第25話 スパイパーティ
一日ぶりに訪れたギルドは、普段通りだった。
実際、中にいるのは全員知り合いだ。
関係者のマスターとエリスを除くと、冒険者は一人しかいない。
「久しぶり! 元気してた?」
顔見知りの冒険者に挨拶した後、窓際のテーブルに着く。
ゆっくりしていると、一仕事終えたエリスが加わる。
全員揃うのは、一昨日以来だ。
「アルト君、浮かない顔をしてるよ」
「一昨日の依頼が、引っ掛かっているんだ」
「それなら、話してみたら? ヒントぐらいは、掴めるかもしれないよ」
「話したかったんだけど、その機会がなかったんだ」
あの後のエリスは忙しくお菓子も会話もなかった。
今日はお菓子を食べながら、満足がいくまでしゃべれる。
望んでいたものだから、スラマロとゴレスケも喜んでいる。
「念のために、他言無用だよ。一昨日の依頼は――」
一通り語った後、感想を付け加える。
「条件が、よ過ぎるんだ」
「報酬じゃなくて、条件?」
「簡単な内容に、高額な報酬。悪臭を除いたら、すごくいい依頼だよ」
それでいて受け入れがたいのは、代理人の態度のためだ。
「熱意がないのが、胡散臭いの?」
「はっきり言うと、めちゃくちゃ胡散臭い」
「スラマロちゃんとゴレスケちゃんは、どう思うの?」
エリスは、スラマロとゴレスケに話を振る。
「マロも、怪しんでますよぉ」
「オレも、疑ってるすぅ」
「二人とも、適当過ぎぃ……」
スラマロとゴレスケは、エリス手作りのお菓子に夢中になっている。
「おいしいですねぇ」
「うまいっすぅ」
「ありがと!」
喜ぶエリス。
「みんな、おかしいと感じるのかぁ」
「気になるなら、確かめてみたら?」
「確かめるとして、どうすればいいんだ?」
「機会があったら、注意深く観察してみるの」
スパイ活動を提案するエリス。
「ポイントはある?」
「ポイントは、代理人の言葉。本当の目的が、隠されてると思う」
「今度、実践してみる。アドバイス、ありがとう」
俺の礼に、エリスは微笑む。
「話は変わるけど、人さらいの手がかりは見つかった?」
「引き続き調べているけど、お手上げだね」
「あたしを追ってきた人たちから、たどれないの?」
「そいつらの素性はわかっている。金遣いの荒いゴロツキだよ」
「あの人たちをお金で雇った人は?」
「不明。仲介者を利用して、自身を特定できないようにしているんだ」
依頼者を特定できないように、代理人を利用しているようなものだ。
「狡猾だね?」
「狡猾だから、雇い主は権力者だよ」
「アルト君、すごい推理力!」
賞賛するエリス。
「全部、マスターの手柄ですよ」
「アニキは、何もしてないっすよ」
「バラすなよ!」
ジト目になるスラマロとゴレスケ。
「エリスの安全は確保されているから、心配しなくていいよ」
「ほんとに心配なのは、みんなのこと」
「一緒に捕まっていた子供たち?」
「捕まってた小屋から、みんなで協力して逃げ出したの」
脱出する際に、散り散りになってしまったらしい。
「今後も気にかけておくよ」
「あたしも独自に調べてみる」
「ただし、お互いに危険な真似は避けよう」
釘を刺したのは、エリスの言葉に強い意志を読み取ったからだ。
「仲間を探して、再会したい!」
エリスのその気持ちは、よくわかる。
かくいう俺も、スラマロとゴレスケと離れ離れになったら――
再会するために、必死に探す!
「ダーリンは、見捨てますよね?」
「アニキは、忘れるっすよね?」
「お前ら……」
仲間の冗談に、苦笑する。
「アルトちゃん、ゆっくりしてるところに悪いんだけど――」
料理をしていたマスターが、手を止める。
「依頼を受けて欲しいの」
「緊急の依頼ですか?」
「指名の依頼」
「俺、レアモンスター扱いは嫌ですよ」
興味を引かれているからこそ、軽口を叩く。
「前回の依頼に絡んで、先方から指名があったの」
「もしかして、下水道の魔物の駆除依頼ですか?」
「覚えているのなら、話は早い。受けてくれる?」
「もちろん、受けます。ずっと気になっていたんです」
「気になることは、片付けたほうがいいわよ。これが、依頼書」
マスターは依頼書をテーブルに置くと、料理に戻る。
「アルト君、真実を見極めるチャンスだね?」
「エリス、行ってくる!」
「報告を楽しみにしてるよ!」
エリスに見送られて、ギルドを後にする。
「二人は、どう思う?」
「アツアツのパイは、おいしいですねぇ」
「カリカリのベーコンは、うまいっすぅ」
「渡された料理のことじゃねえよ……」
前回とは違い、今回はギルドから距離がある。
そのために食事をしながら、指定された場所に向かっている。
状況上、今回担当するのは、前回とは別の区域なんだろう。
「無事到着!」
食事を終えてから、指定された場所に着く。
そこはもちろん、下水道の出入り口だ。
そこには、見覚えのある代理人一行がいる。
「待っていましたよ、冒険者ご一行様」
代理人の挨拶は、皮肉交じりに聞こえた。
お読みいただき、ありがとうございます。
話の流れからもわかるように、エリスが物語に深く関わってきます。
仲間としても、ヒロインとしても期待してください。




