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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第6章 アライアンス
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第79話

 鼻息荒く、まくし立てるように喋るアラン。太朗は彼へ落ち着くように促すと、詳しい話を聞かせてくれと頼む。アランはしばらく肩で息をしていたが、ひとつ深呼吸をすると、落ち着いた様子で話し始める。


「7年かそこら前の話だ。お前は当然知らんだろうし、一般にも知られていない話か……帝国、というよりは軍の一部か。詳しい部分は伏せるが、軍組織のひとつがアウトサイダーを根絶やしにしようとした事がある」


 アランの言葉に、険しい表情を向ける面々。太朗も彼らと同様に、先日会った少女。すなわちレイラを思い出しながら眉間にしわを寄せる。


「根絶やしって……穏やかじゃない、なんてもんじゃねぇぞ。また、なんでそんな?」


 太朗の質問に、自らの頭をとんとんと叩くアラン。彼は「BISHOPだ」と発すると、続ける。


「アウトサイダーはBISHOPを使えない。それは知ってるな? 残念な事に、そいつは遺伝するんだ。そして差別主義者の地方担当官がその事に目をつけた。このままではBISHOPを使えない人間が増えてしまうのでは無いか、ってな」


 アランの言葉に、「そんなのおかしいわ」とマール。


「アウトサイダーの割合が増えてる、なんて話。今まで聞いた事が無いわよ? それに、本当はこんな事言ってはいけないんでしょうけど……一般の帝国市民は、あまり彼らに近づこうとは思わないんじゃないかしら」


 いくらか困ったような表情でそう言うマールに、アランがこくりと頷く。


「全く、根も葉もない話だ。数千年間も起こらなかった事を、今この時に心配する理由など何も無い。マールの言う通り、彼らの出生率が上がるそぶりを見せた事も無いしな。それが良い悪いは別としてだ」


 アランはテーブル上のコップを手にすると、ひと口喉を潤してから続ける。


「ここで重要なのは、それが決定されたという事だ。何故そうなったかは知らんし、どうでも良かったのかもしれんな……そしてあの日、"俺達"はそこへ向い、任務を実行しようとした」


「……俺達?」


「あぁ、そうだ……俺達、だ。いつか話した事があったろう、俺は陸戦にいたんだ」


 真っ直ぐに、太朗の目を見つめてくるアラン。いつもと変わらない鋭い目が、太朗には少し物悲しげに見えた。


「何故そんな事をしなきゃならんのか、自分たちが今何をしてるのか。それを知ったのはずっと後の事だな……まぁ、もっとも。それを知る事が出来たのは、極少ない数の人間だけだったが」


 思い出すような表情のアラン。彼はゴンの「機密扱いされたのか?」という言葉に、ゆっくりと首を振る。


「違う。3人を除き、全員が死んだからだ。生き残りは俺と、ディーンと、もうひとり。信じられるか? ステーションへ乗り込んだ2200名が、たった数名のゲリラ相手に全滅したんだ。あいつと、少数の現地部隊相手にな。それが原因で俺は陸戦を離れる事になったし、作戦を作った担当官は自殺……本当の所どうなのか知らんが、まぁそんな結末だ。今じゃ誰もその話を蒸し返そうとしないし、無かった事になってる」


「2千て……そのあいつってのが、さっき言ってたファントムって人?」


「そうだ。その後も各地で陸戦から艦隊戦まで色々とやらかしたが、帝国はいいようにあしらわれたよ。大艦隊を送り込めばどうとでもなったろうが、帝国はもみ消す方を選んだみたいだな。理由はわからんが、あまり大事にしたく無かったんだろう。褒められた行動じゃないしな……その後あいつは5年に渡って賞金リストのトップを飾ってたが、ある日ぱったりと無くなった。丁度その担当官が死んだあたりだったか」


「いや、明らかに殺されてるよねそれ」


 太朗のじと目での突っ込みに、肩を竦めて見せるアラン。


「真相はどうだかは知らんが、何か秘密裏に事が運んだんだろう。たったひとりの人間に500億クレジットの賞金がかかってた上に、それが急に無くなったんだからな。ハンターの間じゃあ有名な話なんじゃないか?」


 アランの向けた視線に、ゴンが頷きながら答える。


「あぁ、有名な話だな。誰も目撃した事が無いもんで、本当に実在する人物なのか疑われてた。そのせいで、ついたあだ名がファントム(亡霊)だ……そうか。本当にいたんだな」


 何か、思い出すような表情のゴン。太朗はそのファントムという男の能力と500億という賞金に驚きつつも、自分が遭遇したのはそんな恐ろしい男だったのかと今更ながらに震えだす。


「まるで化け物やね……ちなみに。ちなみにだけど、この流れでその事を思い出したって事は、もしかして?」


 下から、伺うようにアランの顔を見る太朗。アランは太朗へ向けて、笑っているのか困っているのか。なんとも言えない笑みを見せる。


特殊部隊(コマンド)は現地勢力と合流し、戦い方を教え、指導し、短期間で第一線級の軍事力を育て上げる戦いのプロだ。陸戦はもちろんの事、艦隊指揮から軍艦の知識まで全て叩き込まれている。例の脅しの件もある、一度連絡を取ってみたらどうだ?」


 アランの提案に、侃々諤々の反対意見が次々と持ち上がった。




「でもまぁ、それでも来ちゃう所がテイローちゃんクオリティ。てへっ」


 舌を出し、片目をつぶって見せる太朗。そんな様子を見て、呆れた表情のアラン。


「お前のその軽さには度々救われてるが、今回ばかりは気休めにしかならんな。自分で促しておきながらなんだが、正直なところ漏らしそうだ」


 アランの冗談ともとれる発言に、親指を立ててみせる太朗。


「大丈夫。俺も既にもらしそうだし……でもまぁ、いきなり殺されるって事も無いっしょ。向こうにメリット無いし」


 太朗の言葉に、「それはそうだが」と相変わらず冴えない表情のアラン。


「でもまぁ、部隊が全滅じゃあトラウマにもなるか……ゴンさん達に任せて、アランは戻っててもいいぜ?」


「いや、言いだしっぺが行かないでどうする。格好が付かんだろう」


「そりゃまぁそうかもだけど……右手と右足が同時に出てるぜ?」


 太朗の指摘に、慌てて体の動きを確認するアラン。そんな慌てた様子のアランを見て、珍しい姿だと笑い声を上げる太朗。


「くそっ、騙しやがったな……軍で最初に習うのは歩き方だ。間違えるわけが無いんだ……」


 ぶつぶつと呟くアラン。太朗はこりゃだめだと肩を竦めると、この日の為に用意した手元の小さな装置へと視線を落とす。


「一応、おみやげも用意したしな……喜ばれるかわからんけど、無碍にはしないっしょ……いや、どうだろ。しないといいな」


 徐々に不安になってきた太郎。彼はアランと同じようにぶつぶつと呟きだすと、後ろへ続く4匹の猫と共に待ち合わせ場所である公園へと急ぐ事にした。



 カツシカステーションに存在する、天然自然公園。どこが天然なのかと太朗が突っ込む、完全に人工管理された自然豊かな公園。地面は他の惑星から運ばれた土と芝生で覆われており、広葉樹がそこら中に植えられている。

 広さ的にはせいぜいが300メートル四方といった所だが、全ての壁にスクリーンとしてリアルな遠景が映し出されている為、体感としてはずっと広く感じる。


「カップルを見るとこう、邪魔したくなるのは独身のサガなのかね」


 公園で自然を楽しむ、複数のカップルや家族連れ。楽しそうに戯れる彼らを見ながらそう呟く太朗に、「どうでもいい」と取り合わないアラン。


「いいかテイロー、何かあったら全力で逃げろ。戦う事など考えるなよ?」


「あぁ、いや、うん。それはいいけど、逃げ切れるもんなの?」


「……無理だな。やっぱりやめよう、俺ひとりで行く。お前は引き返せ」


「いやいやいや、ここまで来てそれは無いっしょ。なぁ、大丈夫だって。やるつもりなら、この前そうしてるって……あぁ、あそこだな。いたいた。おーい!!」


 公園のベンチに座る、見覚えのある少女の姿。慌てて静止するアランを捨て置き、手を振りながら走り寄る太朗。向こうも太朗に気付いたようで、座ったままゆっくりと手を振り返して来る。


「や、久しぶり。この前はその、ごめんね。その後端末に異常は無い?」


 太朗の声に、手元の端末のディスプレイを掲げて見せるレイラ。様々なボタンの立ち並ぶ画面に、端末が正常に動作している事を示していた。


「******」


 太朗の後方を指差し、謎の言語で喋りかけてくるレイラ。太朗にその意味はわからなかったが、こちらへ歩み寄ったキャッツの事を言っているのだろうと推測した。


「あ、うちの社員のみなさんです。こっちから、アランに、ゴンさんに、チャーにユキにタイキ。ここだけの話、あんな可愛い見た目だけどすっごい優秀なんだぜ」


 少女に顔を寄せ、ひそひそと話す太朗。キャッツのメンバーは、可愛いといわれるといくらか気分を害する。


「どうも、紹介に預かったアランだ。よろしく頼むよ、お嬢さん……ちなみに、君の兄上はもう来ているのかな?」


 その口調とは裏腹に、鋭い目つきのアラン。少女は一瞬気圧されたように後ろへ引くが、無言でアランの奥を指差す。


「……来てるなら来てるで、ひと言声をかけてくれてもいいんじゃないか?」


 ゆっくりと、両手を上にあげるアラン。その後ろには、無言で立ち尽くすローブ姿の男。キャッツの面々が弾かれたようにその場で姿勢を低くし、身構える。


「はい、待った待った!! 大丈夫、大丈夫だから!!」


 そんな様子に、慌てて間へ入る太朗。男はゆっくりとした動作でアランの両手を下へ下ろすと、「争う気は無いよ」と太朗の下へと歩み寄る。太朗は差し出された手を取ると、相手の目を見て力強く握手を交わす。


「今日はわざわざ来てもらって、ありがとうございます。心配性な部下がこうして付いて来ていますが、悪気があっての事じゃないんです。ひとりで行くって言ったんですけど、どうしてもって言うんで」


 「わかりますよね?」といった様子で肩を竦める太朗に、にこりと笑顔を見せる男。彼は気にする風でも無くアラン達の方へ視線を走らせると、こくりと一度頷く。


「それだけ、君に人望があるという事さ。気にしていないし、気にしないでくれて構わない。ちなみに狙撃兵を配置するのであれば、もう少し今時の格好をさせるべきだ。ちょいとセンスが古いんじゃあないかな」


 男の声に、きっとアランの方へ視線を向ける太朗。アランはいくらか困った様子を見せるが、渋々といった様子で端末へと手を伸ばす。


「全員、配置を解け。入り口で待機するように」


 アランの声に、にこりとした笑みを見せる男。彼は公園の奥へ手をあおぐと、「話し合いには不釣合いな場所だ」と発し、ゆっくりと歩き始める。


 太朗達はお互い視線を交わすと、無言で彼の後を追い始めた。




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