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第10話 専属受付嬢エリス

 用事を思い出して、俺はギルドに向かっている。


「あいつらは――」


 ギルドに近づくと、不審者を見かける。

 いずれの不審者も、遠巻きにギルドを監視している。

 昨日の事件を踏まえると、エリスを追っていた連中の仲間だろう。


「ダーリン?」


「接触してみる」


 俺は忍び寄ると、背後から声をかける。


「君たち、ウチのギルドに何の用があるの?」


「いつの間に……何でもいいだろ」


「人さらいの仲間だとしたら、おとなしく帰ったほうがいいよ」


「あん?」


「冒険者である俺は、一人の少女を保護している」


「冒険者!」


 俺が冒険者カードを突きつけると、男たちの顔は引きつける。


「あの子を奪い返すつもりなら、ギルドを敵に回すぞ?」


「脅しか?」


「あの子に、二度と近づくな。さもないと――」


「さもないと?」


「仲間のドルフと同じく叩きのめして、警備隊に突き出すぞ!」


「あのドルフを返り討ちにした……くそっ、覚えてろぉぉぉ!」


 捨て台詞を残して、男たちは走り去る。


「ダーリン、エリスはともかく、マスターには報告するべきですよ」


「人さらいの首謀者を突き止めるためにも、マスターに相談しよう」


 俺とスラマロは頷き合う。


「それにしても、冒険者資格はすごいな?」


 昨日までとの立場の違いに、俺はビックリする。

 VIP待遇とまではいかなくても、優遇という水準を超えている。

 これなら、「成り上がるための資格」と言われるわけだ。


「ダーリン、本当にすごくなるのはこれからですよ」


「これから?」


「冒険者として活躍して、成り上がりの階段を駆け上がるんです!」


「覚醒テイマーの成り上がりだな!」


 気分をよくした俺はギルドに入る。


「いつも通りだな――」


 ギルドは、今日も静まり返っている。

 ただ、いつもと異なる点があった。

 それは、カウンターの中に二人いること。


「私は事務処理があるから、依頼と用事を任せるわ」


「わかりました!」


 伝言を残して、マスターは奥に引っ込んだ。


「エリス!」


「驚いた? 居候は嫌だから、受付を任せてもらったの」


「大丈夫か?」


「大丈夫。来客は少ないし、それに担当はアルト君だけだし」


「俺専属の受付嬢!」


 俺は感激する。


「ダーリン、勘違いはストーカーの元ですよ」


「人をストーカー予備軍にするなよ!」


「そう言えば、ストーカーでしたね」


「お前……」


 スラマロは、カウンターに下りている。

 何をしているのかと思ったら、お菓子を勝手に食べている。

 朝食がまだとはいえ、イータースライムらしい行動だ。


「うまうま!」


「勝手に食べるなよ」


「いっぱい食べていいよ。お菓子は、あたしの手作りだから」


 遠回しに勧めてくるエリス。


「それなら、俺も……スラマロ、独り占めするなよ」


「早い者勝ちですよぉ」


「食いしん坊め!」


「イータースライムにとっては、褒め言葉ですねぇ」


 バクバク食べるスラマロ。


「そのままだと、今度はファットスライムになるぞ」


「問題あるんですか?」


「食費は、どうするんだよ!」


「ダーリンのみ、一ヶ月銀貨一枚生活!」


 スラマロに釣られて、俺もお菓子を食べ始める。


「レクチャーは、いらないよね?」


「ギルドからの指示を守ること、ギルドからの依頼を受けることだろう?」


「それに規則を守らなかったり、犯罪に走ったりすると、冒険者資格を失うこと」


「その点は、心配無用だよ。俺は、真面目だぜ!」


 心配するとしたら、スラマロの暴走ぐらいだろう。


「よく自分を棚に上げて、相棒を責められますね?」


「読心術やめろ!」


「お菓子、おいしいですねぇ」


 お菓子に戻るスラマロ。


「もしかして、今回の目的は顔合わせ?」


「それもあるけど、依頼の紹介。ウチのギルドに、依頼が届いてるの」


「へえぇ、ここに依頼が届くなんて珍しいね」


 今みたいに依頼が届くなら、冒険者未満でも暮らせただろう。


「実質的には、アルト君への依頼」


「俺を指名した依頼?」


「新米冒険者に割り振る依頼」


 訂正するエリス。


「ダーリン、思い上がるのをやめましょ、実績ゼロですよね」


「ギルドの加入試験の際、変異種を倒しただろう」


「その件は、マスターが面倒を嫌って、伏せましたよね」


「俺の実力は、隠してもわかるんだよ」


 俺はエリスを前にしているため強気に出る。


「勇者パーティに罠にはめられて、死に掛けましたよね」


「お前、相棒なのに厳し過ぎるぞ!」


「相棒だからですよ、一緒に成り上がりましょ!」


 女房に頭の上がらない気弱な夫みたいだな?


「スライムワイフ?」


「スライムライフのパクリかよ!」


「イータースライム改め、ワイフスライム!」


「俺の嫁は、スライムかよ?」


 馬鹿なやり取りに、エリスはクスクス笑う。


「本題に入ると、届いてる依頼は二つ」


「二つも?」


「表面上は二つだけど、実質的には一つ」


 ここは、先走らずに話を聞こう。

 そもそも、エリスにとっては初めての経験。

 受付嬢として、初仕事なんだ。


「一つ目は、魔物退治。この依頼は、確定ね。可能なら、魔物を駆除すること」


「冒険者ギルドの試験と同じだね」


「二つ目は、山賊退治。この依頼は、確認ね。本当なら、兵士に通報すること」


 魔物退治と山賊退治、難易度はどっちが上だろう?


「それぞれの依頼者は、誰なの?」


「前者は、鉱山の関係者。後者は、付近の村の住民」


「同じような場所の、似たような問題なんだね?」


 俺の問いに、エリスは頷く。


「マスターによると、魔物退治はともかく、山賊退治は大変らしいよ」


「どういうところが?」


「人間は魔物とは違い、悪意があるから」


「人さらいみたいに?」


「人さらいの首謀者みたいに」


 俺とエリスは黙り込む。


「所詮、山賊ですよね?」


「スラマロちゃん、山賊には冒険者崩れも珍しくないらしいの」


「マロと出会わなかった場合の、やさぐれたダーリンですね!」


 スラマロの冗談に、場の空気は和む。


「さすがに上位の冒険者は、見当たらないらしいよ」


「でも、それ以外はいる?」


「中堅の冒険者が山賊の親玉になってたこともあるの」


「そんなに大変な依頼を新人に任せるの?」


 勇者パーティの一件もあり、裏の事情を警戒する。


「これは、討伐の場合。今回は、調査ね」


「同じだろ?」


「山賊の有無を確認した後、兵士に通報すれば終了だよ」


 エリスの言葉に反応したのは、スラマロ。


「ダーリン、伝説の魔物をゲットしましょ!」


「魔物じゃなく、山賊だろ」


「山賊と一緒に、魔物もいますよぉ」


「フラグを立てるなよ」


「マロは文字通り剣ですから、文字通り盾になれる魔物だといいですねぇ」


「仲間フラグかよ!」


 『性質変化』によるスラマロの変化は、武器に限られている。

 防具に変化できる魔物が仲間になるとしたら、戦力は上がる。

 そう、攻防ともに隙がなくなり、安定するんだ。


「アルト君、依頼を受けるの?」


「受けるよ」


「片方、それとも両方?」


「もちろん、両方。どっちも、面白そうだろ!」


 俺は言葉に、新しい出会いへの期待を込めた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

 新人冒険者と新人受付嬢の誕生です。

 本題も近づいていますから、今後の活躍に期待してください。

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