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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第5章 アウタースペース
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第74話



「あぁ、責任が無いって素晴らしいなぁ」


 工場に響く、すがすがしさに溢れた声。太朗はずっこけそうになり、慌ててたたらを踏む。マールが呆れた様子で声の主の方へと視線を向け、倒れそうになった太朗を支える。


「なんか、ろくでも無い事言ってるわね。マキナさん」


「よっぽど重圧だったんかね……や、今だって責任はあるし、むしろ増えてんだけどな」


 ライジングサン開発部として生まれ変わった、BBマキナ。部長としてマキナ氏を据え、BB電子の代表は副部長という形となっていた。いつか電子部や生産部といった形に分かれた場合、それぞれが部長となる事だろう。

 現在は開発部だけで120人近い人員となり、警備部の設備開発を中心とした生産開発を一通り行えるようになって来ていた。しかし当然ながら一社だけで全てを作ろうなどという愚を侵すつもりは太朗達には無く、現在はワープスタビライザーのライセンス生産を主軸として行っている。


「しかし、良く許可が下りたわね。ハイテック社のワープスタビライザーって、結構な有名どころよ?」


 コンベア上を移動する、ワープ装置の部材を見ながらマール。灰色を基調とした雑多な装置の並ぶBBマキナの生産工場は、太朗の良く知る地球の車生産工場と良く似ていた。

 異なっている点といえば多くの機械装置が外皮で覆われており、剥き出しの機械部分がほとんど見えない点だろう。これは扱うのが精密機械であり、埃が天敵となるからだ。パルスチップ制作のように、より精密な真空に近い宇宙空間で作業を行う為のブロックモジュールも存在する。


「代わりに大金と新航路の通過権を要求されたけどな。航路に関しては今の所空きがあるんで、正直無料で使ってもらっても良かったんだけど……まぁ、それはそれ。これはこれってね。ぶっちゃけおいしいです。うひひ」


 揉み手をしながら、不気味にほくそ笑む太朗。マールはそんな太朗に気味悪そうな視線を向けると、腰に手を当て「あんまりあくどいのは無しよ?」と溜息を付く。


「いやいや、向こうは向こうでシメシメって思ってるさ。最新のモデルを発売する予定だって言ってたし、いくらもしない内に型落ちになるんじゃないかな。こっちとしてはそれで十分だし、向こうだって満足してるはずだぜ」


 太朗の説明に、「そう」とマール。


「お互い様なら構わないけどね。最初の設備投資にびっくりする位のお金がかかったけど、これならそう遠く無いうちに元が取れそうね」


「なんだかんだ売上は好調だしな……まさかアレがヒットするとは思わなかったけど」


 太朗は横目にちらりと、箱積みされた新商品へと目を向ける。

 その"RS_BBマキナ"と刻印された正真正銘ライジングサンの新商品は、太朗の弾頭制御技術の開発と経験を元に開発された、現在のライジングサンの主力商品である。売上の3割程を占める程の売れ行きを示しており、現在はワープスタビライザーに負けず劣らずの勢いで工場の生産ラインを稼働させていた。


「社長推薦。眠れない夜に実弾兵器……なにこれ。あんた推薦したの?」


「してねぇよ!! 何が繊細な制御が可能です、だ。むしろ繊細な俺の心が折れそうだよ。会う人会う人"あぁ、あの商品の"みたいになったらどうすんだ。つうか、正真正銘大人のおもちゃメーカーになっちまったじゃねぇかよ」


「いや、あたしに言われても知らないわよ……それにゴーサイン出したのあんたでしょ?」


「うぐぐ……ま、まぁ。実験室でこれの並列稼働したら思ったよりおもしろくてさ。俺この電動こけし122本同時に動かせるんだぜ。なんか凄くね? はじめて自分がキモいと思ったわ。床中をうねうねと転げまわる大量のこけし。まさに地獄絵図」


「そんな所でギフトを活用してどうすんのよ……ねぇ小梅。なんか言ってやって頂戴」


 マールの声に、それまで興味深そうにロボットアームを見ていた小梅が振り返る。


「えぇ、そうですね、ミス・マール。小梅には4本同時が限界でした。しかし残念な事に、小梅にはひとつしか――」


「はいはい!! そこまで!! それ以上は訴えるわよアンタら!!」


 小梅の口をふさぎ、大声で怒鳴るマール。まわりにいた作業員らが何事かとこちらを伺い、視線を向けて来る。


「あ、あぁ、ごめんなさい。何でもないから続けて頂戴……ほら、行くわよテイロー」


 真っ赤な顔で、俯きながらマール。

 太朗はマールに押されるがままに工場を出ると、そのままプラムを係留してある桟橋へ向かう事にした。研究ステーションは居住ステーションと離れている為、行き来には宇宙船が必要になる。



 もう何度目になるかわからないゲートパス関数の起動を行うと、特に感慨も無く管制室へと向かう。ここは既に彼らの家であり、新鮮味こそ失われたが、まさに帰ってくるべき場所であった。


「おし、ほんじゃちゃちゃっとアルファに行きますか……ん、なんだらほい」


 プラムのシートに収まった太朗は、いくつかのメール通信が届いている事に気付く。どれも高度に暗号化されていた為、重要案件が含まれているのだろう事がわかった。


「ひとつはベラさんからか……お、戦果報告書やね。どらどら……うわ、相変わらず暴れてるなぁ。ワインド撃墜数が100を超えたってさ。第二艦隊働きすぎじゃね?」


 太朗の声に、肩を竦めるマール。


「私はこの帝国全土にいったいどれだけのワインドがいるのか、っていう方に驚きだわ。今まであまり考えてなかったけど、絶対億はいるわよね……小梅、その辺わかる?」


「否定です、ミス・マール。申し訳ありませんが、データバンクに記載がありません。恐らく秘匿情報かと」


「んー、わかんねぇな。公表したらパニックになるレベルって事か? や、でもそうなったらもっと帝国軍が動いてるだろうしなぁ。最悪なのは把握しきれてねぇってトコか?」


 太朗の疑問に、「さすがにそれは無いんじゃない?」とマール。


「報奨金の支払いや分布から、統計学的にある程度正確な数が出せるはずよ。少なくとも、人類と接触のあるワインドの数なら」


 まあそうだろうなと、腕を組む太朗。

 3人はしばらくああでもないこうでもないと話し合いを続けたが、ここで結論が出る話題でも無いので、やがて取り止めた。太朗は他にも来ていた暗号通信にざっと目を通すと、その内のひとつに見間違いだろうかと目を止める。


「……これは、リンから……じゃない。EAPアライアンスからか。今まで色々ぶったまげたけど、これは別格だな」


 どうしたもんかと、シートを深く倒して考え込む太朗。マールが何事かと心配そうに視線を寄越し、太朗の傍へ歩み寄る。太朗はマールの「翻訳お願いしていい?」という言葉に従い、銀河標準語化した暗号通信の内容を手元の端末に表示させる。


「えぇと……カツシカ星系支配権の……割譲!?」


 驚きの声を上げるマール。そりゃ驚くわな、と自らも通信をもう一度確認する太朗。


「解読は間違ってねぇな。先の戦争での報奨扱いって事か……なぁ小梅。これどう思う?」


 太朗の指名を受け、視線を向けてくる小梅。彼女はいくらか考え込んだ様子を見せた後、口を開く。


「考えられる可能性はいくつかありますが、恐らく是が非でも我々を"巻き込みたい"のでしょう、ミスター・テイロー。カツシカは対ワインドの最前線となりますし、そこの権利を得れば我々にはそこを守り抜く責任が生じます」


 小梅の説明に、そうだろうなと頷く太朗。


「まぁ、やっぱそんなトコだよな……でも、現状では帝国との主要経路なわけだろ? カツシカ、デルタ間交易は。ぽんっとあげちまっていい様なもんなのか?」


「どうでしょうね、ミスター・テイロー。EAPの規模からすれば、カツシカひとつを失ってもさして痛く無いだろう事は確かです。仰るように主要航路が存在する事が一番の問題ですが、そこは信用されたと捉えるしか無いでしょうね。それに、航路の権益は保持したままなのでしょう?」


 小梅の質問に、もう一度電文の内容を確認する太朗。


「……あぁ、なるほど。確かに航路の権利についての譲渡はねぇな。向こうとしては管理の手間が省けるってのもあるのか。そんでも、収入はしっかり得られると?」


 太朗の呟くような声に「きっとそれもあるわね」とマール。


「最近、カツシカでの私達の人気って凄いのよ。航路権益で好景気だし、目の前でワインド達と戦ってるのも私達だから。市民側から譲渡の要求や何かが出る前に、先手を打ったってのもあるかもしれないわ」


「御明察ですね、ミス・マール。それであれば体裁を保ったまま、こちらへ恩を売る形となります。手綱さえ握っていれば、EAP側に失うものはあまりありませんね」


「うーん。なんかもう、政治って感じだな。俺には荷が重い気がするなぁ」


 両手を挙げ、降参のポーズをとる太朗。そこへ「別に難しい話でも無いじゃない」とマール。


「まぁ、あんたは今まで通りにやればいいのよ。小難しい事は考えなくてもね。それがあんたのいい所なんだし」


 マールの言葉に「それって褒めてるんすかね?」と苦笑いの太朗。


「いずれにせよ星系の管理を行うわけですから、早いうちにミス・ベラに教授を願った方が良いでしょう、ミスター・テイロー。彼女は星系管理のノウハウに長けています」


「そうやね。管理つったって、ぶっちゃけ何すりゃいいのかさっぱりわからねぇしな」


 のほほんとした声で、太朗。そんな彼へ、小梅がにやりとした笑みを向ける。


「大した事はありませんよ、ミスター・テイロー。せいぜい数百万の市民の生活と生命を守るだけといった所です」


 まるで取るに足らない事だとでも言いたげな、さらりとした口調の小梅。「いやいや、半端ねぇだろそれ」と突っ込む太朗に、小梅がさらに続ける。


「そうでしょうか、ミスター・テイロー。銀河系には60兆の人間がおり、その内の約2000万分の1に過ぎません。そして銀河には2000億の星系があり、帝国の影響圏だけでも100億を超えています。気楽に行きましょう、ミスター・テイロー。銀河は広く、我々はちっぽけです」




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