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第34話 アシュミーとナンナ

 下働きの面接にやってきた俺たちは、事務室に通された。

 そこには、厳格そうな老婆が待っていた。

 事前の説明によると、事務方の責任者らしい。


「事務長と呼ばれています。あなたたちも、そう呼んでください」


 見た目通りの厳しい声。

 ただ、言葉は優しい。

 案外、いい人なんだろうか?


「自己紹介してください」


 求められるまま、順に名乗る。


「スラリーヌなのじゃ」


「ゴレアンテですわ」


「エリスです」


「アシュミーでちゅ」


 緊張のあまり、噛んでしまう。


 何やっているんだよ、俺!


「でちゅ?」


「プッ!」


 怒りを抑える事務長と、笑いをこらえる仲間。


「アシュミーでし」


「でし?」


「アシュミーにょ」


「にょ!」


 激怒寸前の事務長と、爆笑寸前の仲間。


「……噛んでしまいました」


「もういいから、下がりなさい」


「不採用ですか……」


「この紹介状を持ってきたのですから、採用するしかありません」


 マスターの用意した紹介状は、すごいものらしい。


「この後は、休憩室に行ってください。休憩室は、建物の東になります」


「仕事の説明は、その時ですか?」


「先輩から、教えられます。あなたの場合は、私の孫がつきます」


「あたし、期待されてる!」


「粗相のないように、あなたには補助をつけるのです」


 苦虫を潰したような顔になる事務長。


「それじゃあ、がんばりなさい。仕事を認められれば、昇格もありますから」


 激励を背にして、事務室を後にする。


「アルト君、あたしたちを笑い死にさせるつもり?」


「緊張したと、言っただろう?」


「最後の、『にょ』は!」


 笑うエリス。


「ダーリン、ごまかそうとしたのじゃ?」


「スラリーヌの、『スラ』と同じだよ」


「その場合、『アシュ』なのじゃ!」


 喜ぶスラリーヌ。


「アニキ、言葉遣いを直したほうがいいですわ」


「そういうゴレアンテは、変わり過ぎだろ?」


「普通ですわ!」


 驚くゴレアンテ。


「それより、休憩室に向かおう。初日から、遅刻はまずい」


 建物の構造を頭に入れながら、休憩室に向かう。


「保護されているのは子供だけだな?」


「幼児はいないね」


「人さらいのターゲットは決まっているのか?」


「男の子も少ないね」


 エリスじゃなくても、不審を覚える状況だ。

 ただ、保護された子供たちに屈託は感じられない。

 今のところ、問題は起きてないようだ。


「ここからは、用心深く行こう」


「アシュミーちゃん、ドジっ()の自覚あるのじゃ?」


 スラリーヌの皮肉を無視して、休憩室に入る。


「あなたたちは……?」


 休憩室にいたのは――


 俺と同じぐらいの年頃の、メイド服のすごく可愛い女の子。

 どことなく見覚えがあると思ったら、事務長だ。

 この子が、事務長の孫娘だろう。


「今日、入ったばかりの新人です。よろしくお願いします!」


 エリスを手始めに、全員挨拶する。


「私はナンナ、よろしく。祖母じゃなくて、事務長は何か言ってた?」


「アシュミーの補助を頼む、と言ってました」


「ありがとう、あなた気が利くわね。それじゃあ、全員着替えちゃって」


 ナンナが指差したのは――


「メイド服……!」


「自由時間は限られてるから、さっさと着替えちゃって」


「ここで……?」


「あなた、恥ずかしいの? それなら、衝立の裏を使えばいいわ」


 男であることを隠すため、衝立の裏で着替える。


「メイド服は初めてだから、遅くなっちゃいました!」


 謝りながら戻ると、三人はメイド服に着替えていた。


「うーん、あなた、見た目は悪くないんだけど、合わないわねぇ」


 不思議がるナンナ。


 そりゃ、男だし!


「あなたたちは、指示した仕事に向かって」


「はい」


 部屋を後にする三人。


「あたしは?」


「あなたは、外」


「ひょっとして、力仕事?」


「あなた、たくましいでしょ」


「期待に沿えるように、がんばります!」


 一人なら、気楽だぜ!


 そう高をくくっていたら、ナンナがついてくる。


「あたしに、ラブ?」


「あんた、バッカじゃないの!」


「言葉遣い悪いですわよ?」


「こういう時だけ丁寧になるのは、卑怯よ!」


 感情的なのは、事務長と似ているな?


「体力の余ってるあなたには、三点セットね」


「バーガー、ポテト、ドリンク!」


「どこの世界の三点セットよ?」


 呆れるナンナ。


「薪割り、水汲み、風呂焚き」


「アシュミー、やりたくなーい」


「こんな時だけ、ブリブリしなーい!」


 怒るナンナ。


「もちろん、一度に全部やる必要はないから、少しずつやりなさい」


「いつまで?」


「見習いを卒業するまで。さぁ、始めなさい」


「はーい」


 面倒くさいけど、仕事を始める。


「薪の割り方、下手! 運んでる水、こぼさない! 風呂の焚き方、雑!」


 ナンナに注意されながら、俺は仕事に励む。


「私はここを離れるけど、サボらずに仕事をしなさい」


「男と密会とは、汚らわしいですわ!」


「別の仕事よ! それじゃあ、引き続きがんばって」


 小うるさいナンナがいなくなっても、俺は真面目に仕事を続けた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 二人目のヒロイン、ナンナの登場です。

 スラリーヌとゴレアンテを含めると、四人目ですけど。

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