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19 迷宮岩ガメを狩り尽くす大作戦と俺

 リオの作戦とは、一層から二層へ向かう通路から外れた袋小路を利用した、洞窟岩ガメをおびき寄せて一気に倒すというものだった。え、うまく行くのこれ。

「ロータの作るご飯を食べると、ルカは小石を指で弾くのならば三十発程度、振りかぶって投げるのならば十五発、そしてこの抱えるほどの大岩なら五発投げれる事がわかりました」

 指で小石を弾くってさぁ、よく少年漫画で見る凄い技じゃないの。え、昨日石投げてただけなのに、もうそんなの出来るわけ、ルカは。

「何となく出来るような気がして、やってみたら出来た」

 もうこれはルカだから仕方ないと言うことにしよう、うん。考えちゃいけない。

「洞窟岩ガメを倒すセオリーは、熱して冷やし、甲羅を脆くするというものです。ですがルカならば、それを無視して倒せます。そしてですね、昨日帰ってからもうちょっとうまく石に魔力を込められないか試行錯誤した結果」

 ゴソゴソと肩掛けのポーチから取り出されたのは、綺麗な青い色の手の平サイズの球体だった。

「変異しちゃった魔石です」

「変異しちゃった魔石」

「アモニュスが吐き出していた石なんですけど、なんだか変な感じがして、魔力を練りに練ってたら、こうなったんです」

 今は青色だけれども、魔力を込めると少し赤くなるんだって。触らせてもらったら、プニプニとした柔らかい感触だった。石なのに柔らかいって、なんか変な感じ。

「これを高速で投げると、炎を纏ったように揺らめいて尖り甲羅を貫きます。直線上にいるもの全てを貫いて、迷宮の壁に当たると跳ね返ってきました」

 昨日の夜遅くに来たビゲルさんを引きずって、ほんの小一時間出掛けてたのは、試しに一投してきたんだとか。

 ちなみに帰りは力付きたみたいで、リオもルカもビゲルさんに抱えられてたけど。うーん、出来あがっちゃったものを試したいのはわかるけど、流石に夜は寝ようよ。

「アモニュスに聞くと『ヒヒイロカネ』だと言うんですけど、そんなの図鑑にも載ってない鉱石でして。迷宮にある宝箱から時折見付かる武具に、もしかしたら使われている金属かもしれませんけど」

 迷宮でモンスターを倒すと基本的に食材しか手に入らないけど、階層ごとにいるボスモンスターを倒すと、偶に宝箱が出現して武器とか防具とかが手に入るんだって。おお、ファンタジー要素きた。

「『ヒヒイロカネ』は魔力を流すと変化する性質があるのだ! 魔剣と呼ばれるものに使われているのだぞ。色々と面白い形になるから、神々が色々と作って、気に入った人間にあげてたぞ」

 あれは炎のように複雑な形にした剣をどうたらと、アモニュスが語り出す。どうかどうしてそんな鉱石というか金属を、アモニュスが持ってるんだろう。

「それを産出する大陸を、我が食べちゃったから……なのだ」

 テヘッ☆彡っと星を飛ばしたアモニュスを踏み付けなかった俺、すごく偉いと思う。うん。うん。

 というかそんな希少な鉱石あるなら、それで武器とか作れば良いじゃん。そう思ったんだけど、アモニュス曰く食べちゃった大陸のどこにその鉱石が埋まってるのか全然わからないから、仕分け出来ないとか。

「ハンバーグに入ってる玉ねぎだけ、胃袋から取り出せって言われても我には無理ぞ。そういう事なのだ」

「つまりアモニュスから渡された石が変化したのは、物凄い偶然だったようです」

「あ、でも二人とも、アモニュスの眷属だからちょっとした幸運が授かるっていうし。そのお陰だったり」

 リオが物凄く顔を引き攣らせてた。普段は無表情のルカも、舌打ちしてるし。そんなにアモニュスのお陰って思うのは嫌かぁ。まあ嫌かも。アモニュス、頑張れ、色々と。

「話は長くなりましたが、この変異しちゃった魔石、壁に跳ね返って戻ってきて危険なんですが、ルカの身体能力ならそれを掴んでまた投げれるんです」


 物は試しにって事で、アモニュスの洋燈を使って袋小路へ移動。うーん、何も出てこないから安心安心。

 行き止まりの通路の壁を背に、座ってるように指示が来た。立ってたら転ぶ危険があるしね。普通だったら座ったりしたら危ないけども、俺の場合は立ってる方が危ない。

 普通の洋燈に灯りを付けて、準備万端。俺は何もしないけど。

「というわけで、魔物寄せお願いします」

「ふぬー、我の力を見よ!!!」

 アモニュスがちょっと光ったかと思うと、地響きがして洞窟岩ガメが来た。うわぁ、岩ガメって走れるんだ。

「来ましたね……! まずは足止め【凍れる風よ吹き荒れろ】」

 集まってきた岩ガメに向かって、リオが杖を振り翳した。途端、岩ガメの足が氷に覆われていく。

「でもこっち向かってくる!?」

「この魔法は倒すのは目的じゃありません。あくまで一時的に、機動力を奪うだけですから。……ルカ」

「わかってる」

 ルカが魔石を投げた瞬間、それが紅く光って線になった。洞窟内が薄暗いから光線みたいに見える。魔石は壁で跳ね返って反対側へと飛んで行きながら、洞窟岩ガメを撃ち抜いていってる。

 なんだろう、ゴムボール的な動き。

 跳ね返る魔石がルカの手に戻ってくる頃には、袋小路に集まった岩ガメは一掃されてた。

「芋がいっぱいなのだ!」

 アモニュスが小踊りしてる。ドロップ品の回収はアモニュスがやる気らしい。芋が食べれるからか、文句も言わずピョコピョコ跳ねてる。今のところ害はないから好きにさせとこう。

「芋は美味しいですから」

「本当に好きだよね、芋」

「芋は美味しいからな」

「もっと他の野菜も食べて」

 なんでそこで二人とも黙るんだろう。ねえ、他の野菜も美味しいじゃん。何でそんなに芋に魅入られちゃってるの。確かに芋は美味しいけどさぁ、双子のうちの一人は、完全に食わず嫌い発動しちゃってるよね。

 最近は固形物を食べて、適度に運動して、迷宮に入るのなら日付が変わる前に寝なきゃダメっていう約束をするようになってから、どんどんと顔色が人間に近付いて来てるけど。



 リオの顔を見ると、良い感じに肉が付いてきたように思える。毎日お風呂やさんにも行ってるし、初めて会った時のような暗く澱んだ空気は纏ってないや。

 髪の毛の色、ルカは黒に近い紺色だけど、リオは水色なんだよね。地毛が水色って綺麗だよなあと思った。

 二次元のキャラクターくらいでしか、水色の髪って見た事なかったし。

 物腰が丁寧で柔らかいリオにピッタリな気がした。虚弱の呪いが掛かってるから、今でも気を抜くと血反吐出ちゃうけど。

 兄としてルカの事を心配して、店長に迷惑掛けないように必死になってお金稼ごとうしてるし、あと俺の事を気に掛けてくれてるし。

 普通に良いお兄ちゃんなんだよね、リオは。

 まあ実際には、虚弱の呪いで倒れるから、回復薬飲みまくりで家計を圧迫しちゃってるけど。店長曰く、俺が来てから飲む量が減ったから、赤字じゃなくなってるって泣いて喜んでたので、借金が膨らむ事態は回避できてるって思いたい。


 魔神アモニュスの呪いは、リオとルカが次代に引継がなければ、そこで終わりなんだそうだけど。

 今ある呪い自体は消滅させられないんだって、アモニュスが言ってた。

 呪いという代償があるからこそ、チート級の能力が二人には授けられているわけで、そういう理は魔神ですらひっくり返せないんだとか。

 聖女さまの浄化の力なら、弱まった呪いをどうにか出来るそうだけど、そうなると二人のチート級の能力もなくなるとか。

 それを聞いた二人は、しばらく話し合ってたんだよね。


 それで出した答えは、虚弱と暴食の呪いは嫌だけども、借金返済のために受け入れるって事だった。


「呪いはなくなっても、借金は無くなりませんから……。少なくとも、この力があれば、借金を完済できるかもしれませんし。もしルカがお付き合いして結婚したい人が出来た時、呪いよりも借金の方がドン引きされて振られそうで……」


 先祖代々の借金がある男とは、確かに結婚したいなあって奇特な人、なかなか現れないかもしれない。

「ロータ、お祖母様のお迎えが来るまでの間、もう少し私達に力を貸してもらえませんか?」

 モンスターを倒せば身体能力が上がるから、そうなればもし俺がいなくなっちゃっても、なんとかやっていけるかもしれないから、だってさ。おばあちゃんが迎えに来てくれたらどうするか、全然考えてなかったから、返答に困ってたら、ルカがどこからともなく出てきて、手を握ってずっとご飯を作って欲しいとか言ったけど。

「できるなら一生頼む。お祖母様にお願いするから」

「え、えー? い、一生?」

「一生。それだけ、ロータの作る食事は美味しい」

 ご飯食べたいだけかあと苦笑してると、リオがそれにと言葉と続けた。


「本音を言えば、ずっとここにいて欲しいのです。その、ロータは、初めてできた同世代の友人のようなものでして……。でもロータはお祖母様と一緒に暮らしたいのなら、止めるわけにもいかないですし。でもやっぱり、居て欲しいなって…」


 眼鏡を指先でいじりながら、ちょっと照れながら話すリオを見てたら、なんだかもう、協力するしかないって気になった。いやまあ、見ててキュンとしちゃったんだもの、年下の可愛い言葉に応えるのが年上の人間としての義務だよね。


 まあ俺も本音を言えば、こんなふうにご飯を一緒に食べて、笑ったり怒ったり、お世話したりされたりする友人が出来たの、初めてだからなぁ。


 学生時代はそれなりの友人付き合いはあったけど。俺がおばあちゃん子だってわかると、馬鹿にして笑う奴とか出て来たし。おばあちゃんと一緒に料理作ったり、手芸してみたり、そういう時間を過ごしてるの好きだって事、段々と周りに隠すようになっちゃって、すっごく親しい友人とかいなかった。

 高校を卒業して就職してからは、さらに疎遠になっちゃうし。職場の人とはなかなか友達みたいに一緒に過ごす事もないから。


 おばあちゃんに会いたいけど、リオとルカと一緒にいたいなっていうのも、自分の中に確かにある気持ちだった。


 おばあちゃんとの事は、おばあちゃんに会ってから決めよう。実際にはお使いの人がくるだけだそうだけど。おばあちゃん、元気にしてるかなぁ。




 そんな事をつらつらと考えてると、アモニュスが終わったのだと叫んだ。


「岩ガメの群れ、退治しきったのだ! 休憩なのだ!! ゴハン、ゴハン!!!!」

「ロータ、洋燈をお願いします」

 アモニュスの洋燈をつけると、市販されてる洋燈とは違う不思議と暖かな光が一帯を照らした。どこか安心するっていうか、ホッとする光なんだよね、これ。

 リュックから作ってきたおいた大量のサンドウィッチを取り出すと、ルカが物凄い勢いで消費していく。何故かアモニュスも食べてるけど。まあ回収頑張ってるから、良いか。

 リオにはポタージュにした野菜スープを渡した。形が見えなきゃ多分大丈夫だろうと思ってみてると、口をつけた瞬間、一瞬眉を寄せてた。

「パンを浸して食べてみたら?」

「これは、…すごく美味しいですね。今度は芋だけでお願いします」

「そんなに人参を嫌わないであげて」

 あと芋はそれで最後。今大量に手に入ったけど、多分間違いなくフライドポテトになって消えちゃうから。


「ルカ、もう一回岩ガメを集めて芋を手に入れますよ」

「わかった」

「芋なのだ! 芋なのだ!!」


 その芋に掛ける情熱はなんなんだろ。やる気があるのは良い事だけど、この二人やり過ぎたらまずいからなぁ。


 案の定、もう一回、あと一回と続けた結果、五回目のモンスター引き寄せ作戦の後で、リオは血反吐を吐いて倒れちゃった。ルカは予備に持ってきた飴玉を噛み砕きながら帰ったので、店長が仕込んでた料理を全部空にする程度ですんだけど。


 お店のキッチンがぐちゃぐちゃになったので、フライドポテトはお預けになっちゃった。というか修理費用どうしよ、店長。


「……俺、明日からまた、毛ガニ漁に行ってくる」

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