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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第7章 タクティカルワインド
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第88話



 ライジングサン・バトルスクールの視察からしばらくの後。本格的に動き出した大型レールガンの量産・配備を行う為の提携企業を探し、太朗はカツシカ中のあちこちを走り回っていた。

 既に契約を決めて稼働している工場もあるにはあったが、決して十分な数とは言えなかった。カツシカ星系の防衛を行う分のみを生産するのであれば間に合う生産力はあったが、その先を見越すとなると話は変わる。


「さっきの所はダメやね。ご近所でもあんま評判良くないみたいだ」


 携帯端末には先程立ち寄った工場についての噂や評判といった物が羅列されており、それらはあまり芳しいものでは無かった。劣悪とまでは行かないが、その会社は従業員にあまり良い環境を提供していないらしい。


「定期的に事故の記録があるみたいよ。2ヶ月前にも一件事故を起こしてるわね。従業員が何人か大怪我をしたみたい……示談で済ませたから表に出てないそうよ」


「おほ、それドコ情報よ……って、アランか。んじゃマジモンの情報だな。やめとこう」


 情報収集を行わせれば、ライジングサンで右に出る者のいないアラン。彼からの情報であれば信用出来るとして、先程の工場を候補先リストから移動する事にする。移動先は、準ブラックリスト。


「となると、ヨシダ重工業とSマテリアル社に決まりかな。宣伝はS・ナロウ出版が受け持ってくれるらしいし、後は結果を残すだけやね」


 既に具体的な打合せ段階へと入っている何社かの企業を頭の中に思い描くと、満足気に頷く太朗。


 シルバーマンマテリアル社は、文字通りシルバーマン市長が長い間経営に携わっていた企業で、カツシカでの評判はすこぶる良い。そしてヨシダ重工業は、カツシカを基点とした付近の星系にまたがる大企業である。


 ここで大事なのは、部品の発注を行うその2社が、どちらかと言えば外注生産に比重を置いた企業だという点だ。なんでもかんでも自社生産してしまう企業を相手していては、太朗の目標とする「皆で儲けよう」の理念からはずれてしまう。


「ちゃんと中小企業にも利潤が回るといいわね。それよりテイロー、聞いた? あんた、20万クレジットの賞金首になったらしいわよ」


「うお、とうとう来たか!! って、金額少なくね!!?」


 一般市民から見れば間違いなく大金ではあろうが、億を稼ぎ出すようになった太朗の感覚からすると、人ひとりの命の金額としてはあまりに少ない額のように感じた。もちろん安い程安全である事は間違い無いのだろうが、自分の価値が安く見積もられた気がしてなんとも複雑な気持ちだった。


「殺害、誘拐、どちらでも構わないそうよ。アランやファントムが言うには、とりあえず不用心な真似を慎むようにしてれば大丈夫だろうって。前と同じで、外出する時は誰か連れてく事ね。幸い、うちには武闘派が沢山いるみたいだから」


 少し呆れたような表情で、肩を竦めるマール。太朗は彼女の言う事ももっともだと、身近な人々を頭に思い浮かべる。軍人であるアランとファントム、そしてハンターのキャッツ4名。最近は顔こそ合わせていないが、マフィアであるベラやスコールもいる。最近ではディーンも身近な人間と呼べるだろうか?


「……あんま意識して無かったけど、いかちぃにも程があんな。この面子、俺が他人だったら絶対近づきたく無い人種だぞ」


「大丈夫よ。一般市民もそう思ってるわ。もちろん、あんたも含めて」


「だよなぁ……え、嘘。俺も? いやいや、無い無い。俺、俺だよ?」


 心外だと慌てる太朗に、溜息をつくマール。


「そこそこ有名なマフィアンコープと手を組んで、身の周りをハンターと元軍人が固める重武装輸送船団及び兵器生産開発企業の親玉。資金源にはアダルトグッズの販売やなんかもあるわね。そしてユニオンには帝国軍高官の親族がいて、戦闘艦技術育成所バトルスクールでは司令官と呼ばれている男。これ、普通に聞いたらどう思う?」


「はい、どうみても悪の秘密結社の親玉です」


 マールの語る人物像は、太朗の良く知る地球のアニメや映画において、物語の悪役にこそ相応しいと呼べるものだった。


「ちくしょう、胡散臭いなんてもんじゃねぇな。どこでどう間違えたんだ……俺的にはもっとこう、爽やか二枚目クール路線を目指してたのに。腕が銃になってる人とか、フォースの力を使う人の仲間とか」


「何よ、腕が銃になってるって。サイボーグ?」


「いやいや、そこは"ヒュー"って言ってくれなきゃ。小梅ならマジで言いそうだけど……お、そろそろやね」


 太朗は端末に表示された高速移動車の到着時刻を確認すると、金属チューブの中を音も無くやってきた電磁式自動車へと乗り込む事にする。


 古い設計のカツシカステーションはカーブが多く、あまり速度を出す事は出来ないが、それでも移動手段としては最も優れていた。わずか十数分で、ステーションのあらゆる場所へと連れて行ってくれる。車体には窓こそ無いものの、壁に付けられたモニターには常に何かしらのCMが流されており、少なくとも暇をする事は無かった。各社ともつまらないCMで心象を悪くすることが無いよう、あの手この手で視聴者を楽しませようとしているようだ。


「相変わらず戦争に大きな動きは無し、か。良くわかんねぇな。向こうは何考えてんだ?」


 端末に表示されたクラークからの報告書には、対エンツィオ戦線に動きが無い旨の記述がされていた。


「知らないわ。けど、動機が動機だから、しばらくはやる気が無いんじゃないかしら」


 つまらなそうに、マール。


「言っちゃ何だけど、経済対策みたいなもんなんだろ? 再軍備が整うまでは様子見するつもりなんかね」


 エンツィオとEAPとの間の戦争は、時折小規模な小競り合いが起きる程度で落ち着いている。元々攻め込む気の無いEAPはともかく、宣戦を布告してきたエンツィオ側に動きが無い事が、太朗にはどことなく不気味に感じられた。


「嫌な予感がするなぁ。もうちょい向こうの様子が知れればいいんだけど、情報も物流も分断されてるのがなぁ」


 旧ニューラルネットの崩壊により、EAPとエンツィオ同盟領とは完全に情報が分断されてしまっている。戦時中がゆえに人の行き来は無く、極稀に亡命者や命知らずの商人が越境してくる程度のものだった。そして彼らは、周囲に情報を漏らすような事はしない。片方は己が命の為に。片方は金の為に。


「今度リンにでも掛け合って見たらどう? 何かしら情報を持ってるはずだし、無下にされる事も無いはずよ。ワインドについてもおかしな事が多すぎるし、気になるわ」


 マールの提案に「そだね」と頷く太朗。TRBユニオンはEAP傘下に加入したわけでは無い為、一応は対等な関係にある。規模からすれば桁違いの差がありはするが、だからといって致命的な情報を秘匿するような事は無いと考えられる。


「時間みつけて連絡してみるわ。この様子だとどうしようも無く忙しいってわけじゃなさそうだしな。ワインドについては、正直俺も気になるな。最近、平和過ぎる」


「そうね。今月に入ってから、まだたった3度の発見しか報告が無いわ。先月まで三日に一度はあったのに……どこかに大規模な集団を作ってたりするんじゃないかしら」


「うーん、オーバードライブ可能な領域は相当広範囲にスキャンしてるはずだから、一か所にまとまってるって事は無いと思うんだけどなぁ」


 宇宙は四方八方に自由な道が広がっているように見えるが、実際にはそうでは無い。まだら状になったドライブ粒子の濃度が、ジャンプ可能な領域を制限している。何千年――もしくは何千万年!!――もの時間を通常航行するのであれば自由と言えなくも無いが、それはあくまで可能だというだけに過ぎない。


  ――入電 発信者:シークレット(暗号化済み)――


 ふと、太朗のBISHOPに浮かび上がった文字。太朗は何だろうとそれを解読すると、短い文章へと目を通していく。


「アルジモフ博士からだ……うおっ、まじか。いやいや、そりゃねぇっすよ博士」


 虚空を見つめ、困った様子でひとり賑やかな太朗。そんな太朗に「何よ、教えなさいよ」と気になる様子のマール。


「地球だよ地球。博士が観測データの割り出しをやってたじゃん? あれの結果が出たんだよ」


「えぇっ、凄いじゃない。どこなのよ……って、あんたの表情からするとあんまり良い場所じゃあ無いみたいね」


「おうさ。十中八九、エンツィオ領のさらに奥だろうって。恒星B424を中心に半径500光年が怪しいってさ。いやいや、広すぎんだろ……えぇと、博士は行く気満々みたいで、宇宙船に乗った所を助手達に取り押さえられたらしい。今は無理だろ博士……おもしろいなあの人」


 太朗の言葉に、なんとなくその様子が目に浮かんだのだろう。「あぁー」と納得した様に頷くマール。


「相変わらずね、博士は。でもこれで随分範囲が縮まったわね。前までは光年で言えば1万近くのエリアだったわけだから、相当な進歩よ。もっとも、1500万クレジットもする端末を6つも買ったんだから、それくらいの結果は出してもらわないと困るけれどね」


 マールの声に、「なはは……」と苦笑いの太朗。博士と共に反対を押し切って購入した代物だけに、とりあえずはひと安心といった感じだ。これで何の結果も出せなければ、目もあてられない。


「にしても、地球かぁ。最近忙しくてあんまり意識してなかったけど、思い出すとやっぱ帰りたくなるなぁ。空を見上げてのんびりしたいし、味噌汁が飲みてぇ」


 生まれ育った故郷を思い出し、舌にかつての様々な食材の感触を走らせる太朗。帝国には地球に負けず劣らず実に様々な料理が存在したが、どれも今一つぐっと来るものが無いのも事実だった。料理は文化から生まれるが、その点、帝国は画一的だった。


「ふうん……それ、おいしいの?」


 ぼうっとしていた太朗に、マールが発する。太朗がそれに「そりゃもう」と答えると、再びマールが口を開く。


 そして出てきた内容は、後になってみれば何故思いつかなかったのだろうと思わざるを得ないシンプルな答えだった。


「だったら、作ればいいじゃない」




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