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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第7章 タクティカルワインド
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第94話

「おおおい、冗談じゃねぇぞ。なんだこの線量。マジで電子戦艦じゃねぇか。被害、どうなってる?」


 計器を振り切らんばかりに放射されたエネルギーに、引きつった顔を見せる太朗。一瞬船内の明かりが暗くなり、すぐさま元に戻る。


「非保護の装置と、スキャナ。それにカメラ関係が全部すっ飛んだわ。電子設備の25%に損害。しばらくしたら復旧出来るけど、戦闘中だったらと考えるとぞっとするわね」


 太朗と同様に、額へ汗を浮かべたマールが答える。ほんの数秒でもセンサー類がやられてしまえば、その間は外からの情報が遮断されてしまう。目を瞑って戦うようなものだ。


「次が来た時の為に、対線モードに変えとこう。どこまで耐えられっかわかんねぇけど、無いよりはマシだろ」


 太朗はBISHOPを用い、各装置のモードを切り替える。対線モードは各装置の能力が著しく低下するが、かなりの電子攻撃(ECM)に耐えられるようになる。本来は太陽風の影響下を航行する際に使用するもので、対電子戦用装備というわけでは無い。


「なぁ小梅。シールドとドライブだけは守らないとやばいから、また独立させた状態で稼働……小梅?」


 話しかけながら振り向いた太朗だったが、いつもそこへいるはずの小梅の姿が見当たらず、首を傾げる。

 不思議に思い、視線を降ろす太朗。


 彼女のシートのそばから見える、小さな足先。

 電磁パルスは、電子機器を破壊する。


「……た、大変だ!! 小梅!! おい!! 大丈夫か!!」


 すぐさま駆け寄ろうと身を起こす太朗だったが、安全ベルトが彼をシートへと縛り付ける。それどころでは無いともどかしくもベルトを取り去ると、飛び出すように小梅の元へと急ぐ。


「こ、小梅!? しっかりしろ。おい、しっかり!! ま、マール、どうしよう、小梅が!!」


 シート向こうに倒れ伏した小梅へ駆け寄り、体を揺する太朗。小梅は目を見開いたままぐったりとしており、その髪が力無く揺れている。傍には船体と小梅とを繋げていたジョイントコードが転がっており、溶けたゴム質の匂いが強く鼻を付く。


「揺らしちゃダメよ!! 電圧で回路がショートしてるかもしれないわ。そのまま設備室の方へ運ぶから、あんたは船をなんとかして。前の球体ボディがあったはずだから」


「わ、わかった。頼んだ……な、なぁ。大丈夫だよな? たいした怪我じゃねぇよな?」


「落ち着いて、テイロー。それを確かめに行くのよ。それより、次が来たら今度こそまずいわ。なんとかやりすごして頂戴」


 小柄な小梅を抱きかかえ、設備室へ向けて慎重に歩み去るマール。太朗はマールについて行きたい衝動に駆られたが、やらねばならない事があると、それをぐっと堪える。


「小梅……ちくしょうっ!! やりやがったな!!」


 わき上がる怒りを湛えたまま、自分の席へと向かう太朗。彼は自分のシートに収まると、荒い呼吸を整えるべく深呼吸をする。本当は今すぐにでも実弾でぶち抜いてやりたかったが、そういうわけにもいかない。保護艦がおり、僚艦もいる。


「……全艦、そのまま一切動かないように。各艦の状況はこちらでモニタリングしてるから、何かあれば随時指示を送る。なお、この通信を最後に無線封鎖。返答もしないように」


 怒りからぶっきらぼうな口調となった太朗は、そう発するとすぐさま通信を遮断する。今はビーコンの定期スキャンに合わせて通信を行う事で偽装しているが、いつばれないとも限らない。


「……何隻かは窓のついた船があるな。頼むから見つからないでくれよ」


 光学スキャンで捕えた船団の映像を見ながら、ひとりぼやく太朗。現在太朗の艦隊はバラバラに避難しており、見つかれば簡単に駆逐されてしまう。太朗は船を敵から隠す為、付近にちらばるビーコンのすぐ傍に各船をオーバードライブさせていた。こうすれば、敵のスキャンにはビーコンの強烈な発信信号しか映らない。そしてビーコンは、構造が単純ゆえにあらゆる障害に強い。


「回路……そうだ、回路を再設計しないと……コンデンサに電気をまとめて、スタビライザーへ接続……メイン回路を迂回して……あぁ、くそ。マールなら一瞬だろうに」


 最近はめっきりやる事の無くなった機械制御をひとり行うと、その遅々とした動きに舌打ちをする。通常使用下での作業であれば太朗にとってもどうという事は無かったが、現在は完全な非常事態であり、勝手が全く異なる。


「よしっ、これでとりあえずクリティカルな部分は動くはず……しかしこんだけやられると、修理費が半端無い事になりそうだな。マールがキレなきゃいいけど」


 今も定期的に明滅する照明を見上げ、不安気に発する太朗。非常灯であるにも関わらず障害が起きているという事は、船のかなり深い部分まで被害が及んでいるという事でもある。


  ――"警告 危険進路:A-12"――


 太朗のBISHOPに表示される、残念ではあるが、期待通りの警告。それは敵艦の進路がこちらへ向いているという事を意味し、予想よりも早くこちらの位置を特定されてしまったという事でもある。しかし、仲間が次のジャンプを行う為の囮としては、申し分無い。


 太朗はビーコンに混ぜて放ったスキャン結果を確認すると、急いで戦闘準備を始める。敵は既に、戦闘準備を済ませているように見えた。


「"おい社長、どうする。外へ出とくか?"」


 通信機に映る、戦闘服姿のゴン。既にコクピットに収まっているらしく、背後に爆撃機のシートが確認出来た。


「いや、残念だけど戦闘機はやめとこう。外でアレを食らったら、多分一発だと思う」


「"そうか……わかった。何か俺達にやれる事はあるか?"」


「やれる事……そうだ、急いでブリッジに来て。弾頭制御なら、いくつかゴンさん達でも出来るはず」


「"弾頭か。よし、すぐ行くから待ってろ"」


 太朗はゴンの返答を聞くと、「お願い」と短く返して通信を切った。実際の所、弾頭の制御に人手が必要なわけでは無かったが、他にやれる事があるわけでも無かった。それに何より、広い艦橋に1人でいるのは、太朗の精神衛生上よろしくなかった。


「小梅……頼むから無事でいてくれよ……」


 太朗は目を瞑ってそう呟くと、全砲塔のロックを解除する。


「許さねえからな……ぜってぇ、許さねえからな」




 14の小型ステルス艦。そして電子戦機であるブラウンリーフを束ねるゴーウェンは、隠しきれない笑みを噛み殺すのに苦労していた。


「それで隠れているつもりか? ちょこざいな」


 彼の眺めるレーダースクリーンには、ビーコンと重なる形で一隻の船が写り込んでいた。


「船影、亡命機と一致します。間違いなく裏切り者でしょう」


 ゴーウェンの部下が、彼と同じように笑みをたたえながら発する。いつもであれば、「何をにやにやしている!!」などと叱るゴーウェンも、今はそんな気になれなかった。


「裏切りなど、"祖国"が一丸とならなくてはいけないこの時。最も許し難い行為と言える。そうだろう?」


「はっ、その通りであります」


「うん。では裏切り者に最も相応しい処罰は何だ?」


「極刑以外に考えられません。艦長殿」


 傍から見れば、滑稽とさえ言えるかもしれないやりとり。しかし至って真剣なゴーウェンは「よろしい」と鷹揚に返すと、自ら戦闘準備の号令を発する。


「相手はさしたる武装も無いが、万が一という事もある。一撃で仕留めろ。ECMの充電はどうだ?」


「現在……67%です。残り5分22秒で完了します」


 部下からの報告に、「ふむ」と鼻を鳴らすゴーウェン。彼はECMが発動可能になるまで時間を稼ぐべきだろうかと考えたが、それをすぐさま否定する。15対1という馬鹿げたレートでは、出番も無いままに終わる可能性が高い。


「あのまま真っ直ぐ逃げていれば、まだ可能性もあっただろうにな。愚かな奴だ」


 裏切り者の乗る船は、彼の僚艦と同じ型のステルス艦である。同型という事は当然航行速度も同じであり、逃げに徹せられれば捕まえる事は難しい。先程は15隻で包囲を縮める作戦で追い詰める事が出来たが、もう一度やるのは御免だった。時間がかかるからだ。


「周辺宙域3ヵ所からドライブ粒子の発生を確認。どうやら騎兵隊は逃げ出したようですね」


 部下の報告に、ほっと胸を撫で下ろすゴーウェン。裏切り者を庇う真似をした3隻は、2つの駆逐艦はともかく、旗艦と思われる巡洋艦が識別不明な型だった。数的に負けるとは考えにくいが、思わぬ被害を受ける可能性もある。


「ふふ、裏切り者が、裏切られたというわけか。こいつは傑作だ……よし、タレットベイ開け!!」


 号令に合わせ、15隻の船の砲門が開かれる。それぞれ4つずつ備えられた砲塔が船体より現れ、対象の船目掛けて旋回を始める。


「砲撃――」

「対象、発砲!!」


 ゴーウェンの声に被せる形で、部下が叫ぶ。ゴーウェンは無駄なあがきだと醒めた感想でそれを聞き流したが、次の一言で大いに混乱する事となった。


「反応数14!! ビーム8と、正体不明6!!」


「14……だと?」


 飛来するビームの線を見つめながら、茫然と立ち尽くすゴーウェン。攻撃されているという事自体については、どうでも良かった。電子戦仕様のジャミングは、簡単にビームを逸らす事が出来る。彼にとって大事なのは、そこでは無かった。


「14だと!! 馬鹿な!! あれは裏切り者の船では無いぞ!!」


 急ぎ、スキャン結果を確認するゴーウェン。そこには間違い無くステルス艦のシルエットが映し出されていたが、情報を最新のものに更新すると、そこには巡洋艦サイズの船が表示されていた。


「……光学スクランブル……艦隊丸ごと相手にか? くそっ、やられたっ!! 相手も電子戦機だぞ!! 全艦電子戦準備!!」


「ビーム飛来!! ジャミングします!!」


「電子戦機ならば、向こうも強力な安定機を詰んでるはずだ、ジャミングなど……んん?」


 ゴーウェンの懸念とは裏腹に、大きく逸れていく敵のビーム。彼は不可解な結果に首を傾げたが、だからどうというわけでも無かった。


「もしや、先程のECMでスタビライザーが死んだな? 全艦全速前進、砲撃開始!! 相手は死に体だぞ!!」


 にやりと、意地の悪い笑みを作るゴーウェン。

 しかし残念な事に、

 彼はビームを除いた、残り6の存在を失念していた。


「か、艦長!!」


 何か戸惑った様子の、部下の声。何事かと、振り向くゴーウェン。


「に、2番艦、4番艦が撃沈しました。10番艦と11番艦が大破。13番艦は中破ですが、火災が発生しています」


 部下が何を言っているのかわからず、固まるゴーウェン。「何を……」と口を開く彼に、部下が続ける。


「我々は、何かに攻撃されています。戦艦砲クラスの、何かにです」




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