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66:驚きの移動手段

<私も王国にお散歩に行ってみたい!>


 雲の乙女・ミムレットがそんなことを言う。

 私たちはどうしたものかと、顔を見合わせた。


<レヴィも一緒に、連れてって。だってまだ空に帰るまで時間があるんだもん。こんなの初めて! いろんなことをしてみたくて、ワクワクするのっ>


 ミムレットがレヴィの手を取って、ぴょんぴょん跳ねている。


<わたくしは……この雪山から出るのが、ちょっと怖いですわ。経験がないのですから>

<じゃあ同じく初めてなんだね? やったー楽しみだねー!>


 底抜けにお気楽にミムレットがにぱっと笑った。

 もじもじしていたレヴィは、つられたようにくすりと微笑む。


 ……あ。湯気が増えて、お湯の温度が上がったみたいだ。

 ということは、レヴィも楽しみになって興奮しているのかな?


「フェンリル。一緒に行く方法はあるのかな?」

「エルがそのように雪山の生き物を思いやるところがとても好きだよ。そうだな……考えたこともなかったが、方法を相談してみようか」


 あ、ありがとうございます……?

 柔らかく眺められるととても照れるんですけど。

 その、フェンリルの眼差しが熱烈なので。


 赤くなってしまった私の頬に手を添えたフェンリルが、口付けた。

 またぁ!?


「よし解決した。莫大な魔力を私は制御できそうだ」

「「<さすがフェンリル様!!!!>」」


 素早すぎるフェンリル信者による大合唱により、私がまごまごと照れる隙はなくなってしまった。

 ……一緒に賛美しとこうっと。そーれ。ばんざーい!


「レヴィ、ミムレット、王国に行きたいという意思に間違いはないか?」

<うん!>

<ええ>


 レヴィもはっきり頷いた。

 フェンリルが瞳を閉じて集中し、片腕をあげると、王国の方に向かって大きく手を動かした。


 巨大な氷の橋ができあがり、なんと王国までを直線で繋いでしまった!


 ぶわっと私たちの毛皮が逆立って、クリスたちは鳥肌を立てているみたい。

 それほどに、とんでもない魔力が動いたんだ。


 こんな力が藤岡 ノエルの中に眠っていたなんて、驚くばかり。

 使いこなしているフェンリルは凄いねぇ。


「さあ、上に行くぞ!」


 氷の橋への階段を、フェンリルが先頭に立って登って行く。

 ……私をお姫様抱っこして。


 ッアーーーー! ダテ魔狼〜〜〜〜!!


 声をかけられたグレアたちが、困惑しながらもフェンリルのあとから階段を登ってくる。

 十分な幅がある階段なので、ミシェーラはヘラジカを率いている。


 橋に辿り着いたフェンリルが、足をダン! と氷の床に打ち付けた。


 すると冬の風が吹いて、雪色の魔法が広がる。


 魔法文字が立体的に浮かび上がり、氷の新幹線を作った。


 新幹線!?!?

 えっちょっと待って!?!?!?


「フェンリル、これって!?」

「新幹線」

「そうだけど! どうして知ってるの!?」

「藤岡の名前が私に見せてくれたのだ」


 フェンリルが人差し指で、トンと自分のおでこを指す。


「日本での記憶を共有している、ってこと……?」

「そう」


 驚愕して絶句した私を、フェンリルは新幹線の一番前の席にふわりと乗せた。


 ……言葉の違和感がすごいな。し、新幹線。

 ここファンタジーな異世界なんだけど?


 他のみんなも新幹線に乗り込んだ。

 後ろを振り返ると、みんなソワソワと氷の壁や窓の外を眺めている。

 流線型だけれど大きな窓があって後ろの様子もよく見えるところは、遊園地にある子ども向けの乗り物に似ているかも。


「ご乗車ありがとうございます。特急列車、只今発車いたします! ……だったか? 楽しいな!」

「…………ッフェンリルが楽しそうで何よりだよ!!!!」


 詳しすぎるでしょ!? とか順応性高すぎ! とか、グレアが後ろで騒いでいる通り「フェンリル様が敬語で俺たちに話しかけるなんてあああっ……!」とか色々あるんだけども!


 振り返った彼の笑顔にみんなが黙りこくってしまった。

 少年みたいなキラキラした表情なんだよ。

 息を呑んで、見惚れた。


 新幹線が発車した!


 はやーーーーーーーーーーーーいッッこれ絶対に大人向けだわーーーーー!?


 氷の上を氷が滑るんだから迫力えげつないに決まってるよね!?

 キャーーーーーーーー!!

 シートベルト無いのにーーーー!


 隣にいるフェンリルに思わずしがみついた。

 明るい笑い声が降ってくる。


 私の記憶を通して、日本を知ってるフェンリル。

 ──職場の様子も、叱られて情けないところも全部見られちゃったのかも。


 でも、彼の私への対応はこれまでと変わらない。

 そのことが泣きそうなくらいありがたかった。


 街の上空にやってくると、大歓声が下から湧くように聞こえてくる。


 そりゃそうだよね! この新幹線ものすごいインパクトだし、創り上げたフェンリルは凄すぎるもん。

 速度を落とすために、新幹線がくるりと街の上を一周したので、街中の人がこの新幹線を見ただろう。

 きっと、フェルスノゥ王城からもよく見えているはずだ。

 王様たちにもクリスとミシェーラの無事を知ってもらえるといいなぁ。


 ポォーーーーーー!


 ってそれ汽笛ーー!

 フェンリル、それ汽車だからー! 混ざってる!


 終着点に辿り着いた。

 私たちは階段を降りて、街人たちの真ん中に進む。




原稿の締め切りに追われていたので、随分とお待たせしてしまいました……! その間にも励ましのお言葉を下さったり、読んで下さったり、読者の皆様に支えてもらえたこと感謝申し上げます。


今回のお話も楽しんで頂けますように。


これからしばらく、平日にレアクラ・冬フェンリル・お狐様の雑貨店のランダム更新になります。

お知らせまで。


いろいろと読んでもらえるととても嬉しく思います。


読んで下さってありがとうございました!

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