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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第7章 タクティカルワインド
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第97話

 治療の為にと船長が去った後、決して広くは無い部屋で話を続ける太朗、アラン、ファントムの3人と、そして余分なひとり。


 余分なひとりは亡命者の彼女で、どこかへ連れて行かれるのを極度に嫌がった為、仕方なくそのままにしておいている。太朗は危険が無いかどうかを危惧したが、ファントムがいる限り大丈夫との事だった。彼がいれば、例え太朗が銃を突き付けられている状態だったとしても、安全な状態と言えるらしい。


「でもさ、そうなると帝国に知らせた方がいいよね? どう考えても企業間の争いの範囲を超えへひふほほほふんは」


 後ろから、太朗の顔へと手を伸ばす少女。口が左右へ開かれ、強制的に"は"行に変換される。


「まぁ、そうだろうね。だが問題は、帝国がそれを信じるかどうかだ。メイリーアンの船長も、どうせなら証拠のひとつでも握って来てくれていれば良かったんだが」


「いや、知った所で帝国がすぐに動くと思うか? ここ何百年も無かった事態だぞ。今の連中に、迅速な判断が出来るとは思えん」


「へほはあ、ひゅーはふへっほ……はい、ちょっと今大事な話してるからね。でもさ、ニューラルネット崩壊の時は、すげぇテキパキ対応ひへははぁん?」


「あれは皇帝陛下の勅命があったからだ。それが無けりゃ、今頃まだまだ混乱のさなかだったろうよ。正直、軍にはあまり期待出来ない。あんたはどう思う?」


「軍か。悪いが、あまり客観的に見れないね。俺がいたのは軍の中でも特殊な場所だったし、君のように全体を見通せる立場にあったわけでも無いよ」


「……何の話だ?」


「いや、忘れてくれ。いずれにせよ、中枢に報告を入れる必要はあるだろう。後で何故報告しなかったのだと言われても、それはそれで面倒だからね」


「ひは、へっ? はんへ……はいはい、大人しくしてましょうね。いや、なんで帝国は動かないん? これって帝国にとっても一大事じゃね?」


 太朗の言葉に、視線を交わして黙り込むアランとファントム。やがてファントムが「一度、見せてきたらどうだい?」と発すると、アランが「そうだな」とそれに答える。


「ヨッタお姉さま。あの人達、何だか難しい話をしてるわ。エッタ、なんだかつまらないの」


 太朗の背中に、だらんと体重を預けてくる少女。太朗はどうしたものかといくらか悩むが、害意があるわけでは無さそうなので引き続き放っておく事にする。


「お嬢ちゃん、テイローの事を随分と気に入ったようだね。名前はエッタというのかな」


 ファントムが、優しい口調で語りかける。先程まで鬼の形相で船長に仕置きを与えていた人物と同じには見えず、思わず苦笑いの太朗。


「えぇ、そうよ。エッタは、ヨッタ姉さまの妹なの。テイローは、好きよ。私達と、同じ匂いを感じるわ」


「どういう意味っすかね!?」


 反射的に手のひらを返し、突っ込みを入れる太朗。そんな太朗を見てエッタはくすくすと笑い、その場でくるりと一回転する。


「やっぱり楽しい人だわ。ねぇ、テイロー。私、あなたの事が好きだから、教えてあげる。あの黒いお船の匂いがするわ。ずっと、こっちをうかがってるの。濁った、つまらない絵よ。凄く小さいけど、沢山いるわ」


 太朗の肩にあごを乗せ、耳元で呟くエッタ。太朗はなんのこっちゃと聞き流すが、ファントムが急に勢いよく立ち上がる。


「テイロー、すぐに発艦準備だ。放っておけば去って行くだろうが、必要以上に情報を渡す必要も無い」


 立ち上がったファントムを、ぽかんと見上げる太朗。そんな太朗に、ファントムが続ける。


「彼女はソナーマンだ。下手なスキャナーよりもずっと優秀な分析をしてくれる。君はステルス艦を相手にしたと言っていただろう? 後をつけられたのかもしれないね。きっと、ここらのすぐ近くにいるはずだ」


 ステーション防衛用の船も含め、緊急発艦を行う太朗達。するとファントムの指摘通り、さして遠く無い距離にエンツィオのステルス艦が発見された。しかし敵はその動きから発見された事を悟ったのだろうか、太朗達の発艦後、すぐさまどこかへ消え去って行ってしまった。


「なかなか用心深い相手のようだね。もしくは単に臆病なだけだが、いずれにせよ面倒な相手だ」


 敵の動きを観察した、ファントムの感想。太朗は実際に相対した経験からそれに頷くと、艦隊の増強の必要性を強く認識する。


「ぶっちゃけ、戦闘力的には大した事無かったと思う。装甲は紙みたいだったし、動きが早いわけでも無かったし。でも、ECMとジャミングの強さは半端無かったな。ビームとか冗談みたいに曲がってたぜ?」


 太朗の言葉に、アランが頷く。太朗達はステーション備え付けのスキャナーを指向性をつけて飛ばしてみたが、周辺宙域に敵艦無しという事で、再びカツシカのオフィスへ戻って来ていた。現在はバトルスクールの艦船が付近を哨戒しており、緊張に震える生徒が目を血走らせていた。


「相手は電子戦艦だからな。お前もレールガン装備が無けりゃ、相当まずい事になってただろう。しかしエンツィオが電子戦機を持ってるというのは、正直予想外だな」


「そうだね。それに、生産に高度な技術を要する。値段もそれに見合った物だし、いくらか不釣り合いと言えなくもないな。斥候や督戦として送り出す位だから、他にも多数を所有してると考えて良いはずだ」


「あんなのが一杯いたら、相当まずい事になんねぇ? 艦隊に一隻まぎれこましとくだけでも、半端無い脅威になりそうなんだけど」


「まぁ、そうだろうな。連動輻射による増幅効果を考えると一隻だけという事は無いだろうが、それでも十分に厄介な事になる」


「連動……え、なに?」


 良く聞こえなかったと、耳へ手をやる太朗。それへ球体の小梅が答える。


「連動輻射ですよ、ミスター・テイロー。ECMはドライブ粒子の振る舞いから、ある程度の距離をとった複数のECM発生装置(ジェネレータ)を同時使用するのが最も効率が良いのです」


 小梅の説明に、「にゃるほど」と太朗。


「いわゆる、合体技みてぇなもんか。みんなで一緒に技を繰り出すと、その力は数万倍にみたいな?」


「何が"いわゆる"なのかはわかんないけど、そうね。そんな感じで捕えてて大丈夫だと思う。ドライブ粒子はまとまりやすい性質を持ってるらしいわ。質量は無いはずだけど、重力に似た何かがあるのかも」


 太朗へ向かい、呆れた表情のマール。太朗はマールの説明を右から左に流すと、これからどうしたものかと考える。現状のままでは、間違いなく苦戦を強いられそうだった。


「こりゃ、うちにも電子戦仕様の船がいるかなぁ……でも、どうすっかな。運用費とか、馬鹿みたいに高いのよね?」


「電子戦機そのものは、そうだな。正直俺達には手に余るだろう。だが対電子戦としての装備であれば、それなりに揃えられるんじゃないか?」


「スタビライザーとか? うーん、正直スペース的にそろそろ限界なんだよね。基本的にうちってほら、"いのちだいじに"がモットーの作戦なわけじゃね? そうすると、どうしてもオーバードライブのスタビライザーでかなりのスペース使っちゃうのよね」


「個人的にだけど、出来ればそこは変えて欲しくないわ。社員もその前提でいるはずだから、方針転換は混乱を生むわよ?」


「まぁ、そだよなぁ……なんかいい方法ねぇかなぁ」


 腕を組み、唸り声を上げる太朗。集まった他の面子も各々考えに没頭しているらしく、しばしの時間が過ぎる。


「なぁ社長さんよ。俺達ぁ、そろそろおいとましてもいいかい。戦術を考えるのは嫌いじゃねぇが、戦略となると別だ。お前さん達に任せるよ」


 今までずっと暇そうに椅子の上で丸くなっていたゴンが、実につまらなそうに発する。太朗は「あぁ、そうっすね」とそれに軽く答えると、再び考えに没頭しようとする。しかし、ふと思いついた考えに、手の平をぽんと叩く。


「あ、そっか。その手があるな」


 太朗の声に、部屋の中の視線が集まる。太朗は出て行こうとするゴンの脇へ手を入れると、そのまま胸の高さへと持ち上げる。下半身がにょろんと伸び、ゴンが不機嫌そうに顔を歪める。


「艦載機だ。帝国軍がやってるみたいに、艦載機を電子戦仕様にしちまおう」


 太朗の声に、アランが「艦載機か……」と独り言のように発する。


「第1艦隊だけでは無く、他の艦隊にも艦載運用機を作るという事か?」


 いくらか不安気なアランの声色に、太朗が続ける。


「そうそう、プラムの運用でノウハウも積み上がってきたじゃん? せっかくだし、他にもあってもいいと思うんだよね。問題はパイロットだけど……」


 持ち上げたゴンをくるりと回転させ、自分の方へ向ける太朗。


「ゴンさん、知り合いで腕のいいパイロットとかいませんかね」


 期待に満ちた太朗に、「グフッ」と喉を鳴らすゴン。


「いるし、紹介もしてやるが……とりあえず下ろせ。首が締まる。自慢じゃねぇが、太ってるんだ」


 首元へ余った皮と肉を集め、苦しそうにもがくゴン。太朗は慌てて彼を床へ下ろすと、乱れた毛並を整えてやる。


「あぁ、くそ。やっぱ太ってていい事は貫禄が付く事くらいだな……なぁ社長さんよ。俺は部外者みてぇなもんだが、ひとつだけ提案してやるぜ。艦載機の小さいレーダーじゃぁ、ステルス艦は捕まえらんねぇ。対電子戦装備を行うのは結構だが、まず相手を見つけ出す必要があるだろう」


 ゴンの指摘に、確かにそうだと頷く太朗。やはりスキャナ関係の装備を整える必要はあるかと考え始めた彼に、ゴンが「社長さんよ」と続ける。


「他の艦隊は何かしら必要だろうが、こっちにはおもしろい力を持ったお嬢ちゃんがいるじゃねぇか。しかも、ついさっきその実力を証明した所だと来たもんだ。どう扱うつもりなのかは知らねえが、選択肢に入れてもいいんじゃねぇか?」


 どうなんだい、といった様子のゴン。彼の言葉に、皆の視線が1人の少女へと集まった。




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