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40/94

40:雪山の祭壇

 父に連絡をしてしばらくたつと返信がきた。

 待たせていたんだなぁと……今更ながら実感する。

 メールを見るの、怖かったけど、フェンリルに寄りかかってグレアに寄り添ってもらって、雪山の頂上でスマホのボタンを押した。


『ーーそうか。元気でよかった。ノエルが自分から言ってくれるのを待っている』


「はーーーーー」


 思い切り長く息を吐いた。げっほ、ごほっ! ちょっとむせたら、グレアが呆れた顔で私を眺めてきた。でも馬耳が伏せているから、つまんで立たせておく。


<どうだった? エル……>


 フェンリルは心配そうに私に尋ねる。


「えーっとね……私からまた連絡するの、待ってるって。それから、私が元気で良かった……って」


 フェンリルは我が事のように喜んで、微笑んでくれる。グレアも。目頭が熱くなる。本当に、あなたたちのおかげだよ。


「今ならね、すごい魔法が使えるような気がするー! すごく気持ちが晴れやかだから」


「やって見せてくれるか」


 フェンリルが期待してる! よーし! じゃあ、見てて。

 私は足をダンっと強く踏み鳴らした。


 足元から魔力が溢れて、青の魔法陣を広げていく。

 タタン、と軽く足踏みすると、雪色の魔法文字が浮かび上がって、魔法陣の端に氷の支柱を六本作り上げる。

 くるりとターン! 支柱からカーブした氷の道が天高く伸びて、ドームに。

 仕上げの手拍子、ドームのてっぺんに巨大な氷の結晶を作り上げた。


「溶けませんように」


 フェンリルが作ったみたいな溶けない氷になったらいいなぁ。手を合わせて結晶を拝んでおく。

 ポッカーンとしているフェンリルたちを振り返って、


「氷の祭壇ができましたよー! さあフェンリルっ、さあさあー!」


<私でいいのか?>


「あなたがいいの!」


 一番に登っていいのか気になったんだろうけど、ここに登るフェンリルが見たくて作ったんだよね。

 グレアも目を輝かせている。きっと私も同じ状態だだろうな。

 二人のギャラリーに見送られながらフェンリルが祭壇に登った。


 ”グオオオオーーーン!”


 迫力のある遠吠えがはるか遠方にまで響いていく。

 怖くなんてなくて、私たちは心地よく耳を揺らした。贅沢なコンサートみたい。あれっ、私の感性、まるで雪山の獣になったようだ。

 まあいいや、それよりも隣で感激しているグレアにハンカチを渡しておく。


 声は王国まで届いただろう。みんな信者みたいだし、歓喜してるかもね?


 そんなことを考えてたら、ちんまりと見えている王城から青い光が空に伸びて、ドドーン!! と青の花火を咲かせた。

 ミシェーーラーー!? だよねコレ!? すんごい!


<ははっ!>


 フェンリルが楽しげに笑ってる。彼はずっと、五年間冬を呼べなかったことを気に病んでいたけど、完全に元気になった……かな? なんだか私たちまで嬉しくなった。


<素晴らしい経験をありがとう、エル。祭壇からの眺めは最高だった。今度は一緒に登ろう>


「うんっ」


 せっかく誘ってもらえたんだけど、ここで雪妖精からのヘルプ。冬毛になっていない動物が発見されたんだって。急いで行ってあげなくちゃ。

 祭壇に登るのは本当にまた今度、になった。未来に楽しみがあるっていいよね。全てに無気力で暗い部屋でおちこんでいた日本でのことも、遠い思い出のように振り返ることができた。


<魔法を使って疲れていないか? エル>


「全然大丈夫。さあ、お仕事がんばろうっ」


 この雪山が大好きだから、私にできることをしたいの。それに雪山の仕事は新鮮で楽しくて、フェンリルたちは優しいし、最高なの。

 ーー自分にもっと自信がついたら、冬姫としてここで生きていく、って言おう。そう決めた。


10500pt 越えありがとうございます。

とても励みになっています。


気付けば40話。けっこうなペースで書いたなぁ…

みなさまの応援のおかげです。

今後も頑張ってまいりますので、引き続きおつきあい頂けますように。


読んでくださってありがとうございました!

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