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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第7章 タクティカルワインド
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第93話

  ――"広域スキャン 反応数12.5"――

  ――"識別信号 反応無し"――


「うーん、反応無しって事は、いつも通りワインド? 距離はどう。すぐ戦闘になりそう?」


「否定です、ミスター・テイロー。かなりの距離がありますので、先制するのであればオーバードライブを行った方が良いでしょう。0.5については、不明です」


「りょーかい。とりあえず各艦戦闘準備、ワインドと思われる未確認船舶12。情報送ります。オーバードライブ準備。リンクもらいますね」


  ――"スキャンデータ送信 終了"――

  ――"データリンク 確立"――

  ――"リンケージオーバードライブ スタンバイ"――


「とりあえず距離をとって様子見してみるか。増援要請出しとこう」


 太朗は最寄のステーションに対する警告と共に増援の要請を送ると、オーバードライブを起動させる。


「この距離なら10秒ってトコかな? ……って、なんだ!?」


 太朗がジャンプを行った直後、対象付近にいた船舶のいくつかの反応が消失する。太朗は急いでドライブ粒子の検知を行ったが、ワープした痕跡は見られなかった。


「おいおい、仲間同士でやりあってんのか? なに、ワインドってそこまで進化したの?」


「そうであって欲しいけど、そうじゃ無さそうよ。ねぇ、見てテイロー。光学スキャンの結果よ」


「……これって、エンツィオの船!? こんな所まで何しに来やがったんだ? 前線から離れてるなんてもんじゃねぇぞ?」


 疑問符を頭の上へ大量に浮かべながら、エンツィオ同盟を示す鎖の印を確認する太朗。


「おいおい、まじで何だよ。仲間割れか? 2グループに分かれてんな」


「ミスター・テイロー、対象の反応がさらに2つ消失しました」


「うぇ、また? 良くわかんねぇけど、船がもったいねぇな」


「違うわテイロー!! 光学スキャンにはぼやけた映像が残ってる!!」


「ぼやけた……げ!! で、電子戦機か!? くそっ、0.5ってこれの事か。まじぃぞ!! 全艦、連続ドライブ準備!!」


 ワープ終了と共にすぐさま逃げ出そうと、残された数秒で必要な計算を全て終わらせる太朗。敵の数は多く、まともに戦うのは得策では無い。さらにスキャン不可にもかかわらず光学スキャン(目視)可能な船という事は、ステルス艦の可能性が大きい。電子戦特化の、厄介な相手。


  ――"入電 救難信号"――


「救難信号? おいおい、何がどうなってんだ」


 やがてワープが終了し、正体不明の艦隊と交戦可能な距離へと到着したプラム一行。太朗はどうしたものかと逡巡したが、少なくともこのままでは良く無いと、連続ドライブの準備だけは終わらせる事にする。


「再計算……よし、これでいつでも出発は出来る。ワープスタビライザーもビシバシ詰んでるし、そう簡単には邪魔されないはず……と、いいな」


「そこはしっかり言い切りなさいよ……えぇと、おかしいわね。彼ら撃ちあってるわ。救難信号もあったし、やっぱり仲間割れ?」


「ミスター・テイロー、外線です。先行している船からですね。繋ぎます」


 太朗の返答を待たず、すぐさま通信を繋げる小梅。やがて船内スピーカから、騒がしい騒音と共に男の叫び声が届けられる。


「"こちら宇宙船メイリーアン!! 襲撃されてる!! 頼む、助けてくれ!! こっちは民間船なんだ!!"」


 外線からの声に、ふむと鼻を鳴らす太朗。彼は考えうる可能性をいくつか思い浮かべると、少なくともマシと思われる選択肢を取る事にする。


「……こちらEAP連合所属、TRBユニオン構成企業ライジングサンはプラムⅡ。貴船の所属は同盟領と推測されるが如何か……って、それどころじゃねぇわな。助けてもいいけど、ちょいと言う事を聞いてもらいますぜ」


 太朗の言葉に、「正気?」とでも言いたげな視線を向けるマール。太朗はどうという事もなく視線を受け流すと、再び外線へ向かって話しかける。


「助かりたいんなら、BISHOPの外部入力を素通りするようにして。ファイアウォールやセキュリティも全部オフに。できれば30秒以内で」


「"……こちらメリーアン、我々の安全と何の関係があるのかがわからない。セキュリティは物理ロックだから、3分はかかる"」


「ごーぉ、ろーく、しーち……」


「"……わかった、1分でやるから待っててくれ!!"」


 太朗は相手の反応に満足気に頷くと、今もなお民間船舶へ攻撃を加え続ける船団をじっと見守り続ける。わずかでもこちらへ攻撃するそぶりを見せれば即座に反撃するつもりだったし、ジャミングを仕掛けてくるようだったら対抗する必要があった。


「ちょっとテイロー、どういうつもり? 罠かもしれないわよ?」


「じゅういち、じゅうに……そいつを確かめる為のセキュリティ解除さ」


「時にミスター・テイロー。カウントアップであれば、BISHOPのタイマー関数を使用すれば良いのでは?」


「じゅうご、じゅうろ……小梅、お前マジ天才だな」


 太朗は小梅の指摘通りカウントダウンタイマーを起動させると、全電圧をオーバードライブ発生装置に送り込めるよう、回路を組み替え始める。最悪でもワープがジャミングされる事だけは避けなければならない。得意気に胸を張る小梅の姿がちらりと見えた気がしたが、それは無視する事にした。


「マール、残りの関数組み上げをお願い。座標は固定しといたから」


「了解。3艦ともやっておくわ」


「小梅、念のためシールド準備」


「はい、ミスター・テイロー。既に準備済みとなっています」


 二人のテキパキとした声に、ふうと息を吐き出す太朗。やがて妙な沈黙の中、指定された1分までの時間が迫り、オーバードライブ発生装置が力強く稼働を始める振動が伝わってくる。


「本隊へ向けて救難信号を発しますか?」


「や、ダメ。敵対意思と取られるだろうから、攻撃してくっかもしんない」


「向こうも迷ってるって事?」


「今の所こっちには撃ってきてないからな。実際のトコはわかんないけど……ほれ、早くしろよ、置いてっちまうぞ」


 太朗は民間船を名乗るこの船を、助けられるのであればそうしたいが、最悪の場合は本当にそうするつもりだった。

 太朗は今までに何度もワインドに襲われている民間人を助けて来たが、時には間に合わない事もあったし、泣く泣く見捨てざるを得ない事もあった。その度に後悔の念に襲われたが、仕方の無い事でもあった。全てがうまく行くわけが無いし、悪い結果を残す選択肢しか存在しない場面など当り前のようにある。


「時間やね。全艦――」

「開いたぞ!! どうすればいい!!」


 通信機より聞こえた声に、小さくガッツポーズを作る太朗。


「よーし、どうもしなくていいっすよ。後はのんびり構えてて下さいな」


  ――"外部強制通信 ……侵入"――

  ――"データバンクアクセス 拒否"――


 太朗はBISHOPの複雑な表示をぼんやりと眺め、並列実行される24のタスクそれぞれに命令を送り続ける。暗号化されたコードを解読し、ハードの制御を取得する。


  ――"アクセスコード 強制解除"――

  ――"データリンク 強制接続"――

  ――"ドライブシステム Hacked"――


「テイロー!! 砲塔がこっちを向いたわ!!」


「おっけ、さっさとズラかろう!!」


  ――"リンケージオーバードライブ 起動"――


 追手とされる船から最初のビームが放たれた、まさにその時。民間船を含む4隻の船は青い光に包まれ、その場から瞬時に消え去った。




「くそっ、さっさと割り出せ!! どこへ飛んだ!!」


 エンツィオ同盟国境警備班のゴーウェンは、そう叫びながら力任せに机を叩いた。お世辞にも太いとは言えない彼の腕だが、部下を恫喝するのに必要な程度の音を発する事は出来た。


「わかりません。近くにいくつかビーコンが確認できますが、船舶の存在は見当たりません」


「いないわけが無いだろう!! それとも何だ。お前は、あいつらがどこか我々の知らない次元にでも旅立ったとでも言うつもりか?」


「いえ、そう言うわけでは。ですが……」


「帝国はもう、すぐそこなんだぞ!! 中枢に逃げ込まれたら、我々の計画は何もかもおしまいだ!! 死ぬ気で探せ!!」


 ゴーウェンは唾を飛ばしながら喚き散らすと、無造作に椅子へと腰掛ける。彼は知らず知らずに震えていた自分の腕に気付くと、それを無理矢理押し留める。帝国は恐ろしかったが、このまま手ぶらで帰った場合の顛末を考えると、まずはそちらが問題だった。


「どこへ逃げた……考えろ……考えろ……」


 ひとりぶつぶつと、心を病んだ男のように思考を巡らせるゴーウェン。


「近くに浮遊物は?」


「いえ、ありません。船舶の物と思われるデブリが、いくつか残されています。恐らく、ここは対ワインド用の迎撃拠点のひとつかと」


「ビーコンがあるんだ!! 当り前だろう!! くそっ、デブリか……相手がステルス。もしくはセルフジャマーで姿をくらましているかのどちらかだな。あの船がステルス艦だという情報は無いが、新しく来た3隻はわからん」


 ゴーウェンはおもむろに立ち上がると、BISHOPから船体情報へとアクセスする。


「全艦、フルパワーでアクティブソナーを放て。セルフジャマーであれば、化けの皮がはがれるはずだ」


 光学的な情報をごまかしているのであれば、ごまかしきれない量の情報を送り付けてやればいい。そして彼の船は、それが可能なだけの強力な電子機器が備わっていた。ソナーとは名ばかりで、その実態は攻撃用電子対抗(ECM)兵器に他ならない。


「艦長、相手に気付かれませんか?」


「だからどうだって言うんだ? あいつらを逃がせば、結局気付かれる事になる。だったら、まずはあれを処理しなくちゃならないだろうが。準備はまだか!!」


「準備完了です。アクティブソナー、放ちます」


 ゴーウェンは部下の声に不機嫌そうに頷くと、耳鳴りのように高まるスキャン装置の音に集中する。やがて一斉に強烈な電磁波が四方へ放たれると、巨大な彼の船体が振動に大きく震えた。


「電磁波の影響で、非保護装置のいくつかが沈黙しました。対太陽風モードに切り替えます」


「どうでもいい。それより、見つかったか?」


「……いえ、ダメです。付近に反応はありません」


「…………くそったれ!! 探せ!! 探すんだ!! 全てのデブリを洗い出せ!!」


 ゴーウェンは叫びながらも、絶望の淵に飲まれようとしていた。

 裏切り者の粛清に失敗すれば、自分が裏切り者として扱われる。




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