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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第1章 ゴーストシップ
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第8話

新キャラ登場です。

 アルバステーションでも指折りの引き揚げ屋(サルベージャー)であるマールはその日、いつもより大きめの獲物に舌なめずりをしていた。


「今日は運がいいわね。きっと生きた回路がたんまり残ってるわ」


 彼女は赤い長髪をうっとおしげに振り払うと、広域スキャンで見つけた船舶の残骸へと船を寄せる。ほとんど至近と言っても良い距離まで近づくと、彼女はBISHOPを起動させて沈没船へと信号を送る。


「応答なし、と。船籍登録が無いって事は密輸船か何かかしら?」


 マールは5年ものサルベージャー生活の中で得た経験から、船籍登録の無いほとんどの船があまりまともな使い方をされていないという事を学んでいた。身元を証明する事が難しくなる上に、保険に入る事すらも出来ない。そんなリスクをおかしてでも船籍登録を行わないという事は、それを上回る利益が存在しているという事だ。それも、人に言えない類の。


「運んでるのが人間じゃなきゃいいんだけど……あら?」


 彼女は沈没船のまわりをぐるりと観察すると、違和感を感じて彼女の船ロックボーイをゆっくりと止める。なんだろうとしばらく考えた後、それが大抵の場合装備されているはずの物がその船に無いからだとわかった。


「武装してないの? もしかして先を越されたのかしら……」


 既に他のサルベージャーが引き上げを行った後だとすると、そこにはさして金目の物は残されていないだろう。見たところ沈没船は綺麗な形を保っているが、その中身となると怪しい。


「エンジンまわりはそっくり残ってるわね……武装専門のサルベージャーかしら。そんな報告は無かったはずだけど」


 彼女は再びBISHOPを起動させると、保存しておいたサルベージ許可証へと目を通す。宇宙ステーションの管理部から発行されるそれには、発見された船舶の情報。船舶に対する所有権について。払わなければならない税金等、多岐に渡る項目が記載されている。


「やっぱり無いわね。今時非武装船って……」


 マールは非常識な船舶の装備に呆れ顔を見せると、恐らく船団の輸送船か何かだろうとあたりを付ける。


「事故後に置いてかれたのね。かわいそうな船……でも大丈夫よ。あたしが有意義に再利用してあげるわ」


 口のなかで呟くようにしてそう言うと、船体のアームを動かすマール。彼女は沈没船をそのアームで固定し、船体から大きなレーダー装置を飛び出させる。


「パワースキャニング実行」


 パラボラアンテナの様な形状のレーダー装置から青い火花が飛び、沈没船のまわりを包み込む。マールの目の奥には装置から送られた沈没船の情報が次々と送られ、BISHOPの画面を情報の羅列が通り過ぎる。


「……なに……これ」


 マールは送られてきた情報を瞬時に読み取ると、その異様さに顔を顰める。


「からっぽ……いえ、違う! この船、ただのハリボテだわ!!」


 送られてきた情報はおおよそ船の機能として体を成していない、でたらめで不均一な情報。マールは嫌な予感を感じ、急いでレーダー装置とアームを収納し始める。


「広域スキャン!! 急いで!!」


 マールは叫ぶようにしてそう言うと、精度こそ低いが高速で実行できる広域スキャンを起動させる。やがてレーダースクリーンに表示された3つの光点に、どうやらまずい事になったようだと彼女は悟る。


「識別信号に応答無し。という事はワインド? ……そんな!! 撒き餌って事!?」


 急いでエンジンを起動させ、戦闘準備に取り掛かるマール。彼女は忙しくBISHOPを扱いながらも、不可解な状況に動揺を隠せないでいた。


「ワインドがそんな行動をするなんて聞いた事が無いわ……まさか新種? 帝国政府に報告するべきかしら……」


 一瞬、ステーションへの連絡回線を開こうとしたマールだが、その手を止める。今はそれどころでは無いし、言っても信じてもらえないだろうと判断したからだ。


「どう見てもオーバードライブは間に合いそうも無いわね……タレット起動、シールド展開。ターゲットは最接近脅威」


 ふたつの砲台(タレット)が船体から露出し、ぐるりと標的へ向けて旋回する。サルベージ船に積まれた砲台はさして強い火力では無いが、小型船相手であれば十分に効果がある。光点の加速具合から見て、相手は恐らく小型船だろうとマールは判断していた。

 その時、マールのBISHOP上に大きく「警告」の文字が表示される。


「オーバードライブの空間予約!! 敵の増援!?」


 マールはすぐさま予約に対する拒否の信号を送り、さらにワープジャミング(妨害)装置を起動させる。しかしいくらもしないうちに空間予約が固定され、その周囲から強力な斥力が発生される。


「なんなのよ、もうっ!!」


 マールは涙目になりながらも、射程距離に入ったワインドに対しての砲撃を開始する。幸運とするべきかそうで無いのか。発生した斥力が壁となり、3対1の形になる事は避けられた。


「ジャミングオフ!! 全バッテリーをシールドへ!!」


 こちらの砲撃から遅れる事数十秒。いよいよ敵の砲撃が開始され、青いブラスタービームの光が無数にあたりを照らし出す。初弾命中こそ避けたマールの船だったが、縮まる距離に比例して敵の攻撃は正確さを増していく。


「うぐっ!! やったわね!!」


 船を揺るがす振動。そして拡散するブラスターの光。

 忙しくビームを吐き出すロックボーイのタレットがようやく敵を捕え、続けざまに命中弾を吐き出す。


「お願い! もう少し持って!!」


 シールドバッテリーの残量がみるみる内に減って行き、BISHOP上に警告表示が瞬く。ロックボーイのシールドが底を突くのと、ようやく敵の一体が火を噴くのが丁度同じタイミングとなった。


「きゃあああ!!」


 続いて起こった爆発に叫び声を上げるマール。彼女は泣き出しそうになる気持ちを押さえ、急いでBISHOPでロックボーイの点検を始める。


 ――"空間予約解除 対象物がドライブを終了しました"――


 点検中に表示されたアラートに、急いで顔を上げる。モニターにはワープドライブによって現れた巨大な船が表示され、凄まじい速度でこちらへ向かって移動しているのが確認できる。


「な、何? 貨物船? もしかして助けが来たの?」


 彼女の目に映ったのは、角ばった無骨なデザインの船。てっきりワインドの増援かと思っていた彼女は、現れるのをワインド特有のカオスなデザインの船だと想像していた。裏切られたという感覚があるが、それは悪い気分では無かった。


「あっちは任せていいって事……よね? 目標変更、ターゲットを遠距離へ!」


 貨物船と思われる船が進路を変える事無く直進しているのを見やり、恐らく予定進路上にいるワインドを受け持ってくれるものと予想したマール。彼女は度重なる被弾によって傷つけられていくロックボーイの装甲を気にしつつ、攻撃を別の一体に集中する。


「頑張ってロッキー!! あなたならやれるわ!! ……って、ちょ、ちょっと。何考えてんのあいつ!!」


 マールはちらりと見えた貨物船の噴射を目にすると、その行動に目を見開く。貨物船は速度を落とす事無く直進を続けており、姿勢制御によって完全に敵との衝突進路へ移動したのだ。


「あの速度でぶつかったらタダじゃすまないわよ!?」


 ブラスターによる攻撃と違い、物理的な衝突においてシールドはほとんど何の役にも立たない。質量差から間違いなくワインドは粉砕されるだろうが、貨物船の方もただではすまないだろう。

 あっという間に距離を詰める貨物船。来たる破壊に備えてぎゅっと目を瞑るマール。


「……なにそれ」


 恐る恐る目を開いたマールに見えたのは、何事も無かったかのように直進を続ける貨物船の姿。馬鹿馬鹿しいまでに頑強なその装甲に呆れた声を発すると、意識を残った1隻のワインドへと向ける。


「こっちはいけそうね……はぁ……助かった……」


 最後のワインドが大きく火を噴くのを確認すると、だらりと四肢を投げ出すマール。サルベージ稼業に危険は付き物だが、二度とこんな思いはしたくないと彼女は強く思った。




「い、いでぇ……くそ、折れてねえだろなこれ」


 太朗は痛む体を抱え込むと、太朗自身と同じようにすっ飛んできた様々な品物をかき分け始める。


「小梅! どこだ! 見つけ……これは違うか。後で使うかもしれないからとっとこう……あぁ、いたいた。小梅、大丈夫か?」


 太朗は残骸の中から小梅を見つけ出すと、ひっかかっていた食べ残しのスパゲティを払いのける。


「えぇ、大丈夫ですよミスター・テイロー。しかし形状が似ているからといって自慰用製品と間違えられるのは非常に心外です。謝罪と賠償を要求します」


「あぁ、それは後でいくらでもしてやるから。それより船はどうなった? 穴が空いたりとかしてねぇか?」


 太朗は小梅を再びディスプレイへと運び、飛び出たケーブルをジャックに差し込む。いくらもしないうちに船外モニターが映し出され、衝突箇所がクローズアップされる。


「……いや、ちょっとへこんでるだけって、この船何で出来てんだよ。時速数百キロは出てたんだぞ?」


 船体にこびりついた残骸と、いくらかへこんだ外装部に呆れた声を出す太朗。小梅は太朗の手の上でランプを明滅させる。


「数百どころではありませんよミスター・テイロー。相対速度で時速2324kmです。丈夫な船で助かりましたね。出来れば事前に相談して欲しかった所ですが」


 小梅の注文に「わりぃ」と手を縦に切る太朗。彼はディスプレイ表示を切り替えると、今だ戦い続けるオンボロ船を映し出す。


「おおっ、向こうもカタが付きそうだな。つか大丈夫なのかあれ。めちゃくちゃ焼けてんじゃねえか」


 ワインドの攻撃によって所々赤く焼け焦げた船体。場所によっては何らかのガスに引火したのだろう。激しく噴出す炎が見て取れる。


「わかりませんがミスター・テイロー。外線が入っています。お取りになりますか?」


 小梅の声に、しばらく意味が理解できずに固まる太朗。彼はその言葉の意味が頭に染み込むと、「うわああ!!」と奇声を発する。


「外線!! で、電話って事か!? つ、繋いでくれ。頼む!!」


 無言で明滅を繰り返す小梅。しばらくすると、小梅の物とは明らかに違う女性の声が球体のボディから発せられる。


「こちら宇宙船ロックボーイ。登録番号IB-4980。貴船の助力に感謝し――」


「た、助けてくれ!! エンジンが無いんだ! このままだと宇宙の塵になっちまう!!」


「……はぁ? こっちはそっちのワープドライブを確認してるわよ。どういう事?」


 怪訝そうな女性の声にしまったと思う太朗だが、宇宙船の進路がこちらへ向いた事に安堵を覚える。


「あぁ、助かった……いや、詳しい事は後で話す。とにかく助けて欲しいんだ……」


 太朗はなんとかそれだけを言うと、力なくその場にへたり込む。

 彼の手はあまりの興奮に、小さく震えていた。




初めて描く第三者視点。なるほど自由度が広がるなぁと感心です。

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