨みつけてるリオの姿が。もうかれこれ10分あまり。

「……はい、あーん」

「子供じゃないですから! 食べられますから!」

 いや食べてないよ。全然食べてないよ。アモニュスが狙ってるから、もうリオの口の中に入れとこう。恥ずかしいのか顔が真っ赤になってるけど、それなら自分で食べれるようになれば良いのに。


 朝食を食べた後、後片付けやら掃除やらが終わってから、三人でギルドに向かった。

 冒険者ギルドって、結構通ってる気がする。講習受けたり、呼び出されたりで。あんまり、迷宮探索のドロップ品売りにいけてないけど。

 いつものように、講師はナキアさんだった。元教師だからなのか、多才すぎる。

「今日は回復魔法を覚えたいのね。簡単な基礎知識から教えていくわよ」

 回復魔法の起源から懇切丁寧に教えてくれてるんだけど。すごくないか、ナキアさん。初級の回復魔法なら、ちょっとした怪我なら治せるけど、欠損ともなると無理だって。その辺りは聖女レベルじゃないとって言われた。

「病気が治せるわけではないから、気をつけなさい。毒や麻痺になっていても、それを解除する魔法をかけてからじゃないと、傷の治癒もできないから、状態異常には注意を払うこと。それに回復魔法を使うと、モンスターから狙われる確率が大幅にアップするから、使い所を間違えないように」

 あとは回復魔法の魔導書を読んで覚えてと、冊子のようなものをくれた。それでいいんだ、回復魔法。

「魔法っていうのは、使うのに才能が必要なのよ。私のように広く浅く魔法が使える人間は、それなりにいるの。迷宮探索をするのに必要に迫られて覚えるっていうのが、一般的ね」

「じゃあナキアさんも呪文使いなの?」

「呪文使いは、レベルが違うの。初級魔法さえ使えれば良い私と違って、どの魔法もその道のスペシャリスト並、それ以上に扱えるようになるのよ」

 回復魔法の冊子をもらっても、ナキアさんは軽い傷を治す回復魔法しか使えなかったんだって。冊子には回復魔法のほかに、毒や麻痺の状態異常を治すものとかが書いてあった。

「これは使ってみないとどうにも。しかし毒や麻痺の状態に、わざわざなるわけにもいきませんし。冊子を持ち歩くことにします」

 それが一番いいかも。

 というわけで、お昼ご飯を食べてから、再びの迷宮探索。


 やっぱり、この『水霧の海の迷宮』ってちょっと遠いなぁ。

 リオがルカに火の魔法をかけてから、人喰いヒトデを焼き払ってる。焦げても飛びかかってくるヒトデを、ルカが防御したり斧で叩き切ったりしてた。微妙に効率が悪いかも。

「しかし水霧の迷宮は、深い階層まで探索できません。もうしばらくは、ここで頑張るしかないですね」

 とはいっても、リオの魔力も無限じゃないから。一時間ほどで探索は終了して、のんびりと歩いて帰った。

 途中で休憩がてらアイス食べた。なんか、行き帰りの往復するとき、毎回食べてる気がする。これ出費大きいな。けど幸せそうに食べてるルカを見ると、ダメとも言えない。表情が全く変わってないけど、美味しいってオーラが出てるもん。

 ちなみに人喰いヒトデからドロップされるのは、ヒトデの核とかいうもの。球体のこれは何って聞いてみたら、リオですらわからないって言われちゃった。

「専門的な学者じゃないと、多分わからないんじゃないですかね。ただそれが、魔導書や防具の素材になるのは知ってます」

 そういうものだっていう認識だって。なるほど。

 ギルドで売ったら一個1000メルだった。まあまあ高いかな。一時間の探索で手に入ったのは、18個。1万8000メル。手数料差し引かれたらもっと安い。日給にしてはいいのかな。いや三人で割ったら、うーん微妙。

「一般的な冒険者だと、新しく別の人とパーティを組んで、普段とは違う迷宮に行くというのがありますけど。私とルカの場合、名乗っただけでお断りされる可能性が高くて」

 呪われてるもんね。いつ暴走するかわからない戦士と、いつ血反吐を吐くかわからない魔法使いは、確かにパーティ組めないや。

「もうちょっと魔素を吸収すれば、強くなれそうですから。しばらくは人喰いヒトデをちょっとずつ倒してくしかないですね」

「うん、そーだね」

 そうなってくると考えものなのが、食費なんだよね。せめて店長が、毛ガニ漁に行かなくても済むようにしたいのが理想だけど。生活するだけでもお金って飛んでく。異世界でも世知辛なぁ。


 夕食の後で、リオは部屋にこもって魔法の研究をしてる。

 この前話した、転移魔法陣を使っての装備品の入れ替えを研究してるみたい。転移魔法陣て機密とか言ってなかったっけって思ったら、ジャス店長が教えてくれた。

「そもそも転移魔法陣を開発したのが、ストレイル兄弟だ。国に特許を売っちまったけどな。改良される前の、初期中の初期の魔法陣の資料なら、ストレイルの名前で請求できるぞ」

 それを手に入れたリオが、試行錯誤してる。徹夜する前に強制的にベッドに連れてくけどね。


 そんな日々を一週間ばかり過ごしてたら、リオがとうとう出来たって、部屋から出てきた。おめでとうの言葉と共に、おやつを提供してみた。リオにはあったかいお茶のみだけどね。

「手袋に魔法陣を嵌め込んで、装備品だけ転移できるようにしてみたんです」

 右手で装備品を引き寄せて、左手で倉庫に戻すっていう仕組みらしい。出来ちゃったのって、すごい。

「……ただ、欠陥があるんです」

 倉庫に魔法陣を置いとくと、ほんの少しのズレが生じて、何回か繰り返すと取り出せなくなっちゃうんだって。魔法陣の上に杖とか魔導書を置いておいても、取り出して戻すと物が動くからなんだって。うーん、難しい。

「基本的に転移魔法陣は、一回使い切りですから。常時繋がっているというのは、なかなか難しいのでしょう」

 それから倉庫に置いている最中に、何かしら起きて魔法陣と装備品が動いちゃったら、もう取り出せないらしい。

「外部要因に左右されない倉庫があればいいんですけど」

 そんな場所あったっけ。考えてたら、小麦粉を水で溶いて薄く伸ばして焼いてケチャップ掛けたおやつを食べてたアモニュスが目に入った。おやつを買うのは節約中だから。

「アモニュスの胃袋なら、外部要因に左右されないんじゃないの」

「………………」

 そんなにめちゃくちゃ嫌そうな顔をしないで。

「我の胃袋に魔法陣ごとしまうのか? 良いぞ、我の眷属の願い、叶えてやろうぞ!!」

 口元にケチャップつけながら、アモニュスはふんぞり返った。そういうとこだと思う、アモニュス。

「我の胃袋ならば無限に収納可能なのだ。任せよ!」

 まともにアモニュスが役立ってる気がする。ドロップ品の収納もやってるけど、うん。

「我が天に召されぬ限り、誰にも手出しできぬぞ。どうだ、我の凄さに感服するのだ!」

 調子に乗りすぎると、痛い目を見るからやめときなよ。ほら、リオが見たこともないくらい、嫌そうな顔をしてるじゃん。アモニュス、そろそろ、ね。

「うぬぬ、でも我だってもっと褒め称えられたいのだ。そうだ、ロータ。我の胃袋に転移魔法陣とやらを使うのに、供物を捧げよ」

「いつもご飯食べさせてるよ」

「もっと食べたいのだ。たくさんのカボチャプリンが食べたいのだ!」

 カボチャプリンは好評だったもんね。リオも食べてたし。

「でも黄金南瓜を買うとなると高いよ。月光の迷宮に入って、十層まで行かないと」

 あと転移魔法陣を購入するお金がないと、危なくて行けないって。


 そんな話をしてたら、ジャス店長が外出から戻ってきて声をかけてきた。

「なんだ、迷宮に行く話か。ちょうど良いタイミングじゃないか。迷宮探索がらみで、お前たちを指名して依頼があるって、ビゲルが呼んできてほしいって言われたんだ」

 まだ夕飯までには時間があるから行ってこいと、冒険者ギルドに送り出された。

 いつものごとく、受付にいるビゲルさんに声をかけたら、そのまま奥の部屋に通される。相変わらずの流れだなぁ。

「今回はギルド指名の依頼だ」

 普段のとは何か違うのかな。常時掲示されてる依頼とか、あんまり気にしてないけど。

「冒険者ギルドからの指名ってことで、失敗しても最低限の報奨金が出る。それから、支度金やアイテムも支給される」

 おお、至れり尽くせり。

「その代わり、危険が伴うから、受けるかどうかはちゃんと考えて返事をしろよ!」

 指名依頼は極秘任務だって。他言無用ってことらしい。そういうのって、ヤバいんじゃないの。

「迷宮の地図作りだ。冒険者ギルドは、迷宮の地図を保有してるんだ。冒険者からしてみれば、喉から手が出るほどほしい代物だな」

 王国にある迷宮の全てを把握することが、冒険者ギルドの重大な業務の一つなんだって。何か有事があった時のためだそうだ。


「お前たちへの依頼は、『月光の洞窟の迷宮』の四層から十層までのギルド職員の案内と護衛だ」


 十層まで降りたのはお前たちだからなと、ビゲルさんが言った。

 転移魔法陣は必須アイテムだから用意してくれるって。これは、黄金南瓜を手にいれるチャンス。引き受けるしかないよね。

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