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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第5章 アウタースペース
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第73話


「おい、どこ向かってやがる!! 直進しちまってるぞ!!」


 通信機から聞こえる、タイキの怒鳴り声。太朗は慌ててBISHOP上の小型艦艇制御関数へアクセスすると、その機動を修正する。


「社長さん、今度はこっちのがおかしい動きをしてるよ」


 のほほんと、若造ことチャーの声。


「のあああ!!! 無理、無理ぃ!! これ、思ったよりかなりきついっす!!」


 叫び声を上げ、座り慣れたシートから崩れ落ちる太朗。脳を酷使しすぎた疲れから、肩で荒く息をする。


  ――"戦術シミュレータ 終了"――


 BISHOP上に、模擬戦プログラムが終了した旨の表示が流れる。今まで誰も座る事の無かった管制室の余分なシートから、太朗と同様にシミュレーターを操作していたキャッツ達が下りてくる。


「ダメだな。単純な動作を行う分には問題無さそうだが、判断が必要となる行動についていけてないようだ。実際どうなんだ。処理速度的には問題無さそうなんだが」


 ぐぐっと、その場で伸びをするリーダーのゴン。マールが彼の視線を受け、答える。


「普段の許容量からすれば、20隻かそこらの操作なんて余裕がありすぎる位だと思うわ。問題はゴンの言った通り、考える必要がある行動ね。ただ敵のビームを避けるのとはわけが違うでしょうから」


 マールの指摘に、「全くその通りっす」と太朗。


「ひとつふたつならいいんだけど、高度な判断が大量にあるのは無理だな。単純作業の並列計算とは、それこそ全く別物やね。ぶっちゃけ数だけなら全然余裕なんだけど……どうすっかな。アテがはずれちまった」


 太朗はシミュレーションで得られた結果をそう要約すると、その場でごろりと仰向けになる。そんな太朗の傍へユキが歩み寄り、肩あたりに寄りかかるようにして丸くなる。


「可愛いぜちくしょう……なぁじいさん。なんかいい案ないかな」


 太朗の声に、片目を上げて見せるユキ。


「年寄りに新しい発想を期待しても駄目さ。なぁ若造、お前さんならどうする?」


 ユキの指名を受け、「若造って言うな」とチャー。彼は太朗の胸の上に飛び乗ると、済ました様子で太朗の顔を覗き込む。


「要は、単純作業なら問題無いんでしょ? だったら、単純化すればいいんじゃないかな」


「いやいや、それが出来れば苦労しないっしょ。つか重いよチャーたん」


「うーん、そうかな。テイローの並列処理能力は間違い無いわけだから、問題は高度な判断を要する所だけでしょ? 判断は俺達が行って、テイローはあくまで中継に専念すればいいんじゃない?」


「なるほど……だけどそうなると、通信量とか計算量が莫大にならねぇか?」


 太朗の懸念に、タイキを腕に抱いた小梅が答える。


「小隊管理専用の関数を作成してみはどうでしょうか、ミスター・テイロー」


 小梅の提案に「ふむ」と鼻を鳴らす太朗。彼は上に乗っていたチャーをそっと床へ下ろすと、上半身を起こして腕を組む。


「ある程度決まりきった制御をひとまとめにしておき、事前に通信を単純化しておきます。1であれば軌道制御。2であれば攻撃、といったようにです。普段船体制御に使用している戦術プログラムを自作するという事ですね」


 小梅の続けられる説明に「ちょっと待った」とタイキ。


「それだと取りうる行動の範囲が限定される。予想外の事態に全く対処が出来ないってんじゃ、欠陥もいいとこだぞ?」


 タイキの指摘に「それなら大丈夫でしょう、ミスター・タイキ」と小梅。


「ミスター・テイローは、必要であればその場で修正プログラムを組む事が可能なはずです。以前、土壇場で着艦プログラムをその場で作成していた事もありますし」


 小梅の答えに、苦笑いを浮かべる一同。


「なんだそりゃ。船舶制御プログラムの会社が潰れちまうぞ……それよりどうなんだ、社長。小梅嬢の言う通り、やれそうなのか?」


 首を傾げたゴンの姿に、「そういう形なら、たぶん」と太朗。彼はさっそく思い付いたいくつかの関数制御を思い浮かべると、シートへ飛び乗る。


「要するに、ゴンさん達が随伴機を自由に動かせるよう、俺をバイパスにして制御するって話だよな……よし、簡単なやつから試してみよう。ちょっと待ってね」


「ちょっとって、まさか今から組むのか?」


「よし、出来た」


「……いやいや、冗談だろ?」


 呆気にとられた様子のキャッツの面々。彼らは各々シートへ移動すると、BISHOPへのアクセスを開始する。


「こいつは驚いたな。社長、あんた職業を間違えたんじゃないか?」


 ゴンの言葉に、笑って首を振る太朗。


「いやいや、深い部分や細かいトコまでは無理っす。あくまで試験的に使える程度ってね。後でアランやマールと詰めてけば、そこそこ使えるのになるかもしれないけど」


 太朗は自作した関数群をシミュレータ側に組み込むと、キャッツ達に簡単な操作方法と共に送信する。


「さて、ほいじゃもういっちょテストいってみましょー」


 太朗の合図と共に、再び開始される模擬戦プログラム。

 太朗達は新しいプログラムを元に戦闘を開始し、それはなかなかに手応えのある結果を残す事となった。




「はぁ、プログラムのハード側での制御ですか? いや、ちょっと難しいですね」


 アルファ研究ステーションにドッキングされたライジングサンの実験室にて、腕を組んで難しい顔をするRSマキナの社長。

 この施設はかつてデルタにあったものをそのまま運んできたもので、今後の活動の中心となるアルファでの稼働が始まっていた。デルタは人も船も多い為、あまり大規模な実験や研究に強い規制がかかる。その点アルファは、緩やかだった。


「うーん、技術的な問題っすかね? 資金ならある程度目途が付いてるんだけど」


 太朗の質問に、まさかといった様子で首を振るマキナ。


「いえ、可能であれば意地でも作りますよ。ですがこれは、完全に畑違いです。我々は機械制御は出来ますが、電子制御まではとても」


「あ~、そういう事か。部品があれば何でも作れるけど、部品そのものは難しい的な?」


「はい。といっても、あくまで"電子部品に関しては"ですが」


 職人としての誇りからだろうか、いくらかむっとした様子のマキナ社長。太朗は「もちろんわかってますって」と取り繕いながら、続ける。


「ちなみに電子部品の制作会社で、何かツテがあったりしないかな?」


「大きな企業の方がよろしいですか?」


「いや、小さくても全然OK。むしろあんまり大きすぎる所は困るかな」


「はぁ……わかりました。少々お待ちを」


 そう言って背を向けると、奥のオフィスへと消えていくマキナの社長。手持無沙汰になった太朗は、何の気なしに傍にあった三次元造形機へと目を向ける。


「すげぇなぁ……これがあれば、後は3Dの設計図だけで部品が出来上がるんだろ?」


 箱型の装置の中で、掘削され、レーザーで焼かれ、次第に形を整えていく何かの金属部品。その曲線が多様された複雑な形状は、とても人間の手で作りたいと思えるような造形では無かった。可能不可能を問われれば、可能ではあるかもしれないが。


「そうなりますね、ミスター・テイロー。装置にもよりますが、基本的にはほとんどの金属部品をこういった形で造形する事が可能です。金型や紙の設計図という時代は、残念ながら終わりを迎えましたね。大型機械部品しかり、美少女フィギュアしかりです」


 太朗の言葉に、今まで無言で後ろへ控えていた小梅が答える。太朗はそれに「フィギュアは手造形がいいなぁ」と発すると、完成して装置から運び出された部品をつまみ上げる。


「うーん、素人目に見ても完璧な仕上がり。しかし何の部品なんだろうな、これ」


 直径10センチ程の、何かの部品。いったい何だろうかと首を傾げていたそこへ、マキナの社長が戻ってくる。


「こちら、普段電子部品の購入を行ってるコープ、BB電子の連絡先です。どうぞ」


 そう言って、小さなチップを差し出して来るマキナ社長。太朗はそれを受け取ると、さっそく連絡を付けるべく部屋の隅へと向かった。



 おもちゃをもらった子供のように、チップを手に走り去る太朗。マキナ社長はそれを温かい目で見送ると、社長が手にしていた機械部品をコンベアへと乗せる。


「プレジデント・マキナ。ミスター・テイローが気にしていましたが、そちらの部品は何に使用されるものですか?」


 小梅の声に、「あぁ」と顔を上げるマキナ社長。


「マキナで結構ですよ。何代か前に苗字を社名に合わせて変えましてね。これは……えぇと、その。あまり女性に堂々と話すような代物じゃあありませんので。うちの会社で頻繁に運搬してる様な、いわゆる、そういう物です。社外からの発注が偏ってまして」


 しどろもどろになりながら、ごまかすように発するマキナ。小梅はコンベアを流れていく部品へちらりと目をやると、「なるほど」と澄ました様な顔で頷く。


「ご存じでしょうが、内部にまわる弾頭や何かを除くとあまり売上が芳しくなくて……まぁ、どういった形でも仕事があるのは良い事なのですが」


 溜息と共に、マキナ。小梅は無感情な目でマキナの事を見つめて来ていたが、やおら口に手をあてて振り返る。


「ミスター・テイロー、BISHOP連動式の電動こけしだそうですよ。おひとつ試作品を頂いてみてはどうですか?」


 大きな声で、オフィスの向こうへと声を上げる小梅。しばらくすると太朗が小走りに現れ、「そいつは熱いアイテムやね!!」と力強く発する。


「問題は使う相手がいねぇって事か……くそっ、死にてぇ。あぁ、そうそう。向こうの社長さんOKだってさ。しばらくしたらこっちに来ると思う」


 のほほんとそう発する太朗に、不可解な視線を向けるマキナ。


「えぇと、どういう事でしょうか。打ち合わせでも行われる予定で?」


「いんや、もう一緒に仕事する方向で決まったよ。しばらくしたらオフィスごとこっちに来るってさ」


「オフィスごと? いやいや、テイローさん。いったい何の仕事をするつもりですか。先ほどのプログラムのハード化でしたら、何もそんな大掛かりでなくとも」


 オフィスごとの移転となると、どんな大規模な仕事になるのか想像が付かない。BB電子は100名近い人員を抱える企業であり、それなりの機械設備を持っているはずだった。

 心配そうに訊ねるマキナに対し、肩を竦める太朗。


「いや、なんのっていうか。今後色々と電子部品も入用になるだろうから、そういう部署があってもいいじゃん? マキナさんも色々捗るだろうし」


「部署?」


「うん、部署。さっきマールと相談して、買収する事にしたからさ。ユニオン加入リストの中にBB電子って名前があったんで、前から検討してたとこだったみたい。丁度良かったやね」


 さらりと答えられた内容に、ぽかんと口を開けるマキナ。彼はもうどうにでもなれとばかりに首を振ると、「テイローさん」と続ける。


「資金に余剰があるようで、大変結構です……えぇと、その。ひとつ、御相談があります。聞いてもらえますでしょうか」


 胸の内に秘めた思いと共に、太朗へ頭を下げるマキナ。太朗はマキナの心中など知る由もなかっただろうが、表情から何かを察したのだろう。彼は小梅と共に、真剣な表情で耳を傾けてきた。


 そしてその日。マキナは社名からブランド名へと変わり、幾日もしないうちにBBマキナという名前へと変わる事になった。


 マキナからの提案は、赤字会社としてグループの足を引っ張っている事に対する引け目から、いっそ完全に吸収して欲しいというものだった。太朗としては実験要素の強いマキナがいくらか赤字を出した所で気にもしていなかったが、そこで働く当人達にとっては別だった。どんな理由があっても彼らは成功を望んでいたし、グループや会社の役に立ちたいと訴えていた。


 ライジングサンはBBマキナを自社の開発部として扱い、書類上ではまさにその通りとなった。しかし太朗は彼らと二人三脚で歩んで行く事を決め、開発部への大幅な裁量権を残した。


 太朗達は実験的であったマキナの扱いを変更し、それはライジングサンの本格的な生産事業への参入を意味する事となった。




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