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24 探索のご褒美と俺

「あら、ロータじゃない。斧の講習を申し込んだのはあなた……じゃないのね」

 鍛錬場で待っていたのは、久しぶりのナキアさんだった。嬉しそうにしていたけど、隣のルカを見て一瞬で沈んでる。

「暴走、しないわよね? しないわよね?」

「しない、ロータがいるから大丈夫だ」

「一応、さっきおにぎり食べさせたんで」

 ルカが暴走した事が相当なトラウマになっていらっしゃる。ルカに追加のおにぎり食べさせてたら、鍛錬場は飲食禁止だけど特別に許可するわとまで言ってくれてる。ありがたや、ありがたや。

「それで斧の使い方ってことね。迷宮で手に入れたの? ……あら、結構な業物じゃない。長く使えそうね」

 ルカの持ってる斧を見て、ナキアさんが感心してる。

「じゃあ簡単に説明するわね。ルカが今まで使ってた剣は、片手武器に分類されるの。それで、この斧は両手武器になるわ」

 両手武器には大剣とかハンマーとかそういうのがあるそうだ。おお、これぞファンタジー的な感じ。

「片手武器より大振りな攻撃が多くなるから、隙が出来やすいの。モンスターの狙いをコントロールするのが戦闘のコツよ」

「モンスターの狙い?」

「そう、モンスターは隙が出来てる人間に、狙いを定めて襲ってくる習性が確認されているわ。あなたたちでいうなら、リオが魔法を発動させるまでの時間があるでしょう。その隙を狙ってくるってわけ」

 そういえばベビーアースドラゴンもそうだったなと思い出す。あの時は、ルカが石を投げて上手い具合に意識を逸らしてたっけ。

「両手武器は隙が出来やすいけど、その分攻撃力が片手武器より段違いにあるわ。あとは、そうね。力を溜めて一撃を放つという技もあるの」

 精神を集中させて、全力で振り下ろす。

 ナキアさんがそう言いながら、見本を見せてくれた。

 おお、訓練用のカカシが、一刀両断されてる。

「戦闘中にこの一撃を放つには、完全に無防備になるから、仲間への信頼がカギになるわね。ま、そういうわけで、あとは使って感覚を掴むのみ。ルカ、ちょっとその斧を降ってみなさい」

 コクリとルカが頷いて、さっそく斧を構えた。おお、もう構えただけで歴戦の戦士的なオーラが出てるんですけど。そういえばルカは、ちょっと戦闘しただけで居合斬りみたいなの使ってたよ、確か。

「なんとなく、わかってきた」

 わかってきちゃったか。相変わらずすごいな。

 素振りみたいなのをしてから、ルカがカカシに向かって斧を叩きつけて斬ったりしてた。それから少し後ろに下がって、構えたまま動かなくなる。あ、これ、精神集中してるのかな。

 カッと目を見開いたルカが、飛び上がって回転しながら斧を振り下ろした。え、ジャンプして一回転できるんだ。

 ズゴンっていうすごい音がして、カカシは真っ二つになった。うん、すごい。床も壊れちゃったよ。

「…………いいのよ、大丈夫。鍛錬場は物品が壊れることもあるから、気にしないで、ね」

 ナキアさんが顔を引き攣らせてる。ごめんなさいと謝ると、暴走しなかっただけいいわと肩を落とされた。本当にごめんなさい。昨日から謝ってばっかりだよ、もう。


「斧を振り下ろすのは楽しい。でも素早いモンスターに対応するほどの技術は、俺にはないな」

 ミニボアとかも攻撃を受けてから振り下ろすしかないそうだ。それはちょっと困るよね。リオは一回でも攻撃を受けちゃったら、血反吐どころの騒ぎじゃないし。

「こうなったら、アモニュスを囮にするしかない」

「我、我!? そろそろお前たちは我の扱いを改めよ!?」

 大人しく俺のフードで昼寝してたアモニュスが、ルカの言葉を聞いて飛び上がった。アモニュスを囮にするかしないか、まずはリオに相談しないと。


 資料室に行くと、リオが調べ物をしていたところだった。うん、血反吐は吐いてない。良かった。

 ルカの斧での戦い方について話すと、リオは少し考え込んでから口を開いた。

「そうですね、明日あたりはじまりの迷宮に行ってみましょう。魔導書に載ってた魔法で、使えそうなのがあるんです」

 あそこなら衛兵さんもいるし、アモニュスが呼び寄せなければ、そんなにモンスターも大量に出てこないもんね。何かを試すなら最適かも。

「その戦い方が上手く行ったら、新しい迷宮に行ってみましょう」

 いくつか候補があるんだって、リオが言った。

「一つ目は『凪いだ草原の迷宮』。ここは以前、話を聞いた事があると思います。二つ目は『水霧の海の迷宮』です。叔父さんがよく毛ガニ漁に行ってる迷宮ですね」

 ああ、店長の収入源。

「水場が多い迷宮で、水中を移動する事がある迷宮ではあるんですけど。一層は浜辺みたいな感じで、特別な装備が必要ないです」

 階層を進むごとに陸地の割合が減ってきて、五層からは完全に水の中なのだとか。そういうのもあるんだ。本当に凄いな。

「叔父さんは二層で毛ガニ漁をしてるそうですよ。一層だと毛ガニはあんまり出ないそうです。その代わりに人喰いヒトデが出ますね」

「人喰い」

「文字通り人を食べます」

 えぐい。すごくえぐい。

「ただ人喰いヒトデは、こちらから攻撃しないと襲ってこないんです。なので、ルカが斧で攻撃するにはぴったりの相手かと思って」

 確かに、それはそうかも。リオが魔法を使うこともできそうだし。

「ともかく明日、まずは試してからですね」


 ギルドから帰る前に、厨房の修理を頼むことにした。店長に教えてもらったお店に行くと、元通りにするには10万メルだって。これはかなりお金に余裕が出るんじゃないかな。

 なんて思いつつ店内を見学させてもらってたら、見つけちゃったんだよね。コンロの下に設置できるオーブンを。お値段は厨房の修理プラスで15万メル。買えないことはない。欲しい、欲しいんだけど、どうしよう。

「料理の幅が広がるのなら、良いんじゃないですか? お店の方で出すメニューも増えますし」

「いいのかなぁ」

「いいと思う」

 ルカが謎の自信と共に頷いてる。じゃあ買っちゃうかと思うけど、15万メルとか大金すぎて使うの躊躇っちゃうよ。でも、厨房は修理しなきゃだもんね。ここは使うべきところ。

「毎度ありがとうございます。さっそく設置いたしますね。転移魔法陣での配送サービスご利用の場合は、別途配送料が掛かります」

「えっと、持って帰ります」

「はい、重いので気をつけてお持ち運びください。お客様ご自身で運ばれている時の故障での無料修理は承っておりませんので、ご注意を」

「はあい」

 なんていうか、すごいしっかりしてる店だな。アモニュスの胃袋に収納してもらって帰ることにした。アモニュスが冷蔵庫も欲しいとか言ってるけど、お値段いくらなんだ。小型なら俺個人のお金で買えちゃうな。うーん、俺の部屋に置くのならいっか。俺の部屋、あんまり使ってないし。

「個人の買い物ですか?」

「うん、厨房に置くなら大型なのが良いんだけどね。それはまた今度お金を貯めてからの方が良いから」

 というわけで、小型の冷蔵庫を購入した。アモニュスがアイスを食べたいとか言ってたので、帰り道にあったお店で買ってあげた。三段アイスを要求してきたけど。それにルカも食べてた。アイス好きなのか。

「リオは食べないの?」

「……冷たいものを食べる時は、少し心の準備が必要なので」

 頭が痛くなる事があるんだって。もう少し元気になれば、そんなことなくなるのかな。

 リオも一緒にアイス食べれるようになると、楽しいと思った。

「そ、そうですね。頑張ります」

「うん」



 そうして新しくなった厨房一式に、店長は感激して泣いてた。昨日から店長、ひたすら泣いてる。

「おま、おえっ、おまえらが……ヴエエッ……りっばじなっでおではぼんどに……ヴォオオオオンンッ」

 もう何言ってるかわかんないけど、とりあえず店長の背中を撫でておいた。

 泣きすぎてオーブン買ったこと気付いてないや。言わないのもまずいから、泣いてる店長に報告すると、そんな高級品まで買えるようになっただなんて多分言いながら床に伏せた。

「店長、今日は俺が料理作るよ。少し休んでて」

「ヴォンドニギュヴァエボゴダギャアアア!!!!!」

「なんて?」

 失敗した呪文言語以上に聞き取れないよ、店長。

 もう言葉も喋れなくなって嗚咽し始めたので、店長の介抱は二人に任せることにした。

「アモニュス、手伝って」

「わかったのだ! 南瓜、南瓜を使うのか!?」

「そうだよー」

 おばあちゃんが作ってくれた南瓜の煮物つくろ。甘じょっぱいやつ。美味しいんだよなぁ。他にも南瓜のグラタンとか、スープとか色々。

 手に入れたステーキ肉も焼いて、薄切り肉はミンチにしてハンバーグにしよ。きっとサラダを作っても見ないふりをされるだろうから、全部ハンバーグに入れちゃおうかな。

 アモニュスなら文句言わないから手伝いには最適かも。黄金芋があるし、油も追加で買えたから本物のフライドポテトをつけて。


「いっぱい作りすぎちゃったかな」


 テーブルに所狭しと並べられた料理に、また店長が言葉を失っちゃった。店長、本当に疲れてるんだ。

「ハンバーガーセットがあるのだ! これ我のぞ!? 我のぞ!!??」

「サラダがついてるのはアモニュスのだよ」

「ウヒョオオオオオオ!!!」

「ルカにはドロップしたステーキ肉も挟んだやつね」

「うまい」

「リオはこれ、食べてみる? 俺のおばあちゃんがよく作ってくれた南瓜の煮物」

「ありがとうございます」

 普段を野菜を回避するのに、南瓜の煮物は気に入ったみたいだ。甘いのが好きなのかな。もしや、野菜は苦いから食べたくない、とかそういう理由なのか。本当に野菜嫌いのお子さまなの。


「なんだ今日は、凄いな」

「あ、ビゲルさん、いらっしゃい。いっぱい作ったから、食べてきますか?」

「ヴィゲルゴノゴダジュガジュウビョウヴォアダラジグジデグレデウデギュギョンジャヴォイ」

「ジャス、……良かったな」

 ビゲルさんは言葉になってない店長の叫びを、受け入れてる。さすが大人の男だ。

「なんだなんだ、営業再開にしては凄いな」

「ジャスはどうした、なんで床に伏せってるんだ?」

 いつもの常連さんたちもきたので、どうぞと言ってみたら泣かれた。なんでみんな泣くの。

「だってあのストレイル兄弟がよぉ、金を稼いだんだぞ?」

「しかもこんな立派な厨房まで……、これを泣かずにどうしろってんだよ」

「これ、祝い金だ。受け取ってくれ」

 良い人たち過ぎないかな。

 ビゲルさんも若干涙目だよ。そしてそれを全然気にせず食べ続けてるルカは凄いな。リオはさっきから南瓜と芋しか食べてないし。穀類だけじゃなくて、もっと別の野菜と肉も食べようよ。

 仕方ないから俺がフォークに人参入りのハンバーグを突き刺して、口元に持っていってあげた。ものすごい渋い顔をされたけど、最終的には口を開けて食べてた。できれば自分から進んで食べてほしいな。

 リオのお世話をしながら、ビゲルさんがいるならとついでに聞いてみた。

「あん? ストレイル兄弟の借金?」

「この前、現在進行形で増えてるって言ってたから」

「ああ、返済していきたいから、全貌が知りたいってことか」

 話が早くて助かる。

「おおよそ25億メルってのは言ったな。歴代のストレイル兄弟の功績での特許買取で、そこまでで抑えられている。で、利息はない」

「え、利息ないの?」

「そこは王家の温情だ」

 王家の人、実は優しいのかな。利息を考えたら気持ち悪くなるから、なしでよかった。本当によかった。

「増えてる理由は、主に月々の回復薬と、衛兵の特別出動の手当ての支払いだな」

 リオが普段飲んでる回復薬は、ギルドからの一括購入だそうだ。払える金額じゃないから、ツケ、つまり借金に回されてるわけ。それから迷宮でぶっ倒れて担ぎ出される時、大抵は衛兵さんたちに特別手当てが出てるんだって。救出は自己負担が鉄則だとかなんとか。

「一ヶ月の回復薬の購入金額はおいくらですか?」

「50本だから50万メルだな」

「ヒエッ」

「でも最近は、毎日のように飲んでない。15本前後に抑えられてて、俺は、俺は……!」

 あ、また店長が泣き出した。常連の人がハンカチ渡してるよ。

 衛兵さんたちのお世話にならないようにすれば、救出費用はないとしても、それでも15万メルか。

「薬草とかなら即効性はない分、安いぞ。まあ苦いから、リオに無理やり食わすと血反吐はかれるからやめたがな」

 せめてマイナスにならないように、回復薬のお金が稼げるようになるのが、目標かな。よし、頑張るのは俺じゃないけど、サポート頑張ろう。

 目標に意気込みつつ、そろそろデザートの時間だなと思って、俺は自分の部屋に戻った。アモニュスに運んでもらった冷蔵庫の中に、冷やしておいたプリンが。

 卵もあるし、牛乳もある。それから美味しそうな南瓜があるとなれば、南瓜プリン作りたくなるじゃん。


「はい、どーぞ」


 大きめの型で作ったプリンを、ゴツいおじさんたちと食べる構図はちょっとアレかなって思った。けど美味しいって言ってもらえたから、これで良いか。あとリオがものすごく食べてて、次の日に寝込んでたけど。プリンの食べ過ぎ注意だね。

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