第32話 ゲルドの罪と罰
大脱出の数日後――
ギルドには、いつものメンバーが揃っている。
俺、スラマロ、ゴレスケ、エリス、マスター。
仕事中のマスターとエリスとは違い、俺たちはくつろいでいる。
「代理人から奪い取った大金があるから、豪遊できるぜ!」
「アニキ、悪党みたいっすよ?」
実際は、久しぶりのまとまった休息だ。
子供たちを救出してから、忙しい日々が続いている。
彼女たちの進路を決めつつ、事件の元凶を追っているんだ。
「ダーリン、元凶を突き止められないと、どうなります?」
「今回みたいな問題が、今後も引き起こされる」
事件の元凶はグレアムなのかゼノンなのか、二択だろう。
「アルト君、ゲルドの処遇が決まったらしいよ」
「取調べが済んだからだろう?」
「詳しいことを知りたかったら、マスターに聞いてみるといいよ」
「俺はこれから話を聞くけど、エリスはどうする?」
「あたしは、あの人の様子を確かめてくる」
「大丈夫だと思うけど、もしもの場合は助けに行くよ」
エリスの話を受けて、俺はマスターに話を振る。
「マスター、ゲルドの処遇はどうなりました?」
「気になる?」
「もちろん、気になります」
「特級犯罪者だから養子に入ってた家から縁を切られて、ソドム監獄行きよ」
耳慣れない言葉に引っ掛かる。
「特級犯罪者?」
「簡単に言うと、恩赦のない無期懲役の囚人ね」
「ソドム監獄は?」
「特級犯罪者専用の監獄。待遇は悪くないけど、生きては外に出られないわ」
殺すのはまずいけど表に出したくない人間と、その隔離施設だろう。
「ゲルドの様子は、わかります?」
「すごく従順らしいわ。そのため脱獄狙いだと、警戒されてるみたい」
「改心したかどうかは別として、ゲルドは罪を悔いてるんですよ」
俺の言葉には、願望が込められている。
「そう言えば、ゲルドは養子だったんですね?」
「元は、貧民街の出よ。優秀さを買われて、貴族の家に養子に入ったの」
「幼いころは、苦労していたんですか?」
「食うや食わずの生活を送って、親兄弟を亡くしてるわ」
「それが、世界一の金持ちを夢見た理由か」
その言葉は、我ながら物悲しかった。
「アルトちゃん、元仲間でも犯罪者に同情しちゃ駄目よ」
「同情してませんよ」
「それなら、今の心境は?」
「強いて言うと、寂しいですね」
ざまぁは本当に楽しかったし、ゴレスケたちを救えたことは本当に嬉しかった。
それでいて寂しく思えるのは、腐っても知り合いだからだろう。
ゲルドじゃないけど、元仲間なのは間違いないんだ!
「アルトちゃん、後悔してる?」
「助けたことですか?」
「あの時、死なせておけば、ゲルドが恥辱を受けることはなかったわ」
「だからこそ、生かしてよかったんです」
「罰として?」
「ゲルドからしても、罪を償う機会を得られるから」
死んでしまえば、罪を償えない。
むろん、償える罪と償えない罪がある。
ゲルドの場合は、償える罪だ。
「ゴレスケ、俺の判断は正しいのか?」
「どうしてアネキじゃなく、俺に聞くんすか?」
「お前も、被害者の一人だろ」
「オレとしては、アニキらしい結論だと感心してるっす」
「俺らしい結論?」
「優しさと厳しさが両立した結論なんすよ!」
ゴレスケは笑う。
「優しさと厳しさの両立、か」
「ダーリン、判断を悔やむのは後ですよ」
「後?」
「生きてる以上、次がある。その時、ゲルドはどう動くのか」
「もし同じことを繰り返したら、その時悔やめばいい?」
「一度覚悟を持って決めた以上、今の方針を貫くべきですね!」
スラマロは微笑む。
「お前ら、ありがとう」
仲間の言葉に、自信を取り戻す。
「アルト君、あの人、目覚めたよ」
「わかった、話を聞いてみる」
「あたしはマスターのお使いがあるから、後を頼んだよ」
エリスを見送ってから、席を立つ。
「スラマロとゴレスケは、どうする?」
「お菓子を食べ終えてから、向かいます」
「オレがアネキを抱えていくから、大丈夫っす」
会話の間も、エリス手作りのお菓子を食べるスラマロとゴレスケ。
「話を聞くだけだから、無理して来なくしてもいいぞ」
そう言い残して、俺は二階に上がる。
「あんたは――」
仮眠スペースのベッドから起き上がったのは、若い男。
「命の恩人に対して、お礼もないのかよ?」
「見捨てようとしただろ?」
「見捨てたんじゃない、忘れてたんだよ」
あの後――
フタを叩く音と助けを求める声が聞こえた。
近づいてみると、フルプレートを脱ぎ捨てたこの男だった。
それから男はマスターに看病されて、今に至っている。
「ダンマリかよ?」
「どうすればいいのか、わからないんだ」
「全部、正直に話せばいいのさ」
「正直に話すのはともかく、全部を話すのは私の信用に関わる」
拒否する男。
「今更、信用かよ?」
「お前の想像とは違い、私はあのいけ好かない男の部下じゃないぞ」
「信用されたゴロツキだろ?」
「ゴロツキを装った冒険者だ」
予想外の返答。
男の言葉は、本当だろうか?
「アニキ、マスターからの贈り物」
二階に上がってきたゴレスケから、紙片を渡される。
そこには、
『身分は、ドラゴンギルド所属のBランク冒険者。
名前は、ハンス。
現在は、調査依頼に携わっている』
とマスターの筆跡。
「ダーリン、マスターの調査ですから、情報に間違いはありません」
ベッドに横になったスラマロから、情報を伝えられる。
「雇われた理由は、黙秘か?」
「お前は、まだ勘違いしてる。依頼人は、別にいる」
「まさか――」
「そのまさか、スパイ活動さ」
自嘲するハンス。
「私の依頼人は、奴隷商人だ」
「商売敵かよ?」
「商売敵じゃない、縄張りを荒らされてる被害者だ」
「奴隷商人が、被害者? どういう世界だよ!」
「本来の奴隷商人は、奴隷を扱うものだ。対して、あいつらは違う」
違いを強調するハンス。
「あいつらは、奴隷じゃない人を奴隷として扱ってる」
「だから、ルール違反者を見つけて、とっちめようと思ったのか?」
「同時に、自身の商売に利用しようとでも思ったんだろう」
「でも、無理だった?」
「本職じゃないのは間違いない。それどころか、権力者だ」
ハンスの表情は、真剣そのもの。
「当たりだな!」
ゲルドとの共通点に、予感は確信に変わる。
「下手に関わると潰されるから、依頼人は手を引くだろう」
「奴隷商人も恐れる相手かよ!」
「奴隷商人はその立場上、表の権力には弱いんだ」
「相手が権力者なら、その行為を暴き出せば合法的に潰せるんじゃないか?」
「もちろん、潰せる。だが、その難易度は高いぞ?」
「大丈夫だ、俺は不可能を可能にする男だぜ!」
今回の事件は、前回の事件よりも大変だろう。
関係者から、罪状がリークされないことも挙げられる。
事件の元凶は、表向きはまともなのかもしれない。
お読みいただき、ありがとうございます。
ゲルドに対する罰は、仮面の男みたいなものですね。
生かさず殺さず自由を奪われて、死ぬまで幽閉されるのでしょう。




