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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第7章 タクティカルワインド
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第85話



 ディーンとの話し合いを終え、去って行く彼を見送る太朗。するとすぐに入れ違いざまに現れたディーンの副官達を交え、今度は実務的な交渉と取引を行った。


 太朗は頭の中に詰め込んであるレールガンの制作費用や何かを思い出しながら、出来るだけ多くの利益を得るべく奮闘した。太朗に足りない常識や何かはマールが補い、突発的に必要となる情報は小梅が素早く提供する。アランはこの場にはいなかったが、BISHOPでやり取りを行う事は出来た。軍についての不明点があれば、すぐさま彼に尋ねる事が出来た。


「では、この方向で。また何かありましたら、連絡させて頂きます」


 こちらへ向けて、二本指を掲げて見せる3人の男。太朗達は疲れ切った表情でそれに返礼すると、彼らが扉の向こうへ消えるや否や、ソファへぐったりと崩れ落ちた。


「あぁ~、しんどい……今何時よ……」


「深夜3時となりますね、ミスター・テイロー。長丁場、お疲れ様でした」


「向こうは全然疲れた様子無かったわよね……流石天下の帝国軍人だわ」


 5時間に及ぶ交渉の疲れから、力無い声色の太朗とマール。それに対し、いつもと変わらぬ様子の小梅。太朗はそんな小梅をうらやましいと思いつつ、凝った肩をほぐすように腕をまわす。


「しっかし、あれだな……へへ」


 横目にちらりと、マールを見る太朗。


「えぇ、あれね……ふふ」


 太朗の視線に気付き、同じように返すマール。やがて小梅も同じように「えぇ、あれですね」と発すると、噛み殺していたが笑い声が大きく上がる。


「うははっ!! やったぜ!! 大口契約だ!!」


「あはは、やったわね!! 5000本よ5000本。どうしようかしら。うちの工場だけじゃお話にならないわ!!」


「それは始まりにすぎませんよ、ミス・マール。有用性が実証されれば、追加の注文が入る事は間違い無いでしょう。ほとんど言い値で買って頂けるようですし、相当な利益が上がると推測されます」


 この世の春とばかりに、手を取り合って喜ぶ3人。やがてひと息ついて落ち着くと、現実的な問題を考え始める。


「工場か……レンタル、は効率が悪いな。どっか工場買い取るしかねぇな。もしくはどっかにライセンス生産してもらうか?」


「そんな事したらせっかくの技術が持ってかれちゃうじゃない。ダメよ」


「しかし、どうでしょうか、ミス・マール。コピー品が出回る位であれば、いっそ早い段階で広めてしまうのも手と考えますが」


「あ~、構造自体は単純だもんなぁ……って、民間の方には広まらないんじゃねぇの? 飽和攻撃とか無理じゃね?」


 太朗の指摘に、鼻先で指を振って見せる小梅。


「技術というのは日進月歩で進むものですよ、ミスター・テイロー。BBマキナが非常に興味深い新型レールガンの開発に取り組んでいると、小梅は記憶しています。あれであれば、民間の需要にも対応できるものと愚行致します」


 小梅の指摘に、そういえばそんな報告が上がっていたかも、と冷や汗を流す太朗。彼は誤魔化すように勢いよく立ち上がると、早速開発部の実験場へと足を運ぶ事にした。




 太朗の出資により新たに建てられた、カツシカ工業ステーション。


 カツシカ第一ステーションの連棟として作られたこれは、お互いが一本の太いパイプのような通路で繋がっている。遠目に見ると持ち手が非常に細い鉄アレイのように見え、強強度炭素繊維ストレングスファイバーの強さを知らないものからすると、今にもぷっつりと千切れてしまいそうに見える。


 工業ステーションはその名の通り、各種工業モジュールを総合的に受け入れる為に作成されている。現在はまだ工事中であるにも関わらず、既に続々とモジュールがドッキングされ始めている。元々第一ステーション側に存在した工場は可能な限りこちらへ移転してもらい、太朗はその費用をライジングサンで負担する事にしている。これから肥大化していくステーションの行く末を考えると、住み分けは非常に大事だ。


「第4から第9区画まで、とりあえず稼働が開始したそうよ。第11から第16までは来月以降だけど、既にテナントは埋まったみたい。上々ね」


 手元の携帯端末を見ながら、マール。太朗は器用なもんだと感心しながらも、高速レーンの手すりへと必死にしがみつく。レーンが加速から減速へ転じる際の浮遊感は、今もなお慣れる事が無かった。


「うーん、ステーションつっても、今の所その影すらねぇな。俺には不格好なスクラップの塊にしか見えねえ」


 太朗の目に写っているのは、ハリネズミのように飛び出た支柱の山。いずれ他のモジュールドッキング型ステーションと同様に巨大な積立式建造物となるのだろうが、現状では気の狂った芸術家が作成した不思議なオブジェにしか見えない。


「どこのステーションも、最初はこんな感じのはずよ。私もステーション建造なんて初めてだから良くは知らないけど、少なくとも設計図通りにはなってるわ。ほら、ああやってどんどん大きくなってくのよ」


 マールの指差す先には、作業船に曳航されたブロック型モジュールが今まさに支柱へ固定されている所だった。手前にはモジュールの持ち主である会社の宇宙船と思われる船が浮かんでおり、作業をじっと見守っている。開け放たれたカーゴは全くの空で、それまでモジュールが積載されていたと推測できた。


「俺の部屋もああやってブロック単位になってるわけか……そりゃ引っ越しが楽なわけだぁね。ちなみに内側の方のブロックを取り出す時はどうすんの。パズルみたいに?」


「いや、そんなわけ無いでしょう……ちゃんと取り出し用の大型レーンがあるわ。大きな倉庫みたいな建造物でも必ず最小単位のブロックに分解できるようになってるから、大きさに関係無く搬出できるわね。それにあんたの部屋だけじゃなくて、ほとんどの建造物がそうよ」


「なるほどなぁ。んじゃ内側を拡張する時は? まわりのモジュールを買収するん?」


「そんなヤクザな事はしませんよ、ミスター・テイロー。方法は至ってシンプルです。内側に支柱を継ぎ足せば良いのです。区画ごと全てのモジュールが中央から外へ移動する事になりますが、気にする人はいないでしょう。構造体の継ぎ足し工事に費用がかかりますが、ご近所を買収するよりはずっと安く済むはずです」


 マールと小梅の説明に「良く考えられてんだなぁ」と感嘆の息を吐く太朗。彼は減速により逆転した加速度に促される形でゆっくりと体を回転させると、先程とは逆。つまり足を進行方向へ投げ出した格好になる。もちろんマールや小梅も、同様に。


「しかしそうなるとさ、ステーションってのはいくらでもデカく出来るのか?」


 小梅やマールの説明からすると、モジュールを次から次へ付け足す事で、ステーションは際限なく大きく出来るように太朗には思われた。そんな太朗に「いいえ」と小梅。


「ミスター・テイロー、陸上のビルと同じですよ。人や物が移動する以上、エレベーターに相当する交通機関が必要となります。高速移動レーンもそれに相当しますね。それらは巨大になるほど単位あたりの効率が悪化していく為、巨大なステーションを作れば交通機関だらけのステーションが出来上がるという事になります」


「そんな事をする位なら、新しいステーションを作った方がマシね。もしくは最初から巨大になるのを見越して、効率性の高い交通機関の設計を行うか。デルタや何かみたいに、帝国の中枢と関わってるような巨大ステーションはどこもそんな感じよ……っと、ついたわ。降りましょう」


 マールに従う形でレーンの手すりを離すと、浮遊感の残る体で脇へ延びる通路へと入る太朗。やがて現れた扉には「ライジングサン 機械開発部 BBマキナ」との表示があり、目的地に達した事がわかる。


「あぁ、社長。ようこそおいで下さいました。既に準備は出来ていますので、こちらへどうぞ」


 真新しい開発部オフィスで太朗達を出迎えたマキナが、何やら嬉しそうな顔で太朗達を促す。太朗はなんのこっちゃと思いながらも、恐らく小梅から事前連絡がいったのだろうと素直についていく事にする。


「新型のレールガンって聞いてるけど、わざわざ視察するって事はそういう事だよね?」


 太朗が、横を歩く小梅に尋ねる。小梅は目だけを彼に向けると、「えぇ、そういう事ですよ」と答える。


「いくらかの改良点があるというだけでは、わざわざ見に行こうなどとは要請しませんよ。ミスター・テイロー、どうやらあれのようですね」


 小梅の細い指先が指す先。強化アクリルの窓から見える射撃実験場からは、時折眩い光と共にプラズマ化した炎が吹き上がる姿が確認できた。ビームの射撃からは見られないそれにより、レールガンの射撃である事が判断出来た太朗は、さっそくBISHOPで開発部の統合データバンクへとアクセスを試みる。


「うおっ、まじで!?」


 データバンク内で随時更新されているテスト結果を見て、驚きの声を上げる太朗。そこには太朗の操作する弾頭に負けず劣らずのビーム回避運動を行う、レールガン弾頭の制御データが。


「これは革命が起き……ねぇな」


 一瞬、戦場の様相を一変させる実験が目の前で行われているものかと思った太朗だったが、実験場の様子を見てその考えを打ち消す。


 あまりにも、巨大な装置。


 ステーションのブロックを丸々使用してるのではと疑いたくなるような巨大な装置の傍では、8名程のスタッフが端末片手に作業を行っている。恐らく弾頭の制御を行っているのだろう彼らは、警備部から駆り出された新人の社員だろう。シワひとつ無い、真新しい深緑の制服。


「うーん。レールガン一機でこれじゃあ、さすがに船には積めねぇなぁ。あぁいや、無理すれば2機かそこらはいけるのかな?」


「それじゃあ他の装置が積めなくなるじゃない。戦艦サイズならともかく、巡洋艦程度じゃシールドも載せられなくなるわよ……というか、何をどうすればこんな巨大になるわけ?」


 マールのごもっともな疑問に、「恐らくBISHOP制御機構でしょう」と小梅。


「8名もの人数がリアルタイムでBISHOPを使用するとなると、船の中枢に匹敵するだけのBISHOP制御機構が必要となります。ミスター・テイローのように一人で分散処理するのであればどうという事もありませんが、人数が増えるとなると別です。入出力部分がボトルネックとなるでしょう」


 小梅の説明に、マキナが「はい、その通りです」と続ける。


「レールガン自体の大きさはどうという事も無いのですが、BISHOP制御まわりでご覧の有り様です。残念ですが、現状では使い勝手が良いとは言えませんね。しかし、全く使えないかと言えばそうでも無いかと思うのです。それどころか、我々はこれが主力商品になってもおかしくないと考えています」


 マキナの含みを持たせた言葉に、しばし思案する太朗。そして考えが正解と思われる点に至った時、彼は思わず飛び上がって叫んだ。


「あぁ、そういう事か!! 前言撤回!! これ、使える!! めっちゃ使えるわ!!」




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