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僕と彼女と実弾兵器(アンティーク)  作者: Gibson
第5章 アウタースペース
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第70話



「"こちらキャットワン。タイキ、進路が甘いぞ。右に反れている"」


 通信機から聞こえる声。タイキはそれに小さく舌打ちをすると、BISHOPを用いて船体軌道の微調整を行う。丸型のフォルムが特徴的な戦闘機がすぐさまそれに反応し、姿勢制御スラスターがわずかに噴射を行った。


「キャットツー、了解。なぁキャットワン、相手は随分でかいな。今までにこんな大物がいたか?」


「"こちらキャットワン。どうだろうな、キャットツー。前にイザリオ星系で戦ったポンコツはもっとでかかった気がするな」


「いやいや、あんな出来損ないじゃあなく、戦闘艦でだ。俺はなんだか嫌な予感がするぜ」


「"まあな。だが俺達がやる事は一緒だ。ブツを運び、届ける。相手がでかかろうが、そうじゃなかろうがな。じいさんと若造が先に行ったぞ。遅れるな"」


「了解。俺の分も残しておくよう伝えてくれ」


 タイキはレーダースクリーンで味方の二機が爆撃コースに入った事を確認すると、自らもそれに続く形で急加速を行う。敵の大型ワインドから無数のビームが放たれ始め、タイキはそれを持ち前の反射神経とBISHOP操作とでかわして行く。


「"こちらキャットスリー、タレットをひとつやったぞ"」


「"よくやったキャットスリー、すぐに帰投しろ。恐らく一度の爆撃じゃ倒しきれんだろう」


「"こちらキャットスリー、了解。あぁ、若造がはずしやがったの"」


「"キャットツー、標的を変更だ。キャットスリーの変わりにエンジンを狙ってくれ"」


「こちらキャットツー、了解。すぐに向かう」


 タイキは予定された爆撃コースを即座に変更すると、敵の船尾へ向かって船を走らせる。ワインドのデブリ焼却レーザーが放たれはじめ、船のシールドがそれを防ぐ。タイキはレーザーとシールドが反発反応を起こした際に生まれる青白いオーロラを眺め、いつ見ても美しいものだと目を細める。


「ビーム投下。はずれてくれるなよ」


 通信はオフのまま、独り言として発する。タイキの船に積まれたビームランチャーから大容量のビームが放たれ、それはワインドのエンジン部分を爆散させた。ランチャーは一度しか使用できない代物だが、その威力はフリゲート艦の主砲クラスの破壊力があった。


「イエァ!! 見たかキャットワン、ど真ん中だ!!」


「"こちらキャットワン、もちろん見てたさ。こっちも負けてられんな"」


 タイキは敵のタレットの稼動範囲から死角になる位置を選び、慎重に船を転回させる。使い捨てのランチャーを放り捨てた今、軽くなった船は力強く加速していく。


「もう一度か二度爆撃してやりゃあ、カタが付きそうだな」


 ディスプレイに映る標的のワインドは、先ほどまで商船を脅かしていた勢いは既に無く、わずかに残ったタレットで散発的な攻撃をしてくるだけの存在となっていた。


「しかしどこの阿呆がこんな所に航路を作りやがったんだ。そこらじゅうにワインドがいやがるぞ?」


「"こちらキャットワン。さぁな、いわゆる政治って奴だろう。俺達には関係が無いし、なにより飯の種に困らなくていいじゃないか"」


「そりゃそうだが……なあじいさん。そのあたりの事、何か知ってるか?」


「"こちらキャットスリー。きっかけはEAPとホワイトディンゴの抗争のせいだが、それが無くてもこっちの航路を使ったんじゃなかろうかね。自前の帝国直通航路があれば、EAPはホワイトディンゴに依存する必要が無くなるの"」


「なるほどな。だが例の抗争はとりあえず収束したんだろう? いくらなんでもシフトするのが早すぎるんじゃないか。徐々に割合を変えていくなりするべきだろう」


「"タイキ、お前さんは商売人ってのをわかっちゃいないな。新航路はホワイトディンゴを経由するよりも、いくらか短時間でEAPまで到着できる。わずか2割程だが、その2割を何倍もの利益にするのが連中さ。商売については若造の方が詳しいだろう"」


「と、言ってるがどうだ若造?」


「"こちらキャットフォー、今爆撃進路に入ったから後でな。それと若造って言うな!!"」


「おぉ、怖い怖い。だがそうりきむなよ。どうせはずしたって構わねぇんだからよ」


「"キャットフォー。どうしてさ?"」


「俺達が後で正しい爆撃って奴を見せてやるからさ!!」


「"はんっ、くそくらえだ!!"」


 タイキは通信機に向かってニヤリと笑みを作ると、目前に迫ってきた母艦へと集中する事にする。キャットワンの操縦するフリゲート艦からは、発着に必要な情報が次々と送られてきていた。


「着艦でドジって死ぬのだけは、ごめんだからな」


 タイキは自動発着プログラムを立ち上げると、微調整を行いながら船の中へと進入していく。船との相対速度をゼロに合わせると、新しいビームランチャーを手にしたロボットアームが彼の船へと手を伸ばしてきた。


「さて、それじゃもういっちょ行きますか」


 タイキは先ほど入ってきた入り口目掛け、船をその場でぐるりと回転させる。

 彼は次の攻撃も成功すると信じていたし、そしてそれは実際にそうなった。




「ライジングサン? 知らねぇな。どこの企業だ?」


 戦闘を終えた一同はステーションへ帰投すると、いつものように懸賞金を受け取って酒場へと繰り出していた。

 彼らはカツシカではそれなりに名の知られた賞金稼ぎ(バウンティハンター)だったが、時折彼らを知らない人間が興味深そうな目を向けて来る事もあった。そんな時はきまって若造とボスがひとにらみすると、それだけで彼らは気まずそうに視線を逸らすものだった。


「新興企業だが、えらい勢いで伸びて来とる。アライアンスには加盟していないが、事実上EAPとの同盟関係にあるだろうの」


 皿に盛られた料理をついばみながら、じじぃことユキが発する。それに若造ことチャーが「そうそう」と答え、カクテルに刺さっていたストローを咥えながら続ける。


「何かのコネを持ってるか、凄く頭の良い奴がトップにいるんだろね。ワインドによる混乱を見越してたんだと思うよ。武装船による交易を、どこよりも早く始めたんだ」


 タイキはそれに、ふんと鼻を鳴らす。


「頭がキレるのは結構な事だがよ、度胸と腕はどうなんだ。俺は机にふんぞり返ってるだけのデブ野郎に従う気はねぇぞ」


 タイキの挑発的な物言いに、ボスのゴンが答える。


「その辺は心配無いだろうな。例の抗争の決着を付けた戦いじゃあ、単艦で敵陣に突っ込んだらしいぞ。話によるとそれでディンゴの首根っこを押さえたらしい」


「自分の船でか? おいおい、そいつは随分イッちゃってる野郎だな」


「そうだな。だが、それだけじゃねぇ。ユニオンにあのガンズが参入してるんだぜ。あのベラが一目置いてるって事は、こいつは信用できそうなもんだろう?」


 ボスの言葉に、ううむとうなり声を上げるタイキ。彼らはガンズアンドルールと何度か仕事を共にした事があり、トップであるベラの人となりの事は知っていた。彼女は寡兵でアルファ星系を守り続けてきたという実績があり、彼らも一目置いていた。


「それより待遇はどうなんよ。会社側で労災を保障してるって言ってたけど。マジ?」


 チャーの問いに、「あぁ」とボス。


「実際に、謝礼金の支払いが遺族向けにあったらしい。保険とは別にだ」


「わお、そいつは豪胆だな。しかしそれだと、大勢が逝った時に会社が潰れねぇか?」


「それだけ資金に余裕があるという事だろう。それと、これが向こうから提示された給与額と待遇だ。見て驚けよ」


 ボスはそう言うと、ポケットからチップを取り出して見せる。3人は顔を付き合わせるようにしてチップの内容を読み取ると、驚きの声を上げる。


「おいおい、何だこりゃ。裏があるんじゃねぇか?」


「一般的な給与水準の倍以上はあるの。それと裁量権の自由もあると来とる」


「こっちを素人集団じゃなくて、企業として扱ってくれてる風だね。ほとんど企業買収みたいな感じだよ」


「どうだ、俺がこの話を持ってきた理由がわかったろう。向こうは俺達を破格の待遇で迎えようとしてる。それもマジモンの帝国承認契約書付きでだ」


 驚きの顔を見せながらも、むぅとうなり声を上げる一同。誰もが裏があるはずだといぶかしんでいたようだったが、契約書が帝国承認となると信用せざるを得ない。破れば破滅しか待っていないからだ。


「今のところ、文句はねぇな。後は――」


「実際に会ってみるしかねぇ、だろ。そう言うと思って向こうの時間を押さえておいたぜ。お前らも一緒に行くだろう?」


 タイキの言葉を先読みして、ボスが被せる。

 その言葉に、異論を挟む者はいなかった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 今更だけど戦闘艦以外ワインドってあのステーションに横付けしてたやつ以外出てたっけ…てことはこのキャッツたちって箝口令が敷かれてて言えないけどあの工場型のワインドと戦ってたり?
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