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神さまが奪うから私は奪い返しに行くの

 伯爵家に着いた後のセシリアとイーナは、リカエルによって応接間の隣の控えの間に押し込められた。そこは、普段であれば応接間に招かれた客の侍女や従者が控えるためのソファなどが置かれた小部屋である。

 そして驚いた事に、応接間にいたらしいヴェリカが、セシリア達が落ち着くやすぐに、その控室へと入って来たのだ。


 ヴェリカはセシリアとイーナに対し、親友に再会したかのような歓声を上げ、殆ど小走りでセシリア達に駆け寄ってくるではないか。

 セシリアはヴェリカの自分に向ける好意に驚くばかりだ。


 リカエルはヴェリカを計算高い性悪と言い張るが、それはヴェリカが伯爵令嬢という肩書きであろうが、一度としてセシリア達を見下げるような目つきをした事が無いからであろうか。


 それは違う、とセシリアはすぐに訂正した。

 リカエルはちゃんと見ているのだ。

 ヴェリカが人形のように可愛らしい小柄な美女だとしても、その美貌を利用しようなど一切せず、状況を作って相手を嵌めていく計画を練る人だと。


 つまり、彼女の外見に魅力を感じないとしても、彼女が用意した利益や彼女に協力した場合の利益というもので、彼女に与せざる得ない状況を作るのだ。


 前払いとしてヴェリカが母親の形見の真珠をセシリアに手渡した事で、セシリアはヴェリカの願いを跳ねのけられなかった。続いてヴェリカが囁いた、成功報酬としての自分の店という夢で、セシリアこそ夢を見せられたのである。


 セシリアは改めて恐ろしいと思いながら、運命共同体のヴェリカを見つめた。

 ヴェリカはやり遂げた子供の笑顔で輝いていた。


「一日ぶりなのにお久しぶりって感じですわ。ご成婚おめでとうございます、ヴェリカ様」


 身分が高いヴェリカよりも先にセシリアが喋ってしまった事でヴェリカは一瞬目を丸くしたが、その後すぐに彼女は殆ど悲鳴のような声をあげてセシリアに両手の手のひらを向けた。

 セシリアは焦りながらヴェリカの手の平に自分の手の平を当てる。


 これは服屋に友人同士で来る令嬢達が友人とよくやる素振りだわ。

 彼女は私を友人と見ていた?


「ええ、あなたのお陰よ!!素敵なドレスをありがとう。あなたも無事で良かったわ。それで、お店はどこに開きます?気に入った店舗はありますの?もう新しい建物を建ててしまう?」


 なんだか後半から聞いた事があるセリフになったなあ。

 もしかして、思考がヴェリカとリカエルは似ているの?


 セシリアはぼんやりと考えてしまった。

 しかしながらそんな事よりも今すぐにヴェリカに伝えねばならない事があると、セシリアは思い出した。


「ヴェリカ様。お母様の形見の真珠をお返しします。ですからその代わりとして、私とイーナが今夜から身を寄せられる場所を提供して下さいませんか?」


「ええ。それはお安い御用よ。真珠の代りのお金もすぐに用意いたします。それよりもお願いがあるの」


「何かしら」


「あなたはお店の為にフル稼働で商品を縫われるでしょうけど、私の親友になったもう一人の方にもドレスを作って差し上げて欲しいの。もちろん、お代はドラゴネシアから払うわ」


「それは構いませんが、あなた様のドレスこそ必要ではありませんの?ええと、旅行着と部屋着は勝手ですが一着ずつ用意してございます」


 ヴェリカはきゃあと本気の悲鳴を小さく上げると、セシリアの首に両腕を回して抱きついた。


「ありがとう。やはりあなたは親友ね!!ダーレンが私の着替えが無いことにとても心を痛めていらっしゃるから、ああ助かった。嬉しいわ。できればこの後も一通りのドレスをあなたに用意していただきたいの。負担かしら?」


 一週間で四着のドレスの完成は頑張ったと、セシリアは自分を讃えた。

 イーナという裁縫の名手とミシンという文明の利器に感謝ばかりである。


「いいえ。承ります。出来上がり次第ドラゴネシアに送ります。店を開く前からお得意様が出来て私こそ嬉しい限りですわ。喜んで縫わせていただきます。あとでデザイン帳でデザインを選んでくださいね。ああ、そうだ。ミシンも用意いただけましたら、仕上がりまでの時間はかなり短縮できます」


「ミシンね。任せて。大丈夫ですわよね、リカエル」


 セシリアは壁際で腕を組んでいる男性を見返す。

 彼は物凄く嫌そうな顔で右手を軽く上げた。


 本当にいやそうね。


「ああ、うれしい。デザイン帳で好きなドレスが選べるなんて、両親が亡くなって以来だわ。ダーレンに恋をして本当に良かった」


「恋?」

「うそだろ?」


 セシリアは自分こそヴェリカに聞き返してしまったが、リカエルまでも口を挟んで来るとは思わなかった。

 けれどもヴェリカは気分を害するどころかけろっとした顔である。


「恋をしたのよ!!」


「昨日出会ったばかりよね?」

「兄さんのお花畑はこっちからの感染か?」


「もう二人とも酷いわ。一目惚れです。出会った瞬間、なんて顔立ちが素敵で素晴らしい人なんだと思ったの。でもパレードの日に、甲冑姿のドラゴネシア様を見て、この人ではないとって私は考えて昨日まで行動していたわけでしょう。私は今日初恋を諦めるつもりでもあったの。それが、あの素晴らしい甲冑の中身が昨夜の方よ。ダーレンだったのよ。どんなに幸せだったかわかって?」


 物凄い殺気を女性に向けられる人だったわよ。

 いいの?


 そんな台詞がセシリアの脳裏に浮かんだが、セシリアは自分の未来のためにそんな台詞を飲みこんだ。


「あなたは神様に祝福されているのね」


「あら、されていないわよ。されていたら母も父も今も生きていますわ。ですから私は神様を信じません。私は自分で幸せを奪い返しに行くの」


 セシリアはヴェリカの執念深さを知り、また、何でも成功させてしまったその気力がどこから来るのかよくわかった。

 自分と同じくずっと辛かったのだろうという事も。


「きゃ」


「あなたを抱き締めるなんて恐れ多い行為でしょうが、お許しください」


「い、いいえ。誰かに抱きしめられたのも久しぶりだからいいの。でもどうなさったの?あなたはお辛いの?その辛さを教えて下されば、私はあなたの助けになれると思いますの」


「いいえ。ご心配なく。私は幸せですわ」


「そうかしら。ブリューア」


 ヴェリカの一言はセシリアの思考も体も硬直させた。

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