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11 はじまりの迷宮と俺

 リオの体調回復を待って、講習を受けてから結局三日程経ってからようやく『はじまりの迷宮』へとやってきた。固形物が食べれないとか言っていたリオは、おかゆと柔らかく煮た野菜類とかなら食べれるようになったからか、顔色が割と良い。

 やっぱ食生活って大事だと思う。ルカは言わずものがな、朝早くから作っておいた卵サンドを大量に胃袋に収めている。パンはパン屋さんで大量に購入する契約みたいなのをしているらしく、朝になると焼き立てがもらえるんだよね。

 ちなみに店の隣がパン屋さんだった。ジャス店長のことをよく知っているらしく、迷宮毛カニ漁かと遠い目をしてた。なんでも結構過酷なお仕事らしい。それならば帰ってくる日に何か用意しておいてあげようと考えて、思いついた。

「せっかくだし、ここでお肉とってジャス店長に食べさせてあげよ」

「買った方が美味いと思うが」

「元も子もない。いやいやこういうのは、リオとルカがモンスターを倒して、お肉を手に入れるのが良いんだよ」

「そういうものですか?」

「そういうものなんです」

 いまいち理解出来てないような顔の二人の背中を押して、いざ行かん、迷宮探索へ。


 まあ歩いて一時間も掛からない道のりだけど。


 料理の効果のおかげで、杖を装備してるリオが迷宮ミニボアを何度かペチペチと叩いて倒してるし、ルカに至っては全て一撃だ。

「どこを斬れば良いか、わかってきた気がする」

「それ剣を極めた達人が言うセリフ」

 まさかそんな事ないよね。まさかね。昨日までせいぜい素振りしてただけだよ、ルカは。

「いやでも、実戦に勝る経験はないって言いますし」

「早過ぎない?」

「ロータ、腹が減ってきた」

「そっちも早過ぎない?」

 でもまあ暴走されるよりは良いか。って事で、歩いて15分足らずで休憩タイム。この為に大量のおにぎりを用意しておいたんだよ。もうおばあちゃんの梅干しとかないけど。

 市場に行くと、一般的なスーパー並みに、いろんな食材が売ってた。迷宮産はちょっとお高いけどね。ルカが肉ばかりリクエストしてくるので、毎日が肉々しいんだけど。やっぱりお魚も食べたい時もある。

 なのでややお高めだけども、野菜と水でカサ増ししたお粥(ルカには個別に肉を焼いてる)のおかげで、ジャス店長から預かったお金には余裕があったりしたので、迷宮シャケの切り身を買っちゃったのだ。

 シャケのおにぎりとか、遠足っぽくて良い。ちなみにゴマとか普通に売ってた。もう突っ込まない。この世界での食材云々には突っ込んではいけない。全部やらかした神様が悪い。

 シャケと白ゴマのおにぎりに、肉が欲しいと前日から言ってたルカの為に肉巻きおにぎり、それから超絶シンプルな塩にぎり。

 転移してきた時にお弁当入れてたタッパーにぎっしりと詰め込んで、さらには新しい入れ物を買って、リュックに入れて背負ってきたのだ。ちなみに二人は何も背負ってない。まあ暴走とか血反吐とかの危険性があるから、最低限の装備にしてもらった。

 どうせお弁当類は帰るまでに空になるのだから。ドロップした肉類を入れて帰る余裕はある筈。

「ほうじ茶も売ってたから、水筒に入れて持ってきた」

 この前美味しいって言ってたよねとリオに勧めてみれば、ありがとうございますと笑顔で受け取ってくれた。おばあちゃん家で発見した水筒、かなり便利。確かお父さんが子供の頃、運動会に持ってくのに使ってたらしいけど。かなり古い物だよね、そうなると。さすがおばあちゃん、物持ち良過ぎる。


 奥の祭壇に辿り着くまでに、三度程休憩を挟んだけども。暴走も血反吐もなく来れたので良しとしよう。むしろ大成功だと思う。

 でもまあ、家に帰るまでが迷宮探索なので、帰り道も油断しないようにしないと。

「いちいち来た道を戻らなきゃ行けないの、面倒だねー。俺の世界のお話とかゲームだと、終着地点には外まで一気にワープ出来るやつとかあったりするよ」

「出来ますよ。この迷宮以外は、外に出る為の機能が備わってます。各階層の最奥に、神が施した魔法陣があり、そこに立つと迷宮の出口や、行った事のある階層になら移動出来るんです」

 それって、まさかねぇ。

 よくあるのが、それがない迷宮には隠された道があって、本当の最奥が存在するとかなんだけど。

「どうでしょう、この祭壇は何度も調べられてますし。隠し通路があるとも聞いたことはないですね。迷宮の壁や床は、神が創りし建造物なので、この世界に存在しうる住人は破壊出来ないんですよ」

「伝承にある魔神ですら、壊せないと聞く」

 水晶のはまった祭壇は、傷一つなくピカピカだ。儀式用のものなのか、さっぱりわからないんだけど。

 祭壇の両端の床には紋様が刻まれていて、ちょうど人がひとり立てるスペースの色が変わっていた。ただの模様にしては気になるけども。

「それも学者が調べたんですけど。魔力の高い者やそうじゃない者、様々な種族に迷い人まで、そりゃあもう調べ尽くしたそうですよ」

「結果は何も起きなかったってことかー。こういうの発見すると、冒険者ギルドから何か貰えたりするのがお約束なんだけど」

「それどころか、王宮から呼び出しが掛かるな」

 そんな話をしながら祭壇の周りを見ていたら、不意にリオが顎の下に手を当てて立ち止まった。え、何か発見しちゃったの。


「ロータには話しましたよね。ちょっと特殊な風習のある辺鄙な田舎の村の話」

「双子はダメなんだっけ」

「ええ、魔神崇拝の邪教徒の村だったんですけど。その魔神を打ち倒したのが双子だったというので、忌子とされてたんですよ」

「まじんすうはいのじゃきょうとのむら」

 先日の重い話もやっと呑み込んだところなのに、まだ追加があったか。

「村の祠に描かれてた魔神のシンボルに似てるんですよね、この床の紋様」

「ヒエエエエエ」

 何それ、もしかしたらもしかしちゃうの、マジで。物は試しということで、二人がそれぞれ紋様の上に立ったんだけど。


「何も起きないね」

「でしょうね」

「まあそうだろ」


 祭壇が動き出すとかそういう事もなかった。現実は甘くない。

「それよりロータ、腹が減ったんだが」

「え、ちょっと待って」

 おにぎりを取り出して渡そうとした時、焦ったせいかポロッと落としてしまった。うん、祭壇の上にね。


 途端、祭壇の水晶が光り輝き、地響きと共に目の前の壁が動き出す。


「嘘でしょ、嘘でしょ!?」

「おにぎりが鍵だったんですか、えっ、えっ!!??」

「祭壇の上に転がっただけなら食べていいよな」


 壁の一部が奥へと引っ込み、そこの床から魔法陣らしき台座がせり上がってきた。それから壁には窪みが現れ、その窪みにすっぽりと嵌るようにして入ってる、動物のような黒っぽい何かが出てきた。

「なんだこれ、タヌキ?」

「いやブタじゃないか」

「やばいぐらい太ったネコにも見えますけど」

 ぬいぐるみじゃなさそうだけど。どうしたもんだろ、これ。

 三人で見ていたら、それの目がカッと開いたかと思うと、窪みから飛び出してきた。


「我が眷属よ、よくぞ封印を解いてくれたのだ! 供物を捧げ我を称え…って、食べてるー!!!?? 我のご飯食べてるー!!!???」


 動き出したそれが、ルカが食べてるおにぎりを見て悲鳴を上げた。楕円形に近いフォルムにちょっと垂れた丸い耳、それから短い手足。背中には床に刻まれていたシンボルと同じ模様があった。

「我も食べたいよぅ」

 シクシクと泣き出したそれ。なんだもう、この状況。

 おにぎりはもしかしなくとも、祭壇の上に落ちたから供物にカウントされたのか。

「えーっと、どちら様?」

「我は暴食の魔神アモニュスなり! とっても強い魔神なのだ! 恐れ慄け!!!」

「村で信仰してた魔神と同じ名前ですけど。…伝承によると神のもたらした食物を三日三晩喰らい続け、ついにはこの世の全てを喰らった獣と言われてます」

 魔神アモニュスはそうだぞとドヤ顔をした。どう見てもそんな恐ろしい存在には思えないんだけど。だって涎をダラダラと垂れ流して、おにぎり貪り食べてるルカを凝視してるんだもの。

「ううう、実は我、もう何千年も前に創造主様にこの迷宮に封印されてしまって。信仰もされてないから力も殆どないのだ」

「え、うちの村では信仰してましたよ」

「ううう、信仰が残ってて良かったよぅ。じゃなきゃ我、天に召されるところだったぞ」

 ぐうぐうとお腹を鳴らしてるアモニュスを見て、おにぎりをあげようか迷ってしまった。いやだって、魔神にお供えしても良いのかな。

「良いぞ! 我は魔神だが、悪い事はしない魔神だからな!」

「そんな魔神いる?」

「そりゃあ我も、封印される前はちょっとやらかしちゃって、魔神って言われたけども。反省して、創造主様が創った人間達に良い事をするように心掛けてるのだ」

「良いことって?」

「何百年前だか忘れたが、この地に我とは違う破壊大好き魔神が現れたときにな。我の力の一部を、契約で貸し与えてやったんだぞ。色んな武器が使える超絶格好良い力と、どんな魔法も使える最高峰に有能な力をな!!」

 力の与え過ぎで封印解けたけど眠くなって寝てたってアモニュスが言ってるんだけど。

 いやいやいや、もしかしなくとも、それって。


「……ピャッ!?」

「今すぐその契約を解除して頂けませんかね?」

「なになになんなのだ!? なんかめちゃくちゃ眷属が怖いいいいっ!!!??」

 犯人確保と言わんばかりにルカがアモニュスを捕まえた。そして杖を突きつけて、リオが見下ろしているんだけど。

「解除ってなんぞ!? 我はちゃんと契約した奴に教えたからな!! その力は人には過ぎたものであるから、どうしたって対価が必要だって。だから契約者の名を継ぐ者、おおよそ百人がそれを支払うのだって」

 だからその百人目が名を継がなければ、契約は自動的に解除されるとアモニュスが言った。

「聖なる乙女は呪いが解けるのは百年くらい掛かると」

「我はその辺の事情は知らんぞ。契約した奴はやたらと頭が回ったから、養子でも力は受け継げるってのを知って、子供に養子を取らせて名を継がせるを百回繰り返せばいいなとか、我の目の前で言ってたから、てっきりそれを履行したのだとばかり」

「え、そんなので良いの?」

「どんな契約にも抜け道があるのだ。我から教えるのはダメだが、相手が気付いて確認とるのは違反じゃないからな」

 ということは、ストレイル兄弟の呪いって、次代に引き継がれる事はなくなったって事かな。アモニュスの話を聞いてたリオが、なんだか難しい顔をしている。なんだろう、何か引っ掛かるのかな。

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