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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第7章 タクティカルワインド
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第90話

  ――ドッキング終了 ようこそ生物資源園へ――


 BISHOPに表示される、いつものドッキング報告。マールと太朗は8時間に及ぶ移動の疲れからいくらかうんざりしながらも、ようやく目的地についた事に笑顔を見せる。


「タキオの動物園なんて久しぶりだわ。小さい頃行ったっきり以来ね」


 プラムの廊下を歩きながら、マールが懐かしむように発する。

 タキオ生物資源園はいわゆる動植物園で、銀河中の実に様々な生き物が公開展示されている。1つの大型ステーションを丸々使用したこの動物園には、何十もの動物植物園が存在しており、それぞれが特色ある見世物を行っていた。


「前に来た事があるんね。どう? やっぱ楽しい?」


「そりゃそうよ。のんびり歩いてまわってたら1週間やそこらじゃ回りきれないわ。中々チケットが取れない人気スポットね。というか、よく人数分が確保できたわね」


 ご機嫌そうなマール。太朗は彼女の問いに対し、懐に忍ばせておいたカードチケットを取り出して見せる事で答える。


「てれれてってれ~。かぶぬしゆうたいけ~ん。取引先の社長さんに相談したらタダでもらえたぜ。持つべきものは金持ちの知り合い」


「何よそのダミ声……後半はいち個人としては同意できないけれど、取締役としてはまぁ、その通りかもね」


「個人的にはお隣のめくるめく官能の世界。ロンダール星系のチケットが欲しかった所」


「あ~、はいはい。勝手に行ってむしりとられてらっしゃいな。あそこで身を崩した人間が何人いるか、一度小梅に聞いてみるといいわ」


 タキオの隣にある、賭博と風俗に特化したロンダール星系。他にも遊園地だったり何だりと、この付近には様々な娯楽を楽しむ為のステーションが存在している。それぞれは定期連絡便が巡回しており、無料で利用する事が出来た。

 さらにここは帝国の直接管理下にあり、懸賞禁止特区として一切のハンティング行為が禁止されている。よってここへ到達する事さえ出来れば、どんな高額の賞金首だろうが、重犯罪者だろうが、身の危険を感じる事無く楽しむ事が出来る。もちろん帝国指定の賞金首に関しては別であり、スターゲイトをくぐる事さえ許されない。


「ほら、早くいこうぜ。あんま時間ねぇしさ!!」


「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ。ステーションは逃げたりしないわ」


 太朗達は急ぎ足で桟橋へと到着すると、直接園内へ直結しているチューブシャトルへと乗り込む。一般用の高速移動レーンも存在したが、ゲートの人間に優待券を見せた所、慌ててこれが用意された。


「おおー、すげぇ。めちゃくちゃ広いな。広いっつーか、どんだけだよ」


 中空を走るシャトルの窓からは、眼下に広がる動植物園が一望出来た。基本的にはジャンル別に分けられた箱型の建造物が立ち並んでいるだけだが、その規模が尋常では無かった。遠くの施設は、いくらか霞んで見える。


「2550棟の展示ブースに、約7400万種の展示がされているようですよ、ミスター・テイロー。惑星アルモスからイズダリア星系のR5251まで、銀河中の有名な生物惑星から生体が収集されているようです」


 動植物園のデータバンクにアクセスしているのだろう。シャトルのコネクタにケーブルを繋いだ小梅が、すらすらと読み上げるように答える。


「どんだけぇ……つーか、生き物ってそんなに種類あるんか」


「何を仰いますか、ミスター・テイロー。例えば自然惑星ひとつに存在する昆虫に限っても、数千万から数億種が存在しています。ここにあるのは飼育が簡易であり、見る価値があるとされるものだけでしょう。銀河の生物全体からすれば、ごく一部です」


 小梅の説明に、感嘆の息を吐く太朗とマール。太朗は目的の品が見つかるだろうかと不安になりながらも、とりあえずは目の前の広々とした風景を楽しむ事にした。


「あ~、ぶっちゃけ観光で来たかったな。リスト見てるだけでワクテカするぜ。なんだよこの足が20本ある動物とか。どう歩くんだよこれ。ぜってぇ躓くだろ。つぅか、いらねぇだろこの数」


「私はこっちの両生類館の方に行きたいわ。アガロ類とか、見ててかわいいし」


「アガロるい? 何それ……うわ、グロ!! こんなん好きなんかマールは。ぶっちゃけちょっと引くぞ」


「グロって、失礼ね。これをデフォルメしたマスコットとか、若い女の子の間では結構人気なのよ?」


「いやいや、ねぇよ。なんだよこいつ。俺にはどっちが頭かすらわかんねぇよ」


「ふむ。小梅的には、こちらの水生動物が興味深いですね。特にメーザライロ科がかなりエロいです。普段何を考えているのか、聞いてみたいですね」


「まじっすか!? メーザ、メーザ……いやいや、エロくねぇよ。つーか全身透明じゃねぇか。貴方に全部を見せちゃうわ、とかそういうレベルじゃねぇじゃん。内臓まで丸見えじゃん……って、え? こいつ知的生命体なの?」


 わいのわいのとはしゃぐ三人。やがてシャトルはラーリオ動植物館総合管理室とされる施設へ到着すると、音も無くゆっくりと静止する。

 シャトルを降りた三人は、出迎えに来た管理人ラーリオその人に連れられ、展示施設の地下――宇宙ステーションで地下というのもおかしいが――へと向かう。飾り気の無い長い通路を抜けると、やがて応接間と思わしき部屋へと到着した。


「では改めまして。今動植物園の管理人、ラーリオです。専門は古代生物全般ですね。御存知かとは思いますが」


 名刺チップを差し出しながら、およそ40代だろうか。ラーリオが楽しそうに発する。ぼさぼさの頭によれよれの服。どう見てもあまり良い生活をしているような人間には見えなかったが、実際には大富豪であろう事は間違いが無かった。このエリアの展示物は、全てが彼の私物だった。

 彼はファントムが言っていた例のコレクターであり、古い生物資源に対して並々ならぬ興味を示しているとの事だった。そして太朗はその理由に、ここへ来る事で納得が出来た。それが彼の商売だからだ。


「はい、初めまして。ライジングサンのテイローです。こっちは同取締役のマールと、秘書長の小梅です。今日はわざわざお時間頂き、ありがとうございます。それにしても広い動植物園ですね。初めてきましたが、心底驚きました」


「ははは、そうでしょうそうでしょう。初めて訪れた人は、皆驚きます。残念ながらここのエリアに訪れる人は、あまりいませんがね」


「あら、なんでですかね。凄く興味深いエリアだと思いますけど。古代生物ですよね? 個人的にはロマンの塊な気がしますが」


「うーん、そう言ってもらえると嬉しいですがね。予算やスペースの都合上、どうしても地味な展示物が増えてしまうんです。他のエリアと違って、価値の基準が見た目や何かと違うので」


「あー、貴重な生物種の保存っていう目的もあるんでしたっけ。確かに希少だからって、人目を引くような生き物とは限りませんよね」


「えぇ、色々と工夫してはいますし、その中でも特に興味深い生き物を厳選してるつもりではありますけどね……ところで本日は古生物のリスト閲覧が御要望との事ですが、その理由を伺っても?」


「はい、それがですね。実はこんな話が持ち上がってまして……」


 太朗は地球についてを伏せたまま、事前に考えてきた内容を説明する。


「なるほど。帝国創成期の料理や食材を再現したいと。それはまた、興味深い話ですね。しかし、当時から既に人工食料の技術があったと記憶していますが?」


「いえ、もちろんそうなのですが、"各種族"の故郷惑星では自然食材を食べていたわけじゃないですか。初期の宇宙開拓では、そういった食材から保存食を作って持っていったと思うんですよ」


 わざわざ単一惑星発生説を前提に話す事は無いと、各種族を強調する太朗。それにラーリオが頷く。


「という事は、創成期も創成期。本当の初期人類という事になりますね……それはまた、壮大というか何というか。興味深くはありますが、非常に難題ですね」


 少し驚いたような、それとも呆れたかのような。なんとも言えない表情のラーリオ。彼は少し中空を見上げると、恐らくBISHOPにアクセスしているのだろう。しばらく遠い目をしてから口を開く。


「公開データバンクへ自由にアクセスできるようにしておきました。人類発祥の地に名乗りを上げている惑星の生体に限定しておきましたので、どうぞ気が済むまでご覧になって下さい」


 満足気にそう言って笑顔を見せるラーリオに対し、「あぁ、いえ」と太朗。


「できれば発祥不明の生体に限定して頂けると助かります。ほら、あれじゃないですか。既に出自がわかってる動植物は粗方解析済みですし、そういった種類は我が社の独占という形を取るのが難しいので」


 太朗の言葉に何か思い当たる所があったのか、納得したように頷く。


「隙間を狙うというわけですか。いやぁ、噂通りの方、と言っては失礼にあたりますかね。しかし未分類の種だけでも軽く数億は超えますが、大丈夫ですか?」


 太朗はいったいどんな噂だろうかと苦笑いしながら、「気長にやります」と頭をかいて答えた。




「で、どうなのよ。いけそう?」


 ひそひそと、資料室の端末へアクセスしている太朗にマールが訊ねる。太朗は得意げな様子でにやりと笑うと、親指を立てて見せる。


「へへ、俺の特技をなんだと思ってるんだい、カワイコちゃん。マルチ……なんだっけ。すげぇ大量に並列作業するやつなんだぜ」


「んもうっ、そういう時くらいカッコ良く決めなさいよ。マルチタスキングね……って、ほんとに見つけられそうなの?」


「まぁ、ぶっちゃけ答えがわかってる自分がちょっとズルイなと思う程度には、なんつーかヌルゲーだな。見知った動植物探すだけだし、明らかに地球とかけ離れた環境で生きてる奴は除外できるしな。2,3日あれば大丈夫だと思う」


「そう、良かったわ。そうね、確かに帝国人があんたと同じ事をしようとしても、まず見つけられないわね。地球の環境はおろか、存在すら知らないんだから。絞込みだって、あんたのギフトが無かったら途方にくれるわよ。というか、そもそもやろうとすらしないでしょうけど」


「おほっ、褒めるねマールたん。でもまぁ、問題もあるのよね……」


 端末でリストアップした様々な動植物を前に、溜息を挟む太朗。


「見た目がそっくりな奴は、正直どうしようも無いって所やね。俺は生物学者でもなんでもないわけで、区別なんぞ付かないっす。おいちゃん知らなかったけど、イネみたいな植物だけでも一杯あるのね……こっからは、総当りかな」


 出だしは上手くいったと手ごたえを感じる太朗だったが、今後を思うとうんざりした気持ちになった。


 検索数に対する割合から推定すると、リストには少なくとも数千の候補が残りそうだった。




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