37:兄と妹
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フェンリルに埋もれて眠るエル、エルたちミニキャラ詰め合わせの二点です。
たくさんの応援をありがとうございます!
次話とともにお楽しみ頂けますように。
(ミシェーラ視点)
フェンリル様達と別れてソリで城に向かう。
少し気まずい雰囲気になる。お兄様に色々と無理を押しつけたと言う自覚はありますもの。
「お兄様。同意を得ずに放り出したこと、謝罪いたしますわ」
隣に座る兄に浅く頭を下げた。
深く礼をしたいところですが、ソリに乗っている時なのでバランスを崩しかねません。
気をつけましたが、ソリが揺れてお兄様の胸に倒れこみました。
「わっ!?」
「……ミシェーラ、大丈夫か? 目の下にクマができてるだろ。そのままもたれかかってろ」
お兄様は私の肩を支えました。ため息とともに。
なんだか幼い子への扱いのようです。
「わたくし、しっかりとお化粧してまいりましたのに。よく気付きましたね」
「妹の変化に気づかない兄はいないさ」
……ホッとしました。よい兄を持ちましたね。お兄様にそのまま頭を預けます。
「覚悟していましたわ。お兄様に嫌われること」
「僕が? 冗談でもよしてくれ。家族以上に大事な椅子なんてあるものか」
「あら? では継承権を譲っ……痛いです」
軽く頬をつねられました。
戯言への罰だな、と言葉がかけられます。
なんて甘やかな罰なのかしら。
「どうしたんだ、ミシェーラが体調管理を誤るなんて珍しい。……って、怪物の件か。すぐに思い浮かばない僕はマヌケだな……」
「お兄様のマヌケは置いておいて。怪物の件、それから他国の使者がしつこくて十分な睡眠が取れませんでした」
「何があった?」
お兄様が真剣な声で問いかけます。
今回は曲者揃いの緑の国の使者でしたから、心配なのでしょう。
「政談はとどこおりなく終わりました。
しかしその後、わたくしが獣とならず存在していること、お兄様の不在、フェンリル様の現状について尋ねられたのです。どこまで話すか、踏み込むか計りながら、お互いに腹の探り合いをしましたので時間がかかってしまいました」
お兄様が頭を抱える。
「……難しいな。それで、どこまで話した?」
「フェンリル様の後継には別の者が選ばれたこと。わたくしは自由の身ということ。お兄様はフェンリル様たちと会合中ということ。
ここまでです」
「異世界人のことは言わなかったんだな」
「エル様はまだこの世界に馴染んでいません。しぐさや言葉遣い、優しく甘いところなど異世界人のままで、雪国の民にも獣にもなりきれていない。
他国が付け入る隙がありすぎます。隠しておいたほうがいい。
それに戸惑いながら過ごしている時に、エル様に余計な不安を与えたくないのです」
「同意だ」
お兄様の声が熱を帯び……おそらくエル様のことを考えているのでしょうが、話を進めます。
「緑の国も守護聖獣問題をかかえていますから、フェンリル様の事情が気になるのは仕方ありません。フェルスノゥ王国は前回も王子の代替わりで注目を集めましたから。
失礼ギリギリまで聞き込まれましたよ」
「デリケートな話だからそうペラペラ話すことはない、と分かりそうなものだが」
「わたくし、王太子に本気の色目を使われましたわ」
「許さん」
お兄様が低く言ってわなわな震えました。
姫としての婚姻も政務ではなく恋愛であってくれ、と願ってくれましたものね。政治道具として扱われたことを怒っているのでしょう。そういうところにわたくしの心は救われていますわ。
「手の甲に口付けられそうになりましたが、そういえば先ほど白夜スノードロップの花を触ったかしら……と言ったらおやめになりました」
「……それ……冬の猛毒花……強烈な嫌味……よくやった」
「うふふ。手の甲で花に触るはずはございませんが、こちらの意思は伝わったようです」
にこりと微笑み合う。
後ろから(笑顔はよく似ていらっしゃる)と囁きが聞こえた。
そうかしら? お兄様の笑顔の方が美しいですわ。
「あちらの姫君はお兄様に会いたかったようで、残念がっていましたが」
「苦手なんだ、そういうの……」
お兄様はがっくり肩を落とした。
「緑の国の姫君は甘やかされてワガママ放題ですからね。お兄様が最も苦手なタイプです。女難ですわね」
「プリンセス・エルに出会えたのだからそうでもないさ。これまでの不運は今日の幸運のためにあったんだ」
わたくしの目がキラリと光ります。
ん? ギラリだって? 騎士団長、あとでお話いたしましょうね。
「わたくしの報告は以上ですわ。
ではお兄様、エル様とどれくらい親密になれましたか?」
「直球すぎるぞ!?」
ごほごほっ! とお兄様がむせます。
もっと堂々とかまえていて下さいませ。
それともエル様は可愛げがある男性がお好きかしら? 要リサーチですわね。
「プリンセスとは……同じ空間で眠った」
「詳しく」
「フェンリル様の寝床である洞窟に招かれたんだ。その中で僕は異世界製のベッドで眠って、プリンセスはフェンリル様をベッドにして眠っていた。グレア様はユニコーン姿で眠っていたな」
「もう! 言い方が紛らわしいですわ! ただみんなで就寝しただけではありませんか」
「そ、それ以上を期待した、と……!?」
「お兄様、顔が真っ赤です。いつか意中の乙女をそれくらい照れさせる男性になって下さいませ」
「ミシェーラは恥じらいを覚えてくれ……!」
もちろん対外的に恥じらいの様子をみせることはできますわ。
そうじゃない、と返される。分かっています、言葉遊びです。
「お兄様の初恋を応援していますから」
「本心は?」
「冬姫様とお兄様が恋仲になれば、フェンリル様とフェルスノゥ王国との絆がより深くなります。お兄様は初恋が実って婿入り、わたくしは女王となり、国民は喜び、冬はより豊かな恵みをもたらして、良いことばかりですわ」
「はあ……理想論だな……」
「理想に向かって努力することこそ人生の醍醐味だと思うのです」
お兄様は目を丸くした。
そうだな……と風にかき消されそうな小さな呟き。
「弱音を吐いてもいいか」
「妹としてうかがいますわ」
「ありがとう。僕は、自分の理想がまだ分からないんだ……」
お兄様の瞳が揺れます。
わたくしは彼の手を握りました。
「お兄様は『一番の正解』を求めているから悩むのだと思います。正解なんてないのですよ。『選んだ自分が後悔しない道』を進むとよいですわ。
そして様々な人に尋ねてみるといいのです。王になる道、冬の調査員となる道、婿入りの道、いくつかイメージはあるでしょう? 相談してみて、反発を覚えたり安心したり。自分の気持ちが見えてくるはずです。
お兄様の相談を聞きたいと思う者は大勢いますわ。慕われていますもの。迷惑なんて思いません、助けになりたいとわたくしは思います」
「ミシェーラ……」
「もしもお兄様が王になる道を選んだらその時は真剣勝負ですわ」
軽やかに笑って告げた。
お兄様はごくりと喉を鳴らして、それからふわりと微笑んだ。
「ありがとう」
「……もう! ちょっぴり照れました」
「おお。してやったり、か?」
「天然でしょう?」
ぺしっとお兄様の膝を叩く。
吹っ切れたように笑っている。よかった。助けになれたでしょうか。
フェルスノゥ王国が見えてくる。
氷の道が終わり、森の入り口にたどり着いた。
さらりとした雪をかき分けるようにトナカイが走っていく。
騎士団が軽く訓練をいたしましたが、まだトナカイたちはこの雪に慣れないようですね……走りが安定しません。
「貸してごらん」
お兄様がすべてのトナカイの紐を持ちました。
腕力強化の魔法を使っているようです。ぐいっと力強く操縦します。
トナカイの走りが安定しました。
「さすがですわ。お兄様はなんでもできる」
「器用貧乏なだけさ」
それってすごい才能ですよ?
わたくし、尊敬しているんですから。
手綱をお兄様に任せて、雪山での暮らしや冬の動植物の様子、妖精の泉のことなど、とても珍しい話をたくさん聞かせてもらいました。
目を輝かせているお兄様。
やはりその道が良いのではないかしら……? と思いますけれど、まあ城で会議をしてみましょう。
城の門をくぐりました。
もうすぐ9800pt!
いつも応援をありがとうございます。
10,000ptになったら何かお礼絵を描こうと思うので、もしよろしければリクエストなど感想欄やDM、ツイッター(@zallkk)で聞かせて下さい。
緑の国の王太子は植物にとても詳しいので白夜スノードロップも知っていたようです。
読んで下さってありがとうございました。
次の更新は月曜日予定です




