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何も持たない人間の行動

 セシリアから商売道具を奪ったエンガディオ強盗団は、セシリアの過去においてもセシリアから大事な存在を奪った奴らであった。


 彼女の家族を殺し、彼女に強盗殺人犯の汚名を着せて人生を壊したのだ。

 それだけではなく、彼らはドラゴネシアの四婦人達から宝石を盗み、ジサイエルに逃げ込んでいたと思われていた窃盗団だった。


 ドラゴネシアが不甲斐無く奴らを逃がしてしまったがために、奴らがドラゴネシアから奪った金で身なりを整えて村の村長になりすましてしまった事には、リカエルはセシリアに対して申し訳ない以上の思いである。

 エンガディオ・カラマフ男爵と名乗る初老の男、本名ロビィ・バウエルが村長になりすますことが無ければ、セシリアの家族が生きていたのは確実なのだ。


 奴が村長であったために、セシリアの両親が病にかかって倒れた時、奴らは金目のものを奪った後に犯罪の露見を防ぐために残虐な行動を起こした。セシリアの家族の病は死を招く疫病だからと村民に伝え、村を守る大義名分でセシリアの家族が住む屋敷の窓やドアを外から封じてしまったのだ。


 その行為によって、セシリアの両親は医者に診られる事もなく病死し、当時五歳だった妹は餓死することになった。


「ガムランはちゃんと生きて返したのにな。どこで残虐性を手に入れた?」


 バウエル達を見張るための部屋は、月明りしか入らない暗い部屋だ。

 リカエルとルーファスは窓に向けて置いてあるソファに並んで座り、互いを見ずに窓の向こうを観察している。だらしなく足を投げ出して座る二人だが、二人の装いは対照的だ。ルーファスは夜会服に身を包み、リカエルは粗末な部屋に馴染む地味なスーツを着ていた。


 対象的な格好ながら二人の目的は一緒である。


 バウエル一味を潰す、だ。


「自分達にも娘が生まれた事で変わったのかもよ」


 ルーファスはリカエルの視線を受けてにやっと笑う。

 ルーファスは一児の父でもある。彼は屈んで膝の上で組んだ手に顎を乗せ、これが真実だろうと嘯いた。


「親は子供のためには鬼になるのさ」


「じゃあ、家に帰ってやれよ」


「俺の子は生まれたてのまだ赤ちゃんじゃないか!!おねんねの時間だろ」


「二年前に生まれた気がするけど、生まれたて?」


「いつまでも天使なんだよ。それで、俺が言いたいことはね、偽セシリアのメラニア・バウエルはセシリアが王都の女学館に入学したのを羨ましく思ったと思うよ。自分は村の子供達に囲まれての学校なのに、セシリアは綺麗な服を着て貴族の仲間入りをしているんだ。そして、そんな娘を見てあいつらは思ったんだ。娘の為に目障りなあいつら一家を壊してやろう、と」


「え?君は子供が生まれたらそんな考えなの?やばくね?ダーレンに子作り禁止してもらった方が良いな。あのヴェリカと一緒になって暴走されたらこの世の地獄が始まりそうだ」


「茶化すな。君のそういう所がセシリアに今一つって思わせるんじゃないのか?」


「君のメラニア・バウエルへの見立てが具体的すぎるからね。怖くなった」


「ハハハ。俺の子とレンフォードの子は同い年だろ?まるで双子みたいでね、常に互いが同じものを手にしていないと不機嫌なんだよ。それで俺は思うのさ。可愛いジョインを泣かせる原因となった自分はなんて不甲斐無いんだろうと。ごめんね、パパのせいで君は息子だ。ビビアンみたいに女の子に生まれられなくてごめんねって。っていうか、俺達の代が男ばっかりだからって、俺の息子への関心が薄くないか?」


「――そう言って俺に玩具を買わせるのは何度目だ?で、何が欲しい?」


「玩具じゃなくてベビー服が良いな。ビビアンのフリフリ服が羨ましいみたいでさ。羨ましく思わないぐらい可愛い服をセシリアに頼んでくれ」


「――親ばかめ。で、あいつらも親ばかだと?」


「そうでしょう。娘を寄宿学校に入れて自分達のぼろが出ては困る。大事な娘に出来た学友について、それなりの貴族は家族まで調べて来るぞ。だから調べられても間違いない身の上を手に入れようって、盗んだんじゃ無いの?」


 ロビィ・バウエルはセシリアの父の名前も盗んでいた。

 ロビィ・バウエルは詐欺行為をする時はカラマフ男爵となり、ブリューア家が受け取っていた株の配当金を受け取りながらダン・ブリューアとして王都で善人の顔をして暮らしているのだ。


「びっくりだね。ソーン子爵家も驚いていた。ダンが死んだなんて聞いていないぞって。それじゃあ株の名義やら色々変えなきゃねって、動いてくれるらしい。それから、あっちに醜聞が行くことが無いなら何しても良いって許可も貰ったよ」


 ルーファスは監視部屋に籠るリカエルに会いに来る前に、社交クラブで非公式にソーン子爵と面談してきていたのだ。


「セシリアの生死も伝えちゃった?」


「そこは慎重に。ダン・ブリューアが妻と娘と十一年前に亡くなっている、それだけ。亡くなった娘が複数とか、妹だけ、とも言っていないよ」


「ありがとう。セシリアを復活させるにあたってそこらへんはまだぼやかしたいからね」


「これで彼女が報われると良いな。ああ、親父がドラゴネシアに行っていて良かったよ。こっちにいたら有無を言わさずにあいつらに殴り込んで血祭りにしていただろう?メチャクチャになってた」


 ルーファスは懐から護身用の小型のナイフを取り出し、自分こそ今すぐに乗り込んでいきたいという風に小型のナイフを磨き始めた。その行為にリカエルは口元を綻ばせ、明りが灯っている悪党の巣を見つめる。


「知らせないまま決行したら、俺達こそラルフに血祭りに上げられそうだな」


 ドラゴネシア伯爵であるラルフは王都にいない。

 ドラゴネシアに向かうレティシアの付添いとなったからだ。


「あ、そうだ。道中すれ違っただけで挨拶もしなかったから今聞くけど、レティシアはどうしてドラゴネシアに行ったんだ?」


 ナイフを磨く手を止めたルーファスは顔をあげもせずに、今日は雨だったという風にリカエルに答えた。


「俺がギランに最後通牒を突きつけたからだ。妹はそんな俺の顔も見たくは無いとドラゴネシアに帰った」


「同じ顔が二つあるもんな。で、あいつはやっぱりドラゴネシアになりたいがために純なレティシアを誑かしたのか。誰が死地を求めてる奴に妹をやるかよ」


「おいおい。それだったら俺は認めてたぞ。あいつは、思い出だけが欲しかったなんて言いやがったから、俺はあいつをぶちのめしたんだよ」


「――ルーファスの性格じゃ、まずぶちのめした、だよな。殴られた後じゃ、反発して心にもない事言うんじゃね?」


「殴って無い。蹴り込んだ。反発してくりゃ可愛いが、土下座だ。それで何も無い自分がレティシアとの結婚など考えていない、思い出が欲しかっただけ、とかふざけた事を言って来たからな、二度と顔を見せるな、お終い、だ」


 リカエルは両手で顔を覆った。

 国一番の人気者の騎士ギランだが、彼は実戦も経験できないお人形でしかない自分の現状を嘆いており、だからこそドラゴネシアの危機に際し援軍として駆け付けて来たのである。


 武勲を手に入れたい。


 自分が外見だけだと考えている男は、財産も後ろ立ても何も無いからこそドラゴネシアの男となることを望んでいた。武勲を上げればお飾りの近衛兵の職を失っても兵士として生きて行けると考えていたのだ。


 だからこそリカエルはギランをレティシアに近づけたくなかった。

 ダーレンに大怪我させた時の自分と似ているからだ。


 あいつは絶対に初戦で死に、ダーレンでない自分は彼を守り切れないだろう。

 そうしたらレティシアはどうなる?


 だがたった今ルーファスから聞いた事によれば、ギランはレティシアとの結婚を望んではいないと言う。


 思い出が欲しかっただけ?


「昨夜はありがとう。あなたの気持とあなたとの一夜は一生の思い出にします」


 セシリアがリカエルに送った手紙がリカエルの脳裏に浮かんだ。


「あの野郎。ぶっ飛ばしてやる」


「おい、リカエル!!」


「とりあえず奴らは泳がせなきゃだ。あとは頼む。俺は頑固なセシリアを殴れない代りにギランを殴りにちょっと行って来る」


「おい!!俺はすぐに帰るつもりでって。交代要員くらい寄こせよ!!俺は可愛いジョインのためだけでなく、愛するジェニファーのためにお家に帰らにゃいけないんだ!!」


 リカエルは監視部屋を飛び出し、その足で王宮へと向かっていた。

 ギランと話し合う事で、リカエルがセシリアを手に入れる方法が見つかるような気がしたからだ。

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